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CINEMA DISCUSSION-33 / ジャン=ポール・ベルモンドの全貌を知る裏メニュー

「大頭脳」
LE CERVEAU a film by Gerard Oury © 1969 Gaumont (France) / Dino de Laurentiis Cinematografica (Italy)

新作映画を複数の視点からとらえ、映画評論の新しい手法を考えようとしてスタートしたセルクル・ルージュのシネマ・ディスカッション。第33回は、新作ではなく、フランスの名優ジャン=ポール・ベルモンドの旧作8本をデジタルリマスター版で公開する「ベルモンド傑作選」を、ご紹介します。
ジャン=ポール・ベルモンドは、『勝手にしやがれ』『気狂いピエロ』などゴダール作品のイメージが日本では強いですが、元々はフランスを代表するエンターティメントスター。セルクルルージュのタイトルネタのジャン・ピエール・メルヴィル監督作品でも、『いぬ』『モラン神父』といった傑作があり、今回の特集上映は、是非ともご紹介したいと考えました。
またセルクルルージュのオンラインストア、セルクルルージュ・ヴィンテージストアでは、『ボルサリーノ』、『暗くなるまでこの恋を』など、ベルモンドの代表作品のオリジナルポスターを販売しています。

「ボルサリーノ」アメリカ版オリジナルポスター

今回のラインナップは、『オー!』以外の作品は、日本ではなかなか見る機会のなかった作品ばかり。フランスでは大ヒット作品が並びますが、日本人には馴染みの薄い隠し味が効いた裏メニュー的ベルモンド特集です。
1本でもご覧になった方には、裏メニューならではの、発見や満足感があると思います。
ディスカッションメンバーは、川野正雄、川口哲生、ナヴィゲーター役の映画評論家川口敦子の3名になります。

「ムッシュとマドモアゼル」
L’Animal a film by Claude Zidi ©1977 STUDIOCANAL

★ジャン=ポール・ベルモンドのとらえ方、セルクルルージュのメンバーの中でも年齢によって微妙に違うように思いますが、まずベルモンドをどんなふうにみていましたか?

川口哲生(以下T):ジャン=ポール・ベルモンドはどうしても、同時代のフランス映画のスター、アラン・ドロンとの対比で捉えてしまいますね。
アラン・ドロンの美形さや陰のある美学との対比で、ベルモンドは歯を剥いてニーっと笑っている感じ。笑。シニカルな中にも独特のユーモアのセンスみたいなものを感じます。
アクションのイメージもありますね。

川野正雄(以下M):ベルモンドは自分の中で特別な存在です。好きな俳優は何人もいますが、出演作品を全部見てみようと思う数少ない俳優で、マイヒーローです。
多分最初に見たのは、TVでしたが、フィリップ・ド・ブロカ監督の『カトマンズの男』で、それが最高に楽しく、劇場にアンヌ・ベルヌイユ監督の『華麗なる大泥棒』を見に行きました。
その後は『ラ・スクムーン』、『相続人』『薔薇のスタビスキー』など、新作は劇場に行き堪能しましたし、『ボルサリーノ』は、リバイバル上映で見ました。
ですので、ヌーベルヴァーグの俳優というより、エンタメ路線のベルモンドにすっかり魅了されていました。
当時雑誌スクリーンに、海外のスターにファンレターを出すページがあり、そこで見つけたベルモンドにファンレター送ったら、何とサイン入り写真の返信が来て、いたく感激しました。その写真はまだ大事に保管しています。

ベルモンドのサイン

ビデオなどが発売される時代になると、出来る限り過去の作品に接しました。ベルモンドは出演作品が多く、未見の作品も多々ありますが、60年代前半の『リオの男』、『冬の猿』、『いぬ』、『雨のしのびあい』などは、ベルモンドの魅力も満開ですが、作品としても傑作だと思っています。
1992年新宿厚生年金ホールで上演された『シラノ・ド・ベルジュラック』も、生のベルモンドが見れるまたとない機会なので見に行きました。
つけ鼻で本来のイメージとは違いましたが、デビュー前国立の演劇学校を優秀な成績で卒業したという舞台出身俳優ベルモンドの一面が見れて、これも大きな発見でした。3時間を超える長尺の舞台でしたが、生ベルモンドを堪能して居たら、あっという間に至極の時が終わってしまった事を、よく覚えています。
日本でどのように毎日過ごしていたのか、興味があったのですが、どこで食事したとか、全くそういう情報はキャッチすることは出来ませんでした。ただプライベートな旅行で日本には来たことがあるという事で、そこは意外な感じがしました。

日本版「シラノ・ド・ベルジュラック」パンフレット

川口敦子(以下A): 多分、最初にベルモンドの名前を意識したのが中学生の頃、テレビの洋画劇場で見た『大盗賊』でした。中2か中3、テレビを通じて同時代というより”昔の”映画を見まくっていた頃で、続いてスター競演のオムニバス『素晴らしき恋人たち』の一篇も期待して見たのですが、おおざっぱにいえば同様のコスチューム・プレイだけどこちらのルイ王朝時代のカツラをかぶったベルモンドにはちょっとがっかりしたような記憶があります笑
まあベルモンドへの入り口としてコスチューム・プレイ『大盗賊』というのはいかがなものかな所もありますが…。で、熱烈なファンになったわけではなかったけれど、映画にもベルモンドにも朗らかさがあって好感をもった、というのが思い返せば最初の印象ですね。
その後、後追いでヌーヴェルヴァーグ期のベルモンドのふてぶてしいのに繊細みたいなかっこよさにはもちろん惹き込まれた、でも川野さんみたいにファンレターを出そうというほど夢中になったことはなかったような。ファンレターはピーター・オトゥールとアラン・ベイツに出して私もお返事は貰いました笑

★そのイメージは今回の傑作選によってどうかわりましたか? または変わりませんでしたか?

M:70年代という自分がベルモンドに最初に夢中になっていた時代の作品が多く、全く違和感は無く、これぞベルモンドという印象です。今回のラインナップでは『オー!』と、『恐怖に襲われた街』の2本は過去に見たことがあります。
特に『オー!』は、当時沢田研二がラジオ番組で、ドロンよりベルモンドが好きで、中でも『オー!』が一番好きな作品だと話していたのを聴き、必死に見る機会を探した作品です。
『オー!』のベルモンドが、一番彼らしいと、今回のラインナップでは思います。おとぼけとクールの同居、ある種の親しみやすさ、その辺がベルモンドの魅力だと思っています。見ていない6本は、どれもベルモンドらしく、それぞれ発見がありました。まとめて見たので、若干記憶が混同していますが(笑)。
ベルモンドの作り出すキャラクターは、『勝手にしやがれ』に代表される飄々とした空気で、悲壮感のない存在感と、初期だと『いぬ』に代表されるクールで静かな存在感に二分化されると思います。
今回はどちらかというと前者のキャラクターが多いですが、『警部』『プロフェッショナル』は後者のイメージで、満遍なくベルモンドの存在感を味わいました。
その後何本も傑作を作るフィリップ・ド・ブロカ監督との最初の『大盗賊』、それまで何本も一緒に傑作を作ってきたアンリ・ベルヌイユ監督との『恐怖に襲われた街』、アラン・ドロンの『冒険者たち』を撮って勢いのあったロベール・アンリコ監督の『オー!』は、特にベルモンドならではのとぼけた魅力と、クールさをうまく引き出していると思います。

「大盗賊」
CARTOUCHE a film by Philippe de Broca © 1962 / STUDIOCANAL – TF1 DA – Vides S.A.S (Italie)

A:今回の傑作選の「あなたはままだ、本当のベルモンドの魅力を知らない。」というキャッチコピーがまさに! という感じ。「山田宏一映画インタビュー集 映画はこうしてつくられる」(草思社)には『大盗賊』『リオの男』『カトマンズの男』と”知らなかった”方の、というか『大盗賊』から入った私の場合には原点回帰なのかもしれませんが笑、サービス精神満点のアクション・スターとしてのベルモンドの魅力を引き出したフィリップ・ド・ブロカ監督とのコンビ第5作『ベルモンドの怪盗二十面相』(75)の現場で撮影の合間にセットを組んだ鉄パイプにぶらさがって「筋肉はすぐなまっちまう」と寸暇を惜しんでトレーニングに励む様子が紹介されているんですが、その折の「体を張ってやらないとアクション・シーンにも迫力が出ない」という発言をかみしめると『恐怖に襲われた街』の屋根伝いとか『ムッシュとマドモアゼル』の階段落ちやヘリから飛行機への降下とか生身の迫力満載のアクションを前にいっそう身を乗り出し手に汗握り応援せずにはいられなくなりますよね。ただそこに悲壮感がないのがベルモンドの魅力の核ともいえそう。スクリーン誌のバックナンバーでベルモンドの記事を探してみたらあの小森のおばちゃまが「万年あばれ坊や的ベルモンドくん」なんて書いてらしてなるほどねと思いました。
もひとつやはり往時のスクリーン(69年11月号)には「洋画に関する30の質問」という連載記事で質問された千葉真一が今、一番好きな男優、共演したい男優どちらもマックィーンとベルモンドと回答していてこれにもなるほどね、と。そう実感をもってうなずけたのも今回の傑作選でベルモンドのアクション・スターぶりを改めて知ったおかげだなあとナットクしたわけです。

T:ゴダールとのヌーヴェルヴァーグのベルモントはもちろん大好きなんですが、こういうコマーシャルな映画でベルモンドの魅力をすごく感じました。
役柄からして、正義のヒーローでもないし、ぬけめない大盗賊でもない、冷酷なギャングでもない。何か憎めないどこか間の抜けている人間らしさがいいですよね。
そういうところがフランス人にはサンパなんだろうな。

「大盗賊」
CARTOUCHE a film by Philippe de Broca © 1962 / STUDIOCANAL – TF1 DA – Vides S.A.S (Italie)
「大頭脳」
LE CERVEAU a film by Gerard Oury © 1969 Gaumont (France) / Dino de Laurentiis Cinematografica (Italy)

★傑作選の中で個人的に特におすすめのベルモンド映画はどれですか? 理由は?

T:私は今回『オー』と『プロフェッショナル』『大頭脳』しかみていませんが、どれも凄く面白かったです。特に『オー』はレーサーだったりモデルだったり当時のフランス人のかっこいいと思うことやもの、服や車、ベルモントの捻くれた役柄、刑事・記者・犯人の男同士の関係性、女との関係性等すごく練られたシナリオで、全く飽きることなく楽しみました。

A:みなさんが挙げてる「オー!」はやっぱりいいですね。チンピラな青春の切なさが見た後にじわっと迫ってくる。監督ロベール・アンリコの『冒険者たち』にほれ込んでベルモンドが出演を希望したそうですが、『若草の萌えるころ』に続いて恋人だった監督と組んだジョアナ・シムカス、前2作に比べるとやや地味めな存在感ながら若い観客にはぜひお見逃しなくといいたいですね。人気女優だったのに『邪魔者を殺せ』のブラック版リメイク『失われた男』で共演したシドニー・ポワチエと結婚してさっさと引退した潔さも印象的でした。70年代にかけてのフレンチなおしゃれ女優というと昨今の女性誌などではまずジェーン・バーキンの名前が出てくるけれど、セリーヌに移ったエディ・スリマンの昨年から今年にかけての隠れたロールモデルとしてシムカスがいるんじゃないかしら、なーんて思ったりもしてしまいます。ベルモンドから話がそれてしまいましたが笑 ついでに共演者の魅力という意味でも、アクション+笑い+展開の妙という意味でも『大頭脳』は侮れませんね。さらに侮れないのが『ムッシュとマドモアゼル』かな。ドタバタ喜劇と片づけられかねない部分もありますが、ケンカしながら…というロマンチック・コメディの王道をきちんと押さえて飽きさせない。加えてベルモンドの二役、スタントマン役でのセルフパロディ的アクションも見逃せません。もう一本、『刑事キャレラ/10+1の追撃』がとてもよかったフィリップ・ラブロ監督のエキセントリックを底に湛えた『危険を買う男』も今回、見られてよかった! な異色作ですね。

「危険を買う男」
L’ALPAGUEUR a film by Philippe Labro © 1976 STUDIOCANAL – Nicolas Lebovici – Tous Droits Réservés

M:本当にベルモンドの過去の作品にアクセスする機会が少なく、今回の特集上映は大変嬉しいです。
『オー!』は、オールタイムでもベストにノミネートされる傑作ですが、大仕掛けの『大頭脳』、ラクエル・ウェルチとのコンビが魅力的な『ムッシュとマドモアゼル』、60年代初期の若きベルモンドが活躍する『大盗賊』は、特にお勧めです。
パリ市内での撮影がすごい『恐怖に襲われた街』も、見所満載です。アンリ・ベルヌイユ監督は、ベルモンドの魅力を長期に渡って最大限引き出した監督だと思います。個人的なベルモンドの最高傑作『冬の猿』、同タイトルの最近の大作には欠けているカタリシスが強く漂う『ダンケルク』、アクションスターベルモンドの地位を不動のものとした『華麗なる大泥棒』。『恐怖に襲われた街』は、それらの集大成の痛快なアクション活劇だと思います。
エンニオ・モルリコーネの作品集で、サントラにしか触れる機会のなかった『プロフェッショナル』をやっと見れたのも、嬉しかったです。
先ほど言った『シラノ・ド・ベルジュラック』の演出は、『プロフェッショナル』の敵役ロベール・オッセンでした。この辺もつながりが見えてきて、面白いです。
それからサイケデリックなロンドンの雰囲気が冒頭から感じられる『大頭脳』。これは見逃せない作品だと思います。デビット・ニーブンと、ベルモンドは同じ時代の『007カジノロワイヤル』でも共演(一緒のシーンはなかったかも)していますが、どちらも当時流行った洒落た大作コメディで、似た空気を感じました。
敦子さんの言っている『危険を買う男』。実は一番期待していなくて、最後に見たのですが、これは正に異色作で、思いの外楽しんでしまいました。
エンタメ〜アクションだけではない独特のノワール作品でした。

「恐怖に襲われた街」
PEUR SUR LA VILLE a film by Henri Verneuil © 1975 STUDIOCANAL – Nicolas Lebovici – Inficor – Tous Droits Réservés

★ヌーヴェルヴァーグだけじゃないベルモンドというのが傑作選の柱になっていますが、
その点に関してはどんなふうに?

M:『勝手にしやがれ』に代表されるゴダール作品のベルモンドも好きですが、今回のラインアップは、むしろベルモンド自身が愛するエンタメ作品が集められています。
ヌーベルヴァーグなベルモンドよりも、今回のコメディやノワール、アクションに徹する娯楽作品のベルモンドの方が、彼の本質的な嗜好ではないかと、勝手に思っています。オフビートというか、とぼけた味のベルモンドと、筋肉質なアクションスターベルモンド、この同居が魅力なんですよね。
資料にもルパン三世のモデルとあり、吹替えは同じ山田康雄さんだったりしていますが、手塚治虫さんの「千夜一夜物語」のアラジンも、確かベルモンドがモデル。こういった偉大な作家のキャラクターモデルにまでなってまうのが、おとぼけベルモンドの凄さだと思っています。
虎と対峙したり、公共交通機関でのアクションシーンなど、CGの時代でもないし、どうやって撮影したのかなと思えるシーンが、随所に見られるのも楽しいです。
それからベルモンドの独特のユーモアセンス。これはドタバタというわけでもなく、品があって、だけどおかしい。その辺は『ムッシュとマドモアゼル』で、全開で楽しめます。

虎とベルモンド「ムッシュとマドモアゼル」
L’Animal a film by Claude Zidi ©1977 STUDIOCANAL

A:CGでなく生身のアクションというのはほんと今、いっそう貴重ですよね。何でも描けてしまうから興ざめになる、という意味では『ダンケルク』にしてもノーランのただ物量作戦的な大仰な空っぽさに比べて生身の痛々しさが迫ってくるんですね。

ヌーヴェルヴァーグに関しては、ついどこかお勉強的姿勢で見てしまったりもする。今回の傑作選はゴダールやシャブロル、トリュフォー、はたまたアラン・レネ作品のベルモンドとはまた別のアクション・スターとしての魅力発見の絶好の機会なのですが、よくよく振返ってみるとアクションって、屋根の上や走る列車の上で暴れまわるスタントなしの活劇というだけでなくベルモンドの演技の身体性って部分にも繋がってくるんじゃないかしら。例えばあの『勝手にしやがれ』のボガートのポスターの前で彼を模し唇を撫でるその指先の動きのしなやかさとか、ラスト、撃たれた腰のあたりを抑えつつよろよろと往く後姿のなまめかしい切れ味とか、俳優としての一貫した武器がそこにあるともいえそうな気がします。娯楽作でも作家の映画でも変わりなく存在してしまえる俳優としての、スターとしての強味ですよね。
その意味で興味深かったのがジャン=ピエール・メルヴィルと組んだ時、きっちりとアングルを決め込んで俳優の自然な動きをある種、封じ込めるメルヴィルの演出に齟齬を感じたようだったと、助監督を務めていたフォルカー・シュレンドルフ(『ブリキの太鼓』)が『いぬ』のブルーレイ所収のインタビューで明かしていること。そこが静の演技でこそ光るドロンとの違いというのも面白いですよね。とはいえメルヴィル映画のベルモンド、大好きですが。

「プロフェッショナル」
LE PROFESSIONNEL a film by Georges Lautner ©1981 STUDIOCANAL

★続きの質問になりますが、今回のヌーヴェルヴァーグだけじゃないベルモンド傑作選は同時にヌーヴェルヴァーグだけじゃないフランス映画の魅力再発見ともいえますね。あるいは今のフランス映画にない魅力、どのあたりに感じましたか?

M:エンターティメントへの徹底ですかね。それとやはりある種洒落た感じはあり、アクションでもハリウッド映画とは全然違う生身のアクション作品ですね。
それからベルモンドの作品では、相手役の女優というのがキーになる事が多く、誰と共演するかも楽しみでした。
今回もジョアンナ・シムカス、マリー・ラフォレというフランスおしゃれ女優から、ラクエル・ウェルチ、クラウディア・カルディナーレというグラマラス女優まで、楽しい共演者が並んでいるのも当時の魅力だったと思います。
初めて中学生の時『オー!』を見た時、冒頭のベルモンドとジョアンナ・シムカスのラブシーンで、『冒険者たち』のレティシアが胸を揉まれていると思い、衝撃的でした(笑)。

T:エンターテイメントに徹しているし、シナリオやプロットがすごく練られていますよね。とにかく映画としてすごく楽しめました。
『オー』の中でベルモンドがフォルスターから拳銃引き抜いて構えるポーズの練習をするシーンとか、なんか昔の日活映画にも通じる型を感じました。

「オー!」
HO! a film by Robert Enrico ©1968 – TF1 DROITS AUDIOVISUELS – MEGA FILMS

A:これはフランス映画だけでなく今、ハリウッドにも日本の映画にも感じる残念さですが、様々な面で、つまり共演者にしてもスタッフにしても企画にしても層の厚みがあった往時と比べて、薄さが気になる今日この頃――なんですね。正直いって今回の6本にしても筋はご都合主義的だったりもする、それでも興味をそらさないスターの磁力はとりわけ大きいですよね。今のフランス映画を見ているとガレルやドワイヨン、デプレシャン、アサイヤス以下、作家性を光らせる存在は続々と出てきているようにも見える。小さくても注目したい映画は少なくない。むしろ娯楽映画の方がなんだかなあと、70年代当時にはあった肌理の細かさを失っている気がします。見ている量が少なすぎるので言い切ることはできませんが傑作選のヴェルヌイユ、ド・ブロカ、アンリコみたいなシブく光る領域の職人映画、これって日本のメジャー映画にもいえるような気がしますが、改めてこういう映画がもっと当り前に見たいなと今、思います。その意味では『天使が隣で眠る夜』でジャック・オーディアールが出てきた時、おおっと期待が募った。恋とも見紛いそうな男の友愛映画のひんやりと鈍い灰青色の世界を、しかも娯楽作として描こうとしていてさすが今回の特集の監督たちともベルモンドとも繰り返し組んでいる脚本家ミシェル・オーディアールの息子――と。『預言者』『君と歩く世界』くらいまでその感じが保たれていてよかったのにカンヌで大賞をとったあたりからなんとなく違ってしまったようで、残念だなあ。

「警部」
FLIC OU VOYOU a film by Georges Lautner ©1979 STUDIOCANAL – GAUMONT

★ベルモンドのファッションはいかがですか?

T:時代性があって、今面白がれるものとそうでないものがありますが、『オー』は洒落もの感ありますね。 大きなサングラスや皮革のトレンチや、スエードにタートルとかはフレンチっぽいですよね。彼女のジョアンナ・シムカスはジバンシーのモデルだし。
『大頭脳』はステレオタイプ化された英国、フランス、イタリア(シシリア)の服の違いって感じだけれど。タートルに皮革のブルゾンとか似合ってますよね。
『大頭脳』ではむしろシルヴィア・モンティの黒ビキニに大きな黒のフェルトハットとかスエードのminiドレスとかがそれこそ昔の「スクリーン」の時代のセクシーな女優の感じでそういう意味で花を添える役回りなんだろうけれどかっこよかったですね。

A:茶系の人、その微妙な濃淡の着こなしがフレンチならではで素敵ですね。ドロンの黒系のイメージとここでも対照的といえるかも。

M:ベルモンドは着こなしがうまいですね。コスチューム映画でもそれなりに見えますが、スーツ姿も様になる。今回は様々な作品で、トレンチコート着ていますから、トレンチコートを比較しながら見るのも面白いです。
今回の作品ではやはり『オー!』のスタイルはすごく好きです。後は『大頭脳』も、カジュアルな着こなしのお手本のような姿で良かったです。
『プロフェッショナル』あたりは、肉体派アクションスタイルですが、どの作品見ても、本人がアクセサリーまで細かく拘っているように思えました。

「警部」
FLIC OU VOYOU a film by Georges Lautner ©1979 STUDIOCANAL – GAUMONT

★同時代にライバル視されたドロン、ハリウッドでいえばマックィーンやイーストウッドが同時代の人気者でしたが、彼らとの比較も含めてスター ベルモンドの輝きはどこに?

M:アラン・ドロンも好きですが、70年代後半以降出演作品にかなりのバラツキが出てきました。これは自分のプロダクションを持ち、やりたい事をやった結果でもあり、大スターには伴うものです。
一方ベルモンドも、自分のプロダクションを持ちましたが、常に作品のクオリティを担保している印象があります。
ドロン、マックイーン、ベルモンド、イーストウッドそれぞれ大きな魅力を持っており、正直比較のしようがないと思います。しいて言えば、他の俳優にはない、滲み出てくるおとぼけ感とユーモアが、ベルモンドならではの輝きと思います。
ベルモンドも87歳で、健康面も心配ですが、昨年PARIS MATCH70周年の表紙撮影でドロンと共演した映像見ると、元気な感じで少し安心しました。

A:今回の資料集めで昔の映画誌を見ていたらドロンの『友よ静かに死ね』(77)をめぐってベルモンドの陽気な人なつこさを意識したアクションと、合評記事でカーリー・ヘアで明るくイメージチェンジしたドロンのライバル意識が話題になっていて面白かった。そのドロンとも一度ならず共演しているベルモンドの人なつこさ、明るさというのは役を超えた本人の魅力ともいえそうで、動画サイトでセザール賞で功労賞に輝いた折やベルモンド美術館のオープニングの折の様子をみるとカルディナーレやロベール・オッセン等々が心から祝福してる様子が伺えてこちらもうれしくなる。杖をついて、少し呂律が回らない様子からすると病気があったりするのかもしれないけれど、巨人軍は永遠に不滅ですの長嶋と通じる明るさがそこにも輝いていてああっと気持ちがなごんでくる。『ダンケルク』の中に美男じゃないがサンパだと、まさにの台詞があったけど、いい人なんだろうなきっと。と、ここまでは冷静に分析するふりをしてきましたが、今回、この特集をきっかけにベルモンド映画をさかのぼっていくと『いぬ』『冬の猿』『雨のしのび逢い』『墓場なき野郎ども』と、若き日の快作でもほんとに結局、いい奴なんですよね。ゴダールだったら『女は女である』のふわっと脇に居る男の子の感じ(『ストレンジャー・ザン・パラダイス』のリチャード・エドソン、ジャームッシュはベルモンドを意識して選んでいたと思う)――と、たどるうちに『モラン神父』の禁欲的だからセクシーな神父演技にくらりとなって、60年前後のベルモンドにもうほとんど夢中。いまさらですが目下、わがアイドルと化しています笑。

「オー!」
HO! a film by Robert Enrico ©1968 – TF1 DROITS AUDIOVISUELS – MEGA FILMS
ジョアンナ・シムカス

ジャン=ポール・ベルモンド傑作選
新宿武蔵野館他で、全国順次公開中。
「大盗賊」
「大頭脳」
「恐怖に襲われた街」
「危険を買う男」
「警部」
「オー!」
「ムッシュとマドモアゼル」
「プロフェッショナル」

誰もが望んでいる「FREEDOM」/The Tokyo Locals 7 インチ シングル

1980年代の終わりに伝説的なMODSバンドThe HaiRのボーカリストとして現れ、その後実兄ギムラ没後の東京スカパラダイスオーケストラのボーカルを務めたLui Bluesface (A.K.A杉村ルイ)。
結成以来10年の時を経て、Lui率いるThe Tokyo Localsは、昨年デビューアルバム『Shake Your Hips』を、LuiのレーベルLocal Production Recordsよりリリース致しましたが、この度レコーディング第2弾として、アナログ盤オンリーの7インチシングルをリリース致します。

A面には、Luiオリジナルのメッセージソング『Freedom』を収録。
新型コロナウイルスの影響が出る前の昨年末に、Luiから是非今「Freedom」をリリースしたいという強い希望があり、実現したのが、今回のシングル盤である。
結果的に、世界中がピンチの今に向けたLuiの痛烈なメッセージソングとなった。
塚本功の超人的なギターワークに、刀禰和也のうねるウッドベースと、HIROKINGのヴィンテージなハープが絡む演奏もスリリングの一言である。
今日の事態を予測していたようなLuiの熱いメッセージ(下記に歌詞を掲載)を、是非受けとめて頂きたい。

B面は、カバー曲2曲をカップリング。
1曲目は、ローリング・ストーンズレーベルからもアルバムをリリースしており、ボブ・マーリィのウェイラーズの中心メンバーでもあったジャマイカの巨星ピーター・トッシュの名曲『Stepping Razor』。
こちらはPeter Tosh& The Wailersのオリジナル盤。

The Tokyo Localsではかなり前からカバーしていた楽曲だが、オリジナルに比べると、スピーディなThe Clashのレゲエチューンのような切れ味に仕上がっている。
ピーター・トッシュはローリング・ストーンズレーベルからリリースしたように、ウェイラーズのメンバーの中でも高い音楽性と、強いメッセージ力を兼ね備えたアーチスト。最後は射殺されてしまうという悲劇的な死を遂げたが、彼の楽曲は何年経っても色褪せない。
日本でも1979年に若松孝二監督内田裕也主演の映画「餌食」では、全編にピーター・トッシュの楽曲がフューチャーされた。
この映画は、工藤栄一監督の「その後の仁義なき戦い」と2本立てで、東映系で全国公開(今では考えられないが)された。
1970年代後半、ピーター・トッシュは、間違いなく最もメジャーで、ラディカルなレゲエアーチストだった。

* The Hair live photo by Masao Nakagami in Mods Mayday 1989 @Inkstick Shibaura Factory

そして2曲目にはなんとLui自身がボーカルをとっていたThe HaiRの代表曲
『Gimme Gimme Gimme Some Good Good Lovin’』をセルフカバー。
こちらはオリジナル盤。

残念ながら延期となってしまったが、今年のMODS MAYDAY JAPAN40周年に向けて、常にシーンをリードしてきたLuiからのエールソングである。
今回のセルフカバーは、Luiの新たなアイデアによる全く違ったアプローチなので、是非聴き比べて頂きたい。

80年代末期のMODSシーンは、The HaiRと、CDを同時リリースするThe Gearが、東西を代表するバンドであった。

The Hair photo by Masao Nakagami in Mods Mayday 1989 @Inkstick Shibaura Factory

レコーディングは、The Tokyo Localsのスモールユニットによる、アコースティックな演奏で行わた。
ギターには、塚本功、ベースには刀禰和也、ブルースハープにはHIROKINGが参加。
マスタリングなどサウンドエンジニアに、日本のフィル・スペクターこと、Sugar Spector(Drums&Moogでも参加)。
プレスはヨーロッパ最大のレコード製造工場で、クラシックの大国でもあるチェコのGZ MEDIA社で行い、
Sugar Spectorの手により、今の時代とは思えない見事なアナログサウンドを実現する事が出来た。
たかが3曲、されど濃縮した3曲をコンパインしたこの7インチアナログ盤は、限定250枚の販売となります。

Photo by Celeste Urreaga

【Lui Bluesfaceからのメッセージ】

ボードゲームの主達の世界の存続を脅かす終末のシナリオが、予定外の悲劇的終焉の兆しを見せる中、オリジナル7インチシングル FREEDOMを世に解き放つ事が出来ることを、表現者の一人として非常に幸運な出来事でもあると痛感している。
恐らく生涯忘れることの出来ない自分の人生への明確な解答になる事を信じて疑わない。 様々な大変動と再編成を余儀なくされるであろう旧社会解体へのレクイエムとして、また、逆境下でのリアリティーをブルースし、ロックし打ち破ろうとする、音楽というスピリチャルな行為に取り憑かれた永遠の挑戦者であり続けようとする持たざる者の一人として、全ての想いを未来に託し ”今”と言うこの時こそが、新曲、FREEDOMを動乱と混迷極める古く錆び付いた旧世界崩落後の瓦礫の残骸の中から、新たに産まれ代わり立ち上がろうとする全ての人々の精神を解き放ち、真実の光を掴むであろう適切なタイミングであり、不屈の精神で語り継いでほしい自由への賛歌の正しいアプローチとして最適であると信じている。
全ては今日も逞しく、生きずいている、慈しみ、思いやり、励まし合うこの世界の多くの底辺の者達が奏でる、自由と愛と正義と平等と平和と調和と優しさと希望溢れる未来のシンフォニーの為に、そしてこの世界が永遠に美しく存り続ける事を願い、全ての人にこのシングルを捧げる。
制作にはギタリスト塚本功、ウッドベース刀禰和也、ブルースハープHIROKING、ドラム&モーグSuger Spectorが参加、録音にはRecording / Mixing / Mastering at STUDIO GINGA engineer Suger Spector氏とFabian Yusuke “Studio voodoo “が協力してくれている。

The Hair Live photo by Masao Nakagami

『FREEDOM』 (Lui Bluesface)

始まりの鐘が鳴り響く
そろそろ準備はいいぜ Yes
世界が悲鳴を上げるこんな時に
やらなきゃいけない事もある Yes
いつまでも続く長い道のり
どこまでも歩いていくぜ Yes
手に入れたいのさ Oh Yeah
この胸に感じたいのさ
誰もが望んでいる Ah Freedom
Oh Yeah
Freedom Oh Oh

Hey 旅立ちを告げる鐘が鳴る
もう二度とここへは戻れない Yes
世界が終わりを告げるなんて
そんな事俺らにゃ信じられない Yes
いつまでも続いた古い世界が
音をたてて崩れ始めているけど Oh Yes
俺たちの好きな素晴らしい歌まで
時代の影に消えて行こうとしてる  Oh Yes
夢にまで描いた新しい世界を
この眼で見るまでくたばりゃしないぜ Oh Yeah
俺たちが力を合わせる事が
どうしようもないくらい怖いのさ Oh Yeah
手に入れたいのさ I Say この胸に取り戻すまで
誰もが望んでいる Ah Hey Hey Oh Yeah
Hey Hey Freedom Freedom Freedom Freedom Oh

*The Hair Live photo by Masao Nakagami in Mods Mayday 1989 @Inkstick Shibaura Factory

A side :Freedom (Lui Bluesface)
B side: Steppin Razor(Joe Higgs)
Gimme Gimme Gimme Some Good Good Lovin’(Ai Sato)

The Tokyo Locals Special Unit
Lui Bluesface (Vo)、塚本功(Guitar/Chor),
HIROKING(Blues Harp)、Tone-ero(Wood Bass)
Guest: Sugar Spector(Drums&Moog)
Recording/Mixing/Mastering at STUDIO GINGA engineer Sugar Spector
Art Director: KNOCK DESIGN

・レーベル名 LOCAL PRODUCTION RECORDS
・バンド名  The Tokyo Locals
・レコード番号 LPR-0003
・JASRAC番号 R-2010820
・Made in Czech Republic
・販売価格 ¥1,800(税別)
・発売日:2020年5月15日
セルクルルージュ・ヴィンテージストアにて、先行発売中。
・発売元 株式会社セルクルルージュ  info@lecerclerouge.jp
・販売元 株式会社ブリッジ 

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