「DJ」タグアーカイブ

『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』蘇った1969年のブラックミュージックフェス/Cinema Discussion-38

© 2021 20th Century Studios. All rights reserved.

新作映画を複数の視点からとらえ、映画評論の新しい手法を考えようとしてスタートしたセルクル・ルージュのシネマ・ディスカッション。
第38回は、1969年ニューヨークで開催されたハーレム・カルチュラル・フェスティバルの映像を、50年の歳月の後映画化した『Summer of Soul』です。
監督は、Hip Hopアーチストでもあり、音楽プロデユーサー、DJでもあるアミール”クエストラブ”トンプソン。
音楽監修にウエス・アンダーソンやトッド・ヘインズ作品で有名なランドール・ポスターという強力な布陣で、50年間眠っていた貴重な40時間のライブフッテージを、1本のドキュメンタリー映画に仕上げました。
完成された作品は、今年のサンダンス映画祭で、ドキュメンタリー部門の審査員大賞と、観客賞を受賞しており、ブラックミュージックファンの期待も大きな作品です。
ディスカッションは、映画評論家川口敦子に、川口哲生、川野 正雄の3名で行いました。

Nina Simon
 © 2021 20th Century Studios. All rights reserved.

★プロダクション・ノートによれば『サマー・オブ・ソウル』で長編監督デビューを果たしたクエストラブことアミール・トンプソンには、半分コンサート映画、半分アメリカ史上のリアルなイベントとしてコンサートをみつめるというアイディアがあったようですが、まずはコンサート映画としてどんなふうに楽しみましたか?

・川口哲生(以下T):
POP寄りなアーティストからゴリゴリのゴスペル、スピリチュアル、そしてラテンジャズ、ブガルーまでブラックミュージックといっても多様性に満ちているのがハーレム・カルチュラル・フェスティヴァルと銘打つ由縁なのをひしひしと感じました。そしてアレサの映画でも書いたけれど、オーディエンスのノリやファッションがすごくかっこいいですよね。その一体感がコンサート映画として伝わります。惜しむらくは、曲ごとのインタビューのインサートが絶妙だけど、もっと演奏聞かせてって感じもあるのだけど。

・川口敦子(以下A):
スティービー・ワンダーがドラムを叩いてる! と驚くほどにブラックミュージック、というか音楽に関しての全般的知識が薄く、偏っている私にとっては、もちろんハーレムに集った黒人たちの黒人による黒人のためのコンサート、その記録として、会場の盛り上がり、とりわけウッドストックの対抗文化世代的な盛り上がりに対する地域的、家族的、超世代的な盛り上がりに共振するスリルも格別だったのですが、それに加えてブラックミュージックというものを体系的、俯瞰的、包括的に把握させてくれるという、ある種、啓蒙的、教科書的な一作としても(といってお勉強的な退屈さに堕すことなく)うれしい快作でした。

・川野 正雄(以下M):
単にコンサート映画というよりも、もっともっとライブ感があふれ出る感じですね。
選ばれている曲や流れもDJぽいなと思っていたら、監督のクエストラブはDJもやっているという事で、納得です。
1968~69年頃というのは、NHKのドキュメンタリーでも、よく取りあげられているんですが、世界的に大きな変革の時代だったと思います。
それまでの社会とユースカルチャーの凌ぎあいのようなムーブメントが、世界的に大きく変わってきた時代ではないでしょうか。
そして音楽も、大きく変わりゆく過渡期の時代だったと思います。
ロックの世界では、ビートルズもローリング・ストーンズもサウンドが大きく変化し、ドアーズ、ジャニス・ジョプリンなど、ブルージーかつヘヴィなサウンドが生まれた時代。
ブラックミュージックでは、R&Bやソウルから、ファンクへの移行時期。
FUNKY SOULという過渡期のサウンドがすごく生まれたのもこの時代ですね。
僕自身もこの時代の音楽がとても好きですが、クエストラブからも、出演者や楽曲への愛が強く感じられますね。

© 2021 20th Century Studios. All rights reserved.

★”ブラック・ウッドストック″というタイトル案もあったけれどウッドストックとの関連付けはやめてと、独自のスタンスを取った映画を通して再発見された”ハーレム・カルチュラル・フェスティヴァル″の記録映像に関して、どんな感想を?

M:このフェスの存在自体知らなかったので、この映像と合わせて驚きです。
やはり50年間眠っていた映像というのは、センセーショナルでよね。
あまりマメではない僕は、YouTubeで映像を探すことも少ない為、多くのアーチストの映像を初めて見ました。
レイ・バレット、ステイプル・シンガーズ、モンゴ・サンタマリアあたりは、映像が見れただけでも感激です。
この時代の音楽の格好良さも、改めて認識させてくれましたね。
スティービー・ワンダーもこの時期は格好良いです。
サンダンスで審査員大賞と観客賞のダブル受賞というのは、非常にハードルが高いのですが、この映画がサンダンスで生んだ熱狂が、何となく想像出来てしまいます。

T:1969年はいくつもの変革の意識を内包した年なんだと思います。10歳だった自分にはそれは当然わからなかってけれど、当時だってなんかざわざわしたものを感じていましたよね。
旧価値観に対するpeace&love でなく、やはり黒人の意識改革に立ち位置を持った映画なんだと感じます。

A:前問の答えと重なりますが、今はマーカス・ガーヴェイの名を冠されているという一区画で地元民が集ったイベントだったということ、音楽的にも、成り立ちの上でも、ローカルなものですよね。ローカルであることがステージの上、下共に参加者には意味あることだったんでしょう。見逃せないのはでも、それをビデオで記録したハル・トゥルチンってテレビ界でキャリアを積んできた制作者、監督がウクライナから移民してきたユダヤ系の、大別すれば白人、でもワスプではないってところだったり、あるいはやはり白人の往時のニューヨーク市長の再選を視界に入れたキャンペーンの一端といった性格もあるという、そんな背景が、一部ローカル局での放映はあったもののトゥルチン家の地下室に50年余りもこの刺激的な音楽イベントの記録を眠らせるって結果を招いたのかと、会場の盛り上がりと3大ネットワークをはじめとするアメリカの主流メディアの黒人音楽、黒人の位置をめぐる運動の受け止めのギャップを思ってみたくもなってきますね。

The 5th Dimmension
 © 2021 20th Century Studios. All rights reserved.

★”ブラック・イズ・ビューティフル″と祝福した革命の始まりの夏、音楽と文化の上でのブラック・アイデンティティに関して、そのみつめ方(クエストラブの主張)に関してはいかがでしょう?

T:この映画のハイライトは、ニーナ・シモンのパフォーマンスだと思います。それも“young gifted & black”というよりはノートの切れ端を手にして、バンドバックにポエトリーリーディングするところ。The Last Poetsと同じ空気吸ってるハーレムですよね。

A:クエストラブはハーレム・カルチュラル・フェスティバルがそもそもマーティン・ルーサー・キングの暗殺以降、平和主義的な公民権獲得運動から暴力的な傾きを持つ運動へと転換する中で、各地で高まっていた黒人たちの怒りの爆発、暴動への対策として企画されたとも発言していますが、スタンスとしては「革命が放送されなかった夏」に芽生えていた暴力的な手段をとってでも風穴をあけるというような流れを無視しない、そんな見方をはっきりとトゥルチンの素材の中から抽出しているように見えますね。ブラック・パンサーが市長の護衛役を務めているとか。哲生くんがいうようにニーナ・シモンの詩の朗読をクライマックスとして大きくフィーチャーしてみせるとか。シモンのその後はドキュメンタリー『ニーナ・シモン魂の歌』(原題Whar Happened ,Miss Simone?)が活写しているように表舞台から退かざるを得なくなっていくわけですよね。で、ちょっとうがった見方になるかもしれませんが、結果的にそういう黒人運動の抹殺の歴史を潜り抜けた後の今、この記録が解き放たれたことで同時代には見えなかったものも見えてくるって見所もありますね。

M:ここはやはり1969年という年代と、当時のアメリカの状況抜きには語れないですね。
6週間日曜だけのフェスという事で、色々な事件もあったと思います。
40時間というフッテージから選ばれている為、どうしてもコマ切れ映像になり、多分全体像は把握しきれていないのだと思いますが、このフェスをやった意義とか、空気感、そういうものは随所で、伝わってきますね。
作品の副題「…Or, When The Revolution Will Not Be Televised」は、1971年のギル・スコット=ヘロンの曲「The Revolution Will Not Be Televised」から取られているとの事で、そこに大きなメッセージが込められているのでしょうね。
出演していない(と思います)ギル・スコット・ヘロンからの引用というのも、クエストラブならではと思いました。

B.B.KING
 © 2021 20th Century Studios. All rights reserved.

★公民権運動があり人類が月に小さいけれど大きな一歩を刻み、そうして様々な変化、始まりと終わりがあった69年、どのように記憶していますか、また映画を通してどのように記憶したいと思いましたか?

A: 哲生くんから送ってもらった動画で知ったんですがギル・スコット・ヘロンには「Whitey On the Moon 」ってもろアポロ計画を皮肉った曲もあるんですね。余談ですがヘロンは死の直前までペドロ・コスタの『ホース・マネー』にもかかわっていたそうで、もっと知りたいと思ってます。この人の存在がクエストラブの今回の映画のまとめ方には大きく影を落としているんはないかしら。月面着陸が人類にとっての大きな一歩だろうが知ったこっちゃない、こっちは貧しさにあえいでるんだみたいなハーレムの面々の反応が見られたことは日本の中学生として能天気に衛星中継を見ていた自分を思い出すにつけても、この映画見てよかったとあまりにナイーブないい方で恥ずかしいけど思います。
68,69年の世界の動きに関しては間に合わなかった感にいつも苛まれてきたわけですが、当時、遠くで何かが起きてる感触はありましたよね。それが70年代の始まりと共にすごく重く、閉塞的な雰囲気に変わって、別に何かに関わっていたわけでもないのに世界が暗くなった、その転換はくっきり覚えています。

M:アポロとかロバート・ケネディ射殺とかは覚えていますが、そんなに大きなものではないですね。
音楽で言えば日本のGSに興味を持ち、そこからローリング・ストーンズに行き、「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」を聴き始めたのが、この頃ですね。
すごくスリルみたいなものを感じました。
月面着陸は、テレビで中継見た事を覚えていますが、ハーレムの黒人達にとっては、宇宙の話などどうでも良く、自分達の目の前の問題が深刻だと言う事ですよね。

T:この映画のサブタイトル”revolution will not be televised”は私にとっては、大好きなギル・スコット・ヘロンの楽曲名だけれど、これが1960年代のブラックパワームーヴメントのスローガンな訳ですね。結局テレビから流れる月面着陸とは違う地平が存在するんだということ。

ヒュー・マサケラ
 © 2021 20th Century Studios. All rights reserved.

★セルクルルージュでとりあげてきた『アメリカン・ユートピア』『アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン』との繋がりもあるように思いますが?

T:監督のクエストラブはもティーザーの中で言っているように、この時代と50年経った現在の類似点が、こうした一連の映画に繋がっているのでしょうね。クエストラブのバンドのthe rootのアルバム”things fall apart“のジャケット写真も当時の公民権運動の写真のものでしたが。

A:『アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン』もまた長く陽の目をみることがなかった、その理由として『サマー・オブ・ソウル』と結ばれるものがやはりなくはなかったんでしょうね。スパイク・リーが監督することで『アメリカン・ユートピア』にこめられた黒人に対する理不尽な警察の暴力、変わらない世界への訴えがより前面におしだされましたよね。『サマー・オブ・ソウル』のアメリカ、世界との繋がり。コンサート映画としての楽しみはもちろんですが、それだけでない部分の噛み応えも感じます。リーは今年カンヌでコンペ部門の審査員長を務めましたが、女性の場合もそうなんですが、そのことがまだ特別なことであるって、69年から50年、世界は変わったようで、変わっていませんね。

M:『アメリカン・ユートピア』とは、残念ながら自分の中では、直接的には結びつきません。
ステージの中で政治的なメッセージを伝えるという行為自体は、確かに近いのですが、それが2つの作品のリンケージにはならないのです。
結果的に似た構造を持っていたいう事ではないかと思いますが、ステージの上からメッセージを伝えている事は同じですね。
『アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン』は、時代性、これまで未公開、ブラック・ミュージック等多くの接点を感じます。
両者に見られる観客の黒人のグルーヴ感満載のダンス。これ見るだけで、その場にいたかったなと思いました。

アビー・リンカーン © 2021 20th Century Studios. All rights reserved.

★その他映画の見所、ここは見逃すなという点があったらぜひ!

T:アレサからの繋がりで、マハリア・ジャクソンとメイビス・ステイプルのゴスペルはやはり圧巻ですね。小学生からPOPなblackミュージックは好きだったけれど、Bowieとか聞いていた高校生の時付き合った彼女が貸してくれたstaple singersで音楽領域が一気に広がった自分としては感慨があります。
ウッドストックでも圧巻だった、スライ!かっこいいし人気があったのがわかります。
ラテンではレイ・バレットはメッセージ含めてかっこよかったです。
そして忘れてならないのは、ショーのプロデューサー、トニーローレンス。アーティストとも政治家とも渡り合うやり手の、スーツからスカーフ巻いた色々な衣装、トースティングはすごくかっこよかったです。

A:同じハーレムでもイーストハーレムのラテン系なアイデンティティもあって、と紹介される部分も面白かったんですが、ついスピルバーグのウエストサイド物語はどんなふうになってるのかなと、興味がふくらみました。キッド・クレオールたちはまたでも別のグループなのかな。すみません、ビギナーな質問をつづけてしまいますがそんなハーレムに、なのかアメリカのブラックミュージックにというのか、レゲエというのは居場所があまり見出せなかったんですか? もひとつ素朴な質問をいえばジミー・ヘンドリックスが出演を認められなかったという記事がいくつかありましたが、それはなぜだったんでしょう?

M:ジミヘンは、以前取り上げた映画にもありましたが、白人寄りに思われていたのではないでしょうか。
やはりその出演が驚きであったキューバやプエルトリコのラテン勢。
ブラックミュージックのフェスの中に、ラテン勢がいるという事実。
そしてその存在感。
ブガルー終焉期のこの時代の、レイ・バレットの圧倒的なパフォーマンスとメッセージ。
すごい時代のニューヨークなんだなと、リアルに感じました。
全盛期のスライ&ザ・ファミリーストーンも、素晴らしいパフォーマンスですし、みんなが言ってるニーナ・シモンもいいですね。
クエストラブは、次にスライのドキュメンタリー監督するとの話もあり、それも楽しみです。

© 2021 20th Century Studios. All rights reserved.

『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』
8月27日(金)よりTOHOシネマズ日比谷、渋谷シネクイント他全国ロードショー中
【原題】SUMMER OF SOUL (OR, WHEN THE REVOLUTION COULD NOT BE TELEVISED
【監督】アミール・“クエストラブ”・トンプソン
【出演】スティーヴィー・ワンダー、B.B.キング、ザ・フィフス・ディメンション、ステイプル・シンガーズ、マヘリア・ジャクソン、ハービー・マン、デヴィッド・ラフィン、グラディス・ナイト・アンド・ザ・ピップス、スライ・アンド・ザ・ファミリー・ストーン、モンゴ・サンタマリア、ソニー・シャーロック、アビー・リンカーン、マックス・ローチ、ヒュー・マセケラ、ニーナ・シモンほか
2021年/アメリカ/英語/カラー/ビスタサイズ/5.1ch & ドルビーシネマ/118分/字幕翻訳:佐々木悦子
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
©2021 20th Century Studios. All rights reserved.

『ザ・パブリック・イメージ・イズ・ロットン』ジョン・ライドンが語るP.I.Lの真実/Cinema Review-9

c) PiL Official Ltd (photography_ Tomohiro Noritsune left to right_ Lu Edmonds John Lydon Scott Firth Bruce Smith)

セルクルルージュのCinema Review第9回は、セックス・ピストルズ結成後に、ジョニー・ロットン=ジョン・ライドンが結成したパブリック・イメージ・リミテッドのドキュメンタリー映画『ザ・パブリック・イメージ・イズ・ロットン』です。
ドキュメンタリーには、ジョン・ライドンだけではなく、主要メンバーだったキース・レヴィン、ジャー・ウォーブル、ブルース・スミス(ポップグループ)ら現行メンバーに加えて、フリー(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)、アドロック(ビースティ・ボーイズ)など周辺音楽関係者のインタビューが登場します。
レビューは、映画評論家川口敦子と、川野正雄の2名が担当します。

© 2017 Follow The Motion LLC All Rights Reserved.

★川口 敦子

“歳を重ねてジョニー・ロットンメロウ化(ちょっとだけ)″と、NYタイムズ紙(18年9月13日)がドキュメンタリー映画『ザ・パブリック・イメージ・イズ・ロットン』のレビューに付した見出しを前に、「なるほどね」との思いと「いやいやでも」と抵抗したい気持とが交錯した挙句になんとなくにんまりとしてしまった。まさにそんな宙づりの時間、そこでロットンというイメージと現実、虚像と実像の狭間を楽しみ苦しむ(のもまた楽しみだから)ことこそが監督タバート・フィーラー(メキシコ・シティのスケボー少年からバンドのベーシスト、撮影監督を経て今回、長編デビュー)の紡いだ映画の目指すところと納得がいったからだろう。

それにしてもノー・フューチャーだったはずの世界を21世紀まで生き延びたロットン≒ジョン・ライドン、還暦を過ぎた彼の現在、窓の向こうに緑がのぞく簡素なキッチンのカウンターに片肘ついて語る様、そのぽっちゃりとしたたたずまい、ぎざぎざと引きちぎったシャツの両袖から二の腕をむき出しにしたマッチョな装いもパンクというよりはアメリカンなアクションスターのようで(ブルース・ウィリスとミッキー・ロークを足して2で割った感じか)、メロウ化というよりは単なるおっさん化とも見えなくはなく、そういえばコレクトネスの不自由な縛りがなかった頃、太ったパンクはあり得ないなんて能天気なジョークもよく耳にしたものだったなどと妙にしみじみ同世代(ロットン56年生まれと改めて確認すると、え、もっと年下じゃないのとの驚きも、それほど熱心なファンとはいえない身には実はあったのだが)の「なるほどね」の感懐に包まれたりもしてしまう。

© 2017 Follow The Motion LLC All Rights Reserved.

が、映画を見るうちに、ロットンの発言を目に耳にねじ込まれるうちに、「いやいやでも」丸くなったのは体だけみたいな確信が追いついてきて、彼が語る作られたファッションとしてのパンク、ピストルズ時代以来しぶとく続くマルコム・マクラーレンとの確執の根深さとか、モキュメンタリ―『スパイナル・タップ』のおかしさを地でいくメンバー交代劇とか,各々への歯に衣着せぬコメント(+各々からのお返しの言葉)をスリリングに嚙みしめ、それが映画の醍醐味になってくる。
実際、近年のコマーシャルやリアリティショー出演で確信犯的に披露してきた皮肉の棘を芯に隠したエンターテイナーぶり、尖った笑いを上手にまぶしたその語りに身を任せると、コアなファンでなくとも40年に及ぶパフォーマンス、イメージ操縦の妙技をとっぷりと楽しんでしまえる仕組だ。

© 2017 Follow The Motion LLC All Rights Reserved.

見逃せないのはそうしたケレンミたっぷりの話術にまぎれて病床の母(”あなたの目の中の静寂″「デス・ディスコ」)を葬(おく)る心や7歳の時の大病、記憶喪失にまつわる恐れ、はたまた糟糠のパートナーとその孫の画への想い――印刷された取材の発言としては既によく知られたエピソードをまっすぐに口にする”生身″のロットンの意外なくらいに細やかで濃やかな感情を目の当たりにする瞬間、そこに迸る胸の震え、衒いを捨ててそれをこちらも真正面から受け止めてみたいと思う。かっこいいばかりでない全方位的なロットン≒ライドンのポートレートを自ら差し出す覚悟、その思い切りはやはり素敵に真正パンクだから。

© 2017 Follow The Motion LLC All Rights Reserved.

★川野 正雄

ジョニー・ロットンが、何故P.I.Lになると、ジョン・ライドンになったのか?
その謎解きから、このドキュメンタリーは始まる。
1980年代初期、P.I.L(Public Image.Ltd)は、一番謎のバンドであった。
そしてジョニー・ロットン=ジョン・ライドンは、自分の中で特別な存在であり、カリスマだった。
情報が欲しくて、必死に読んでいた音楽誌に書かれていたであろう事が、ジョン・ライドンや、キース・レヴィン、ジャー・ウォーブルなど他のメンバーによって語られ、長年の疑問が次々に明かされていく。
アヴァンギャルドな音に、斬新なアルバムジャケット、ジョンの独特の発言と行動。
P.I.Lは間違いなく時代の最先端にいた。
この映画は、改めてその事を思い出させてくれ、更に知らなかった当時の事実に触れることによって、その思いを確信に変えてくれる。
初期のP.I.Lはすごかった。

https://youtu.be/7mSE-Iy_tFY

そのベースになっているのは、セックス・ピストルズ加入前はレゲエDJであり、ピストルズ解散後はジャマイカをドン・レッツらと共に訪問したジョンのレゲエ嗜好である。
それがジャー・ウォーブルのベースラインから始まるP.I.L独特のサウンドにつながっていき、この手法は多くのミュージシャンに影響を与えたのだ。
ジャー・ウォーブルは饒舌に映画の中でも語っているが、彼が離脱した事がバンドには大きな痛手であった。
そして更なる痛手は、ギタリストキース・レヴィンの離脱である。
この大きな事件が、実は1983年日本での初公演と、因果関係があった事実も、僕は初めて知った。
過大な期待を持ち、何回も足を運んだP.I.Lの初来日公演。そこで感じた違和感の原因も、40年近く経過して、初めて理解する事ができた。
ファンとしては嬉しかった来日公演だが、バンドにとって、結果的に良かったのかどうか。
初来日時、六本木でジョンとパートナーのノラ、ドラムのマーティン・アトキンスに遭遇した。
「Quickly!Quickly!」と言いながら、写真とサインに応じてくれたジョン。撮影した写真を見ると、発するオーラは尋常ではなかった。
この三人は日本からの帰国後、同居生活を始め、結果マーティンとの関係は崩壊してしまう。
僕自身は1985年のP.I.L2回目の来日公演を観た後、徐々にP.I.Lへの関心は薄れていった。
それはバンドというより、ジョンのソロユニットのように変化していったP.I,Lから結成当初のスリル感が薄れていき、バンドとしての限界を感じた為だと思う。
P.I.Lは、日本公演の前にリリースされた3枚のアルバムが、やはり頂点だったのだ。

ジョン・ライドン@六本木

六本木で遭遇した際、常にジョンの横に寄り添っていた長身のノラ。
彼女とジョンの関係はその時から、現在まで変わらない。
これはロックスターにおいて稀有な事で、そこにはジョンの人間としての誠実さを強く感じる。
映画の中にノラは、過去のショットでしか登場しない。ノラとプライベートについては、言葉を濁すジョン。
最近ジョンはノラの認知症と介護について、発表している、想像するに撮影時(2017年)には、ノラは発症していたのだろう。
2010年義理の娘アリ・アップ(SLITS)が死去し、双子の孫もジョンとノラが育てていた。
そしてノラの発症。この10年バンド活動も再開し、日本や中東もツアーしたが、ジョンは大きな苦労をし続けているように見える。
バターのCFに出演し、バラエティー番組のレポーターや旅番組にも出ている。それはそれで彼の才能の新たな一面だったりするが、経済的な理由が大きいという事は、映画の中でも語られている。
映画の撮影後、ジョンの容姿は大きく変化している。察するにノラへの介護のストレスが容姿にも影響してしまったと思える。

© 2017 Follow The Motion LLC All Rights Reserved.

マルコム・マクラーレンへの不信感がトリガーになり、全てを自分で仕切ろうとするジョン。最近もセックス・ピストルズの伝記映画へのクレームを表明している。
このドキュメンタリーを見て、改めてジョン・ライドンの魅力と凄さを実感した。
合わせてカリスマも人間である事、そして限界があるという事も痛感した。
そしてP.I.Lが革新的ですごいグループだったという事を改めて認識できた。
セックス・ピストルズとP.I.Lがお好きな方は必見である。

https://youtu.be/7mSE-Iy_tFY

『ザ・パブリック・イメージ・イズ・ロットン』
新宿K’s Cinema他全国順次公開&配信予定
■出演
ジョン・ライドン
ジャー・ウォブル キース・レヴィン ジム・ウォーカー
マーティン・アトキンス サム・ウラノ ピート・ジョーンズ ルイ・ベルナルディ
ジェビン・ブルーニ ジンジャー・ベイカー ルー・エドモンズ アラン・ディアス
ブルース・スミス(ザ・ポップ・グループ/ザ・スリッツ) ジョン・マッギオーク スコット・ファース
ジョン・ランボー・スティーヴンス
サーストン・ムーア(ソニック・ユース)
アダム・ホロヴィッツ(ビースティ・ボーイズ)
フリー(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ) and more
監督:タバート・フィーラー
製作:ジョン・ランボー・スティーヴンス、キャメロン・ブロンディ、ニック・シュマイカー
2017 年/アメリカ/英語/105 分/カラー・モノクロ/16:9
配給・宣伝:CURIOUSCOPE
© 2017 Follow The Motion LLC All Rights Reserved.