Cinema Discussion-34 蘇った伝説のカルトロードムービー『ヒッチャー』

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2021年が明けました。昨年からエンターティメントやファッションを取り巻く環境は大きく変わってきています。セルクルルージュのサイトの更新も昨年は滞りがちでしたが、今年は我々なりのnew normalを考えながら、新たな情報や価値観を皆様に伝えていきたいと考えておりますので、本年もお付き合いくださいますよう、よろしくお願い致します。
2021年のスタートは、映画を複数の視点からとらえ、映画評論の新しい手法を考えようとしてスタートしたセルクル・ルージュのシネマ・ディスカッションです。
34回目になる2021年最初のCinema Discussionは、36年ぶりにニューマスター版で公開される伝説のカルト作品『ヒッチャー』(The Hitcher)です。
1986年製作された『ヒッチャー』は、『ブレードランナー』で注目されたルドガー・ハウアーが、恐怖のヒッチハイカーを演じたサイコ・サスペンス作品です。
私自身は公開当時ノーマークな作品でしたが、伝説になる事が納得のカルトムービーでした。
ディスカッションメンバーは、川野正雄、名古屋靖、ナヴィゲーター役の映画評論家川口敦子の3名になります。

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★まずはご覧になった感想を。怖かったですか? 余りの怖さに笑っちゃいましたか?

名古屋靖(以下N):僕は1986年公開時に劇場で観てました。当時は『ブレードランナー』で気になった役者が主役級の映画という理由で観に行った覚えがあります。当時もそうでしたが「怖い」とか「笑っちゃう」映画ではなかったです。シンプルなストーリーに、これでもかなの惨忍の繰り返しはまるで70年代アメリカン・ニューシネマを彷彿とさせてくれて、ぞくぞくするかっこよさがありました。今観直してみても「ルトガー・ハウアーいいなあ。」と思います。

川野正雄(以下M):全くこの作品の事は知らなかったので、驚きました。ヒッチコックではよくある巻き込まれ型のストーリーですが、逃げ場のない状況に追い詰められる心理的な圧迫が怖かったです。最初はどうかな~と思いながら見ましたが、直ぐに引き込まれました。

川口敦子(以下A):ひとつのジャンルに押しこめるのが難しい映画という気もするのですが、ホラー、サイコスリラー、その極限を超えてコメディの域に踏み込んでいく、というか踏み込ませることで逃げても逃げてもやってくる不条理な殺人鬼からの逃げ道にするというような見方をしているように思います。無理やり笑うしかないような、つまり理由も動機もないものに対する答えのなさの怖さを、しかめつらしく語るのでなくアクション活劇として成り立たせている点が、面白かったというんでしょうか。ちなみに今回、お休みした哲生くんにどこがダメだったのと訊いたら、もともと怖いもの、痛いもの苦手なので、もう目をつぶってないとダメみたいな感じになちゃったのだそうです。血のりぐちゃぐちゃみたいなホラーというんじゃないですが乗せたら最後なサイコを相手にじわじわと追いつめられる感じは確かにすごい。

★86年の公開当初はあまり高い評価を受けたわけではなかったのに、じわじわとカルト的人気を獲得していった一作です。どこが人気の秘密と思いますか?

N:しつこく冷酷な殺人鬼とは対照的な、観ているこっちがイラつくほど純朴な被害青年がどんどんワイルドに変貌して行き、後半クレージーな相手と意識を共感できるまでに成長していくところはこの映画の魅力のひとつですね。 カルト的には、答えや理由が語られることなく全然ハッピーエンドじゃないところ。

A:すみません! 公開当初、試写では見逃しました笑
私もルトガー・ハウアーが気になっていて、だから見たいという気持ちはあったのですが、つい後回しにするうちに公開も終わってしまって結局、ビデオでチェックということになりました。カルト化したのは感想の所でもいったことと重なりますけど、一見そうはみえない実存的恐怖をテーマにしながらBムービー的チープな雰囲気(爆発とか炎とか、パトカーのつぶし方とかけっこう派手に、湯水のような大金ではないにしても予算をかけてる部分もありそうですが)を前面に押し出していくセンスが、特にマイナーメジャーがより広範に受けていった80年代にマッチしていたからかしらなんて思います。

M:『激突』的な感じかなと思って見たのですが、よりエグいですよね。一度見たら忘れないというか、記憶に長く残る映画なのかなと思います。サイコホラー的な映画ですが、荒唐無稽ではなく、かと言ってリアルではないんですが、ダークファンタジー的な要素も感じました。いわゆるB MOVIEになるのかもしれませんが、タランティーノなど、その後の映画への影響もしっかり感じました。超低予算と思って見ていましたが、思ったより空撮やアクションなど、お金もかかっていて、エンタメ要素もしっかり高いなと思いました。製作費は600万ドルで、公開時の配給は松竹富士、製作はトライスターでしたから、超インディーズ作品という事でもなく、敦子さんのいうマイナーメジャー作品だったのですね。人気の秘密は、やはりルドガー・ハウアーのキャラクターの強烈さではないでしょうか。

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★86年というと『ターミネータ―』の2年後、リンチ『ワイルド・アットハート』は90年、タランティーノが出てくるのはもう少し後の92年ごろになります。暴力描写、サイコなキャラクター、ロードムーヴィーの要素等々、アメリカ映画の流れの中で今、見直すことの面白さはどのあたりにあると思いますが?

N:日本と違ってアメリカでは70~80年代恐怖映画は、映画館でポップコーン食べながら爆笑大騒ぎで観るのが本当の楽しみ方だと聞いた事があります。『ターミネーター』なんかも正直笑っちゃう要素はたくさんありました。90年の『ワイルド・アットハート』もそうですが、タランティーノ作品で残酷&爆笑のスタイルは日本でも確立された印象です。 この『ヒッチャー』はそれらとはちょっと違う路線な気がしていて、どちらかというと『激突!』や『バニシングポイント』に近いと勝手に思っています。

A:後出しみたいな答えになりますが笑 キャメロン『ターミネータ―』、リンチの『ワイルド・アット・ハート』そしてタランティーノという流れの中でこの映画を見ることができるというのが、今、見ることの面白さのひとつといえるんじゃないでしょうか。ぐっと洗練度は上がりますがトム・フォードが06年に撮った『ノクターナル・アニマルズ』――20年前に離婚した夫から唐突に送られてきた小説「ノクターナル・アニマルズ」、妻と娘を乗せて深夜のハイウェイを走る学者トニーがならず者たちとのいざこざの末、被った悲劇とその顛末をひもときながら、現実と小説と回想の世界を往還するヒロインをじわじわと包み込む恐怖――なんて快作のことも合わせて思い出してみるといっそう楽しめるように思います。
もちろん名古屋さんが挙げられたスピルバーグ『激突!』からの流れもありますね。あの映画との比較は公開当時、ニューヨーク・タイムズ紙始め、多くの評で指摘されていてなるほどと思います。

M:見終わって、すぐイメージしたのが、タランティーノへの影響です。『デス・プルーフ』なんかは、すごく影響を受けているのではないかと感じました。それこそカーアクション、ロードムーヴィーの要素、暴力的なキャラクター、男尊女卑的な視線など、まんま受け継がれていると感じました。
それからサム・ペキンパー的なホコリっぽいロードムービーの雰囲気もありますね。ハンバーガードライブインや、ガソリンスタンドの雰囲気がすごく良かったです。

★ジョン・ライダー役ルトガー・ハウアーの魅力も甚大ですが、彼については?

A:『ブレード・ランナー』の時にも感じさせることですが、非常に暴力的な悪役を演じているのにどこか高貴で超越した、言葉にすると陳腐になってしまいますが哲学者めいた生/死への想いのようなもので役に深みを与えてしまう。本人の文学的な、浪漫派的なものへの嗜好もあるようにも思うのですが、それが映画に寓話的ともいえる陰翳を付加しているんじゃないでしょうか。
その出で立ちも勤め帰りのサラリーマンみたいな、普通のよき家庭人みたいにみえなくもない。それが凶暴な殺しをしてきたらしいとあっけらかんと正体を明かしていく、その落差。薬指に結婚指輪があって、このままお家に帰ればよき夫、よき父ともなるのかもと一瞬思わせるけれど、その指輪が実は犠牲者のひとりの指にあったのかも、で、もしかしてあの……と想像させる怖さ笑 仔羊をいたぶるようにどこまでも凡庸なアメリカ青年を玩ぶ様も存在の格上感満載で素敵です。唐突ですが少し前、井口昇監督作『悪の華』で玉城ティナが見せたキレ方の魅力とも通じる紙一重の無邪気と狂喜と凶暴さの領域というんでしょうか。ファンなのでつい話があちゃこちゃとんでしまってすみません。

N:『ブレードランナー』の後なので、同じ路線で突っ走ってる感じ。痛そうな演技はもちろん、シリアルキラーの代名詞「俺を止めろ」のセリフなどクールでありながら悲哀も感じて、いい意味でハマり役かと。

M:とても怖いですし、見事なキャラクター作りだと思います。実は『ブレードランナー』にあまり魅力を感じていないので、1度遥か昔に見ただけで、ルトガー・ハウアーも、全く知らない役者でした。

★元々、ライダー役はテレンス・スタンプにオファーされていたそうです、また脚本のエリック・レッドはシリアル・キラーのヒッチハイカーを歌ったドアーズの”Riders on the Storm”にインスパイアされたそうで、また執筆中には骸骨めいたルックスの、ストーンズのキース・リチャーズみたいな奴を思い描いていたそうですが、スタンプ版やキース版だったらどうだったでしょうね?

N:テレンス・スタンプの作品をそんなに観ていないので何とも言えませんが、80年代はそんなに目覚ましい活躍はしていなかった印象ですし、もしそうだったとしたら少々地味で重すぎ? キース・リチャーズだったらもっと爆笑できたかも?ですがルトガー・ハウアーくらい演技力がないと冷酷な中にも哀愁滲み出る魅力的なキャラクターにはならなかったとは思います。

M:見た感じはテレンス・スタンプを彷彿させますね。彼が演じたら、ちょっとハマり過ぎですかね。車とテレンス・スタンプというと、『世にも怪奇な物語』のフェリーニ編『悪魔の首飾り』のトビー・ダミットを想像してしまいますが、彼が出ていたら見ていたと思います。
雰囲気的には『欲望』のデビット・ヘミングスでも良さそうですが、年齢的にルドガー・ハウアーが良かったと思います。
テレンス・スタンプは名古屋君も指摘しているように、80年代は目立った活躍が全くありませんでした。確か89年だったと思いますが、ある英国の国立美術館のメンバーと話していた時、英国俳優の話題になり、テレンス・スタンプが好きだと言ったら、あんなに最悪な人はいないと言われました。レセプションに来て、酔っ払っていなくなり、当日の役割も果たさなかったそうです。80年代のテレンス・スタンプは、そういう時期だったのかもしれません。90年代に入り、雑誌エスカイヤのインタビューで、堕落の日々について語っていたことを思い出しました。
キース・リチャーズはちょっといかにもで、怖さは半減しそうです。
ドアーズの「Riders on the storm」はいい曲ですので、劇中でも使って欲しかったですね。ヒッチハイカーを歌った曲とは知りませんでした。

A:テレンス・スタンプ、そうだったんですか……87年にチミノの『シシリアン』に出てましたが…。スタンプ版はまた別の映画になっていくでしょうが見てみたかった気はしますね。『テオレマ』の正体不明さ、『コレクター』のサイコ演技、その先にジョン・ライダーを思い描くとぞくりと興味が募ります。でも、監督はもっとアート系の人選を望みたくもなりますね。ハウアーの欧州出身という要素がヒッチハイクというアメリカンの典型みたいな部分に突き刺さる違和感、その絶妙な塩梅で成功している点を考えるとやはりヨーロッパ、あるいは英国を出自とするスタンプだったらと思い描くのもなかなか楽しい作業です。リチャーズ版はわりにありきたりかな笑
ドアーズとの、というかジム・モリソンとのかかわりでは彼が脚本・監督、ヒッチハイカー役で主演もした“HWY:An American Pastoral”(70)という50分強の短編映画との関係もスリリングです。70年にヴィレッジ・ヴォイスとのインタビューで明かした所に拠れば映画は50年代の連続殺人犯ビリー・クックをヒントにしているそうで、そのクックといえば女優で女性監督の先駆としても知られるアイダ・ルピノが撮った『ヒッチ・ハイカー』のモデルでもある、連続殺人犯と知らずにヒッチハイクする彼を乗せたふたりの釣り好きが人質状態でメキシコの荒野を逃走につきあわされるという、このルピノの映画、UCLA映画科でコッポラと同級だったモリソンならきっと見ていたと思われ、その彼が歌った歌とエリック・レッドの絆は『ヒッチャー』とルピノの映画のそれへと繋がっていくんですね。『ヒッチャー』が『ヒッチ・ハイカー』のリメイクとする説もあるようですが、見比べると実録的タイトな語り口のルピノ版、片目が閉じないシリアル・キラーの寝姿の不気味さに詩が漂う部分がなくもないけど、ハウアー演じる悪の化身的寓話性とはむしろ違いの方が感じられるようで、それがまた面白い。

★アメリカの景観、それを背景にした悪夢、あるいは独特の残酷さを備えたおとぎ話と見ることもできそうですが、いかがでしょう?

M:ジム・モリスンとそういう因果関係があったのですね。悪夢である事は間違いないですが、このストーリーも想像以上に練られていたのでしょうね。この残酷さや、ヒッチハイカーによる突然の恐怖は、アメリカ人には誰にでも起こりえる災難であったり、恐怖なのかもとも思います。重要な要素として、警官による恐怖も並行して描かれており、冤罪の恐怖を味わえるハイブリッドな恐怖感が、ファンタジーなんだけど、リアルに怖い映画になっている要因と思います。
むしろヒッチャーより、警官の方が恐ろしいと思える場面もありました。

N:今となっては少々テキサスをバカにしすぎなところもありますが、当時のアメリカ南部を誇張した表現や人物像なども含め、特に後半はおとぎ話的なノリもあるかもしれませんね。主人公達を追う警官隊を撃退するあたりは『ブルース・ブラザース』的で笑えたし面白かったです。そんな派手な追走シーンもあってか、シリアスとエンタメの両方いいとこ取りな印象もあり、結果どっちつかずなジャンルになっているのは良くも悪くも80年代的な映画だと思います。

A:ヒッチハイクといえばビート、ケルアックなんて単純な連想だけでなくアメリカ文学やアメリカ映画のひとつの景色ともいいたいモチーフですよね。ルート66でアメリカ大陸を横断してみたいとぼんやりとした憧れのようなものもあったりするわけですが、それはともかく、青年の大人へのイニシエーションをふまえた悪夢の物語――と、あからさまにお説教臭く作ってはいませんが、そう見ることもできますよね。あるいはジム・モリソンにこだわるわけじゃないですが、ハートならぬ煙草に火をつけて始まる映画はマッチを擦って灯ったあかりの束の間を照らすおとぎ話、ママの言いつけを破った男の子の受難の物語とも見えるのかな。こじつけめきますか??笑

★ジョン・シールの撮影に関してはいかがですか?

A:今回のリマスター版公開にあわせた特別映像でシールは「砂漠を美しく撮りたい、狂気が続く場所を」といっていますが、最近では『マッドマックス怒りのデスロード』も手がけた彼、監督のマーク・ハーモンは全くノーチェックだったが、脚本のエリック・レッドが推薦したと同じ映像でプロデューサーがいってますね。オーストラリア以来のピーター・ウィアー監督とのコンビ作、『ピクニックatハンギング・ロック』や『刑事ジョン・ブック 目撃者』のやわらかな色調もいいんですが、『ヒッチャー』でのそれとはまた別の派手派手しいアクションと自然の美しく大きな切り取り方、両者の並び立て方も要チェックじゃないでしょうか。

N:単純な背景の連続、砂漠の乾いた空気感などはそのままに、たまに登場するガソリンスタンドなど建物のデザインや撮影アングルなども何気にお洒落に撮られていて、80年代の新しいアメリカン・ニューシネマな映像に感じました。

M:空撮やいきなりの展開の恐怖、そしてカーアクションはうまく撮っていますね。600万ドルという予算の中で、、カーアクションの臨場感などは、見事だと思いました。名古屋君の指摘のように、ガソリンスタンドの空気感は、うまく撮っているなあと思いました。

★女嫌いの映画、ホモ・エロティシズム的描写といった評価もありますが、その点はどうですか?

N:ダイナーの娘の扱い方で「女嫌いの映画」と言われそうですが、逆にラストシーンで二人抱き合ってキスで終わるような映画だったら、カルト化はしなかったでしょう。

M:これはこの質問で初めて意識しました。女性への残酷さは感じましたが、ホモの要素は見ていてあまり感じませんでした。最後に両者がシンパシーを感じているのかどうかも、観客の判断に委ねる感じだと思いました。
根底に流れる精神は怒りなのか、悲しみなのか、愛なのか、難しいですね。

A: この点でもルトガー・ハウアーの資質がものをいってる気がします。吐きかけられた唾をなでくりまわす様とか怪しくも妖しい彼の美貌あっての見どころかも笑

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『ヒッチャー』 ニューマスター版
2021年1月8日(金)よりシネマート新宿ほか全国順次公開
配給:アンプラグド
出演:C・トーマス・ハウエル、ルトガー・ハウアー、ジェニファー・ジェイソン・リー、ジェフリー・デマン
監督:ロバート・ハーモン(「ボディ・ターゲット」)
脚本:エリック・レッド(「ブルースチール」)
撮影:ジョン・シール(「マッドマックス 怒りのデス・ロード」)
音楽:マーク・アイシャム(「ザ・コンサルタント」)
1986年/アメリカ/97分/カラー/シネスコ/5.1ch/日本語字幕:落合寿和(2019年新訳版)

CINEMA DISCUSSION-33 / ジャン=ポール・ベルモンドの全貌を知る裏メニュー

「大頭脳」
LE CERVEAU a film by Gerard Oury © 1969 Gaumont (France) / Dino de Laurentiis Cinematografica (Italy)

新作映画を複数の視点からとらえ、映画評論の新しい手法を考えようとしてスタートしたセルクル・ルージュのシネマ・ディスカッション。第33回は、新作ではなく、フランスの名優ジャン=ポール・ベルモンドの旧作8本をデジタルリマスター版で公開する「ベルモンド傑作選」を、ご紹介します。
ジャン=ポール・ベルモンドは、『勝手にしやがれ』『気狂いピエロ』などゴダール作品のイメージが日本では強いですが、元々はフランスを代表するエンターティメントスター。セルクルルージュのタイトルネタのジャン・ピエール・メルヴィル監督作品でも、『いぬ』『モラン神父』といった傑作があり、今回の特集上映は、是非ともご紹介したいと考えました。
またセルクルルージュのオンラインストア、セルクルルージュ・ヴィンテージストアでは、『ボルサリーノ』、『暗くなるまでこの恋を』など、ベルモンドの代表作品のオリジナルポスターを販売しています。

「ボルサリーノ」アメリカ版オリジナルポスター

今回のラインナップは、『オー!』以外の作品は、日本ではなかなか見る機会のなかった作品ばかり。フランスでは大ヒット作品が並びますが、日本人には馴染みの薄い隠し味が効いた裏メニュー的ベルモンド特集です。
1本でもご覧になった方には、裏メニューならではの、発見や満足感があると思います。
ディスカッションメンバーは、川野正雄、川口哲生、ナヴィゲーター役の映画評論家川口敦子の3名になります。

「ムッシュとマドモアゼル」
L’Animal a film by Claude Zidi ©1977 STUDIOCANAL

★ジャン=ポール・ベルモンドのとらえ方、セルクルルージュのメンバーの中でも年齢によって微妙に違うように思いますが、まずベルモンドをどんなふうにみていましたか?

川口哲生(以下T):ジャン=ポール・ベルモンドはどうしても、同時代のフランス映画のスター、アラン・ドロンとの対比で捉えてしまいますね。
アラン・ドロンの美形さや陰のある美学との対比で、ベルモンドは歯を剥いてニーっと笑っている感じ。笑。シニカルな中にも独特のユーモアのセンスみたいなものを感じます。
アクションのイメージもありますね。

川野正雄(以下M):ベルモンドは自分の中で特別な存在です。好きな俳優は何人もいますが、出演作品を全部見てみようと思う数少ない俳優で、マイヒーローです。
多分最初に見たのは、TVでしたが、フィリップ・ド・ブロカ監督の『カトマンズの男』で、それが最高に楽しく、劇場にアンヌ・ベルヌイユ監督の『華麗なる大泥棒』を見に行きました。
その後は『ラ・スクムーン』、『相続人』『薔薇のスタビスキー』など、新作は劇場に行き堪能しましたし、『ボルサリーノ』は、リバイバル上映で見ました。
ですので、ヌーベルヴァーグの俳優というより、エンタメ路線のベルモンドにすっかり魅了されていました。
当時雑誌スクリーンに、海外のスターにファンレターを出すページがあり、そこで見つけたベルモンドにファンレター送ったら、何とサイン入り写真の返信が来て、いたく感激しました。その写真はまだ大事に保管しています。

ベルモンドのサイン

ビデオなどが発売される時代になると、出来る限り過去の作品に接しました。ベルモンドは出演作品が多く、未見の作品も多々ありますが、60年代前半の『リオの男』、『冬の猿』、『いぬ』、『雨のしのびあい』などは、ベルモンドの魅力も満開ですが、作品としても傑作だと思っています。
1992年新宿厚生年金ホールで上演された『シラノ・ド・ベルジュラック』も、生のベルモンドが見れるまたとない機会なので見に行きました。
つけ鼻で本来のイメージとは違いましたが、デビュー前国立の演劇学校を優秀な成績で卒業したという舞台出身俳優ベルモンドの一面が見れて、これも大きな発見でした。3時間を超える長尺の舞台でしたが、生ベルモンドを堪能して居たら、あっという間に至極の時が終わってしまった事を、よく覚えています。
日本でどのように毎日過ごしていたのか、興味があったのですが、どこで食事したとか、全くそういう情報はキャッチすることは出来ませんでした。ただプライベートな旅行で日本には来たことがあるという事で、そこは意外な感じがしました。

日本版「シラノ・ド・ベルジュラック」パンフレット

川口敦子(以下A): 多分、最初にベルモンドの名前を意識したのが中学生の頃、テレビの洋画劇場で見た『大盗賊』でした。中2か中3、テレビを通じて同時代というより”昔の”映画を見まくっていた頃で、続いてスター競演のオムニバス『素晴らしき恋人たち』の一篇も期待して見たのですが、おおざっぱにいえば同様のコスチューム・プレイだけどこちらのルイ王朝時代のカツラをかぶったベルモンドにはちょっとがっかりしたような記憶があります笑
まあベルモンドへの入り口としてコスチューム・プレイ『大盗賊』というのはいかがなものかな所もありますが…。で、熱烈なファンになったわけではなかったけれど、映画にもベルモンドにも朗らかさがあって好感をもった、というのが思い返せば最初の印象ですね。
その後、後追いでヌーヴェルヴァーグ期のベルモンドのふてぶてしいのに繊細みたいなかっこよさにはもちろん惹き込まれた、でも川野さんみたいにファンレターを出そうというほど夢中になったことはなかったような。ファンレターはピーター・オトゥールとアラン・ベイツに出して私もお返事は貰いました笑

★そのイメージは今回の傑作選によってどうかわりましたか? または変わりませんでしたか?

M:70年代という自分がベルモンドに最初に夢中になっていた時代の作品が多く、全く違和感は無く、これぞベルモンドという印象です。今回のラインナップでは『オー!』と、『恐怖に襲われた街』の2本は過去に見たことがあります。
特に『オー!』は、当時沢田研二がラジオ番組で、ドロンよりベルモンドが好きで、中でも『オー!』が一番好きな作品だと話していたのを聴き、必死に見る機会を探した作品です。
『オー!』のベルモンドが、一番彼らしいと、今回のラインナップでは思います。おとぼけとクールの同居、ある種の親しみやすさ、その辺がベルモンドの魅力だと思っています。見ていない6本は、どれもベルモンドらしく、それぞれ発見がありました。まとめて見たので、若干記憶が混同していますが(笑)。
ベルモンドの作り出すキャラクターは、『勝手にしやがれ』に代表される飄々とした空気で、悲壮感のない存在感と、初期だと『いぬ』に代表されるクールで静かな存在感に二分化されると思います。
今回はどちらかというと前者のキャラクターが多いですが、『警部』『プロフェッショナル』は後者のイメージで、満遍なくベルモンドの存在感を味わいました。
その後何本も傑作を作るフィリップ・ド・ブロカ監督との最初の『大盗賊』、それまで何本も一緒に傑作を作ってきたアンリ・ベルヌイユ監督との『恐怖に襲われた街』、アラン・ドロンの『冒険者たち』を撮って勢いのあったロベール・アンリコ監督の『オー!』は、特にベルモンドならではのとぼけた魅力と、クールさをうまく引き出していると思います。

「大盗賊」
CARTOUCHE a film by Philippe de Broca © 1962 / STUDIOCANAL – TF1 DA – Vides S.A.S (Italie)

A:今回の傑作選の「あなたはままだ、本当のベルモンドの魅力を知らない。」というキャッチコピーがまさに! という感じ。「山田宏一映画インタビュー集 映画はこうしてつくられる」(草思社)には『大盗賊』『リオの男』『カトマンズの男』と”知らなかった”方の、というか『大盗賊』から入った私の場合には原点回帰なのかもしれませんが笑、サービス精神満点のアクション・スターとしてのベルモンドの魅力を引き出したフィリップ・ド・ブロカ監督とのコンビ第5作『ベルモンドの怪盗二十面相』(75)の現場で撮影の合間にセットを組んだ鉄パイプにぶらさがって「筋肉はすぐなまっちまう」と寸暇を惜しんでトレーニングに励む様子が紹介されているんですが、その折の「体を張ってやらないとアクション・シーンにも迫力が出ない」という発言をかみしめると『恐怖に襲われた街』の屋根伝いとか『ムッシュとマドモアゼル』の階段落ちやヘリから飛行機への降下とか生身の迫力満載のアクションを前にいっそう身を乗り出し手に汗握り応援せずにはいられなくなりますよね。ただそこに悲壮感がないのがベルモンドの魅力の核ともいえそう。スクリーン誌のバックナンバーでベルモンドの記事を探してみたらあの小森のおばちゃまが「万年あばれ坊や的ベルモンドくん」なんて書いてらしてなるほどねと思いました。
もひとつやはり往時のスクリーン(69年11月号)には「洋画に関する30の質問」という連載記事で質問された千葉真一が今、一番好きな男優、共演したい男優どちらもマックィーンとベルモンドと回答していてこれにもなるほどね、と。そう実感をもってうなずけたのも今回の傑作選でベルモンドのアクション・スターぶりを改めて知ったおかげだなあとナットクしたわけです。

T:ゴダールとのヌーヴェルヴァーグのベルモントはもちろん大好きなんですが、こういうコマーシャルな映画でベルモンドの魅力をすごく感じました。
役柄からして、正義のヒーローでもないし、ぬけめない大盗賊でもない、冷酷なギャングでもない。何か憎めないどこか間の抜けている人間らしさがいいですよね。
そういうところがフランス人にはサンパなんだろうな。

「大盗賊」
CARTOUCHE a film by Philippe de Broca © 1962 / STUDIOCANAL – TF1 DA – Vides S.A.S (Italie)
「大頭脳」
LE CERVEAU a film by Gerard Oury © 1969 Gaumont (France) / Dino de Laurentiis Cinematografica (Italy)

★傑作選の中で個人的に特におすすめのベルモンド映画はどれですか? 理由は?

T:私は今回『オー』と『プロフェッショナル』『大頭脳』しかみていませんが、どれも凄く面白かったです。特に『オー』はレーサーだったりモデルだったり当時のフランス人のかっこいいと思うことやもの、服や車、ベルモントの捻くれた役柄、刑事・記者・犯人の男同士の関係性、女との関係性等すごく練られたシナリオで、全く飽きることなく楽しみました。

A:みなさんが挙げてる「オー!」はやっぱりいいですね。チンピラな青春の切なさが見た後にじわっと迫ってくる。監督ロベール・アンリコの『冒険者たち』にほれ込んでベルモンドが出演を希望したそうですが、『若草の萌えるころ』に続いて恋人だった監督と組んだジョアナ・シムカス、前2作に比べるとやや地味めな存在感ながら若い観客にはぜひお見逃しなくといいたいですね。人気女優だったのに『邪魔者を殺せ』のブラック版リメイク『失われた男』で共演したシドニー・ポワチエと結婚してさっさと引退した潔さも印象的でした。70年代にかけてのフレンチなおしゃれ女優というと昨今の女性誌などではまずジェーン・バーキンの名前が出てくるけれど、セリーヌに移ったエディ・スリマンの昨年から今年にかけての隠れたロールモデルとしてシムカスがいるんじゃないかしら、なーんて思ったりもしてしまいます。ベルモンドから話がそれてしまいましたが笑 ついでに共演者の魅力という意味でも、アクション+笑い+展開の妙という意味でも『大頭脳』は侮れませんね。さらに侮れないのが『ムッシュとマドモアゼル』かな。ドタバタ喜劇と片づけられかねない部分もありますが、ケンカしながら…というロマンチック・コメディの王道をきちんと押さえて飽きさせない。加えてベルモンドの二役、スタントマン役でのセルフパロディ的アクションも見逃せません。もう一本、『刑事キャレラ/10+1の追撃』がとてもよかったフィリップ・ラブロ監督のエキセントリックを底に湛えた『危険を買う男』も今回、見られてよかった! な異色作ですね。

「危険を買う男」
L’ALPAGUEUR a film by Philippe Labro © 1976 STUDIOCANAL – Nicolas Lebovici – Tous Droits Réservés

M:本当にベルモンドの過去の作品にアクセスする機会が少なく、今回の特集上映は大変嬉しいです。
『オー!』は、オールタイムでもベストにノミネートされる傑作ですが、大仕掛けの『大頭脳』、ラクエル・ウェルチとのコンビが魅力的な『ムッシュとマドモアゼル』、60年代初期の若きベルモンドが活躍する『大盗賊』は、特にお勧めです。
パリ市内での撮影がすごい『恐怖に襲われた街』も、見所満載です。アンリ・ベルヌイユ監督は、ベルモンドの魅力を長期に渡って最大限引き出した監督だと思います。個人的なベルモンドの最高傑作『冬の猿』、同タイトルの最近の大作には欠けているカタリシスが強く漂う『ダンケルク』、アクションスターベルモンドの地位を不動のものとした『華麗なる大泥棒』。『恐怖に襲われた街』は、それらの集大成の痛快なアクション活劇だと思います。
エンニオ・モルリコーネの作品集で、サントラにしか触れる機会のなかった『プロフェッショナル』をやっと見れたのも、嬉しかったです。
先ほど言った『シラノ・ド・ベルジュラック』の演出は、『プロフェッショナル』の敵役ロベール・オッセンでした。この辺もつながりが見えてきて、面白いです。
それからサイケデリックなロンドンの雰囲気が冒頭から感じられる『大頭脳』。これは見逃せない作品だと思います。デビット・ニーブンと、ベルモンドは同じ時代の『007カジノロワイヤル』でも共演(一緒のシーンはなかったかも)していますが、どちらも当時流行った洒落た大作コメディで、似た空気を感じました。
敦子さんの言っている『危険を買う男』。実は一番期待していなくて、最後に見たのですが、これは正に異色作で、思いの外楽しんでしまいました。
エンタメ〜アクションだけではない独特のノワール作品でした。

「恐怖に襲われた街」
PEUR SUR LA VILLE a film by Henri Verneuil © 1975 STUDIOCANAL – Nicolas Lebovici – Inficor – Tous Droits Réservés

★ヌーヴェルヴァーグだけじゃないベルモンドというのが傑作選の柱になっていますが、
その点に関してはどんなふうに?

M:『勝手にしやがれ』に代表されるゴダール作品のベルモンドも好きですが、今回のラインアップは、むしろベルモンド自身が愛するエンタメ作品が集められています。
ヌーベルヴァーグなベルモンドよりも、今回のコメディやノワール、アクションに徹する娯楽作品のベルモンドの方が、彼の本質的な嗜好ではないかと、勝手に思っています。オフビートというか、とぼけた味のベルモンドと、筋肉質なアクションスターベルモンド、この同居が魅力なんですよね。
資料にもルパン三世のモデルとあり、吹替えは同じ山田康雄さんだったりしていますが、手塚治虫さんの「千夜一夜物語」のアラジンも、確かベルモンドがモデル。こういった偉大な作家のキャラクターモデルにまでなってまうのが、おとぼけベルモンドの凄さだと思っています。
虎と対峙したり、公共交通機関でのアクションシーンなど、CGの時代でもないし、どうやって撮影したのかなと思えるシーンが、随所に見られるのも楽しいです。
それからベルモンドの独特のユーモアセンス。これはドタバタというわけでもなく、品があって、だけどおかしい。その辺は『ムッシュとマドモアゼル』で、全開で楽しめます。

虎とベルモンド「ムッシュとマドモアゼル」
L’Animal a film by Claude Zidi ©1977 STUDIOCANAL

A:CGでなく生身のアクションというのはほんと今、いっそう貴重ですよね。何でも描けてしまうから興ざめになる、という意味では『ダンケルク』にしてもノーランのただ物量作戦的な大仰な空っぽさに比べて生身の痛々しさが迫ってくるんですね。

ヌーヴェルヴァーグに関しては、ついどこかお勉強的姿勢で見てしまったりもする。今回の傑作選はゴダールやシャブロル、トリュフォー、はたまたアラン・レネ作品のベルモンドとはまた別のアクション・スターとしての魅力発見の絶好の機会なのですが、よくよく振返ってみるとアクションって、屋根の上や走る列車の上で暴れまわるスタントなしの活劇というだけでなくベルモンドの演技の身体性って部分にも繋がってくるんじゃないかしら。例えばあの『勝手にしやがれ』のボガートのポスターの前で彼を模し唇を撫でるその指先の動きのしなやかさとか、ラスト、撃たれた腰のあたりを抑えつつよろよろと往く後姿のなまめかしい切れ味とか、俳優としての一貫した武器がそこにあるともいえそうな気がします。娯楽作でも作家の映画でも変わりなく存在してしまえる俳優としての、スターとしての強味ですよね。
その意味で興味深かったのがジャン=ピエール・メルヴィルと組んだ時、きっちりとアングルを決め込んで俳優の自然な動きをある種、封じ込めるメルヴィルの演出に齟齬を感じたようだったと、助監督を務めていたフォルカー・シュレンドルフ(『ブリキの太鼓』)が『いぬ』のブルーレイ所収のインタビューで明かしていること。そこが静の演技でこそ光るドロンとの違いというのも面白いですよね。とはいえメルヴィル映画のベルモンド、大好きですが。

「プロフェッショナル」
LE PROFESSIONNEL a film by Georges Lautner ©1981 STUDIOCANAL

★続きの質問になりますが、今回のヌーヴェルヴァーグだけじゃないベルモンド傑作選は同時にヌーヴェルヴァーグだけじゃないフランス映画の魅力再発見ともいえますね。あるいは今のフランス映画にない魅力、どのあたりに感じましたか?

M:エンターティメントへの徹底ですかね。それとやはりある種洒落た感じはあり、アクションでもハリウッド映画とは全然違う生身のアクション作品ですね。
それからベルモンドの作品では、相手役の女優というのがキーになる事が多く、誰と共演するかも楽しみでした。
今回もジョアンナ・シムカス、マリー・ラフォレというフランスおしゃれ女優から、ラクエル・ウェルチ、クラウディア・カルディナーレというグラマラス女優まで、楽しい共演者が並んでいるのも当時の魅力だったと思います。
初めて中学生の時『オー!』を見た時、冒頭のベルモンドとジョアンナ・シムカスのラブシーンで、『冒険者たち』のレティシアが胸を揉まれていると思い、衝撃的でした(笑)。

T:エンターテイメントに徹しているし、シナリオやプロットがすごく練られていますよね。とにかく映画としてすごく楽しめました。
『オー』の中でベルモンドがフォルスターから拳銃引き抜いて構えるポーズの練習をするシーンとか、なんか昔の日活映画にも通じる型を感じました。

「オー!」
HO! a film by Robert Enrico ©1968 – TF1 DROITS AUDIOVISUELS – MEGA FILMS

A:これはフランス映画だけでなく今、ハリウッドにも日本の映画にも感じる残念さですが、様々な面で、つまり共演者にしてもスタッフにしても企画にしても層の厚みがあった往時と比べて、薄さが気になる今日この頃――なんですね。正直いって今回の6本にしても筋はご都合主義的だったりもする、それでも興味をそらさないスターの磁力はとりわけ大きいですよね。今のフランス映画を見ているとガレルやドワイヨン、デプレシャン、アサイヤス以下、作家性を光らせる存在は続々と出てきているようにも見える。小さくても注目したい映画は少なくない。むしろ娯楽映画の方がなんだかなあと、70年代当時にはあった肌理の細かさを失っている気がします。見ている量が少なすぎるので言い切ることはできませんが傑作選のヴェルヌイユ、ド・ブロカ、アンリコみたいなシブく光る領域の職人映画、これって日本のメジャー映画にもいえるような気がしますが、改めてこういう映画がもっと当り前に見たいなと今、思います。その意味では『天使が隣で眠る夜』でジャック・オーディアールが出てきた時、おおっと期待が募った。恋とも見紛いそうな男の友愛映画のひんやりと鈍い灰青色の世界を、しかも娯楽作として描こうとしていてさすが今回の特集の監督たちともベルモンドとも繰り返し組んでいる脚本家ミシェル・オーディアールの息子――と。『預言者』『君と歩く世界』くらいまでその感じが保たれていてよかったのにカンヌで大賞をとったあたりからなんとなく違ってしまったようで、残念だなあ。

「警部」
FLIC OU VOYOU a film by Georges Lautner ©1979 STUDIOCANAL – GAUMONT

★ベルモンドのファッションはいかがですか?

T:時代性があって、今面白がれるものとそうでないものがありますが、『オー』は洒落もの感ありますね。 大きなサングラスや皮革のトレンチや、スエードにタートルとかはフレンチっぽいですよね。彼女のジョアンナ・シムカスはジバンシーのモデルだし。
『大頭脳』はステレオタイプ化された英国、フランス、イタリア(シシリア)の服の違いって感じだけれど。タートルに皮革のブルゾンとか似合ってますよね。
『大頭脳』ではむしろシルヴィア・モンティの黒ビキニに大きな黒のフェルトハットとかスエードのminiドレスとかがそれこそ昔の「スクリーン」の時代のセクシーな女優の感じでそういう意味で花を添える役回りなんだろうけれどかっこよかったですね。

A:茶系の人、その微妙な濃淡の着こなしがフレンチならではで素敵ですね。ドロンの黒系のイメージとここでも対照的といえるかも。

M:ベルモンドは着こなしがうまいですね。コスチューム映画でもそれなりに見えますが、スーツ姿も様になる。今回は様々な作品で、トレンチコート着ていますから、トレンチコートを比較しながら見るのも面白いです。
今回の作品ではやはり『オー!』のスタイルはすごく好きです。後は『大頭脳』も、カジュアルな着こなしのお手本のような姿で良かったです。
『プロフェッショナル』あたりは、肉体派アクションスタイルですが、どの作品見ても、本人がアクセサリーまで細かく拘っているように思えました。

「警部」
FLIC OU VOYOU a film by Georges Lautner ©1979 STUDIOCANAL – GAUMONT

★同時代にライバル視されたドロン、ハリウッドでいえばマックィーンやイーストウッドが同時代の人気者でしたが、彼らとの比較も含めてスター ベルモンドの輝きはどこに?

M:アラン・ドロンも好きですが、70年代後半以降出演作品にかなりのバラツキが出てきました。これは自分のプロダクションを持ち、やりたい事をやった結果でもあり、大スターには伴うものです。
一方ベルモンドも、自分のプロダクションを持ちましたが、常に作品のクオリティを担保している印象があります。
ドロン、マックイーン、ベルモンド、イーストウッドそれぞれ大きな魅力を持っており、正直比較のしようがないと思います。しいて言えば、他の俳優にはない、滲み出てくるおとぼけ感とユーモアが、ベルモンドならではの輝きと思います。
ベルモンドも87歳で、健康面も心配ですが、昨年PARIS MATCH70周年の表紙撮影でドロンと共演した映像見ると、元気な感じで少し安心しました。

A:今回の資料集めで昔の映画誌を見ていたらドロンの『友よ静かに死ね』(77)をめぐってベルモンドの陽気な人なつこさを意識したアクションと、合評記事でカーリー・ヘアで明るくイメージチェンジしたドロンのライバル意識が話題になっていて面白かった。そのドロンとも一度ならず共演しているベルモンドの人なつこさ、明るさというのは役を超えた本人の魅力ともいえそうで、動画サイトでセザール賞で功労賞に輝いた折やベルモンド美術館のオープニングの折の様子をみるとカルディナーレやロベール・オッセン等々が心から祝福してる様子が伺えてこちらもうれしくなる。杖をついて、少し呂律が回らない様子からすると病気があったりするのかもしれないけれど、巨人軍は永遠に不滅ですの長嶋と通じる明るさがそこにも輝いていてああっと気持ちがなごんでくる。『ダンケルク』の中に美男じゃないがサンパだと、まさにの台詞があったけど、いい人なんだろうなきっと。と、ここまでは冷静に分析するふりをしてきましたが、今回、この特集をきっかけにベルモンド映画をさかのぼっていくと『いぬ』『冬の猿』『雨のしのび逢い』『墓場なき野郎ども』と、若き日の快作でもほんとに結局、いい奴なんですよね。ゴダールだったら『女は女である』のふわっと脇に居る男の子の感じ(『ストレンジャー・ザン・パラダイス』のリチャード・エドソン、ジャームッシュはベルモンドを意識して選んでいたと思う)――と、たどるうちに『モラン神父』の禁欲的だからセクシーな神父演技にくらりとなって、60年前後のベルモンドにもうほとんど夢中。いまさらですが目下、わがアイドルと化しています笑。

「オー!」
HO! a film by Robert Enrico ©1968 – TF1 DROITS AUDIOVISUELS – MEGA FILMS
ジョアンナ・シムカス

ジャン=ポール・ベルモンド傑作選
新宿武蔵野館他で、全国順次公開中。
「大盗賊」
「大頭脳」
「恐怖に襲われた街」
「危険を買う男」
「警部」
「オー!」
「ムッシュとマドモアゼル」
「プロフェッショナル」

人はそれと知らずに、必ずめぐり会う。たとえ互いの身に何が起こり、どのような道をたどろうとも、必ず赤い輪の中で結び合うーラーマ・クリシュナー (ジャン・ピエール・メルヴィル監督「仁義」*原題"Le Cercle Rouge"より)

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