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1959年 東京生まれ。 以来東京に住み続けていますが、2010年1年間は香港に住んでいました。 長い間海外の文化から刺激を受けてきましたが、海外に一度住んだ事で、日本の良さを、改めて見直しています。 英国の音楽とスタイル、フランスの映画と車、暑い国の料理と日本の文学を好んでいます。 1987年以降P Picasso, 下北沢ZOO~SLITS、DJ BAR INKSTICK, Faiなどのクラブで、DJとして活動。 2006年以降DJは休止していたが、2016年より再開。 ファンデーションである英国音楽や、MODSシーンのイベントで、ルーツミュージックを中心にプレイしています。 現在UKファッションの老舗Ready Steady Go!のリブートプロジェクトを展開中。 Music: 60~70's Rock, Rare Groove, Rocksteady, Jazz Funk, Folk. Cinema: Roman Polanski, Jean Pierre Melville, John Cassavetes,Michelangelo Antonioni Style: READY STEADY GO! 6876,Duffer of ST George, YMC, FARAH Food: exotic food.モロッコ、イスラエルなどの料理。

満員御礼!「Flying Bodies」スペシャルイベント・スクリーニング

出演者集合。中野裕之監督、Blue Tokyo, Open Reel Ensemble、青森山田高校荒川監督
出演者集合。中野裕之監督、Blue Tokyo, Open Reel Ensemble、青森山田高校荒川監督

12月12日立川シネマシティ2で開催された中野裕之監督のノンフィクションフィルム「Flying Bodies」のスペシャルイベント・スクリーニングは、お陰さまで全てのチケットが完売し、通常の映画館では考えられない程の熱い熱気の中、無事に終了しました。
立川まで来場して頂いた皆様、多大なご協力を頂いた立川シネマシティの皆様、ISSEY MIYAKEのスタッフの皆様ありがとうございました。

ここで簡単に当日の模様をレポートさせて頂きます。
「選手達のパフォーマンスが素晴らしいと思ったら、FACEBOOKのいいね!をするような感じで、映画の上映中もどんどん拍手をして下さい」
という中野監督の挨拶でスタートした本編上映は、立川シネマシティ2の素晴らしいサウンドシステムにも後押しされ、後半のステージ部分では観客の皆様の拍手がなり続く、熱い上映になりました。
上映終了後のイベントは、中野監督の進行で、まずモーショングラフィックスを担当した中村勇吾さんのメイキング映像でスタート。

中野裕之監督の挨拶。目立つジャケットは、もちろんISSEY MIYAKEです。
中野裕之監督の挨拶。目立つジャケットは、もちろんISSEY MIYAKEです。

続いて最初のゲスト、オープンリールアンサンブルが登場。旧式のオープンリールデッキと現代のPCを融合させて、オープンリールデッキをDJ用ターンテーブルのように操る彼らのベールに包まれた姿の実態を、映像交えて中野監督とメンバーが解題。
続いて行われたミニLIVE。まずはオープンリールアンサンブル単独で1曲ライブ。
SPINをテーマにした彼らのプレイ方法やコンセプトについて話を聞いた後のライブだけに、観客の皆様も興味津々。
実際私も目の前で彼らの機材を見ましたが、ビンテージなオープンリールデッキに、自家製の機材とPCが接続されている佇まいがとても格好よく、アナログとデジタルを見事に結晶させているその独創性溢れる姿に感嘆しました。

続いて早くも2曲目に青森大学OBを中心に結成された新体操のプロチームBLUE TOKYOが登場。
この2曲目は、立川のイベント用に新たにオープンリール・アンサンブルが制作したヒップホップフレイバーの新曲に、BLUE TOKYOがパフォーマンスを合わせたコラボレーション。映画館のスクリーン前という至近距離でのバック転やパフォーマンスに、かけ声と歓声があがりました。
続く3曲目は、BLUE TOKYO単独のパフォーマンス。
BLUE TOKYOは、青森山田高校や、青森大学のOB中心に構成された新体操&ダンスのチーム。いわば各世代のチャンピオンばかりが集まった超アスリート集団です。シルク・ドゥ・ソレイユのパフォーマンスのように、美しく動き回る彼らの姿に、普段の映画館とは違った種類の熱気が劇場内を包み込む中、一気に終了。
6分間という短い時間でしたが、2組のユニットのコラボレーションが見事に結実したパフォーマンスを、立川まで来て頂いた皆さまにご披露する事が出来ました。

その後は青森山田高校新体操部荒川栄監督が登場し、和気あいあいな空気で、新体操の世界のお話をして頂きました。
最後に中野監督が、坂本龍一さんの曲に合わせて、モンゴルで撮影した映像を組み合わせたDIGITAL GARAGEのショートフィルム「EAST MEETS WEST」を本邦初公開で上映し、イベントも無事終了しました。

Blue Tokyo
Blue Tokyo

続いて少しだけ、このイベントの経緯をご紹介します。
中野裕之監督から「面白い作品が出来たので、是非立川シネマシティで上映したいので、協力して欲しい」という連絡があり、急遽打ち合わせをしたのが、10月18日。そこからシネマシティに協力をお願いし、快諾頂き、日程が決まったのが、10月20日。
実は中野監督とセルクル・ルージュでは、かねてより日本で一番のサウンドシステムを持っている立川シネマシティ2で、何か面白い企画をやりたいと話をしており、ようやく実現した次第です。
上映決定と同時に出てきたのは、「何とか皆さんを楽しませたい」という中野監督のサービス精神から生まれた映画館という枠を超えたイベントの企画。それがオープンリールアンサンブルと、BLUE TOKYOの出演でした。

立川シネマシティは、DJイベントなども行っており、通常の映画館よりは遥かにイベントをやる環境は整っています。
しかし映画館という基本条件の枠内にはある為、時間的及びスペース的な制約は幾つかあり、新作で多忙な中野監督が日本に滞在しているスケジュールも限られていた為、様々な条件が制限された中での準備期間となりました。
そんな環境の中両グループは、ISSEY MIYAKEのスタッフの方々と協力しながら、ギリギリまで準備を重ねてくれました。
開催前々日の夜には、BLUE TOKYOが、閉館後の劇場で終電まで、自分たちの単独パフォーマンスの場当たりとリハーサル。
前日の夜には三宅一生さんのスタジオをお借りして、両者が初めて生でセッションするリハーサルを行いました。
そこで両者が色々セッションしながら作り上げたのが、今回の6分間のパフォーマンスです。

ISSEI MIYAKEスタジオでのリハーサル
ISSEI MIYAKEスタジオでのリハーサル
シャッタースピードが追いつかないリハーサルでのバック転
シャッタースピードが追いつかないリハーサルでのバック転

エンターテインメントに徹する中野監督の強い想いで実現した今回のイベントですが、来場された方々も、出演者も皆が笑顔で終わった気持ちのよい一夜となりました。
この監督二人の笑顔に、その成果は象徴されています。

監督二人の2ショット。衣装にご注目下さい。 監督二人の2ショット。衣装にご注目下さい。

「Flying Bodies」の上映も、テアトル新宿の上映が延長になり、大阪テアトル梅田での上映も開始されました。

「Flying Bodies」はまだまだ続きますので、未見の方は是非この機会にご覧ください。
最後にこのイベントで初公開された坂本龍一さんと中野監督のコラボレーションフィルム「EAST MEETS WEST」を、紹介させて頂きます。

Cinema Discussion-2 / 「The Bling Ring/ブリングリング」ー”狂ってるけどピュアなアメリカの今”

新作映画を複数の視点からとらえ、映画評論の新しい手法を考えるセルクル・ルージュのシネマ・ディスカッション第2弾は、12月14日に公開するソフィア・コッポラ監督の「ブリングリング」です。
今回の参加者は、前回と同様に映画評論家川口敦子さんをナビゲーターに、川口哲生、名古屋靖、川野正雄の4名です。

川口敦子(以下A)この映画を観て感じたのは、SNSも加わって進むリアリティのなさのリアリティ、過剰化する自己顕示欲が、セレブリティファッションという一つの象徴で描かれているので、今日はその辺をテーマに語り合ってみたいと思います。

川口哲生(以下T)アンディー・ウォーホルの「誰でも十五分間有名になれる」といった世界観がSNSと相まって現実化し、過剰な自己顕示欲のはけ口をもとめているといった感じがします。

A ウォーホルのコメントについては、コッポラもNYタイムズでのインタビューでもふれていて、今、彼がいたらどう言うかというコメントがあって面白かった。本当にウォーホルが何ていうか聞いてみたい。

名古屋靖(以下Y) 逮捕後に犯人達がセレブ気取りで雑誌やテレビに登場しますね。ソフィアコッポラが朝日新聞のインタビューで、「かつては偉業を成し遂げた人が有名になった。今は誰もが有名になれる。気が付けばフェイスブックに何千人という読者が付いている。そうなると、誰もが自分も有名になるべきだと思ってしまう。それは非常に怖いことだと思います。」と語っていました。今のSNS文化(や情報過多)の危険性を訴えるのが、一つのテーマなのかな。実はみんなVIP好きだし選ばれた人になりたい。セレブリティのように、キラキラした生活、パーティ、ファッションなど、表部分の見える所だけ憧れるセレブリティをなぞる行為がリアルに描かれている。

A 彼女のこれまでの作品に共通するのは、セレブリティがテーマとして常にある点と、地に足つかない感触のリアリティがある点。
ただこれまでの映画では、パークハイアットに取り残されたスター、宮殿のマリー・アントワネット、シャトー・マーモントで娘と親しむスター――と、地上から少し浮遊した所にある現実、そこに生きる感覚をある種、自伝的に内側から、やわらかく描いていた。それに対して同じセレブリティを扱っていても、今回の作品で描かれてるセレブ文化に対しては距離感がある。客観視しつつ、決して意地悪に描いているわけではないのが、いいと思いました。

(C)2013 Somewhere Else, LLC. All Rights Reserved
(C)2013 Somewhere Else, LLC. All Rights Reserved

川野正雄(以下M)僕は同じタイミングで見たので、「ウォールフラワー」との対比がとても面白かった。エマ・ワトソンという主演女優も一緒だし、内気な男の子のハイスクール初登校の不安な気持ちがオープニングというも、友人たちに巻き込まれて、その男の子もブレイクスルーしていくという流れも同じでした。
ただ80年代が舞台の「ウォールフラワー」とは、見た後の感触が全く違う。「ウォールフラワー」の方が、誰もが暗く鬱屈しているけど生身の人間ぽく、「ブリングリング」は、フェイクっぽい。使っている音楽も時代性の象徴もあると思うけど、スミスやデビット・ボウイに対して、今時のヒップホップが満載。

A ティーンエージャーのギャングものやハリウッドの内幕ものは定番として昔から沢山あるけど、映画と現実の境界の喪失といえばのハリウッドで、富や名声を得るための裏切りとか犯罪を描いたバックステージものとは別の次元の、現実感の消失がここで描かれた女の子たちの今と彼女たちの日常生活の場としてのハリウッドにはありますね。

M そこにファッションやセレブという要素が加わって、すごく新しく見えるのだと思う。

(C)2013 Somewhere Else, LLC. All Rights Reserved
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A セレブリティ、ファッション・アイコンの描かれ方。いわゆる日本の女性誌がなびくようなファッションと、それに対するほんとに素敵なファッションのこともちょっと考えてみましょうか。

M 彼女たちはルブタンの靴が好きなのか、パリス・ヒルトンなどのセレブが履いているから好きなのか?

Y セレブが使っているから価値が上がるという方が正解だと思います。きっかけはセレブリティでしょう。部数が伸びるから女性誌も取り上げる。現在の多くの女性が興味ある対象で、嫌いでも気になる。バカにしてるけど、ファッションは好きだし真似したい。チャンスがあれば手が届きそうな近い距離感の錯覚が、さらにセレブリティを手軽なお手本として取り上げる理由のような気がします。

この映画の主人公達はクラスの中心やメインではない、ファッション好きのギークたちで体育会系でもないクラスのヒエラルキー上位ではない子。オタクの一種。追っかけの新種かも。そんなちょっと冴えない彼らにとって、この事件は自分がスターになれるチャンスだったんだと思う。子供同士が、好きな芸能人の話やその人が着ている服、今年の流行について話して盛り上がるのは日本でも普通の事。日本でもちょっと前、キムタクがドラマで着ていた服がバカ売れするとか同じ次元でしょう。ネットで調べれば自宅住所も簡単に分るし、たまたま近所にセレブリティがいっぱい住んでいたので、そこから一歩踏み出してみただけ。

M それは昔のハリウッドスターと、今のスターとの違いであるかも。昔だったら、スターは手の届かない存在で、スティーブ・マックイーンの家に盗みに入るなんて、考えられない。軽い気持ちで侵入し、拝借できちゃうのが、今のハリウッドセレブなのかも。

T テレビの芸能人の着ているもののブランドや金額をおおっぴらに競うような価値観の当たり前化も後押ししてる様に思うな。セレブリティ側からブランドをname dropして流行を生んでいるんだみたいな。煽っているて言う感じ。英国的な真新しいものやこれこれ見よがし的なものを嫌悪する「はにかみの美学」の対極かな。僕らはもっとファッションアイコンでもわかりにくさをおもしろがって来たし、着こなし方とかわかりにくいところを解きほぐしていくことが自分にとっってのスターとの距離感を縮めることだったけれど。

A 本物の素敵とは違いますよね。ファッションでも昔の日本の女性誌は、センスが価値観の基準だったのが、今は幾らとか、誰が着ているブランドだとか、そういう価値観が基準になっているようにみえる。ソフィア・コッポラは、もちろんその辺の違いはわかっているし、本来の彼女のセンスも違う場所にある。

(C)2013 Somewhere Else, LLC. All Rights Reserved
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M 日本でもスターが遠い存在だった時代から、AKB48のように身近にスター(アイドル)と、話したり握手したり、接触出来る時代になっている。誰もが有名人になれるチャンスがあったり、うまくいけばスターと友人になれるかもしれない。

Y アイドル=セレブリティ。セレブが彼らのお手本。好きなセレブリティには前科があるけど気にしないし逆にちょっとCool。だから私は捕まっても気にしない、リンジーと同じだから。だから、みんな謝らない。本当は悪いと思っていない。そんな自己中心的な彼らも、不思議と腹黒さを感じないピュア(純粋)な印象があります。反省や懺悔すればその後はあと引かないで前を向いて行こう。そんなアメリカっぽい理屈です。

T ピュアなのは、感じます。

A この狂っているけど悪気のないピュアさというのが、コッポラが描きたかった現代のアメリカなのではないでしょうか。それを肯定はしないけれど、斜めからシニカルに描くのでもない位置の取り方が興味深い。

Y 受け手側も、ふつうに考えたら、おかしい事も何となく言いくるめられている不条理。いろんなタイプとレベルの人がいるからそれぞれ色々とだまされている事も少なくないと思う。個人的にはそんな不思議なアメリカが面白くて好き。

(C)2013 Somewhere Else, LLC. All Rights Reserved
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M 話は変わりますが、最近120分以上の映画が多い中、これは90分で簡潔ですね。この作品は90分位で一気に見せたいと考えたのかな。

Y 原作読んだのですが、こちらは彼女たちの各家庭の格差などバックストーリーも描かれていて、もっとボリュームがあり複雑な内容でした。敢えて触れていないであろうエピソードもありましたし。

A 脚本も本人だから、かなり削いだのでしょうね。

T でもその辺の潔さが、いいですね。

M ソフィア・コッポラは、こういうキャッチーな題材を、敢えて深堀りせずに、コンパクトにサラッと見せるセンスがある。

A サラッとの趣味のよさが彼女の映画をアメリカの同世代の中でも特別のものにしていると思う。ウェス・アンダーソンや元夫スパイク・ジョーンズ、マイク・ミルズ、ノア・バームバックとかヨーロッパを向きつつ核はアメリカな彼女と同系の男子監督たちのエレガンスがおたくな味をやっぱり芯にしてしまうのに対して彼女の場合はもうひとつシックの筋が通ってるような。
そんな監督の名前で見るわけではないかもしれない日本の若い子達が「ブリングリング」の登場人物をどう受けとめるのか、聞いてみたいですね。

『ブリングリング』
12月14日(土)、渋谷シネクイント他にて全国順次ロードショー

立川シネマシティでは、ソフィア・コッポラ特集上映を開催中です。
尚シネマ・ディスカッションの第3弾は、ジム・ジャームッシュ監督の新作「オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライブ」を予定していますので、こちらも是非ご期待下さい。