川野 正雄 のすべての投稿

1959年 東京生まれ。 以来東京に住み続けていますが、2010年1年間は香港に住んでいました。 長い間海外の文化から刺激を受けてきましたが、海外に一度住んだ事で、日本の良さを、改めて見直しています。 英国の音楽とスタイル、フランスの映画と車、暑い国の料理と日本の文学を好んでいます。 1987年以降P Picasso, 下北沢ZOO~SLITS、DJ BAR INKSTICK, Faiなどのクラブで、DJとして活動。 2006年以降DJは休止していたが、2016年より再開。 ファンデーションである英国音楽や、MODSシーンのイベントで、ルーツミュージックを中心にプレイしています。 現在UKファッションの老舗Ready Steady Go!のリブートプロジェクトを展開中。 Music: 60~70's Rock, Rare Groove, Rocksteady, Jazz Funk, Folk. Cinema: Roman Polanski, Jean Pierre Melville, John Cassavetes,Michelangelo Antonioni Style: READY STEADY GO! 6876,Duffer of ST George, YMC, FARAH Food: exotic food.モロッコ、イスラエルなどの料理。

Vintage New Wave Movement/Halmens X with Ready Steady Go!

ジョリッツのステージ  撮影/田口るり子
ジョリッツのステージ  撮影/田口るり子

80年代初頭、創世記だった日本のニューウェーヴシーンにおいて異彩を放っていたサエキけんぞうさん率いるハルメンズ。
伝説のアルバム『ハルメンズの20世記』発売35周年記念プロジェクトであるハルメンズXが、今年スタートした。
ハルメンズXプロジェクトのコンセプトは、Vintage New Wave。
パンク直後1980年代に英国から世界を席巻したニューウェーヴムーヴメント。
そこから35年以上経過した現代の視点で、改めてニューウェーヴに、ハルメンズXプロジェクトが挑戦をする。
そのハルメンズXに参加しているロックバンド、ジョリッツの衣装スタイリングを、READY STEADY GO!と、セルクルルージュが協力して担当する事になった。

Ready Steady Go!は、1985年のオープン以来一環して英国を中心にしたROCKなスタイルを提案してきたショップである。
ジョリッツは、”都会の中の野性”をテーマにしたサエキけんぞうさんの新ユニットで、ハルメンズの分身バンド的な存在。
メンバーは、サエキけんぞうさん(Vo)と泉水敏郎さん(Dr)のハルメンズオリジナルメンバーに加え、吉田仁郎さん(G)に、オカジママリコさん(Ba)、亀さん(G)の若手ミュージシャンが参加している男女混成5人組だ。

ジョリッツコーディネート
ジョリッツコーディネート

コーディネートをスタートするにあたり、サエキさんとは、バンドのコンセプトについて、何回か意見交換をした。
ジョリッツを貫いているコンセプトは、グラム〜パンク〜ニューウェーヴという1970年代中盤〜1980年代中盤までの音楽シーンの疾走感であり、今の時代と当時の音楽シーンとの歴史的な接続だという点であった。
歴史的な接続の表現というのは、正にVINTAGE NEW WAVEというコンセプトの具現化である。
そういったサエキさんのコンセプトやイメージは、70年代のような音楽とファッションの密接な関係を再構築したいというセルクルルージュのコンセプトとも合致したので、衣装面のビジュアル的なアウトプットでも表現するお手伝いを、今回はさせて頂くことにしたのだ。

NEW WAVEが生まれた80年代初期のロンドンに目を転じると、バウワウワウや、ネネ・チェリーのいたRIP RIG+PANIC、FUN BOY THREE+BANANARAMAなどの男女混成バンドや、SLITSなど女性バンドが台頭してきた時代だった。
ロックやファンク、ヒップホップ、ラテン、ジャズなど、音楽ジャンルや、男女、白人黒人混合など、既成の世界では存在していた様々な垣根が消えて、個々のエッセンスが混ざることで、新たな化学反応が起き、NEW WAVEは、大きなうねりとして形成されていった。
ハルメンズXとReady Steady Go!がコラボレーションすることで、Vintage New Waveをテーマにした何らかの化学反応が起きる事を、今回は期待している。

ジョリッツのスタイリングは、8月3日代官山晴れたら空に豆まいてで開催されたハルメンズXプロジェクトのキックオフイベント「ハルメンズXの予言」でのライブ衣装コーディネートからスタートした。
今回READY STEADY GO!でコーディネートするのは、「ハルメンズXの予言」に続いて、9月21日に発売されるハルメンズXの新作『35世紀』のアーチスト写真及び、11月16日渋谷クアトロで開催されるハルメンズの最終章イベント「ハルメンズXの伝説」の3ルック。
コーディネートするにあたり、ジョリッツの男女混成グループというバンド編成も、非常に重要なエッセンスであった。
ジョリッツには二人の女性ミュージシャンがおり、彼女たちのスタイルを固めることで、表現できる範囲が、非常に広域になったように思える。

今後3回のコーディネートの詳細を、セルクルルージュでは順次紹介をさせて頂く予定である。

サエキけんぞうさん。 帽子とジャケットは仏製HOMECORE。
サエキけんぞうさん。
帽子とジャケットは仏製HOMECORE。

サエキさんのコーディネートは、エルビス・コステロやジョー・ジャクソンをイメージして、コンポーザーとしてのバンマスらしいジャケットスタイル。
幾何学模様の帽子とジャケットは、フランスのHOMECORE製。Tシャツは、ハルメンズを彷彿させるオリエンタルなイラストの英国製Low Molloy。
パンツは、READY STEADY GO!の最近の定番ブランドになっているスウェーデン製デニムDr.Denim。サエキさんのデニムは、写真ではわかりませんが、お尻のポケットの位置が低いタイプで、シルエットが美しいもの。
Dr.Denimはストックホルム発のブランドで、細身のスキニージーンズで世界的に人気が出て、ワン・ダイレクションのメンバーなども愛用をしているデニムブランドだ。
デニムの足元は、LAWLER DUFFYのコンビのスリッポンで、ちょっとポール・ウェラーぽい組み合わせに。

幾何学模様の帽子とジャケットに、オリエンタルテイストのTシャツというかなり際どいコーディネートになったが、サエキさんは長身痩躯ということもあり、見事に着こなされている。
全体のイメージは、80年代中期のパンク以降~ニューウェーヴ降盛期。ロンドンファッションが華やかだった時代~READY STEADY GO!のオープンした時代の正にVINTAGE NEW WAVEの系譜である。

サエキさんのライブ  撮影/田口るり子
サエキさんのライブ  撮影/田口るり子
泉水敏郎さん。PUNK ROYALタンクトップ。
泉水敏郎さん。PUNK ROYALタンクトップ。

ハルメンズ~ヤプーズ、東京ブラボーなど伝説的なバンドで活躍し、日本のニューウェーブ創世記のレジェンドともいえる泉水敏郎さん。
泉水さんのポイントは、コペンハーゲン発のパンクブランド、PUNK ROYALのタンクトップ。体脂肪率10%という鍛え抜かれた泉水さんの肉体と、パンキッシュなタンクトップのコーディネートは、泉水さんのヒストリーを象徴するアイコンと位置づけた。
PUNK ROYALは、パンクテイストですが、F1ドライバーのルイス・ハミルトンが愛用するなど、ヨーロッパではセレブレリティにも好まれているデザイナーブランド。
トップスとして、黒のHOMECOREのシャツを合わせ、ボトムはサエキさんと同じDr.Denimのスキニータイプ。シューズは今では貴重なREADY STEADY GO!のオリジナルチャッカーブーツ。
泉水さんのコーディネートは、NEW WAVEの兄貴分のような大人のパンクロッカーがコンセプトだ。

泉水さんのステージ撮影/田口るり子
泉水さんのステージ撮影/田口るり子
吉田仁郎さん
吉田仁郎さん

ギタリストとして、ライブ演奏の中心的存在でもある吉田二郎さん。普段は全く違うタイプの洋服を着ている吉田さんだが、今回は1970年代中期の黒人ファッションと、グラムロックをコンビネーションしたスタイルでコーディネートした。
シャツはブラジルの一押しブランドであるSOUL SEVENTY。
スライ&ザ・ファミリーストーンのようなブラックロックをイメージするニットシャツですが、珍しい左右非対象のデザインになっている。
パンツはDIZHUMのグラムロックな雰囲気のストライプ。シューズはMr.ZEROのスリッポン。
上下共に70年代を象徴するようなパターンに、現代のエッセンスが加味されたデザインで、正に歴史を接続したようなスタイルだ。
1970年代中期、パンク前夜の混沌とした音楽シーンの鼓動を、吉田さんの衣装から表現していきたい。

吉田さんステージ 撮影/田口るり子
吉田さんステージ 撮影/田口るり子
オカジママリコさん
オカジママリコさん

華麗な動きでステージ上でベースを弾くオカジママリコさんの衣装は、上下共に吉田さんと同じブラジルのSOUL SEVENTY製。
RIO五輪開会式を見て、ブラジルのファッション力を感じられた方も大勢いらっしゃると思う。
情熱的な南米に相応しく、華やかな色使いと、大胆なデザインは、ブラジルならではの感覚である。
バンドのコンセプトでもある野性を感じさせるデザインであり、スリッツやネネ・チェリーなどのニューウェーヴ系女性ミュージシャンにも相通じるスタイルだ。
足元はこれもREADY STEADY GO!の定番ブランドである6876のホワイトのフラットシューズ。
6876は、90年代にロンドンのDUFFER of ST GEORGEから枝分かれしたブランド。
ブランドネームの由来は、68→1968年パリ革命、76→1976年ロンドンパンクと、非常にコンセプチュアルで、我々のテーマとも近いスピリッツだ。

マリコさんのステージ 撮影/田口るり子
マリコさんのステージ 撮影/田口るり子
亀さん。
亀さん。

ステージ上で一番激しく動き回るのが、ギタリストの亀さん。
小柄ですが、ジョリッツの元気印よろしく、ハードにプレイする彼女のパフォーマンスに耐えられるよう、動きやすく、女性ロッカーらしい可愛さを持ったコーディネートを用意した。
Tシャツは、こちらもブラジルリオのブランドOi Studio。おじさんの顔がモチーフになっていますが、何故かTANAKAさんという日本人がモデルになっている。
コーディネートは、デニムのスカートに、グラフィックプリントのビニールブーツという亀さんがステージで動き回りやすいスタイル。
ビニールブーツは、アルゼンチンのグラフィックアーチストと、デザイナーのコラボレーションモデルというレアアイテム。
南米ブランドでまとめた亀さんのイメージは、1980年代に次々に登場してきたガールズニューウェーヴバンドだ。
どちらかというと、英国よりも米国のGO-GO’sや、B-52’Sをイメージしたちょっとポップなスタイルである。

亀さんのステージ 撮影/田口るり子
亀さんのステージ 撮影/田口るり子
マリコさんと亀さんのシューズ
マリコさんと亀さんのシューズ

今回のジョリッツのLIVEは、ジョリッツオリジナル曲と、ハルメンズナンバーを組み合わせた全8曲で構成されていた。
グラム〜パンク〜ニューウェーヴという70~80年代の英国ロックシーンの遷移を、サエキさん独特の味付けで料理したのが、ジョリッツサウンドの特質である。
テーマの一つである歴史的な接続は、サエキさん泉水さんというハルメンズオリジナルメンバーと、若手3人のミュージシャンとの緊張感を持ったセッションによって、ステージ上で具現化された。
オープニングはの『スワイプメン』は、ニューウェーヴ的なビートで刻んだサエキさんらしい今日性を持った視点の新曲。
『ラブ is ガービッチ』は、ロクシー・ミュージックの『Love is the Drug』のアンサーソング。
途中19歳のゲストボーカリスト帝子さんを交えて披露された『STAPトゥギャザー』は、何と小保方晴子さんと、彼女が大好きなビビアン・ウエストウッドがテーマ。ビビアンに、マルコム・マクラーレン、ジョニー・ロットン、更に彼女のショップLET IT ROCKなどの映像を背景に、”GO Vivienne!”というフレーズが炸裂するこの曲は、この日のLIVEのハイライトだった。

サエキさんと帝子さん 撮影/田口るり子
サエキさんと帝子さん 撮影/田口るり子

ジョリッツの新曲を含むハルメンズXのアルバム『35世紀』(ビクターエンターテイメント)は、9月21日発売予定。ゲストには鈴木慶一さんや野宮真貴さん、カーネーションの直枝政広さん、装丁画太田螢一さんと、楽しみな作品である。
その中で使うジョリッツのアーチスト写真では、1970年代中期のビビアン・ウエストウッドのショップ、LET IT ROCK~SEX時代のデザインに大きな影響を与えたジョン・ドーヴ&モリー・ホワイトのTシャツをコーディネートした。
次回アルバム発売時に、またコーディネートを紹介をさせて頂く予定である。
又Ready Steady Go!とハルメンズXのコラボレーションアイテムも開発予定である。

熱いジョリッツのパフォーマンス 撮影/田口るり子
熱いジョリッツのパフォーマンス 撮影/田口るり子

現在READY STEADY GO!の、オーセンティックともいえるモッズ系の商品は、吉祥寺のショップYOUNG SOUL RABELSで、取扱中。
Chrome,Hudsonのシューズや、Merc、Gabbici、Farahなどの、オーセンティックなモッズ系ブランドを販売している。
Ready Steady Go!は、10月1日〜16日及び12月2日〜4日まで、高円寺のアンダーグランドなカルチャースポットであるGARTER GALLERYに、ポップアップストア READY STEADY GO! Vintage New Wave Storeを、オープン予定である。
ジョリッツのコーディネートに使ったブランドも、一部販売する予定だ。
詳細は又お知らせ致します。
商品に関するお問い合わせは、下記までお願い致します。
info@lecerclerouge.jp

ジョリッツ8月3日のステージ撮影/田口るり子
ジョリッツ8月3日のステージ/撮影/田口るり子

Cinema Discussion 16/ Say it Loud! ジェームス・ブラウンの真実

©2014 Mr. Dynamite L.L.C.
©2014 Mr. Dynamite L.L.C.

新作映画を複数の視点からとらえ、映画評論の新しい手法を考えようとしてスタートしたセルクル・ルージュのシネマ・ディスカッション第16回は、中野裕之監督にもレビューを書いていただいたジェームス・ブラウンのドキュメンタリー映画『ミスター・ダイナマイト:ファンクの帝王ジェームス・ブラウン』です。
第15回はスティーブ・マックイーンのドキュメンタリー『スティーブ・マックイーン その男とル・マン』を取り上げましたので、スターを題材にしたドキュメンタリー映画が2本続きます。
様々な眠っていたアーカイブが発掘されて、多くのドキュメンタリー作品が作られている世界的な傾向を、我々なりに解釈をしていきたいという主旨で、2本続けてドキュメンタリー作品をピックアップしてみました。
昨年ジェームス・ブラウンを描いた映画『ジェームス・ブラウン 最高の魂(ソウル)を持つ男』を、Cinema Discussionで取り上げましたので、こちらと比較しながら読んで頂くと、更に興味深くなるはずです。
メンバーは映画評論家の川口敦子をナビゲーターに、いつものように名古屋靖、川口哲生、川野正雄の4名です。

©2014 Mr. Dynamite L.L.C.
©2014 Mr. Dynamite L.L.C.

★セルクルルージュでも取り上げたテイト・テイラー監督の劇映画『ジェームズ・ブラウン~最高の魂(ソウル)を持つ男~』と共にミック・ジャガーが製作に加わった一作ですが、劇映画と比べながら見る感じになりましたか?

川野正雄(以下M)
当然そうなりました。JBに関しては、好きな割には音源しか知らず、詳しくヒストリーを把握していなかったので、この2本を見て、ある程度彼の全容を知ることが出来ました。
劇映画版は、ボビー・バードとの友情物語が1つの基軸になっていますが、こちらはそういったドラマ性よりも、ジェームス・ブラウンという稀有の黒人アーチストの毒々しいとも言える素顔や、ほとばしるミュージシャンとしての才能にフォーカスをしています。
JBのライブを武道館で見ていますが、かなり晩年で、この映画に出てくるJBとは、別人のようでした。
何といっても圧巻は、全盛期のJBのダンスが堪能できること。
マイケル・ジャクソンもJBのダンスの影響は顕著ですが、シンガーとして、ダンサーとして、そしてバンマスとしての圧倒的な全盛期のジェームス・ブラウンが見れるだけでも、この映画の価値はありますね。

川口哲生(以下T)
劇映画を見ていたので、重なりがあり既知感がありました。逆に劇映画のJBの人生の切り取り方が巧みだったな、ということを確認した感がありました。

名古屋靖(以下N)
ミック・ジャガーは『最高の魂を持つ男』とこの『ミスター・ダイナマイト』の2つの映画に制作参加することで彼の中で完成形としたかったのでは?ドラマとドキュメンタリーという相対する手法でそのどちらかだけでは語り尽くせない、良くも悪くも人間JBの魅力を多元的に見た印象です。

川口敦子(以下A)
ドキュメンタリーの監督アレックス・ギブニーのインタビューによれば2作は並行して進んだ企画ということですが、日本での公開が先になった劇映画版を見ていたことで、劇映画が詳しく描いていた晩年の銃撃闘争劇とか、子供時代の父母との関係、娼館での暮し、そして刑務所でのボビー・バードとの出会い、彼の家庭での団らとかとかを懐かしい記憶のように響かせながら、より冷静なアプローチの記録映画、それを通じたJBの真相と向きあうみたいになりました。この順番で見ることができてよかったとも思います。逆になっていると現実のJBの印象が強烈すぎてとてもうまく描けている劇映画なのに、きれいごと過ぎる感じがきっとしてもうひとつ乗れないといった部分も出て来たのではないかなあ、と。キング牧師暗殺後のステージでの対処の部分も劇映画で見た時にも強烈に惹き込まれましたが、今回、現実の記録としてのJBのみごとな人心掌握ぶりを見てしまうと、その迫力に圧倒されますね。

★ドキュメンタリーであることの面白さをどのあたりに感じましたか?

T:なんといっても見たこと無いような生JB、特にステージ外のインタヴューやトークショー、恐怖に抗する行進の後の集会での演奏、キング牧師の死直後の講演での客捌き等々は
強烈なキャラの再確認であり、それさえも超えた「やっぱりすごいなJB!」とうならされました。(笑) 時代の中での政治性での矛盾点等解せない点も含め、彼の中では子ども時代の絶望を乗り越える彼を突き進ませるsoulの一貫した表出だったのだなということ。
劇場映画であったタミーショーでのストーンズとのトリ争いやエド・サリバン・ショーといった勝負の時、それは多分に白人のミュージックビジネスに対する対抗心がメラメラ燃え上がっているのが正にみえるような感じの神がかったJBのパフォーマンスも、ドキュメンタリーとしてその特別な意味を理解できたように思います。
最もドレスアップしたバンドだったJBの服や髪型の変遷も、劇映画のデスカッションのときのも述べたけれど、ドキュメンタリー映像で見るとさらにリアルで面白かった。バリバリのスーツスタイルから“Say it’s loud, I!m black and I’m proud”への公民権運動を背景にした髪形や服の変化とかね。
たまたまプリンスが死んで、スーパーボウルでの彼の演奏映像見直したけれど、そのときのターバン巻いたみたいな髪型は、今回のドキュメンタリーのJB映像にもあったし、JBとつながりのあったリトル・リチャードでも見たように思う。そんな繋がりも感じながら見ました。

M:やはり彼の生のライブシーンですね。
80年代後半DJをやっていた時、彼のライブの映像を見たかったのですが、海賊版ビデオ位しか見る機会がありませんでした。YOU TUBEでは断片的に見れる時代になりましたが、まとめて全盛期の彼の生の姿を見るのは初めてで、見ていて鳥肌が立つシーンもありました。
アメリカ人は見慣れているかもしれませんが、日本人には貴重な映像ばかりです。
JBやバンド全体も含めたファッション、メンバー間の間合いの取り方も絶妙です。
伝説のキング牧師暗殺後のライブのリーダーシップぶりも初めて見ましたが、感動的です。
プリンスは1昨年の3RDEYEGIRLを率いた『FUNKNROLL』のパフォーマンスでは、JBのようなダンスを披露していて、改めてリスペクトを感じていたところでした。

A:前の答えとも通じますが、どんなに巧みに描いてもやはり真実の迫力には抗しきれないものがあるということでしょうか。でもそれは劇映画のバージョンを見ていたからでもあるので、2作を共に進めた製作ミック・ジャガーのお手柄ともいえるのかな。

N:関係者の肉声インタビューもそれまでのJBの逸話を証言していて面白いですが、やはり未公開を含むLiveシーンが秀逸です。

©2014 Mr. Dynamite L.L.C.
©2014 Mr. Dynamite L.L.C.

★ミック・ジャガーは今回はコメンテイターとして登場もしていますが、彼の発言で面白かった点は? 彼が参画していること、しかも劇映画とドキュメンタリーを共に製作ということに関していかがですか?

M:ミック・ジャガーは元々ブルースやR&B好きのブルーアイドソウルの人ですが、そこまでJBへの思いが強いとは知りませんでした。
以前タミーショーのストーンズの映像見たときには、格好いいと思いましたが、今回JBの後で見ると、見劣りしてしまうのは、何となく気の毒でした。
ミックは次はプレスリーを取り上げるようですが、彼のような立場の人がリスペクトするアーチストをトリュビュートする事は素晴らしいと思います。
見る順番が、劇映画先で、何となくよかったです。

N:子供の頃、アポロ・シアターのバルコニーからJBを見た話を無邪気に語るミックジャガーの本当に嬉しそうな顔が微笑ましかったです。

T:タミーショーでのトリのミックのダンスはJBと比べるとんでもなく見劣りしていますね(笑)。ミックもそれを認め、JBから学んでいるのだなというのを改めて感じました。ミックのJBへのリスペクトを感じます。

A:やはりタミーショーの部分、世間でいわれているのとは違うんだと訂正コメントがあった上で、それにしてもとふたりのダンスを比べさせる映画の編集ぶりのお茶目な意地悪さ、それも許容される愛とリスペクトがミックのコメントにも表情に見えますね。
ちょっと外れるかもしれませんが最近、『地獄の黙示録』を見直して、川のぼりの中で、若き日のローレンス・フィッシュバーンが「サティスファクション」のミック・ジャガーのあて振りをして見せる所、黒人側からの答礼みたいでこのJBの映画を見たばかりだったのでさらに印象に残りました。

★劇映画のタイトルにもある”ソウル”と”ファンク”が音楽的にも公民権運動との関連や魂の面でもキーワードとなっているように思いますが、ジェームズ・ブラウンにとってのこのふたつの要素をどう考えますか? その点に関する映画の描き方については?

M:「FUNKY SOUL」というタイトルの曲もありますが、66~67年頃にSOULがFUNKY SOULになり、70年にはFUNKが生まれる。そのジャンルの変化のリーダーは間違いなくJBです。
その変化の生まれていく過程が、この映画では地下からマグマが噴火する前兆のような感じで、描かれていると思います。
60年代後半は、音楽が大きく変化した時代で、ジャマイカではスカがロックステディになり、レゲエになる。ラテンミュージックではブガルーが生まれ、サルサに変化していく。
そういった時代のアーチストの生き方はとても魅力的です。
特に1970年前後に生まれたファンク、レゲエ、サルサは、今日まで進化しながらも、ジャンルとして確立されました。
そういった現代のポップミュージックの基礎を作った時代と置き換えることも出来ますが、その中でブラックミュージック、ソウル、ファンクといった世界の中でのJBの存在感は非常に大きかったと思います。
JB’Sの面々から語られるファンク誕生秘話みたいなエピソードも面白かったです。
昨年スライ・ストーンのドキュメンタリーも見ましたが、その辺の音楽が進化していく部分に関しては、あまり究明されませんでした。

A:監督のギブニーはイーグルスやフランク・シナトラ、スコセージが製作総指揮を務めた『ザ・ブルース・ムーヴィー・プロジェクト』、さらに秋に日本でも公開される『ジャニス:リトル・ガール・ブルー』と幅広く音楽ものの製作にも携わっていますが、いっぽうでオスカーに輝いた『「闇」へ』ではアフガニスタンのタクシー運転手を米兵が拷問死させた事件を扱い、同賞候補になった『エンロン 巨大企業はいかに崩壊したのか?』もある。というように政治的、社会的な視点の記録映画を撮ってもいる。スターの足跡を追うといったありがちなアプローチから一歩、踏み出したJBの時代の中での位置や在り方に迫っている点が面白い。その意味でふたつのキーワードも単なる音楽の用語を超えて迫ってきますね。

T:白人支配のミュージックビジネスでrace musicの域を脱するべく不可能を可能にするsoul(生きのびること)と富と名声を確保した後にブラックネスを極めるように公民権運動を背景として中で生まれるFUNK、正に60年代から70年代という時代と呼応しているように思います。

N:『最高の魂を持つ男』でも触れましたが、彼は人種の垣根を乗り越えたり、取り壊したりするのではなく、黒人として正々堂々とその場に踏み留まり、黒人である事を誇りとしながら、肌の色に関係なく自立・成功できる社会を作る活動に終始していました。それが彼にとっての“ソウル”だと思います。 “ファンク”は彼の発明した新たなダンスミュージックのスタイルで、彼の業績を讃える際に最も便利な単語です。明確な方程式はなく、人によっては曲の間奏部分を抜き出しただけの演奏(Vamp?)と同じと言われる“ファンク”ですが、このプリミティヴな音楽に多くの人々が虜になったおかげでJBのメッセージに説得力が増したのは事実でしょう。

©2014 Mr. Dynamite L.L.C.
©2014 Mr. Dynamite L.L.C.

★”ショウビジネスで一番の働き者”というJBのキャッチフレーズについては? ビジネスの才覚についての描き方はどうですか?

T:面白かったのは「ショービジネス」でなく「ショー」と「ビジネス」だ、とJBがいっていたという話。劇映画のシネマディスカッションでも描いたけれど、彼のそれまでのビジネスを分析し、改革していく、そしてアポロシアターの自主公演みたいな勝負のときに賭けにいくそういうセルフプロデュースはすごいと思う。反面。ブラックキャピタリズムで手がけたレストランとかでは簡単に散財するし、メンバーに対する金払いも悪い。だからビジネスの才覚というより、金がパワーだという強い信念があったのでは。白人以上に稼ぎ税金納めてるんだ、見たいな事を対談の中で何回も言っていた。
一方「ショー」ではアポロ2時間6公演とか、一年362日休みなし,みたいな正にthe hardest working manですよね。そして彼の音楽はショーやリハ含めそうしたライブ性の中から生まれてくる音楽だったと思います。

M:これも『ジェームズ・ブラウン~最高の魂(ソウル)を持つ男~』とは重なってきますね。
数字に細かいのは有名です。以前「ベストヒットUSA」に出演した際、小林克也氏のインタビューに対して、多分適当だとは思いますが、ものすごく細かい数値を出して、理詰めな説明をしていた事を思い出しましたが、数字で語るビジネスマン的側面もあったのではないかと思います。
実際のビジネスは、本人の思い入れが強いだけで、未熟だった気がしますが、後に残った音楽的資産はすごいですね。
そもそもKINGとSMASHと一時期は二つの所属レーベルがあり、更にポリドールに移籍など、彼にまつわるビジネストラブルは数限りないように思います。

N:彼の人生はネゴシエーションの連続でした。売れないと言われていたLive音源を自腹で録音してリリースさせたり、プロモーターを通さずに自らイベントを企画・運営し、集客は地元DJと協力してツアーを成功させました。彼の名言の一つに「俺は75%がビジネス、残りの25%がエンターテナーだ!」というものがあります。何よりJB自身がアーティストでなくビジネスマンを目指していた事がよくわかります。彼の志や発想は目を見張るものがありますが、しかし十分な教育を受ける事が出来なかったJBのビジネスの才覚は疑わしいものがあります。長年払うべく税金を滞納するなど、彼の理想は理解しますが、あまりにも世間知らずと言うか、まともなブレーンや会計士を雇うべきだったでしょう。

©2014 Mr. Dynamite L.L.C.
©2014 Mr. Dynamite L.L.C.

★凋落部分をすっぱり切った構成についてはいかがでしょう?

M:良かったですね。特に74年以降くらいは、音楽的にも低調になりますし、よいエピソードも少ないのではないでしょうか。一番旬な時期へのフォーカスは中途半端にならずに成功していると思います。
音楽的にもポリドール移籍以前のJBが好きです。

A:ここでも劇映画版の記憶、あの始まり、あの終わり方が響いてきて、フォローしてくれる。
補完関係を意図していたのかと思いこみたくなりますね。

N:ドキュメンタリーで人生の凋落期を描く場合、物語のオチとして最後は悲しい結末を期待する嫌な性格の自分がいます。 今回も、見た目は派手ですが印象の違う80年代のSOUL TRAIN出演時の彼はあまり見たくはありませんでしたし、個人的には『Living in America』が出てこなくて良かったと思っています。遺族の全面協力もありますし、彼の業績を讃える映画に問題多き後期は描く必要はないです。

T:潔くてよかったと思います。DRUG問題とかも在るし。

★前作もそうでしたがこの映画も白人アレックス・ギブニーが撮っていますが、この人選については? 白人だけど黒いものに引かれたミックの影響を感じますか?

N:ミック・ジャガーは身も心も黒人に憧れていた人だと思うんです。ROLLING STONESデビュー前の学生時代、アメリカから個人輸入でブルーズのシングル・レコードを買い漁っていたブルーズ・オタクでしたし、後のステージ上での彼の動きは良くも悪くも白人のそれとは一線を画したものでした。特に当時のUKホワイトたちは本場のアメリカ白人より黒人音楽をリスペクトしていたので、その辺のミック・ジャガーの意向は今回の白人監督にも十分に汲み取られているように感じます。

M:この監督に関して、よくは知りませんでした。先程も言いましたが、ストーンズの基本はブルーアイドソウルですから、同じような視点という意味では良い人選かと思います。黒人としての生き方、ミュージシャンとしての姿、パフォーマーとしての魅力を、フラットにうまく構成しています。同時に音楽への深い理解を感じますね。
たまにアーチストのドキュメンタリーでは、演出家の理解や解釈について、違和感を感じることがありますが、アレックス・ギブニーに関しては全く違和感はありませんでした。

T:監督をよく知らなかったけれど、経歴を見ると硬派なドキュメンタリーが多い人ですね。音楽に関してプロではなく、先入観なくJBを描く意味ではよかったのかなと思います。音楽シーンをどう変えたかに焦点を絞ったとインタヴューで言っているけれど、背景の彼のsoulや彼の音楽の変化と呼応する公民権運動や時代を丁寧に拾っていると思います。

©2014 Mr. Dynamite L.L.C.
©2014 Mr. Dynamite L.L.C.

★”黒人的なもの“”ブラックパワー”の世界制覇の歩みとしての現代、という部分も映画は睨んでいるように感じますが、そのあたりに関してはいかがでしょう?

M:その視点は大きいですね。政治活動の場面も幾つかあり、連動するライブの観客の多さなどに驚きました。
黒人であることに正面から向き合う姿勢は、黒人のリーダーと言えますね。この映画が今後どのように拡散されていくのかはわかりませんが、世界中の黒人の子供たちには、いつか見せたい映画だと思います。
世界制覇という思想がJBにあるかどうかは疑問ですが、少なくともその場に立つ権利は持っているという主張にも思えました。

A:この部分のJB像が記録映像を伴ってきちんと位置付けられたのが興味深かったです。

T:音楽においては黒人的なものは、もはやrace musicの域をはるかに超えていますね。
その過程で「マイケル的なもの」になり、映画でたとえるなら『黒いジャガー』みたいなものではなくなっているのかもしれません。
一方白すぎるオスカー的なこともまだまだあります。

★アーカイヴの素材が全面的に提供されたそうですが、知らなかったJBをみつけましたか? 活動家としてのJBに関してどう見ましたか?

M:これは先ほども言いましたが、沢山あります。
バンド構成をルイ・ジョーダンなど JUMPIN’JIVE系のバンドから影響を受けていたなどは、初めて知った事実です。
まだバンドメンバーに対するスーツや身だしなみのルールなどは、ルールに基づく管理を徹底した最近のバンドみたいですが、彼が原型を作ったように思えます。
活動家としては、TVのワイドショーみたいな番組の政治的な議論で、相手の説明をきちんと聞かない態度は驚きました。

N:以前、モノクロ映像では見た事があったのですが、BOOTY兄弟が参加している頃のカラーのLive映像は初めてです。とにかくJB全盛期のキレキレの動きを見られるだけで価値はあります。

T:ドキュメンタリーの楽しさの中で既に述べたかな。

©2014 Mr. Dynamite L.L.C.
©2014 Mr. Dynamite L.L.C.

★音楽の面ではどうですか? 新しいJB像をみつけましたか? 一緒に活動していた面々のコメントがありますが、印象に残るものは? コメンテイターの選び方に関してはいかがですか?

T:このドキュメンタリーが「音楽シーンをどう変えたか」を描く上で機能していたのは、コメンテイターの人選の良さだと思います。もちろんJBホーンズや“ファンキードラマー”のクライドの話はすごく面白いのだけれど、私的にはクリスチャン・マクブライドのvampの話やjazzの影響(マイルスの“So What?”のフレーズの繰り返し)、そして”クエストラブ“トンプソンのファンキー・ドラマーたたきながらの話等がすごく新鮮だった。
後は造反したメンバーの後釜で入ったブッチーの話もよかった。 The one(一拍めの強調)の話からsex machine とかね。若いブッチィが緊張してJBの動きを見逃さないようにしている映像もね。ファンカデリックやPファンクにつながっていくブッチィの源泉を見るような感じかな。

M:やはりブーチィ・コリンズ。それからTHE ONEや、『FUNKY DRUMMER』のエピソードや、独特のかけ声の話は面白かったです。制作秘話的なエピソードは、すごく興味深いです。

N:「ファンキー・ドラマーが大嫌い。」と言う、ドラマーCLYDE STUBBLEFIELDのインタビューは面白かったですね。

★JBの不可解さ、例えばいきなりニクソンと一緒になってしまうというような豹変ぶりに関してはどう見ますか? 時代を超えて生き延びていることとそういう面が関係していると思いますか? その局面ごとに象徴的な一曲を合わせる描き方については?

N:彼なりの考えがあっての事とは思います。それが正解か不正解かは別として、彼はニクソンが黒人達の意識を変えてくれると本気で信じていたのでしょう。彼の不可解さや突飛な行動ですが、時代や周りの状況を冷静に見極めて生き延びるために、緻密な計算の上に結論を出しているとは思えません。どちらかと言うと、抑えられない感情をむき出しに行動した自然な結果だと思います。

M:ドキュメンタリー映画の構成としては非常にいいと思います。歌詞含めて、1曲1曲が強い印象です。彼の中で、黒人のリーダーになりたいという部分、そしてその中には、アッパークラスな人たちと、対等に対峙したいという願望があったのではないでしょうか。
かたくなな自己主張も、そんな意識が根底に流れていると感じました。

T:Bigでありたい、敬意をもたれたいというMR.BROWN的ありかた。

★劇映画と記録映画を見た今、JB像はどう変わりましたか? 変わりませんか? 彼の魅力は?

M:変わりませんね。更に情報がアップデートされた感じで、JBの存在感は変わりません。
理解度はすごく深まりました。彼のやりたかった事も垣間見れた気がします。

N:変わりません。近くにいたらかなり面倒そうな人ですが、一度決めたらひたすらに突っ走るパワーは魅力的です。

『ミスター・ダイナマイト:ファンクの帝王ジェームス・ブラウン』2016年6月18日(土)角川シネマ新宿、渋谷アップリンク、吉祥寺オデヲンほか全国順次ロードショー

©2014 Mr. Dynamite L.L.C.
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