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ジャン=ポール・ベルモンドワールド全開の傑作選3/Cinema Discussion-47

Jean-Paul BELMONDO (Gabriel Fouquet), Jean GABIN (Albert Quentin), Noël ROQUEVERT (Landru)
Réalisation: Henri VERNEUIL

公開映画を複数の視点からとらえ、映画評論の新しい手法を考えようとしてスタートしたセルクル・ルージュのシネマ・ディスカッション。
第47回は、今回が第3回開催となるジャン=ポール・ベルモンド傑作選3です。
この特集上映は、第1回第2回も、セルクルルージュでは大特集しているプログラムです。
セルクルルージュ・ヴィンテージストアでも、ベルモンド出演作品のレアなオリジナルポスターをアメリカとヨーロッパからコレクションし、発売しております。
上映作品は、『勝負をつけろ』、『冬の猿』、『華麗なる大泥棒』、『ラ・スクムーン』、『薔薇のスタビスキー』、『ベルモンドの怪盗20面相』、『パリ警視J』の7本です。
昨年ベルモンドは惜しくも昨年9月に逝去し、世界中から惜しまれ、フランスでは国葬級の葬儀が行われました。
そのベルモンドを偲びつつ、魅力を再発見したいと思います。
今回も映画評論家川口敦子と、川野正雄の対談形式でご紹介します。

『パリ警視J』© 1983 STUDIOCANAL – Tous Droits Réservés.

★今回は第3弾となったベルモンド傑作選、お薦めベストをそれぞれにあげるという形でいってみたいと思います。昨年9月に亡くなってはや一年が過ぎたベルモンド、その追悼の意も含めた今回のセレクション、ベルモンドというスターの多彩・才さを証明するようにお愉しみの様々な色を差し出してくれますね。そんな中でベスト3を選ぶとしたら、まずはお勧め第3位の映画は? その理由は?

川野正雄(以下M)
今回の傑作選3も、見事なラインアップで、どれも捨て難いのですが、個人的な思い出も含めて、初めてスクリーンでベルモンドを見た『華麗なる大泥棒』を挙げます。
見に行った日の事はよく覚えていて、友人達と新宿で見た後、中野の友人宅に行き、感想を語り合いました。
ともかくベルモンドのアクションと、ハンチングにトレンチコートや、革のボマージャケットなどスタイルも格好良く、そこから今日まで私がベルモンドフリークになるきっかけになった作品です。
多分3回目の鑑賞ですが、新たに見直した点も多いです。スタントではないとわかるように撮影されている土砂の落下シーンなどアクションの数々、フィアットでのカーチェイスシーンなど、今なら撮影の難易度も理解出来ます。
そしてオマー・シャリフ、ロベール・オッセン、レナート・サルバドーリなど渋い共演陣。当時もオマー・シャリフのエポレットもベルトもないトレンチコートがすごく素敵に見えて、真似をして、似たようなタイプのコートを学校用に買った事を覚えています。
オマー・シャリフが馬に乗る遊園地のシーンは、『アラビアのロレンス』を思い出してしまいました(笑)。
エンニオ・モリコーネのテーマ曲もいいですね。
話自体はシンプルですし、ベルモンド演じるアザドの内面に深く入るわけではありませんが、ベルモンドらしい軽妙洒脱さに溢れる作品と思います。
更にベルモンドとシャリフの会食シーンの料理、キャバレーシーンの前衛的なステージなど、映画的なスパイスもよく効いています。
アンリ・ヴェルヌイユ監督は、さすがの安定演出と思いますし、娯楽エンタメ映画としては、今回のラインアップでもピカイチの存在ではないかと思います。
この映画では、最高の“動”のベルモンドを、見る事が出来ます。

THE BURGLARS © 1971, renewed 1999 Sony Pictures Television Distribution (France) SNC. All Rights Reserved.

川口敦子(以下A)
『薔薇のスタビスキー』とどちらにするか迷いましたが、この際、やはり『大盗賊』以来の名コンビ、フィリップ・ド・ブロカ監督と組んだ『ベルモンドの怪盗二十面相』を挙げたいと思います。
口八丁手八丁のプレイボーイで洒落者で、お調子者、だけど憎めないキャラクターをこれでもかの弾けっぷりで見せる、体現するベルモンド、やっぱり好きだなあ、と。とにかく動き続ける、しゃべり続ける、その活力に呆気にとられていくうちに、うーんどうなんだ⁈ってプロットも許せる気になってくる、まさにベルモンドあってこそ成り立つ一作じゃないでしょうか(笑) とはいえエンディングにかけてのモン・サンミッシェルを遠くに置いたアジトでのおちのつけ方にただよう不思議に朗らかな諦観みたいなもの、そこにたちのぼるリリシズム――と、監督ド・ブロカの美点もそっと押さえられている気がするんですね。で、そのド・ブロカの『まぼろしの市街戦』でのヒロインが忘れ難いジュヌヴィエーヴ・ビジョルト、同じ76年にはデパルマ史上最大の傑作と呼びたい『愛のメモリー』での快演もある彼女の小動物的キュートさも見逃せないし、ルルーシュ映画でもおなじみ、ベルモンドとは公私にわたって相棒的関係だったようにも見えるラウール役シャルル・ジェラールの存在も要チェック。とにかくしかめつらしく論じるばかりが映画じゃないと、改めて思い直したくなる一作なんですね。

「怪盗二十面相」
©1975 STUDIOCANAL – Nicolas LEBOVICI. Tous Droits Réservés.

★続いて二番目にお薦めの一作とその理由は?

A:ここは迷いなく『勝負をつけろ』ですね。原作のジョゼ・ジョヴァンニ自身が監督を務めてリメイクというか自分の思うように撮り直した『ラ・スクムーン』も今回、上映されるので、もちろん見比べてみる楽しみもあります。見比べると堂々、スターの貫禄で”死神″と呼ばれた男を演じる『ラ・スクムーン』のベルモンド39歳もいいんですが、『勝手にしやがれ』でブレイクした直後のひょろりとやせた、か細くで繊細で、それだけに逆に非情の殺し屋ぶりがぞくりと目を撃つ『勝負をつけろ』のベルモンド28歳にはおおっと惹き込まれずにはいられないものがある。後半の山場、地雷撤去のスリリングな場面、その後の農場での平和な暮らしを夢見るくだり、そのために――と男の友情のノワールならではのすれちがい、涙腺刺激なプロットとエンディングの乾いた苦み、親友の妹との恋というあたりに関しても若さがぐっと効いてきて、後のカルディナーレの余裕のヒロインぶりより清純派クリスティーネ・カウフマンとの密やかな想いの交換、その純情が青春映画としての魅力も付加しているように思います。
あとベルモンドからちょっと離れますが、アメリカ兵崩れのギャングとして登場してくるミシェル・コンスタンタンの面構え、歩行の不気味な色気もお見逃しなくですね。『ラ・スクムーン』では親友役に昇格(?)してますが、私は断然、『勝負~』の彼が好きですね。突飛な連想ですがなんだか『牯嶺街少年殺人事件』のラッパズボンの不良がパーラーに入ってくるときの歩行の異様さと重なってきて、エドワード・ヤン、意識してた、見てた?と勝手にうれしくなったりもしてしまいます。うれしくなるといえば、クレジットタイトルにジャン・ピエール・メルヴィルのスタジオが記されていて、そういえばこのモノクロの世界、通じてなくもないなとこれまた勝手な連想ゲームを愉しんだりもできるんですね(笑)

「勝負をつけろ」
© 1961 STUDIOCANAL – Da. Ma. Cinematografica

M:私も今回見て、一番良い方向に印象が変わったのが『勝負をつけろ』です。
最初に見たのは30年くらい前ですね。レンタルビデオです。確か最近のドラマ『拾われた男』の舞台になった新宿TSUTAYAで借りたと思います。『冬の猿』も、そこでレンタルしたはずです。
同じ原作の『ラ・スクムーン』も選びたい作品なのですが、敦子さんが言うように、こちらは乾いた感じを、改めて感じました。この時代のベルモンドは、次の上映でリクエストしたい『墓場なき野郎ども』『いぬ』などノワールの傑作が多いのですが、『勝負をつけろ』も、間違いなく60年代初期のフレンチフィルムノワールを代表する傑作だと思います。
改めて見ての発見は、メキシコぽさと、ミシェル・コンスタンタンの存在感です。『ラ・スクムーン』ではメインキャストになっていますが、この悪党面は、一度見たら忘れられませんし、ジョセ・ジョバンニ原作作品には欠かせない俳優だと思います。
脱線しますが、コンスタンタンと、元広島カープの衣笠祥雄さんがよく似ていて、雑誌の企画で衣笠さんがイタリアンファッションを着る企画があり、まさにミシェル・コンスタンタンでした。
1961年のベルモンドは、6本も出演作があり、前にも話したと思いますが、売り出し中の若手スターという感じでの大活躍の年でした。その中でこのクールなラ・ロッカ役は、はまり役で、“静”のベルモンドの代表作の一つではないかと思います。
傑作選1で上映された同年の『大盗賊』では、フィリップ・ド・ブロカ監督とのコンビでの、ユーモアとアクションという新境地が生まれ、この1961年は、ベルモンドがヌーベルヴァーグの落とし子から、スター俳優へと進化していった年だったと考えます。
話を『勝負をつけろ』に戻すと、是非『ラ・スクムーン』と見比べて頂きたいと思います。
ベルモンドの早撃ちや二丁拳銃など、クールなガンマンぶりは、どちらもすごく魅力的です。緊迫感のある地雷取り外しシーンも見所です。後半の刑務所内の描写は、「勝負をつけろ」は、妙にリアルで、実際も同様なのかと思ってしまいました。

「勝負をつけろ」
© 1961 STUDIOCANAL – Da. Ma. Cinematografica

★一本に縛り込むのは至難の業と思いつつ、今回のベルモンド映画、いちばんお薦めなのは? その理由は?

A: これももう迷うことなく『冬の猿』できまりですね。待ってました! と掛け声かけたくなるファンも多いのではないでしょうか。叱られるのを覚悟でまたいえばカサヴェテス『ハズバンズ』と同様に女子供にはつけ入る隙の無い男の世界が、女子供にも迫ってくるんです(笑) 悪友の死に酔っぱらってロンドンまで飛んでっちゃう男たちも泣けるけれど、この冬に向かうノルマンディのさびれた海辺の町にやってきたやけのやんぱちの青春末期の青年に、禁酒の誓いを破って共に酔う老人、ふたりが(もうひとりの変なおじさんも忘れてはいけませんが)つぎつぎにあげる花火が寒空を染めて、諦めきれない若き日の夢を葬るふたりを照らし――なんて、こう書くとなんだかおセンチな”男のロマン″おしつけ映画みたいに響いてしまいますが、そうじゃない、ぎりぎりのところで感傷を退けるその持ちこたえ方がいい! これでもかと見せてしまう、描いてしまう昨今の映画が忘れた美学ですね。
そんな美学を裏打ちしているのが乾いたユーモアの感覚でもあると思うんですが、酔いどれ演技として道路の真ん中で疾走してくる車を牛に見立ててベルモンドが闘牛士然とケープならぬジャケットさばきをみせる場面にしても、デスパレートな男の心とそれを裏切る身体の醸すユーモアのバランスにも注目したい。ベルモンドの演技のセンスのよさがそういう点にも光っているように感じます。ちなみにこの道路での闘牛は原作者で脚本にも参加しているアントワーヌ・ブロンダン、酔いどれ作家でもあった彼の実体験だったようです。
もちろんジャン・ギャバンとベルモンドの顔合わせも味わいどころですが、新旧スターの顔合わせとしてギャバンは同じ頃、ドロンとも組んでいたわけですが、見比べるとドロンとベルモンドのそれぞれの持ち味がギャバンの傍らでよりはっきりと見えてくるようで面白い。で、もうひとり、要チェックなのはギャバンの奥さん役シュザンヌ・フロン、長いキャリアをもつ名女優ですが、ここで男たちを見守る妻の取り残され感、これも沁みますね。

「冬の猿」
© 1961 GAUMONT – Tous Droits Réservés.

M:同じく『冬の猿』ですね。ベルモンド作品は、選びきれないくらい好きな作品が並びますが、『勝手にしやがれ』と『冬の猿』は別格です。
傑作選1は『オー!』、傑作選2は『カトマンズの男』が一番好きな作品でしたが、『冬の猿』は、傑作選シリーズを通じてのマイベスト作品です。
30年くらい前にビデオを見た際、何でこの素晴らしい映画が未公開だったのかと感じました。
泥棒でも殺し屋でもない、酔っ払いの広告クリエイターのベルモンドが、じつに魅力的です。そしてジャン・ギャバン。老けて見えますが、実は当時まだ56歳。
突っ込み役のベルモンドと、受けのギャバン。同じ時代アラン・ドロンと共演した『地下室のメロディ』でもジャン・ギャバンは見事な受けの芝居をしていますが、若手とのコンビネーションが実にうまい。三船敏郎か、勝新太郎のような酔っ払い演技にも、可笑しさを含めて、圧倒されます。
30年ぶりくらいに見直して、改めて感じたのは、冒頭の爆撃シーンのリアルさ。ドキュメンタリー映像とのコンビネーションだと思いますが、後半の映画のトーンとは大違いの過酷さで、一気に緊張感が走ります。
このリアリティは、アンリ・ヴェルヌイユ監督が後年ベルモンドと組んだ戦争映画『ダンケルク』の演出にも繋がっていったと思っています。
初めて見た時の印象は、こんなにも心を爽やかにしてくれる映画があったのだと言う喜びと驚きです。
街の鼻つまみ者達が、最後に街の人たちに幸せな気分を与える。そして禁酒という呪縛との内面の葛藤や、別れた妻や娘への思い。『テオレマ』のような、突然の訪問者によって、変わっていく一家の表情。
酒場やホテルで繰り広げられる会話や騒ぎが、最後にはエモーショナルな景色となって昇華するアンリ・ヴェルヌイユ監督の演出は、実に繊細で、細部まで行き届いています。
モノクロの映像もまたいいですね。ベルモンドがシトロエンDSのタクシーに乗って、街にやって来た雨の夜や、街の通りの標識を象徴的に描いた場面は、特に素晴らしいです。
仏版ポスターのモチーフにもなっているベルモンドのマフラーも素敵です。
『ラ・スクムーン』の白いストールや、『華麗なる大泥棒』のアスコットタイも合わせて、ベルモンドは巻物の使い方もとても洒落ています。
いやいや、『冬の猿』の好きな点を挙げたらキリがありませんね。

「冬の猿」フランス版ポスター

★さて、3本といいましたが、もちろん好きとは言えないけれど映画としてはすごい、とか映画としては?マークだけれどさすがベルモンドな映画とか、あげられなかった映画についてこの際いっておきたいということがあればぜひ!

A:『去年マリエンバードで』とか『プロビデンス』とか一筋縄ではいかない映画で知られる監督アラン・レネが撮った『薔薇のスタビスキー』の”わかりやすさ″、これはちょっと興味深いですよね。ベルモンドというスターのキャラクターを稀代の詐欺師のカリスマ性に託して描くことで相変わらずスタイリッシュではあるけれど、より平明な語り口を手に入れているというのでしょうか。フランソワ・ペリエもですがやはりシャルル・ボワイエの往年の二枚目演技の残り香が香るあたりの活かし方もいいですね。

「薔薇のスタビスキー」
© 1974 STUDIOCANAL – Nicolas LEBOVICI – EURO INTERNATIONAL FILMS (Italie). Tous Droits Réservés.

M:先ほども少し言いましたが、『ラ・スクムーン』ですね。
『薔薇のスタビスキー』も、もちろん好きですが。こちらはトロッキーが出てくるので、少し前に公開されたジョセフ・ロジー監督、アラン・ドロン主演のトロッキー暗殺を描いた『暗殺者のメロディ』を思い出しながら見ていました。
サンローランの衣装も見事です。この映画が作られた時代は、『華麗なるギャッツビー』など、1930年代のデカダンス的な作品が多かったように思います。
敦子さんご指摘のようにわかりやすく、アラン・レネ監督ぽくはないですよね。
『ラ・スクムーン』は『勝負をつけろ』とはエンディングも違いますし、洒落者など、登場するサブキャラの存在感も強くなってきています。
より味付けが濃くなり、クールさよりもエモーショナルさを打ち出した演出になっています。よりドラマチックになっています。ベルモンドも殺し屋的な存在感になっていて、より犯罪者の香りが強くなっています。
そして、ミシェル・コンスタンタンと、クラウディア・カルディナーレという濃い顔の役者が、ガッチリとベルモンドを受け止めているのも見所です。
因みにエンディングだけで言うと、私は『ラ・スクムーン』の方が、少しだけ好きです。
そして2丁拳銃の格好良さ。これはもう千両役者!と叫びたくなる位に、惚れ惚れとします。

「ラ・スクムーン」
© 1972 STUDIOCANAL / PRAESIDENS FILMS (Rome). Tous droits réservés.
ラ・スクムーン フランス版ポスター

★改めてベルモンドの魅力を嚙みしめると映画の今、はたまた未来に受け継ぎたい彼の遺産とは?

A:映画の今や未来なんて、深刻に構えないノンシャランとした演技とキャリアの究め方かな。『冬の猿』はじめ8本の映画でベルモンドと組んだ監督アンリ・ヴェルヌイユは「彼は事前に脚本を読んだりしなかった、役作りに悩むなんてこともなかった、「いまの場面の僕、どうだった」なんて聞くこともなかった。演出に対して提案したりもしなかった」と振り返っているそうです。でもこの発言を引いた英ガーディアン紙の追悼記事はメルヴィルのこんな発言も引いています。「あの世代でもっとも熟達した演技者だった。どんな場面でも20通りの演じ方を差し出すことができた。そのどれもが正解だった」
なるほどなと、あの屈託なくでも繊細な演技を懐かしく思い返しています。

M:パンフレットの日本での特集上映に向けたベルモンドのインタビューが出ています。その中で出演作品には優劣をつけない回答がありました。これはとてもベルモンドらしいなと思いました。
『シラノ・ド・ベルジュラック』で来日した際のエピソードも話していて、見に行ったファンとしては、とても嬉しかったです。
で、未来に向けてですが、ベルモンドは唯一無二の存在で超える人も変わる人も出てこないと思います。ジャン・ギャバンも結局替わる人も出ていないですし、ベルモンドもドロンもギャバンにはなれなかったです。
ベルモンドの場合は、変幻自在なキャラクター造形と、アクションから恋愛映画までこなす芸域の広さ、更にフランス俳優らしい洒落っ気が、大きな魅力と思います。
それとやはりベルモンドはヌーベルヴァーグに始まり、フィルムノワール〜アクション〜コメディと、時代のニーズに応えていた面が大きかったと思います。
70年代〜80年代になっても、時代や観客のニーズに応えてのベルモンドであり、その時代その時代のフランス映画を象徴する存在でした。
今後フランスに現れるスターも、その時代のニーズに合った象徴になり、ベルモンドとは違う存在感になる筈です。
替わりはいないという事で、我々に出来る事は、ベルモンドの素晴らしさを日本の中で次の世代の人たちに伝えていき、『ルパン3世』のように、ベルモンドフォロワーが新しい解釈で作品を作っていく環境を生み出すという事ではないかと思っています。
そういう意味でこの傑作選シリーズは、本当に素晴らしい試みで続いていって欲しいです。

「華麗なる大泥棒」
THE BURGLARS © 1971, renewed 1999 Sony Pictures Television Distribution (France) SNC. All Rights Reserved.

★傑作選、次回にお願いしたいベルモンド映画は?

M:ベルモンド作品まだまだ沢山あります。
個人的なリクエストとしては、未見の『バナナの皮』、『黄金の男』、『コニャックの男』です。
初期フィルムノワールの傑作、ジョセ・ジョバンニ原作作品の『墓場なき野郎ども』、メルヴィルの『いぬ』も、そろそろ見たいですね。
そして戦争映画2本。アンリ・ヴェルヌイユ監督の『ダンケルク』。これは連合軍讃歌になってしまったクリストファー・ノーラン監督の『ダンケルク』をご覧になった方に是非見て頂きたいです。
米仏合作のオールスターキャストの大作ですが、『パリは燃えているか』。自分の第二次世界大戦に対する目線も変わり、改めて見たい作品です。ハリウッドスターのカーク・ダグラスは、ベルモンドの共演を実現したくこの作品に参加したと言われています。
ベルモンド作品とは言い難いかもしれませんが、是非スクリーンで観たいですね。

A:前にもいった気もしますが『雨のしのび逢い』『ふたりの女』『ビアンカ』『女は女である』『モラン神父』の頃の、ルパン3世的おとぼけキャラクターを輝かせる前のベルモンドの胸キュンな存在感もぜひフィーチャーしてみていただきたいと思います💛

「薔薇のスタビスキー」
© 1974 STUDIOCANAL – Nicolas LEBOVICI – EURO INTERNATIONAL FILMS (Italie). Tous Droits Réservés.

ジャン=ポール・ベルモンド傑作選3

9月2日より新宿武蔵野館他全国絶賛公開中です。

ロマン・ポランスキー入魂の冤罪歴史劇『オフィサー・アンド・スパイ』/Cinema Discussion-45

©Guy Ferrandis-Tous droits réservés

新作映画を複数の視点からとらえ、映画評論の新しい手法を考えようとしてスタートしたセルクル・ルージュのシネマ・ディスカッション。
第45回は、アカデミー賞監督賞受賞『戦場のピアニスト』ロマン・ポランスキー監督の最新作、歴史的冤罪事件“ドレフュス事件”を映画化した『オフィサー・アンド・スパイ』です。
第76回ベネチア国際映画祭では銀獅子賞(審査員大賞)を受賞。様々な議論を巻き起こしたフランスでは、第45回セザール賞で3部門 (監督、脚色、衣装) を受賞し、No.1大ヒットを記録しています。
出演は『アーティスト』のオスカー俳優ジャン・デュジャルダン、『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』のルイ・ガレル他フランスを代表するキャストが集結。
今回も映画評論家川口敦子と、川野正雄の対談形式でご紹介します。

★『オフィサー・アンド・スパイ』は19世紀末、フランス社会を揺さぶった冤罪事件:ドレフュス事件を扱っていますが、『ゴーストライター』でもポランスキーと組んだロバート・ハリスが企画から映画化実現まで難航する間に原作を書き、今回もポランスキーと共同脚本を手掛けています。単なる実話映画に止まらない面白さのもとはどのあたりにあると思いますか?

 川口敦子(以下A):ドレフュス事件の核心にいた冤罪の被害者アルフレッド・ドレフュス大尉、ユダヤ人への差別の根づいた時代と社会の生贄となった存在をいっそ脇に置いて、事件の真相解明に乗り出す”探偵″役として彼の元教官で情報局の防諜責任者に任命されたピカール中佐を物語の軸にすえ、自らもユダヤ人への偏見を持ちながら、正義のために立つひとりの孤立無援の闘いを追う政治スリラー仕立てとしてみせたこと。『ゴーストライター』のコンビならではのスリリングな展開で観客の興味を惹きつけながら、社会への批判をじわじわと開示していく、そのストーリーテリングの妙に映画の勝因があると、つくづくハリス+ポランスキー組の底力を今回も嚙みしめました。

 『戦場のピアニスト』以来、ポランスキー映画のルックを支えて来た撮影監督パヴェル・エデルマンとのコラボレーションも見事です。『戦場のピアニスト』でも『ゴーストライター』でも印象的だった鈍色の空、今回も冒頭のドレフュスの軍籍剥奪の無残な経緯をその鉛色の重い空の色がいっそう厳しく胸に食い込ませる。だだっ広い陸軍士官学校の校庭に寒々しく立つひとりを広角の構図で距離を保ちつつみつめてみせる、そうやって無闇な感傷や情感を排することで冤罪事件の背後にあった人心の偏りがより痛烈に印象づけられる。ここにも作り手たちの確かな話術が感知されますよね。

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川野正雄(以下M):10数年に一度ポランスキーが作る大作として、まずは捉えています。本人の企画でもあるようなので、全編にポランスキーならではの緊張感と、ストーリーテングが溢れています。
ユダヤ人への差別的行為を描いたという意味では『戦場のピアニスト』と同列に語るべき作品と思いますが、フランス軍の冤罪事件という事で、馴染みのない題材ではありました。しかし冒頭からそんな心配を吹き飛ばすような、法廷や軍隊の緊張感が登場します。
ポランスキー作品というと、『反撥』『赤い航路』『袋小路』『おとなのけんか』など、悪意や意地悪さを表現するのが素晴らしい印象があります。
この作品の中でも、フランス軍のユダヤ人への目線は悪意が溢れており、皮肉さや虚無感含めてポランスキーらしさを随所に感じました。
同時に大作的なモブシーンや、スペクタクル感もあり、映画作品としての完成度も完璧ではないかと思います。
ポランスキー作品としては比較的普通の映画になっており、その演出力のリアリティと、ドラマティックな展開で、より多くの方が満喫できる作品でもあると思います。

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★ポランスキー監督作とはこれまでどんなふうにつきあってきましたか? 今回の映画はその中でどんなふうに位置づけますか?

A: 中学生の頃、その映画を見るより先にマンソン・ファミリーによる愛妻シャロン・テート惨殺事件でポランスキーの名を覚えたんじゃなかったかな。もちろん『ローズマリーの赤ちゃん』もありましたが実際に見たのはしばらく後のことで、多分、『マクベス』がリアルタイムに映画館でみた初めてのポランスキー映画だったと思います。公開当時の評では殺害事件のトラウマもあってシェークスピアの原作を血塗られた暴力描写で映画化と言われていて、確かに血のイメージが色濃くありましたが、主演のジョン・フィンチと共にその危なさがセクシーみたいに生意気盛りの小娘には感じられたなあ。しばらく再見していないので今、見たらどんなふうに見えるのか、再見の機会を探したいですね。これ以前に撮っていたシャロン・テートとポランスキー本人が共演している『吸血鬼』も名画座で見たのですが、強迫的な笑いが好きでした。で、後にカンヌで『未来は今』の取材のランチでコーエン兄弟のイーサンがこの『吸血鬼』を筆頭にポランスキー映画が好きと発言、ジョエルもうんうんと同調してたんですが、つい最近、ジョエルが単独で『マクベス』を撮っているのを見て、独自の世界を耕しているなあと思いつつも、やっぱりポランスキー、どこかで意識しているのかしら、好きといったのは本当だったのね、と懐かしいようなうれしい気持ちになったりもしたのでした。

 でも振り返ると公開と同時に見て、その後もいちばん繰り返し見ているのが『チャイナタウン』なんですね。ただれた父娘関係もあり、ジャック・ニコルソンとフェイ・ダナウェイのロマンスのハードボイルドと30年代回顧趣味のナイスな調和ぐあいもありとお愉しみは満杯なんですが今回の『オフィサー・アンド・スパイ』を見て改めて思い返すとLAの土地と水をめぐる権力側の腐敗を探偵が回り道しつつ明かしていくという『チャイナタウン』の構図、面白味ともちょっと通じているんじゃないでしょうか。サスペンス・スリラーを操る話術の醍醐味という点では『ゴーストライター』にしても『告白小説、その結末』にしても、はたまたちょっと違うみたいだけどポーランド時代の『水の中のナイフ』にしても倦怠期中年カップルと拾われた青年の密室的ヨット上の一昼夜の力関係の二転三転をめぐるはらはらドキドキだって同じ糸で結ばれているようで、やっぱりポランスキー、スリルとサスペンスの名手といいたくなるんですよね。

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M: 私も劇場(みゆき座かな)で『マクベス』見ました。確かプレイボーイプロダクションの第1作で、その辺の関係は『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』にも描かれていますね。サードイヤーバンドのサントラも買いました。
最初はテレビで『吸血鬼』を見ました。アニメの使い方とブラックコメディな部分がとても面白く、確か名画座で『ローズマリーの赤ちゃん』も見ました。『マクベス』とどっちが先かは覚えていませんが、その頃からポランスキーは特別な存在になってきました。
それまでは割とおどろおどろしい作風のイメージがありましたが。『チャイナタウン』は私も劇場で見て、その後も数回見ています。ハードボイルドという好きなジャンルですが、一番好きな作品です。ジャック・ニコルスン、フェイ・ダナウェイという2大スターの使い方も素晴らしかったと思います。
その時期から今日まで自分の中ではポランスキーは最も好きな監督という存在です。
2007年カンヌ映画祭に参加した際、60回記念短編映画集である『それぞれのシネマ』の集合フォトセッションの風景を見かけました。
クロード・ルルーシュ、ヴィム・ベンダース、北野武に、マイケル・チミノまで36人の監督が集まってきましたが、ポランスキーだけ姿を現さず、他の監督を長時間待たせていました。記者会見も「何語で話せばいいんだ」と怒り出し退席と、やりたい放題でしたが、名監督達もポランスキーには一歩下がったリスペクトの姿勢で、強烈な存在感でした。まあこれがポランスキーなんだなと妙に納得しました。
ホロコーストで家族が奪われ、有名になると妻シャロン・テートの惨殺に逮捕と、人生の中での最悪の場面を数々経験してきたポランスキーには、他者への遠慮や気遣いなどは、必要がないのだなと実感しました。
1972年モナコグランプリでのジャッキー・スチュワートを描いた『Weekend of a champion』というぽランスキー製作のドキュメンタリー映画があるのですが、その最後はポランスキーとジャッキー・スチュワートが映像を見ながら当時を回想する対談になっています。
その中でポランスキーは、作品にも登場するF1ドライバーフランソワ・セベールの事故死により、急激にF1への関心が無くなったと語っています。
ポランスキーは通常の人間には考えられないくらい非業の死と隣接しており、その中で生まれてきた我々には想像できない思いが、創作のエネルギーになっているのではないでしょうか。

ポランスキー作品を語りだすとキリがないですが、前作の『告白小説、その結末』も、ポランスキーらしい意地悪な作品で、とても良かったです。ダークな暗闇に近い題材と、エンターティメントとしての面白さ、その両立がポランスキーの真骨頂と思います。
今や88歳ですが、いつまでも刺激的な作品を作って欲しいです。

©Guy Ferrandis-Tous droits réservés

★キャスティングに関してはどんなふうに?

 A:まずドレフュス役のルイ・ガレルに驚きました。最初のうちは殆ど彼だと気づかないままに見てました。ポール・トーマス・アンダーソンの会心の新作『リコリス・ピザ』にヒロインの鼻をめぐって素晴らしくユダヤ的って台詞が出てくるんですが、ガレルの鼻も負けてませんね。
 相変わらず頑張っているポランスキー夫人エマニュエル・セニエも余裕が味わい深い大人の女性っぶりでいいんですが、忘れたくないのが真相解明をなんとか阻止せんと暗躍する軍上層部や情報局の面々、憎たらしさを素晴らしく卑小な表情に息づかせていて、思わず握りこぶしを固めてしまいました(笑) あとメルヴィル・プポー、マチュー・アマルリックと、もはや中堅となったルイ・ガレル世代の元青年俳優たちの登場にもにやりとしたくなりました。

M:私もルイ・ガレルは最初わかりませんでした。全く違うイメージです。
エマニュエル・セニエは『告白小説、その結末』に続いて、存在感ありますね。
見ていて握りこぶしを固める〜よくわかります。保守派上層部への怒りが、見ながらどんどん湧いてきました。この辺の観客の感情のコントロールも、ポランスキーは円熟の演出ですね。

©Guy Ferrandis-Tous droits réservés

★この映画のメッセージ、現代性に関してどんなふうにうけとめましたか?

M:最近ポランスキーが出演していたアンジェイ・ワイダ監督の『世代』を見ましたが、やはりポランスキーのファンデーションは、この辺にあるのではないかなと思います。『世代』もレジスタンス的な作品ですが、ポーランド人の中にあるユダヤ人への感情が微妙な描写もあります。同じくポランスキーが出演した『地下水道』も含めて、社会的なメッセージとスリルの両立が素晴らしいワイダ作品ですが、ポランスキーにかなり受け継がれており、特にこの『オフィサー・アンド・スパイ』は、近いコンセプトがあるのではないでしょうか。
先程も言いましたが、幼年時代のホロコーストに始まり、シャロン・テート事件や逮捕、拘束などの体験の集大成が、この作品ではないかと感じています。
そして魔女狩り的冤罪事件というテーマが、ポランスキー自身が抱えている問題ともつながっているように感じています。

A: 作品そのものとは離れてしまうのですが、ヴェネチア映画祭、セザール賞での『オフィサー・アンド・スパイ』への授賞をポランスキーの過去の問題に絡めて抗議する動きがありましたよね。#ME TOO以降の風潮の中で、でも作品そのものが見られなくなってしまうのはどうなのかなあ。ウディ・アレンの場合もそうだったのですが作品と作り手、どう線引きするか、考えないと――。

©Guy Ferrandis-Tous droits réservés

監督:ロマン・ポランスキー 脚本:ロバート・ハリス、ロマン・ポランスキー 原作:ロバート・ハリス「An Officer and a Spy」
出演:ジャン・デュジャルダン、ルイ・ガレル、エマニュエル・セニエ、グレゴリー・ガドゥボワ、メルヴィル・プポー、マチュー・アマルリック他
2019年/フランス・イタリア/仏語/131分/4K 1.85ビスタ/カラー/5.1ch/原題:J’accuse/日本語字幕:丸山垂穂 字幕監修:内田樹
提供:アスミック・エース、ニューセレクト、ロングライド 配給:ロングライド    
『「オフィサー・アンド・スパイ』公式HP
6月3日よりTOHOシネマズシャンテ他全国公開中