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砂塵の鬼才/サム・ペキンパー 情熱と美学

©2005-2015 El Dorado Productions. All rights reserved.
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サム・ペキンパー、この名前を聞くと、今でも胸がざわついてくる。
自分が映画を本格的に見始めた時代に、最もスリリングでエキサイティングな作品を作っていたのが、サム・ペキンパーなのだ。
サム・ペキンパーという名前を聞くと、わけのわからない期待感で、当時は胸が高鳴ってきたのだ。
今回サム・ペキンパーのドキュメンタリー『サム・ペキンパー 情熱と美学』が公開されると聞き、久しぶりにその胸のざわつきが蘇ってきた。

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このドキュメンタリーは、当時のペキンパーのインタビューや撮影風景などの記録映像、彼の家族、恋人や友人といった近親者と、スタッフや役者の現代のインタビューに、ダスティン・ホフマンやスティーブ・マックイーンを含む当時の貴重なインタビューで綴られている。
僕自身は、特別彼のバイオグラフィーに詳しかった訳ではない。
今回この作品を見て、初めて知ったしたことが数多くあり、自分が殆どサム・ペキンパーという人間については、知識が無かったことを、改めて認識をした。

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ペキンパーの監督作品は14本と、意外に少ない。少ない理由は、トラブルが多く、撮れない時期が長くあった為だ。
想像通りであるが、予算とスケジュールを守れず、アルコールとドラッグと仲の良いプロデューサーとしてはあまり付き合いたくないタイプの監督だったのである。
彼の監督作品全てを見ている訳ではないが、70年代前半に連続して製作された『わらの犬』『ジュニア・ボナー/華麗なる挑戦』『ゲッタウェイ』『ビリー・ザ・キッド/21歳の生涯』『ガルシアの首』の5本は、リアルタイムで劇場で見て、その後何回か見直している。
このドキュメンタリー映画を見ながら改めて俯瞰すると、1969年の『ワイルドバンチ』から、1977年の『戦争のはらわた』までの僅か8年間が、多分彼のキャリアの中では、最も充実していた時期であった。

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サム・ペキンパーというと、まず思い起こすのが砂塵や荒野の風景だ。
僕が最初に見たペキンパー作品は、TVの吹き替え版で何気なく見たチャールトン・ヘストン主演の『ダンディー少佐』である。
『ベンハー』のハリウッドスターが、騎兵隊の軍服を着て騎乗からライフルを撃つこの西部活劇は、それまでTVで見ていたティピカルな西部劇とはどこか雰囲気違う斜に構えた空気感があり、奇妙に印象に残っていた。それがサム・ペキンパー作品と知ったのは随分後になってからだった。

西部劇史上に残る傑作となった代表作『ワイルドバンチ』を見たのは後年になってからだが、どの作品にも荒野や砂塵がつきまとう。
現代劇の『ゲッタウェイ』ですら、アリ・マッグローはインタビューで「あれほど埃まみれの映画はなかった」と言っている。
このドキュメンタリーも、オープニングは、『ワイルドバンチ』に出てくるメキシコの荒野である。
監督のマイク・シーゲルは、『ワイルドバンチ』に出てくるアシエンダを探しまわったという。
このオープニングシーンを見ただけで、ペキンパーファンは、一気に懐かしいペキンパーの世界に引き戻される筈だ。

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ペキンパー作品のもう一つの特徴は、砂塵や荒野が似合う一癖も二癖もあるような男達が、次々に映画に登場してくる事だ。どの作品にもラフ&タフを象徴するような、魅力的なキャラクターが登場する。魅力的な理由の一つは、彼らが暴力的だったり、荒くれ男だったりする割には、チャーミングな一面を併せ持っている点にある。
ウォーレン・オーツがペキンパー組の代表的な役者だと思うが、このドキュメンタリーには、ジェームス・コバーンやアーネスト・ボーグナインといったペキンパー組常連の役者のインタビューを見る事が出来る。
彼らが造形してきたダーティヒーロー的なキャラクターは、ペキンパー自身のキャラクターにも相通じる部分があるのではないかと、この作品で垣間みれたペキンパーの素顔から感じる事が出来た。

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砂塵が舞うペキンパー作品の中でも異彩をはなっているのが、『わらの犬』だ。
英国に移住したインテリ夫婦の災難を描くこのバイオレンスサスペンスについては、このドキュメンタリー映画で、幾つかの興味深いエピソードを知る事が出来た。
主演の若手女優スーザン・ジョージがイジメと思えるくらい徹底してしごかれた事。
アクターズスタジオ出身のダスティン・ホフマンは、ペキンパーの演出を理解出来なかった事。
事前の役作りを重視するアクターズスタジオのメソッドを叩き込まれているダスティン・ホフマンと、役者の現場でのフリーハンドな芝居を重視するペキンパー独自の演出手法は、相容れなかった事が容易に想像はつく。
『真夜中のカーボーイ』『ジョンとメリー』など、次々に名作に出演していたダスティン・ホフマンにとって、この『わらの犬』に出演する事は、かなりチャレンジングな選択だった筈で、若々しい撮影時の彼のインタビューも登場する。
ペキンパーとダスティン・ホフマンの緊張感や、役柄同様にペキンパーに精神的に追い込まれたスーザン・ジョージの演技は、結果的にリアリティのある化学反応となって、映画のテンションを高めていく効果があった。
そして前述したペキンパー作品の特徴である砂塵やチャーミングな登場人物も、この作品には登場しない。
名優ダスティン・ホフマンにとっても、鬼才サム・ペキンパーにとっても、『わらの犬』は、彼らのキャリアの中で、ダークな輝きを持った作品となったのである。
個人的にも初めて劇場で見たペキンパー作品であり、ペキンパーの師匠格であるドン・シーゲルが同年に監督した『ダーティハリー』と共に、映画のスリリングな醍醐味を実感させてくれた映画である。

ダスティン・ホフマン、ジェームス・コバーン、ボブ・ディランといったスターをうまく使いこなすのも、ペキンパーの独壇場だが、彼とのタッグで最も輝いた作品を撮ったスターは、スティーブ・マックイーンではないかと思う。
『ジュニア・ボナー/華麗なる挑戦』『ゲッタウェイ』の2本は、マックイーンにとっても、ペキンパーにとっても、代表作になる傑作だ。
個人的にもオールタイムベスト10に入れたい程、好きな作品である。
当時スターとして絶頂期にいたマックイーンが、悪名高いペキンパーと連続してコンボを組んだのは暴挙と考えられていた。
マックイーンの周囲では、反対の声が多かった事も、この作品で初めて知った。
マックイーン自身も別のインタビューでは、このコンビネーションを、厄介者同士の悪のコンボと評している。
実はマックイーンの代表作である『シンシナティ・キッド』は、ペキンパーが監督する予定だった。
しかし例によって製作会社MGMとペキンパーが衝突して、撮影3日で監督を降板する事になってしまったのだ。
後任のノーマン・ジェイソンの端正な演出は、恋人や少年との交流シーンにはやや甘さを感じさせるものの、ポーカーの勝負の緊張感を見事に描き切り、大ヒット作品となった。
しかしペキンパーが監督していたら、きっともっと違う破天荒なギャンブル映画になったのではないかと想像をしてしまう。


©2005-2015 El Dorado Productions. All rights reserved.
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ペキンパー自身は後年降板した事を悔いていたようだが、7年越しにこの二人のコンボが実現できたのが、『ジュニア・ボナー/華麗なる挑戦』である。
マックイーンは、自らのソーラープロダクションで製作した『栄光のルマン』が、興行的に失敗に終わり、起死回生の作品が欲しい時期になっていた。
そのタイミングで、『わらの犬』や『ワイルドバンチ』で旬を迎えていたペキンパーの勢いに賭ける気持ちがあったのではないかと思う。
『ジュニア・ボナー/華麗なる挑戦』は、マックイーンのキャリアの中では、『シンシナティ・キッド』と同じ系譜に入るテーマの作品である。
『シンシナティ・キッド』ではエドワード・G・ロビンソンが演じた名人的なポジションを、ポーカーからロデオの世界にステージを替えて、マックイーンは演じており、ペキンパーは『シンシナティ・キッド』で果たせなかった事を、『ジュニア・ボナー/華麗なる挑戦』で実現させたようにも見える。
ペキンパー作品唯一(?)といっていい、平和で美しいこの映画は、ペキンパー自身の優しさや男としての美学と、マックイーンの個性が見事にマッチングした現代の西部劇であり、ロデオへの素晴らしいアンセムとなっている。

続いて製作された『ゲッタウェイ』は、クールな現代のフィルムノワールだ。マックイーンとアリ・マッグローの交際という話題もあり、ペキンパー作品の中でも、大ヒットとなった。
企画自体はマックイーンが持っていたもので、当初はピーター・ボクダノヴィッチを監督にする予定だったらしいが、マックイーンがペキンパーを監督にしたのは、大正解だった。
初公開以来何回も見た作品であるが、見るたびに新たな発見が出てくる奥行きの深い映画だ。
単なるバイオレンスアクションではなく、マックイーンの髪型や衣装から、クインシー・ジョーンズの音楽まで、見事に計算された娯楽映画の傑作だと思う。
マックイーンとペキンパーは、銃声の効果音についてまで、激しくやり合ったと言われているが、そういった二人のプロフェッショナルな凌ぎ合いが、作品のクオリティをどんどん高めていった作品である。

©2005-2015 El Dorado Productions. All rights reserved.
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また当初はダイアン・キャノンが予定されていた妻役に、『ある愛の詩』でブレイクしたアリ・マッグローが抜擢された事も、マックイーンとのプライベートな関係に発展し、作品の追い風となった。
アリ・マッグロー自身もインタビューに登場し、ガンアクションの指導など当時の思い出を語っているが、『ジュニア・ボナー/華麗なる挑戦』を、バイオレンスではないペキンパーの希有の傑作として絶賛しているのが、印象的だった。
マックイーンにとっても、NY出身でモデルあがりの知的な女優、アリ・マッグローとの出会いが、この作品に対するモチベーションを高める一因になった筈だ。
完全なオリジナルと思っていたこの映画だが、マックイーンが当時の肉声で、ハンフリー・ボガートへのオマージュであり、参考にしていた作品があった事を語っている。

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バイオレンス描写がクローズアップされることが多いが、観客の為の徹底したサービス精神に溢れていて、純粋に映画本来の醍醐味であるスペクタクルを追求しているのが、ペキンパーの本質ではないだろうか。
ボブ・ディランの出演で話題になった『ビリー・ザ・キッド/21歳の生涯』は、『ゲッタウェイ』の勢いに乗って、彼のサービス精神が最も顕著に現れた娯楽大作である。
伝説のガンマンを新解釈で描くこの映画は、ディランの『天国の扉』という永遠の名曲を産んだ記念すべき作品でもある。
同じくミュージシャンで、主役としてペキンパーに抜擢されたクリス・クリストファーソンもインタビューに登場し、弾き語りまで披露している。

ウォーレン・オーツに、メキシコの砂塵というペキンパーらしい快作『ガルシアの首』以降、ペキンパーは、どんどん自己破滅に邁進していってしまい、それまではコンスタントだった監督作品も減ってしまう。
この作品でペキンパーについて語られるインタビューの大半は、彼の常規を逸したクレイジーな言動についてである。しかしながらその根底には、皆ペキンパーに対する敬愛精神が溢れている。
生活を節制出来れば、もっと長生きし、作品も多く作られたと思うが、これがペキンパーの生き方そのものなのである。
タイトルにもなっている映画への情熱と美学。サム・ペキンパーを表現するに相応しい言葉である。

©2005-2015 El Dorado Productions. All rights reserved.
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サム・ペキンパーを愛している方には、もっとペキンパーを理解して頂く為に、ペキンパーを知らない方には、是非入り口として見て頂きたいドキュメンタリー映画である。
『サム・ペキンパー 情熱と美学』は、現在シアターイメージフォーラム他で公開中である。
尚10月9日までは、初期作品『荒野のガンマン』を、同時上映。
ロバート・アルトマンのドキュメンタリー『ロバート・アルトマン/ハリウッドに最も嫌われ、そして愛された男』との相互チケット半券割引も実施中である。

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Cinema Discussion−10(part2 )/ Make it Funky~蘇ったジェームス・ブラウンのソウル(魂)

(C)Universal Pictures(C)D Stevens
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新作映画を複数の視点からとらえ、映画評論の新しい手法を考えようとしてスタートしたセルクル・ルージュのシネマ・ディスカッションも10回目になりました。
今回は、私たちが紹介していきたいと考えている世界=MUSIC×CINEMA×FASHIONを象徴的に描いた作品が2本相次いで公開されますので、前後半に分けて、2作品を比較しながら、紹介する事にしました。
その2作品は、共に偉大な黒人ミュージシャンを描いたアンソロジードラマ『JIMI:栄光への軌跡』と、『ジェームス・ブラウン 最高の魂(ソウル)を持つ男』です。
『JIMI:栄光への軌跡』では、ジミヘンことジミ・ヘンドリックスがスターダムに上っていく1966~67年の姿が描かれ、『ジェームス・ブラウン 最高の魂(ソウル)を持つ男』では、JBことジェームス・ブラウンの波瀾万丈な一生が描かれています。
先月part1として『JIMI:栄光への軌跡』をアップしましたが、part2の今回は、Godfather of Soulの、『ジェームス・ブラウン 最高の魂(ソウル)を持つ男』を紹介させて頂きます。
ディスカッションメンバーはいつものように、映画評論家川口敦子をナビゲーターに、名古屋靖、川口哲生、川野正雄の4名です。
今回は、part1のジミ・ヘンドリックスと基本的に同じ質問で、前半は進んでいきます。

川口敦子(以下A):まず見る前に予想した映画の描き方と違っていましたか?
違っていたらどのあたりが違っていましたか? それは肯定できるものでしたか?
伝記的な事実とフィクションの部分に関しては? 周囲の人間の配し方もそれぞれ興味深いですが現実の関係に忠実とはいえない部分もあるようですが?

川口哲生(以下T):いきなりショットガンをぶっ放し、カメラ目線で話すトラブルメーカー時代からの導入で予想外でした。(笑)でもそのすぐ後のベトナムに向かう一曲目のJBの実演がいい音でかかると体が思わず揺れました。子供時代と大人になってからの時代が交差する様が、時に妙に説明臭い所も感じましたが、ボビー・バードとの関係での「トップを張る人間として払う代償は払って生きてきた」みたいな所は興味深かったです。

名古屋靖(以下N):さすがにJBと同じ顔はちょっと怖かったのでしょう、JBの主役はほどよくグッドルッキングな容姿になり、語り口も本物より若干ソフトな印象で、内容も含めより一般の観衆に向けて事実と比べるとちょっと美化したエピソードも多めかなあと。。

川野正雄(以下M):ボビー・バードとの友情物語になっているとは思いませんでした。個人的にボビー・バードとビッキー・アンダーソンのファンでもあり、彼らの来日ライブも見ていますので、その辺の今までよくわからなかったJBファミリーのエピソードの部分に、すごく魅かれました。
JBと、ボビー・バードの関係が、これ程濃いとは知りませんでした。
映画全体としては、イメージ通りですが、ライブシーンが多く、それを演じるのも大変だったと思います。ライブ盤が有名なアポロ劇場での公演のエピソードなどは良かったですね。
ダンス含めて、自分は生では見れていない全盛期のJBのステージの熱さ(象徴としての額の汗含め)を、すごく体感できて、そこは映画として見事だなと思いました。
マントショーのMCをボビー・バードがやっていましたが、そこは違ったんじゃないかなと思いました。

A:『JIMI:栄光への軌跡』と同じく、アーティストの伝記映画の定型をはみ出す語り方、展開の映画だと思います。JBは時のシャッフル、ノンリニアな構成、JBがカメラに向かって直接、自らの物語を語る――といったスタンスがあります。

N:JBは彼の生い立ちから後期までの人生を追いかける映画だったので、ある程度シンプルに初心者でも観やすくするために、事実を加工しているところは多々ありますね。実際はもっと複雑で刑務所にも何度も出たり入ったりで、ボビー・バードとの出会いも音楽ではなく刑務所外で野球がきっかけだったと聞いています。完全なドキュメンタリーではなくエンターテイメント作品なので、多少長い上映時間も気にならないテンポの良さや度々織り込まれる笑いなどを優先した結果としてそれらの違いも肯定できます。

T:JBでは、あくまでアメリカの南部、アメリカ社会の黒人と白人という観点がストーリーの根底を貫くテーマとなっており、貧しさや母との再会、あるいは「白い悪魔(白人世界でのビジネス的搾取)」との戦いの中でのJBのセルフプローディース力、政治のパワーゲームの中での微妙なバランスといった形で映画の中で描かれているのを強く感じました。それらが時のシャッフルで描かれて、先にも言ったけれど「こんな生い立ちや環境がJBという奇跡を生んだ」みたいな一直線の結びつけを感じたのも否めないかな。
音楽的なJBの意味は、アメリカの白人をも含む市場での成功、そこからさらにブラックネスを極めるFUNKへの回帰、そしてその後のHIPHOP後の白人音楽をも含むブラックミュージック化の中での再評価等々、アメリカのなかで黒人がどう生きぬくかみたいなことを時代時代において象徴しているように思います。映画の中でJBがカメラに向かって語るところは、なにかJBが自分を鼓舞するように語り続けているようで、妙に納得感がありました。

M:JBは時空の飛び方が大胆で面白かった。
決して人格者で描くのではなく、ケチで口うるさいルールを作る奴という彼の悪い方のエピソードもしっかりと描かれたのは、良かった。
冒頭がかなり誇張はあると思いますが、日本にいると真相不明だった発砲事件で、一気に入り込めました。

A:JBの時の構成は、母に去られ、さらに自分で自分の面倒をみろと、父に置き去りにされた子供のままの孤独の心をうまくあぶり出すように編まれていて戯曲を書いてきたというジェズと、シドニー・ポラック、リドリー・スコット、アンソニー・ミンゲラってストーリーテリングにもこだわりのある監督たちの下で脚本を学んだというジョン=ヘンリーという英国出身のバターワース兄弟の脚本の力も大きい。この人たちの脚本に魅了されたミック・ジャガーが元々はドキュメンタリーとして考えていたJB映画の企画を劇映画でいこうと思い直したとメイキングで語っています。JBがキャメラに目配せするような部分というのは、昨年の快作『ジャージー・ボーイズ』でクリント・イーストウッドがキャラクターたちにキャメラを向いた独白をさせて話を運んでいったのを思い出させもしますね。

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A:60年代、公民権運動、ブラックパワー、スィンギング・ロンドン等々、時代、対抗文化はたまたファッションといった背景への目もアーティストを描くのと同等のポイントになっているように思いますが,時代の描き方はどうでしょう? この時代の面白さに関してはどう見ていますか?

T:JBは公民権運動・ブラックパワー・ベトナム・さらにはHIPHOP以降という長いうねりを内包していますね。最後のバードの家のプール掃除に白人が来たのを「えらくなったもんだな」というJBに掃除人が「Mr.Brown」と声をかけて車を動かすシーンは長い道のりのが象徴的でした。スキーパーティーでの白人向けのJBから、キング牧師の暗殺の翌日のコンサートシーンや、『I’m black and proud』の収録シーンへの変遷が時代感を感じさせました。
JBの髪型の変化もそれに非常に呼応していますね。(笑)

A:JBの監督テイト・テイラーは、米南部、中でもとりわけ旧弊な差別の巣窟として知られたミシシッピー州都ジャクソン出身で、公民権法制定(1964年)直前の時代と世界を背景にした前作『ヘルプ』でも土地っ子ならではの裡からの目にものをいわせていましたね。
“ヘルプ”と呼ばれた黒人メイドの真実の声に耳を傾ける白人側からの距離の描き方とか。一見、あたりさわりない”いい映画”という感触なのに、ハリウッドの”政治的公正さ”への過剰なこだわりによる自己規制に陥ることなく、黒人も白人もそれぞれに人種だけでない差別をうけているような現実をしぶとく描いていた。
例えば社交界のボス的奥様から不当に解雇されたメイドと同じ奥様の元恋人と結婚して恨みを買ったホワイトとラッシュの金髪グラマー。ふたりが同じテーブルで分かち合うフライドチキンの一場は、それぞれに耐えて生きている人と人が分かち合う心を照らし出して、声高な主張の代わりに当り前に土地の現実を生きてきた作り手の目が感じられ、味わい深い物語の奥行きを生んでいた。といった奥行が今回の映画にもさまざまにあったと思います。ダン・エイクロイド演じるエージェントのユダヤ人という出自をさりげなく示すとかもありましたね。がむしゃらな問題提起や告発よりは楽しませつつ確かに現実に切り込む話術があるように思います。

M:JBは、描かれている期間も長いですが、見覚えのある衣装が多く登場してきて、うれしくなりました。
特に67~8年は、音楽もファッションも過渡期というか、変化になる年代で、時代がどんどん変わっていく空気を感じることはできました。音楽で言えば、SOUL,R&Bから、FUNKY SOULが生まれた時代で、その最先端がJBですね。ロックも、ジミヘンのようにサイケデリックが出てくる時代。この時代は、JBのヒストリー上も非常に重要だと思います。
JBは、自分が黒人である事を強く意識していた…
ジミヘンは白人の為のロックを、黒人であるジミヘンが演奏する事に意義がありましたが、JBは、黒人が黒人の為の音楽をやっている。
この映画を見ながら、JBのブラックミュージックであることのプライドを、強く感じとりました。
キング牧師のエピソードが挿入されていますが、同時にアメリカに於ける黒人の立ち位置というものが、大きく揺れ動き、変わっていった時代でもあるのではないでしょうか。

FUNKY SOULが生み出され、FUNK MUSICの原型が出来あがっていくエネルギー。
それが正に火を噴くようにうごめいていたこの時期、JBの作品は契約のトラブルがあり、KING,SMASHという二つのレーベルからリリースされていましたが、それぞれが良かったです。
1968年の貴重なパリのLIVE映像があります。この時期はJAZZ的なフレイバーも入っており、SMASHからリリースされた作品のテイストが感じられます。

N:良い意味で60〜80年代らしいライティングと演出が、ザ・アメリカン・ストーリーを見ている感覚で面白かったです。JIMIがさりげなくしかし深く差別問題などを提示するのにたいして、JBの方では、それすら分かりやすく加工して白黒だけでなくユダヤ系まで巻き込んで紙芝居のように見せてくれています。 片手を縛りあって、目隠しして白人の前で黒人少年同士が殴りあうエピソードも、映画では典型的な差別シーンとして描かれていますが、自伝によれば、喧嘩が強かったJBにとっては割りの良いお金の儲け口なので望んで毎回志願してたそうです。

A:この作品にはミック・ジャガーが製作で参加していますが、彼の参画を特に感じる様な描き方や、JB像、音楽、コンサートシーンなど、気づいたことはありますか?

N:さすがに本物のJBはすごいと思ったのは、映画の中のPARIS公演のシーンでした。実際のこの日の映像を見たことがあります。ステージ上のメンバー配列や衣装など、ほぼ完璧に再現されていますし、このツアーに急遽参加したベースのブーチィ・コリンズの弾く姿まで完璧です。音楽も実際の音を採用しているので臨場感も申し分ありません。ただし、主人公JBの動きがちょっと違うのです。同じアクションなのですが違って見えるのです。映画『JB』が悪いのでなく、本物のJBのキレが凄すぎるのです。その動きは人間の能力を超えた別の動物に見えるほどの激しいダンスでした。

M:JBのダンスレッスン映像がありますね。キレがすごいです。

T:ミック・ジャガーがJBのステージの袖で見ているシーンは、JBサイドから描かれているけれど、ミックにとってもアメリカという大きな衝撃だったのだろうなと思えるシーンだった。
後は、エピソードに挟まれるステージがほぼ全曲再現みたいで、やはりこの辺はミュージシャンとしてのミックのこだわりなのかなとも思いました。あとステージ側からの目線もステージにいる側のミックのものなのかも。

M:序盤でテレビの音楽番組のジミとストーンズのトリ争いの逸話があり、JBがストーンズの存在を確認する場面は、微笑ましかった。
彼らのルーツが黒人音楽=ブルースにあるという部分と、JBの伝記には何らかの意識の中での接点があったのではないかと思う。
ミックの次の企画は、プレスリーのようですね。

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A:主演のチャドウイック・ボーズマンに関していかがですか? 自分だったらこの人をキャストに選んだといった案がありますか?

N:良かったと思います。作風とフィットしていました。

T:本人の口元の感じに特徴があるので、その感じとの微妙な違和感はあったように思います。でもボーズマンのJを流す「エームス・ブラウン」みたいな自らへのしゃべりかけはJBぽかったかな(笑)。結局この手のbiopicは有名で個性が強いがゆえに似ている、似ていないが気になることは否めないと思います

M:JBは、声と話し方がそっくりですね。ダンスも見事でした。歌は結局オリジナル曲を使い、新たにレコーディングした曲は使われなかったようです。
歌の訛りが違っていたそうですが、その分生身のJBとして見てしまいました。

A:やはりある程度まで”そっくり演技”を求められるなかで、衣裳や髪型の力もあって違和感は感じさせない。それよりしかし身体性というのでしょうか、生き方のリズムのようなものを纏ってみせている気がしました。

(C)Universal Pictures(C)D Stevens
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A:ミュージシャンを題材にしたこれまでの映画でお気に入りはありますか? 逆にその手の映画に対する不満は?

M:アントン・コービン『コントロール』、『ゲンズブールと女たち』『ブライアン・ジョーンズ ストーンズから消えた男』。
『コントロール』は、詳しく知らなかったジョイ・ディビジョン=イアン・カーティスの素顔がよくわかり、すごく衝撃的でした。
映像も音楽も良かったし。
どの作品という事はないのですが、 ミュージシャンが生存していて、気を使いすぎる作品はどうかと思うときがありますね。

N:最近だと『きっと ここが帰る場所』は好きでした。ショーン・ペンはうまい。 あとは、『ブルース・ブラザース』『ハーダーゼイカム』『ラスト・ワルツ』とか?

T:デイヴィッド・バーンはいいですね。

M: 『きっと ここが帰る場所』は、キュアのロバート・スミスになりたい男の子が主人公でしたね。

A:ガス・ヴァン・サント『ラストデイズ』、トッド・ヘインズ『アイム・ノット・ゼア』『ベルベット・ゴールドマイン』。クリント・イーストウッド『ジャージー・ボーイズ』はフォー・シーズンズ題材のミュージカルの映画化でしたね。イーストウッドでは『バード』もあるし、やや強引にいえば『センチメンタル・アドベンチャー』も。
ジェームズ・マンゴールド『ウォーク・ザ・ライン』はジョニー・キャッシュとジューン・カーター、彼らの音楽そのものにものすごく興味があるわけではないけれど映画はとてもよかった。

M:『アイム・ノット・ゼア』は、色んなディランが出てきて、面白かったです。
グラムロック題材の『ベルベット・ゴールドマイン』とか、トッド・ヘインズは、音楽を本質的に知っている監督だと思います。

A:ずばり見所はどのあたりに?

N:ボビー・バードとの友情物語。

M:パリのライブシーン。オリジナル曲を使う事で、ライブシーンの存在感は圧倒的になっている。
もうひとつはJBファミリーのドラマ。
ボビー・バードと、ビッキー・アンダーソンは、レアグルーヴブームの先駆けとして、1988年に、JAZZY Bら、ロンドンのDJ達と一緒に来日し、芝浦のインクスティックで行ったLIVEを見ました。LIVEと言っても、バックはDJで、カラオケのようなものでした。
その時感じた若干の寂しさは、ラストの夫婦の生活シーンと、何となくつながってきます。
今改めてボビー・バードに、この映画がフォーカスしたことは、素晴らしいと思います。

A:有名なエピソードが幾つも描かれていますが、知っていたエピソードはありますか?
JBの描かれている人物像は、イメージしていた人物像と比べて、違いはありますか?人格、身なり、しゃべり方、色んな角度からお願いします。

N:10年位前に、文庫本で自伝を読んでいたので、けっこう知ってました。 自伝本よりこの映画の方が面白いです。
似ている似ていないの観点ではなく、今回の映画の主役として素晴らしいと思います。 実際はもっとクレイジーだったと思います。

T:JBはメンバーが失敗すると罰金をとるとか「Mr。James Brown」と呼ばなければならないといった絶対性に関することでしょうか。

M:真相は知らなかった乱射事件。
グループ内の細かい規律と、メイシオの脱退。
甲高い声と、すごく数字に細かい点。来日して「ベストヒットUSA」に出た時、公演回数など、すごく細かい数字を言っていた事をよく覚えています。

A:JBの最初に描かれる発砲と逃走劇のニュースを聞いたときは、驚きつつくなんだか、らしすぎて笑ってしまったように記憶しています。思い出したので入れておきますが『ゲロッパ!』って井筒監督の映画もありましたね。

M:サリー(岸部一徳)が、踊りますね(笑)。

A:劇中で使われている楽曲、JBは新たにレコーディングしたものが、訛りが違うなどの理由で没になり、JBのオリジナル曲が使われています。
劇中曲についての、印象をお知らせ下さい。

M:ライブシーンも多く、過去に映像を見たことのあるシーンもあった。オリジナルを使うことで、その再現性は高くなった。
マントショー、ホーンセクション、ダンスなど、重要なJBのアイコンが見事に再現され、観客のテンションもあがる。

T:限られた成功の前の何年間を描いたJIMIとは異なり、波瀾万丈な(笑)JBの人生を追う長尺ものは、やっぱりJBのオリジナルがあって持っているように思う。ちょっと話は変わるけれど、私はJIMIでも触れたけれど、イギリスの音楽センスや、深堀の仕方は面白いと思います。この辺は川野くんの領域でしょうが、後のレア・グルーヴのときも70年のセックスマシーンのあとのボビー・バード名義の『I know you got soul』とかPeopleレーベルとか掘っていましたよね。そういう玄人好みの感じがイギリスの音楽シーンにはありますよね。
ついでに言えばアシッド・ジャズのころ好きだったヤング・ディサイプルズのカーリーン・アンダーソンってバードとヴィッキー・アンダーソンの娘でしょ。

M:ヤング・ディサイプルズは、ジャイルス・ピーターソンが、JBの曲をレーベル名にしたTALKIN’ LOUDレーベルの最初のアーチストだから、象徴的ですよね。
カーリー・アンダーソンは格好良かったです。歌もうまいし。血統を感じます。

N:結果、実際の演奏をオリジナル曲にすることで、リアリティが増したと思います。
JBがきちんと評価されたのって、やはりHIP HOPや、レアグルーヴ以降ですよね。それまでは黒人が中心に聞く音楽だったように思います。
世界的に一番ヒットしたのは、1986年のロッキーの『LIVING IN AMERICA』ですから、かなり後期になりますよね。

T:後アフリカ・バンバータが、一緒にやってたね。

M:『UNITY』は、1984年。JBは70年代後半から、やや失速していたのが、この辺から再評価で、再浮上してきますね。

M:レアグルーヴブームの最大の貢献は、ボビー・バードのソロなど、眠っていた名曲にスポットライトを、世界的に当てたことだと思います。
JBの再評価という意味では、URBANレーベルがリミックスしたアルバム『In the Jungle Groove』が圧巻でした。

A:最後の質問です。
JBは、どのようなものを音楽シーンに刻んだと思いますか?

M:ファンキーソウルのファンデーション。
大所帯のファミリーで作り上げるグルーヴ。
極論すると、グルーヴそのものを、JBが作ったと思います。

N:JBは黒人である事を意識し続けて生きていたと思います。彼は黒人である事に誇りを持ち、尊敬される人間になることを目標に頑張っていたんでしょう。 音楽的にもジャンルをまたぐのとは逆のベクトルで、ブラック・ダンス・ミュージックを徹底追求することで進歩成長させ、ファンクという新たなグルーヴを確立した重要人物です。

T:音楽シーンに残したものはJBはやはりFUNKでしょうね。映画の中でメシオにお前の楽器は何かと聴くシーン、答えはホーンもギターもヴォーカルさえもバンド全体をドラムセットとする音楽。やはりこれはJBだし、唯一無二、そしてその後のブラックミュージックに面々と引き継がれる系譜となっている点でしょうか。

「ジェームス・ブラウン〜最高の魂(ソウル)を持つ男〜」
2015年5月30日シネクイントほか全国公開
配給:シンカ/パルコ