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高井戸のGiardino dal 1971

行くべき店や行ってみたいお店は数あれど、通いたくなるお店に巡り会えた時の嬉しさはまた格別なものがあります。今回ご紹介するジャルディーノ(Giardino dal 1971)はイタリアンなのですが、今まで食べ慣れたそれらとは一戦を画く、自分にとっては新たなジャンルと言ってもいいくらい新鮮な印象のお店です。

吉祥寺から京王井の頭線各駅停車で5つ目の高井戸。美味しい店がある印象のないこの駅から徒歩5分、交差する環状八号線から斜めの小道を入ってすぐのところにジャルディーノはあります。約10年間イタリアで修行したオーナー・シェフの太田さんは、北から南までイタリア各地を巡りながら、日本人である自分の華奢な身体に合った、重すぎない、毎日食べられる、身体に良い、本当に美味しい料理を探し求めてたどり着いたのが、イタリア半島中央のちょっと上に位置するマルケ州の、それも海沿いではない内陸は丘陵地区の農民料理だったそうです。
イタリアンにありがちな強い塩味でパンチを効かせるようなこともなく、高価で派手な食材に頼ることもせず、野菜や豆を多用する調理法は庶民的ですが、素材そのものの旨みやコクを最大限生かした滋味溢れる料理を、リーズナブルかつ小さなポーションで色々楽しく味わうことができるお店です。
肝心のワインですが、イタリアはもちろんのことフランスの美味しい生産者のものや、東欧のマイナーなものまで、自然派ワイン=ヴァン・ナチュールのライナップがかなり充実しており、毎回赤・白それぞれ5〜6本の中からグラスでもボトルでも快く注文に応じてくれます。その際にはどんなに忙しくても太田さん本人が、ボトルごとに、生産者、生産地、ブドウ品種、生産方法から、味、香り、印象など、一本一本時間をかけて丁寧に説明してくれます。また料理をサーヴする際も、その成り立ちや現地の食べ方など一皿ごとに教えてくれるのもイタリアの庶民文化が窺い知れてとても楽しみです。
以前このサイトでご紹介した、東松原のCHERRYもそうなのですが、このジャルディーノも料理からワイン・サーヴまでたった一人で切り盛りしています。美味しいのが一番ですが、料理と自然派ワインを心から愛し、妥協を許さず我が道を行っている彼らとの楽しいひとときは時間が経つのも忘れてつい飲みすぎてしまいます。派手さはなくマイペースなジャルディーノですが、また行きたくなるとても魅力的なお店です。

まずは、食事前にワインを選びながらつまむサービスの突き出し『パスタレッレ』をいただきました。決まった形はない焼き菓子だそうで、今回は小さなビスコットの形にして、つなぎに赤ワインを使っているので赤ワインに漬けて食べる方式で。イタリアではおじいちゃん達の大好物だそう。

今回選んだワインは『ブレッサン カラット2011』
濃い色のしっかりした白。ヴァン・ナチュールの割に時間が経ったボトルですが、見た目の印象以上に果実味が残っているのは良いブドウを使っている証拠。時が経つとワインとは思えないスモーキーな感じも出てきて時間ごとに変化を楽しめます。魚介類以外ならオールマイティに負けません。

毎回行くたびに必ず頼んでしまう前菜『ブッロ・エ・アリーチ』ちょうどいい大きさにカットしたホカッチャの上に独自の製法で作ったアンチョビと発酵バターを乗せたおつまみ。癖になります。

『ホウレン草とグラナパダーノチーズのサラダ ミルフィーユ仕立て』
一見グリーン鮮やかなただのサラダですが、食べてみるとホウレン草とチーズが確かな層になっていて口の中でミルフィーユ状態になります。上に乗ったレモンの皮とホウレン草の組み合わせが新鮮です。

こちらもサービスで出してくれた『トルタ』
本来はジャガイモを擦ってお焼きのように焼くところを、日本ですし旬なので出汁で下ゆでした里芋で作り、上に柚子を乗せたとのこと。レンズ豆のピュレ、自家製の酸味のあるチーズ、チャービルと一緒に。

『モルタデッラソーセージをのせたポテトサラダを北海道産山わさびと共に』
薄切りのソーセージの下には潰していないポテトサラダが敷かれています。すりおろした白い山わさびが不思議とイタリアンらしさを助長しています。

『京菜の温かいサラダをポテトピュレとアンチョビパン粉と共に』
シェアしづらい料理を頼んだ場合、ここでは量を半分にして2皿に分けてサーヴしてくれます。アンチョビのコクと塩味が効いたパン粉が香ばしい、日本の京菜でアレンジしたスプーンで食べる温かいサラダ。

『豚のカシラ肉とフキの煮込み”スペッツァティーノ”』
豚と野菜を少しのトマトで煮込む料理だそうですが、今回はオリジナルアレンジでフキを使ってみたとのこと。フキがまるでルバーブのようで意外と洋風煮込みと合っているのと、フキ独得の歯ごたえが心地よい一品です。

『イタリア風ミートボール”ポルペッティーネ”とホウレン草の煮込み”イン・ズィミーノ”風』
こちらも素朴な煮込み料理。肉の風味と野菜の旨みを楽しめます。

『自家製ソーセージ”サルシッチャ”』
今まで色々なところでサルシッチャは食べてきたつもりですが、ここのはまた格別です。バラ肉と肩ロースを塩と胡椒でシンプルに味付けしてワインで軽く風味付けしただけとの事ですが、何か他に入れてるんじゃないの?と疑いたくなると美味さです。付け合わせのレンズ豆もいい。

『月曜日のラザニア』
名前の由来は、日曜日の食べ残しを月曜日に食べるイタリアの古い習慣から。あえて出来たてでない温め直したラザニアです。パスタは柔らかめですがソースとの一体感は作り置きの方が美味しいのかもしれません。

『メレンゲのお菓子、チャンベローネ、カスタローネの3点盛り』
奥のピンクのお菓子がカスタローネ。粉を練ってニョッキのように一度茹でることで、生麩菓子のような独特の弾力を持たせたものを、ズッパイングレーゼにも用いるピンクのリキュール、アルケルメスと砂糖で甘く着色しています。太田さんによると今の時季(2月)イタリアはカーニヴァルのシーズンで、カスタローネはお祭りの際に作るイタリアを代表する庶民的なお菓子の一つだそうです。

『ホワイトチョコとヨーグルトのクリームをカカオのビスケット、フローズンラズベリーと共に』
こちらもいつも最後に頼んでしまう定番のデザート。写真は1人前を2つに分けてサーヴしてもらったものです。

手前の3本は、最初のボトルが7番目の皿で空になったのでその後2人で3種をグラスで1杯ずつ飲んだ赤ワインたち。後ろで料理を作っているのが、オーナーシェフの太田さん。
いつものように食後酒もしっかりいただき、いつものように千鳥足でごちそうさまのご挨拶。また来ます。

Giardino dal 1971
TEL 03-5941-8546

Sartoriaスーツの気分ーDalcuoreの気分 グレンプレイド・ダブルブレステッド・スーツ

明けましておめでとうございます。私どもLe Cercle Rougeのサイトをいつもご覧頂頂きありがとうございます。本年も『赤い輪』の中にいる友人たちと、それぞれの偏った趣味嗜好を反映したゆるいくくりの中で、それぞれが深堀りを続けたいと思っております。

さて、私はしばらく投稿から離れておりましたが、スーツのオーダー時、そして仮縫い、仕上がりという1年の中で決まってきたタイミングに合わせて、今年も私の中でのスタイル感を表現できればと思います。

今回は2016年2月のダルクオーレのオーダー会で発注し、8月の仮縫いを経て、12月に仕上がったスーツを通してオーダー当時や今の『スーツの気分』を書きたいと思います。

2016年2月のサルトリアスーツの気分満載のダブルブレステッドスーツ。

昨年2月のオーダー時に自分の中にあったのは『英国的な』色合いを強めた『仕立て屋のスーツ』というテーマです。続けて投稿を読んでいただいている方には、カジュアル化の対極としてのスーツの気分はお伝えしてきましたが、今回はよりクラシックに、よりスーツ本来の美しさを取り戻すべく、ジジ(ダルクオーレ)と話しながら作りました。

まずは生地選び。オーダー時にRTWのダルクオーレの茶色のグレンプレイドを着ていきましたが、今回は初めからオーセンティックな英国的なグレンプレイド、それもここ数年自分の中で突き進んでいるストイックなスタイリングの延長としてモノトーンと決めていました。もう少し着用時期が長いウエイトの軽いものも考えましたが、ジジはFOX BROSがまちがいないとこの仕立て栄えのするウエイトのあるものを選択。ダブルブレストで仕立てることとしました。

 

ダルクオーレの気分を反映したgiro aperto

袖付けは最近ジジが気に入っていて、サルトリアスーツの新興市場である中国やアジアの独特のレトロ感のあるスーツスタイリングの仕立てでも多用しているジーロアベルトにするとのこと。今まで仕立てたものとの比較でも、肩がちょっと落ちた感じで、前作のピークドシングルスーツの攻めた感じとは違うリラックス感、男らしい肩幅を感じます。

 

ダルクオーレの気分、サルトリアな低めのゴージ

ラペルも同様にゴージを下げ、クラシックな感じにしようと仮縫い時に提案されました。前の合わせも以前に仕立てたダブルブレステッドに比べて重心が低い感じに仕上がりました。(6ボタンの一番下のボタン一つがけでも別の着方ができそうなバランス)

世界を飛び回っていろいろなオーダーを受ける中、ジジもちょっとづつ彼の気分を仕立てに反映させ変化しているように感じます。

 

私の気分、英国的なチェンジポケット

ディーテールでの『英国感』はチェンジポケット、サイドベント仕様で。オーダー時には1950年代のナポリスタイルでダブルでノーベントでいこう、とジジに提案され迷いましたが、英国スーツへのオマージュというテーマを優先させました。

ダルクオーレと私の共通した気分、ツゥープリーツ、ベルトレス

パンツは前回のオーダーのワンプリーツからさらにツゥープリーツで腰まわり、わたりにゆとりを持たせました。ツゥープリーツで、とお願いしたときのジジの我が意を得たりといううれしそうな笑顔は、きっとタイトフィッティングへの極端な振れの後で、仕立て屋として考えるスーツとしてのあるべき美しさへの揺り戻しを喜んでいるのだと感じました。

サルトリアスーツの気分、パンツの仕様

私としても股上の深いパンツをプレイシーズで前が落ちないようにつって着る中で改めてクリースの見え方の美しさに、仕立て屋のスーツを感じました。

全体としては、もちろんアームホールの攻め具合や英国のビースポークではやはり実現しにくいジャケットのコンパクトさを持ちつつ、タイトフィッティングから一線を画する適度なリラックス感と男らしさを感じる英国的なナポリメイドのスーツ(正にそれが私の今のスーツの気分)となりました。

次は昨年8月にオーダーしたアイリシュリネンのネイビースーツ。2月の仮縫い時に投稿できればと思います。(大身返しにして裏地はまったくなし!ジジは袖も裏地なしの提案でしたから、楽しみ半分、心配半分が正直なところですが)