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DURAN DURAN ×DAVID LYNCH/エレファントマンと美しき獲物たちの対決

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80年代初期にニューロマンティックムーヴメントの旗手として一世を風靡したヴィサージュのスティーヴ・ストレンジが、今年の2月心筋梗塞で亡くなった。
彼の葬儀の様子は海外のサイトで見る事が出来るが、ボーイ・ジョージやスパンダー・バレエ、ABCのメンバーによって出棺されるシーンは、時代の変遷と、時間の経過を強く感じさせられるものであった。
彼の逝去に対して、デュラン・デュランのボーカルのサイモン・ル・ボンがツイートで、「我々の友人スティーヴン・ストレンジが今日、エジプトで亡くなったことを発表しなければならないのはとても悲しい。彼はニューロマンティックの最先端だった。彼に神のご加護を」と冥福を祈っていた。
デュラン・デュランは、80年代初期には、同じニューロマンティックムーヴメントの一員として語られる事が多かったグループである。スティーヴ・ストレンジの追悼コメントを見て、スティーヴがオーガナイズしていたクラブBLITSへの出演などで、同時代を担った彼らの関係性の深さも、改めて再認識をすることが出来た。
ただクラブカルチャーやファッションに軸足を置いていたスティーブ・ストレンジやアダム・アントと、メインストリームでの成功を目指していたデュラン・デュラン(以下D²)の軌跡は、結果的に大きく違うものとなった。


80年代初期は第2次ブリティッシュ・インヴェイジョンと呼ばれ、カルチャー・クラブなど多くのアーティストが、米国のヒットチャートにも登場したが、その中で最も大きなコマーシャルな成功を収めたのがD²である。
メンバーのルックスの良さも手伝ってD²は、ニューロマンティックという特殊なジャンルを抜け出し、よりアイドル的な存在として、世界的なポップスターに駆け上がって行った。

今回ご紹介するのは、ニューロマンティックシーンからキャリアをスタートさせたD²と、カルト作品を作り続けてきたデビット・リンチがコラボレーションして制作されたLIVE映像『UNSTAGED』の劇場公開版である。
映像自体は2011年LAマヤシアターのLIVEで、少し時間が経過しているが、全く色あせたものではない。これはAMEXがスポンサードしているLIVEストリーミングのシリーズで、『UNSTAGED』というタイトルになっている。
LIVEを著名監督が撮影しながら加工し、ストリーミング配信するいう贅沢な企画をしたのは、イベントがメインのエージェンシーモメンタム。
最近は日本でもパフュームが、サンフランシスコから、プロジェクションマッピングを使ったストリーミングライブ配信を行ったが、これは4年も早い企画である。
監督としてスパイク・リー、テリー・ギリアム、スティーブ・ブシェミ(!)、アントン・コービンなどが、コールド・プレイ、ジャック・ホワイトなどのミュージシャンとコラボレーションしている。
アントン・コービンが撮ったコールドプレイなどは、是非とも見てみたい作品である。

そのラインアップの中でも、最も意外で贅沢なコラボレーションが、このデビット・リンチ×デュラン・デュランであろう。
全く関係が無さそうな二人だが、リンチの『エレファントマン』の制作が1980年なので、両者はほぼ同時期に世界的にブレイクしたことになる。

リンチについては、ここで詳しく紹介するまでもないだろうが、個人的な印象についてのみ触れておく。
僕自身は、海外で2回程リンチ本人が参加する映画祭に居合わせたことがある。
最初はサンダンス映画祭での『ロスト ハイウェイ』ワールドプレミア上映。
デビット・ボウイやイギー・ポップの曲と共に、深夜を駆け巡るこの強烈で難解な作品を持ってきたリンチは、アメリカのプレスに対して非常に無愛想であり、サンダンスでは恒例の上映後のQ&Aも無しであった。
2回目は、数年前のベルリン映画祭。この時は話す機会もあったが、日本人に対しては、ゆっくりとした英語で優しく話し、とてもジェントルマンであった。
今では当たり前だが、当時は先駆者的だったデジタル撮影の経済的時間的効果や、難解と思える自己の作品の解釈の仕方についても、ジグゾーパズルを例にして、丁寧に話しをしてくれる姿は、サンダンスで見た姿とは全く違うものであった。

リンチ自身も音楽活動として、テクノ寄りのアルバムを作っているが、『ブルーベルベット』『ワイルド・アット・ハート』『インランド・エンパイヤ』などの作品では、音楽とのシナジーを重要な演出に使っている。
その音楽の使い方も、アヴァンギャルドな曲だけではなく、コマーシャルな楽曲も時には巧みに取り入れており(『インランド・エンパイヤ』の『ロコモーション』など)、音楽の使い方がとてもうまい監督と言えるだろう。

この『UNSTAGED』で興味があったのは、一環してカルトヒーロー的な道を歩んできたリンチが、D²というメジャーなポップスターをどう料理するのかという点であった。
D²もデビュー当時は人気が出過ぎて、アイドル的な扱いになり、軽いイメージがあるが、実はしっかりと計算をしている連中であった。
初来日の際のインタビューでは、「何故ダンスミュージックをやるのか?」という質問に対して、サイモン・ル・ボンが、「自分達をブレイクさせる為には、ダンスが一番手っ取り早い。その中で、自分達の表現したい事をやるんだ」という客観的で明確な回答をしていた。
またグラマラスなビジュアルを重視するスタイルからは、バンド名の由来となったSF映画『バーバレラ』や、ロクシー・ミュージックなどグラムの影響が色濃く感じられる。

SUB8

全米で大ヒットした『リフレックス』では、一早くナイル・ロジャースにリミックスを依頼し、当時はマイノリティな存在だったリミックス盤も大ブレイクさせる戦略を展開している。
また別ユニットでの活動も熱心で、ロバート・パーマーとジョン・テイラー、アンディ・テイラーが組んだパワーステーションでは、見事なファンクサウンドを創り出している。
D²が世界的に大ブレイクした理由は、元祖ビジュアル系ともいえるメンバーのルックスだけではなく、覚えやすいメロディーライン、いち早くクラブサウンドを取り込んだサウンドデザインに、サイモン・ル・ボンの歌唱力含め、しっかりとしたミュージシャンとしての力量を掛け合わせたプロデュース力だと思う。

そういう冷静なプロデュース力が、007シリーズに楽曲を提供するメジャーまで上ぼりつめ、今日までグループとして続いている一因だと思う。
今回のリンチとのコラボレーションと相通じる部分があるが、素材になりきるというスタンスを、割り切って取れる連中なのである。
彼らが映像の魔術師とも言えるリンチの演出を、どう受け止めるのか、観る前から非常に楽しみであった。

前置きが長くなったが、この『UNSATAGED』について。
僕はD²の熱心なファンではないので、フルlive映像を見るのは実は初めてだ。
幾つかのヒット曲は、多分聴くのも20年ぶり位で、最近のD²の活動状況もよく知らない状態であった。唯一サイモン・ル・ボンが、SYN PRODUCTIONという映像プロダクションを日本で活動させており、仕事でその会社とは一時期付き合いがあり、たまにサイモンが来日しているという話を聞く程度である。
そんな状況で、久々のD²だったが、昔と大きな印象の違いはなかった。
メンバーは残念ながらギターのアンディ・ティラーは、脱退している状態だった。
フロントマンのサイモン・ル・ボンは、やや太めになり、ジョージ・マイケルのようにも見えた。日本で一番人気だったジョン・テイラーは、渋くなって格好良い。
元祖ビジュアル系のニック・ローズは、小室哲哉のような風貌でキーボードを弾いている。
ドラムスのロジャー・テイラーは、これも渋くなり、ロマン・ポランスキーのような雰囲気を醸し出していた。
最近よく見かける再結成グループとは違う”現役感”をキープしたメンバーである。

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演奏楽曲は、何故か全米大ヒットの『リフレックス』は演奏されなかったが、お馴染みのヒット曲と新曲がバランスよく並べられている。
ゲストも次々に登場する。
日本でも大ブレイクした『プラネット・アース』ではジェラルド・ウェイが、楽しげにサイモン・ル・ボンと掛け合いで唄い、ゴシップの巨漢女性シンガー、ベス・ディットーは、「ぶち壊しに来た」と強烈な個性を見せながら、ヒット曲『ノートリアス』を熱唱。
終盤にはライブ前に亡くなったジョン・バリーを追悼し、『 007/美しき獲物たち』にジェームス・ボンドメドレーが盛り込まれるなど、盛り沢山の構成になっている。

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このLIVE映像にかぶさってくるリンチの演出は、意外に歌詞に忠実だったりする。『プラネット・アース』では地球の映像に雨、『ハングリー・ライク・ザ・ウルフ』では、狼のヘタウマな絵が登場する。
さらに魔術師のように色を操りながら、随所にリンチらしいフッテージ=人形などが、次々に差し込まれていき、リンチワールドが、ポップなD²の曲に乗って展開されていく。
全編を通じて感じたのは、すごくリンチが楽しみながら、演出をしている空気である。
ベルリンで会った際に、なかなか製作資金が集まらないような話をしていたが、リンチ自身も、『インランド・エンパイヤ』以降長編映画の新作は撮っていない。
近年は絵や音楽など、本業以外でのアーティスト活動が多いリンチだけに、この仕事でストレスを発散しているのではないかと思える程、自由奔放に演出をしているのだ。
最新のニュースでは『ツイン・ピークス』新作も暗礁に乗り上げているようなので、彼の潜伏期間の活動記録としてとらえてみるのも面白い。

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上映時間は112分。LAのLIVEがフルパッケージで、劇場で見れるこの作品は、当然のことながら往年のD²ファンには必見である。
聞きなれたメロディに、テンションの上がってくるLIVEパフォーマンスに、リンチの映像が絡んでくるこの『UNSTAGED』は、D²ファンにはたまらない2時間となるだろう。
もちろんD²ファンだけではなく、リンチファンにも是非見て頂きたい映画である。
リンチが楽しみながら演出をしている分、D²ファンでなくても、十分に楽しめる作品になっている。

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セルクルルージュでは、この春公開作品の中から、『デュラン・デュラン:アンステージド』に続いて、ジミ・ヘンドリックスの伝記映画『JIMI:栄光への軌跡』と、ジェームス・ブラウンを描いた『ジェームス・ブラウン 最高の魂を持つ男』と、3本連続で音楽映画を取り上げる予定ですので、是非ご期待下さい。

『デュラン・デュラン:アンステージド』
4月17(金)より、TOHOシネマズ新宿ほかにて全国公開
新宿歌舞伎町コマ劇場跡地に出来るTOHOシネマズ新宿の杮落し上映の一つになるので、是非最新の劇場で、リンチワールドを満喫して頂きたい。

Mick Haggerty ー 新しい世界への扉として

David Bowie  "Tonight"  1984  Art Direction,Design by Mick Haggerty
David Bowie “Tonight” 1984 Art Direction,Design by Mick Haggerty

私たちが人生を生きていく中で、その人との出会いにより新しい世界への扉(doors)が開かれ、次元が変わるような体験やつながりがもたらされることがあるように思います。 私や私のセルクルルージュの仲間にとって,Mick Haggerty(ミック・ハガティー)との1983年、とても寒い年の瀬の東京での出会いはまさにそんな体験だったといえます。

Kid Creole&the Coconutsの東京公演の後のパーティ—が、当時The Coconutsのアルバムジャケットを手がけたつながりからその場にいたであろうMickと私たちとの初めての出会いの場だったと記憶しています。長身に光沢のあるブルーのスーツを纏い、低いトーンでクールに話す第一印象は、ダリル・ホールのようなミュージシャン的な格好の良さだったのを覚えています。

Mick Haggerty(ミック・ハガティー)はロンドン生まれのアートディレクター、デザイナー、ヴィデオアーティストでありLAに渡り、私たちが30x30のサイズのアートワークに音楽そのものと同様の意味を見出していた時代に多くの印象深いアートワークを手がけています。

The Police "Ghost In the Machine"1981 Art Direction,Artwork,Design by Mick Haggerty
The Police “Ghost In the Machine”1981 Art Direction,Artwork,Design by Mick Haggerty

Mickに何をしているのかを聞いたときに、アルバムのアートワークの話になり、その時初めにMickが口にしたのが上のPoliceのデジタルなイメージのアルバムジャケットだったと思います。Policeのシンクロニシティーではないけれど、その後,セルクルルージュの川野がジャマイカ行き経由地だったLAの古着屋で偶然遭遇したりと、私たちはMickに不思議な縁を感じセルクルルージュ(赤い輪)の中にいる尊敬する友人だと感じています。

当時は今のようにWebでいろいろなことがすぐ検索できない中、Mickの名前で行き着いたのは”Breakfast in America”で1979年のグラミー賞ベストアルバムパッケージをMick Doudとともに受賞したという記事でした。

Supertramp "Breakfast in America" 1979 Art Direction,Cover Design,Original Design Concept by Mick Haggerty
Supertramp “Breakfast in America” 1979 Art Direction,Cover Design,Original Design Concept by Mick Haggerty

同様に私たちが会った1983年にもグラミー賞のベストアルバムパッケージでThe Go-Go’sの”Vacations”でノミネートされています。

The Go-GO's "Vacation"1982 Art Direction,Design,Photography by Mick Haggerty
The Go-GO’s “Vacation”1982 Art Direction,Design,Photography by Mick Haggerty

英国人のみたKitsch&Americana的な意味も感じられるアルバムカバーがバンドの音楽のイメージを大きく膨らませているのが理解いただけるでしょう。

そして言わずもがなのこちら

David Bowie "Let's Dnce" 1983,Cover Art,Design,Logo,Package Design,Photography  by Mick Haggerty
David Bowie “Let’s Dance” 1983,Cover Art,Design,Logo,Package Design,Photography by Mick Haggerty

Nile Rogersとともにアメリカ制覇を狙ったようなDavid Bowieのこのアルバム。まさにメインストリームへの殴りこみといった象徴的なジャケットとなっています。

 

Kid Creole軍団が去った後も、東京の知人の青山の小さなスタジオを住まいにして残ったMickとは、麻布の華園で食事をしたり、バブリングダブでお酒を飲んだり、モンクベリーズに踊りにいったり、HALバーでchill outしたりと、短い時間に密度を持って会い、語り合いました。大晦日はピテカンで、正月は明治神宮や浅草でといった具合にです。

そんな彼を訪ねてNYにいった1984年の夏に、まだホカホカな状態でもらったのが冒頭の”Tonight”の試し刷り。ステンドグラスを思い起こさせる背景について宗教性の表現といった話をしたのを覚えています。

その他にも

Public Image Ltd "9" 1989  Art Direction,Design by Mick Haggerty
Public Image Ltd “9” 1989 Art Direction,Design by Mick Haggerty
Jimi Hendrix "kiss the Sky" 1984  Art Direction,Cover Design by MIck Haggerty
Jimi Hendrix “kiss the Sky” 1984 Art Direction,Cover Design by Mick Haggerty

といった私たちセルクルルージュ的にも大好きなアーティストを数多く手がけています。

(ちなみにセルクルルージュでは今春封切り予定のJimi Hendrixの伝記映画”Jimi:栄光への軌跡”を近日シネマディスカッションで取り上げる予定です。ご期待ください。)

 

ファミリーで南アフリカに移り住んだMickとはここ数年会ってはいませんが、毎年あの1983年にあった季節になるとお互いその時の共有した特別な時間や空気感を思い出し連絡を取り合います。

クリスマス時期に、寒い六本木の裏道を歩きながら交わしたこんな会話を私は鮮明に覚えています。「特定の神を信じているかい?」「特定な神は信じていない。だけど”宇宙意識”的(mind at large)なものは信じているよ。」

そしてハクスレーではないけれど、私たちが幼い頃から何より好きで聞いていた音楽やそのアーティストが単なる憧れでなく、Mickという扉(Doors)により、より自分たちに繋がったものなり、今の自分たちの在り方が確立される契機になったと信じています。

そして、そんなMickが近日セルクルルージュのMIXCLOUDに参戦する予定です。そちらも是非お楽しみに!

 

彼のアルバムジャケットの映像やそれらに関わるインタビューは、こちらのサイトを参照しました。

いくつかのアルバムジャケットの映像と、クレジットはこちらのサイトを参照しました。

フルタイムのfine-artistとしての活動も彼自身のサイトでチェックしてみてください。