ここ何年か、東京でも自然派ワイン=ヴァン・ナチュールを主役に、それらと相性のいいフレンチを食べさせてくれる個性的なビストロが続々と登場しています。ヴァン・ナチュールは二日酔いしづらいのをいいことに、その手のビストロをいろいろ巡った中でも、おいしい時間をゆっくりと楽しむことができるこの店は場所柄からか、まだ知る人ぞ知る穴場的存在です。
吉祥寺と渋谷を結ぶ京王井の頭線の急行が止まらない駅の中でも、最も知名度の低い駅の一つであろう東松原。この駅から数分のところに、控えめに佇む本格フレンチ・ビストロが今回ご紹介するCHERRYです。
10人ちょっとで満席になるカウンター中心の店は、オーナー・シェフの今井さんが料理・デザートからワイン・サーヴまで、全てをひとりで切り盛りしています。
ボトルはもちろんの事、日替わりで赤・白それぞれ3〜5種のヴァン・ナチュールをバイ・ザ・グラスで提供しており、リーズナブルな価格ながら個々の違いを味わえる心にくいセレクトは毎回楽しみのひとつです。
また仕込みも大変であろう、こちらも日替わりで20種以上を揃えた料理の中には、挑発的なメニューもあってセンスを感じます。どれもプロフェッショナルの丁寧な仕事が施されている料理を、こちらの進み具合に合わせて供してくれる手際の良さに、今までの修行の跡もしっかりと見て取れます。
夜のBGMはセルジュ・ゲンスブールやトム・ウェイツも。とあるランチタイムのBGMはジョニ・ミッチェル(CHERRYはランチも手が込んでいてどれも美味しい)。大きすぎないヴォリュームで趣味のいい選曲も心地よく、つい長居してしまいます。
東松原まで出向く価値のあるお店です。
菜の花とトマトのサラダ
季節の野菜を使ったオーソドックスなサラダですが、菜の花の火の通し方はもちろん、絶妙のバランスと味付けです。こういう奇をてらわないメニューがおいしいお店は安心できます。
山形豚の生ハム風グリーンサラダ
自家製のハムはもちろん、その下のグリーンサラダにはふわっとした芽キャベツのようなプチベールも隠れていて、歯ごたえ、味ともにいいアクセントを加えています。
温泉卵とラタトウイユ
だいたいラタトウイユはさっぱりして浅い味のものが多い中、ここのそれはコクもある上に温泉卵も加わって、思わずスプーンですくって残さず食べたくなるほど。
鯖のタルト
鯖とジャガイモは他店でもたまに目にする間違いのない組合せですが、それをキッシュに仕立てたものは食べた事がありませんでした。鯖の旨味が広がりながら独特の臭みなど一切ない香ばしい風味は白ワインとの相性も抜群です。
ホタルイカのエクレア
CHERRYではパンも自家製でおいしいのですが、オードブル用にエクレアやミニクロワッサンも自分で焼いています。この見た目も楽しいエクレアの生地にはイカスミを練り込んであります。意外にシソの葉が効いているリピート必至の一皿。
カキのブリニ
マッシュポテト入りのふわふわパンケーキにカキと下仁田ネギのグリルを忍ばせ、一番下には白ワインを煮詰めて仕上げに生クリームを加えた、コクのある魅力的なソースを敷いてあります。
豚血のソテーと大根
こちらも他店では見た事がない、表面を香ばしくカリカリに焼き上げた濃厚なブータン・ノワール(血のソーセージ)と、厚くカットしてジューシーに煮込まれた大根を重ねた一皿。想像するよりもフワッとさっぱりいただける取り合わせの妙。
蝦夷鹿のビストックと新玉ねぎのロースト
赤ワインとのマリアージュが至福のジビエ料理。つなぎを使わない肉肉しい蝦夷鹿のハンバーグの下に、トロトロになるまで甘くローストした玉ねぎを合わせています。
ここまで来て酔っていたのか、画像がボケていてすいません。デザートは、タルトタタンとベークドチーズケーキを注文。特に写真のタルトタタンは見た目も味も間違いなく正統派の一品で、じっくりとキャラメリゼされた濃厚なリンゴが、柔らかさの中にかすかな歯ごたえを残した絶妙なタイミングで仕上げられていました。
この日飲んだ中で一番好きだったアルザスの白
“ ドメーヌ・ジュリアン・メイエ ピノ・グリ 2012 ”
後ろに写り込んでいるのが、オーナー・シェフの今井さん。
ぜんぶ美味しかったです。
ごちそうさまでした。
CHERRY
TEL 03-3321-8899