永遠に続くと思えた夏に終わりが来て、その時抱く憤りにも似た思いもそろそろ日焼けとともにうっすらとさめてきたような今日この頃。秋の深まりを感じつつ見てみたいのが、1977年生まれ、もう若くはない(その微妙に中途半端な年頃ならではの味わいがいい)フランス映画の新鋭ギヨーム・ブラック監督の2本だ。 併映される25分の短編「遭難者」と58分の中編「女っ気なし」の舞台はどちらもフランス北部の小さな港町オルト。パリから列車で行けるという地の利もあってかつてはヴァカンスの地として人気を博した町も、今や寂れて土地っ子は「土曜の夜は自殺したくなる」と嘆く。そんな退屈まみれの町のうらぶれ感と北の光と海のやわらかさ、さらにはそこに住むバーの主人やマダム、パン屋の老婆等が提供する”物語”をもさらりと取り込み味方につけて監督ブラックは、出会いと別れなどといってしまったのでは大仰すぎる人の縁をおかしくて、懐かしく、やがてつんと鼻の奥に突き上げてくる親密な時空にすくいとる。 寂しい海岸の町がいっそう寂しい季節外れにパリから自転車でやって来たサイクリスト。パンクしたバイクを脇道に投げ捨てて甘いマスクの下に蠢く冬の海みたいなその心を素早く切りとる「遭難者」は、彼にふわりと助けの手を差し延べる土地っ子シルヴァンと、素早く一線を引くパリの青年とのずれつつ近づく奇妙な一夜をぽそりぽそりと語ってみせる。 同じシルヴァンが夏の終わりの海岸にやってきたヴァカンスの母娘と同様にすれ違いながら近づいて、互いの寂しさをふっと融かし合う「女っ気なし」。エリック・ロメールやジャック・ロジェのヴァカンス映画と比較された軽やかな端正さと、ちょっとオタクな昨今のアメリカン・コメディとが交わる地点で映画への愛ばかりでない何か――人という存在への眼を感じさせて、ちくりと胸を打つ才人の登場だ。 11月2日(土)より渋谷ユーロペースほか全国順次公開 公式ページ 「遭難者」「女っ気なし」 *「遭難者」「女っ気なし」はセルクル・ルージュ メンバーによる映画座談会第一弾でも取り上げ近日アップの予定です。ご期待ください。