PHISH NEW YEARS RUN 2013 at MSG NY

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すでに去年のことになってしまったのだが、、、

2013年も残り一週間足らず、世間はお正月を迎える準備でざわつく12/26の朝、高揚する気持ちを押さえながらアメリカはNYに向けて一人家を出た。約10年ぶりにロックバンドPHISHに逢いに行くためだ。今回はマンハッタンにあるNBAの名門チーム、ニューヨーク・ニックスのホームで、ロックミュージックとプロレスの聖地でもあるマディソン・スクウェア・ガーデンで12/28~12/31の4日間公演New Years Runだ。彼らのマディソン・スクウェア・ガーデンでの公演は今回の4公演を含めると計31回になる。ちなみに僕自身のPHISH体験は今回で計46回だ(46 days!)。

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PHISHは間違いなく、アメリカを代表するLive Rock Bandと言える。しかし長いキャリアのわりにこれと言ったヒット曲があるわけでもなく、日本での知名度はほとんど無いに等しいのだが、1999年フジロック・フェスティバルでは、3日間毎晩3時間以上の演奏を許された唯一のバンドでもある。

PHISHと書いて「フィッシュ」と読む。ファンの間ではFriendをPhriend、ForeverをPhoeverなど、[ F ]を[ Ph ]に置き換える事がお気に入りの遊びになっており、もちろんファンはPhansとも表記される。

先月の12月2日でデビューから30周年を迎えたこのバンドは、オリジナル301曲、カバー約350曲(1/4/2014現在)という膨大なレパートリーから毎晩違う選曲と演奏で僕たちを宇宙の果てまで魅了してくれる。

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メディアの売り上げではなく主にライヴでの収入で稼ぐバンド(Jam Band)の代表格であり、キャパ10,000~30,000人の会場を毎回Sold Outにしながら、2013年は夏と秋の米国内ツアーと、今回のマディソン・スクウェア・ガーデンでのNew Years Runを合わせて年間で41公演(これは例年と比べて少ない公演数)を行った。

何より彼らの最大の魅力は即興のJamにある。一言にJamと言っても美しいアンビエントからヘビーなメタルサウンドまでその夜その曲がどんなJamにつながるかは誰も予想出来ない。たぶんメンバー本人達も事前に何も決めていないし、彼らのステージにセットリストは存在しない、選曲もその場で即興だ。ファンの間でBig Jam Songと呼ばれるいくつかの曲は、メロディーや曲そのものの魅力よりその後に続くJamが毎回とんでもない事になるのが人気の理由だ。

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このバンドは一晩(1公演)観ただけでは何も判断出来ない。本人達の調子の良し悪しでその夜のクオリティに雲泥の差が生じるからだ。そうアタリ・ハズレのあるバンドなのだ。もちろん、この前の秋の東海岸ツアーのように12公演の殆どがグレートな時もある。だからファンは可能な限り彼らを追いかける。いつか体験した、他のバンドでは得る事のできない驚くべき演奏と感動をまた目の当たりにしたくて。

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さてそんな中毒性のあるモンスター・バンド、PHISHのNew Years Run 4日間は本当に素晴らしいものだった。自身が9年半ぶり海外でのライヴ体験という喜びと相まってまさに感動の極み。あっという間の4公演だった。4回中3回がGA (日本で言うところの立ち見アリーナ・ゾーン)で、それもすべてステージ寄りのWest GAという一生に一度あるかないかの幸運にも恵まれた(チケットを譲って頂いたみなさまに大感謝)。

初日12/28は様子見でWest GAの最後尾・真ん中からのヴューだったが、それでもステージまで約50〜60mの近さ。PHISHの大きな魅力の一つであるカラフルで変幻自在の照明を堪能するにはこの位置がいい。初日とは思えないテンションの高さと熱の入った演奏にノックアウト。Tweezer最高、Steamに降参。

ステージ左サイドのスタンド良席(sec115 row12)からの2日目、12/29のSet2は曲数も6曲と少なく(ということは1曲1曲が長いという事)、DarkでDeepなJamは僕らが理想とする彼らのベストプレイの一つだった。一曲目のDown with Diseaseは必聴。ファンの間でもこの日をフェイバリットに上げる人が多く、まさにアメイジング。

3日目12/30はWest GAでも初日より前の方に挑戦。ステージから9〜10列目の真ん中はPAとの位置関係が絶妙で、大音量かつクリアなサウンドが天から降り注いでくる感覚を楽しんだ。もちろん、演奏も鬼気迫るすばらしい内容。アンコールでSlave to the Traffic Lightを持って来るとは。。ちなみに今回ここまでPHISHは一切カバー曲を演奏していない。この4日間はデビュー30周年を記念して、すべてオリジナル曲だけで構成するつもりらしい。

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最終日で大晦日New Year Eveの12/31も、前から7~8番目のど真ん中という絶好のポジションで、カウントダウンの瞬間はPHISHが演奏するAuld Lang Syne (蛍の光。厳密に言うとこれはカバー曲)をBGMに、夢にまで見た大量バルーンの雨あられに歓喜した。

PHISHのShowは通常2セット構成なのだが、毎年12/31はカウントダウンの関係で3セット構成になる。Set 1とSet 2の間の最初のセットブレイク(休憩時間)中、会場で上映されたSpecial VTRからシンクロしてGAフロア(アリーナ)中央に登場した、トラックを模した特設ミニステージ(おかげでこのセットだけはステージから少し遠くなったけど)では、近年めったに演奏しなくなった初期レア曲を披露。なんと9曲中6曲がGamehendge Song。また、この夜のセットブレイクのBGMはすべて彼らのデビュー年1983年にリリースされたDance Music Only。しょっぱながEddy GrantのElectric Avenueで会場もDisco状態。そこから踊らされ続けて全然休ませてくれない。カウントダウン後の1曲目は最近発表した新曲中最も支持が多かったすでに名曲のFuegoで会場は大爆発。最初から最後まで大ネタ小ネタ満載のとにかく30周年にふさわしいすべてがスペシャルな夜だった。

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ところで、今回のNYRを見に行く事が出来たのは、昔PHISHを一緒に追いかけたアメリカの親友ティムが去年の春先からメールでしつこく僕の事を誘ってくれていたのがきっかけだ。(Tim:アイルランド系アメリカ人の35歳。初めてPHISHを見たのは1994年4月22日、彼が15歳の時。それ以降殆どのPHISH Showを追いかけ続け、現在ティムのPHISH体験回数はなんと446回!! 僕のアメリカでのBuddyであり年下の先生でもある) 彼が僕を誘い続けた理由は、去年2013年がPHISHのデビュー30周年だったから。20周年ツアーも一緒に追いかけた仲だが、10年以上も前になるそれらの出来事は、多分彼も初めての日本人との接触でときどきコミュニケーションをとるのに苦労しながらも、二人にとっては忘れられない経験であり思い出だ。お互い信頼出来る理由は「どれだけPHISHを愛しているか?」それだけ。何とも危なっかしい理由だが、こんなに純粋で信用出来るものはなかった。さらにもう一人、PHISHつながりの長年の友人である荒川くん(彼は今回のNYRでPHISH体験108回!たぶん日本人最多回数記録!)のおかげで入手困難なチケットを手に入れる事ができたし、彼の手引きがなければ今回の僕のNY行きはなかったと思う。そんな二人に心から感謝。

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PHISH 公式HP:Phish.com

Cinema Discussion3 “Only Lovers Left Alive”/「オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライブ」から見えてくる二人のミュージシャン


「オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ」

新年明けましておめでとうございます。
2014年最初のアップは、12月20日に公開されたジム・ジャームッシュ監督の新作「オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライブ」をテーマに、映画を多方面な角度から分析するシネマ・ディスカッション3です。
参加者は映画評論家川口敦子さんをナビゲーターに、川口哲生、名古屋靖、川野正雄の4名です。
今回は作品からつながってくる映像を、ジャームッシュも好きだと言い作品にも登場するYOU TUBEから幾つかご紹介する事で、皆様のイメージも膨らませて頂けるように構成しています。

川口敦子(以下A) この作品は、引用やトリビュート的に様々なアーチストの名前が出てくることが話題になっていますが、人軸から見えてくることを中心に、ジャームッシュがこの作品で狙っている背景を考えてみたいと思います。
まずは皆さんの印象や、ジャームッシュについての想いを聞かせて下さい。

川口哲生(以下T) 夜のデトロイトの、暗い中でモゾモゾやっているところが、「ダウン・バイ・ロウ」とかに通じて、ジャームッシュ的。
個人的にはティルダ・スウィントンに救われているなと感じた。デレクジャーマンとかボウイとか、「ブリングリング」で描かれているSNSで自慢をして、大量に消費していく若い子達とは対極にある、バンパイアの様に希少化しても面々と存在していく生き延び方が面白い。

川野正雄(以下M) 資料を見てみたら、「パーマネント・バケーション」以降の長編は全て劇場で見ている事に気づきました。フリークではないんだけど、気になる存在である事は間違いないです。前作「リミッツ・オブ・コントロール」は、ドロドロし過ぎている印象で失望したので、今回の作品で本来のユーモアと、リズムを取り戻してくれたように思います。
実はジャームッシュとは縁があって、何回か遭遇したことがあります。直接話したのは、昔僕がDJをしていた西麻布のクラブに来て、わざわざDJブースまで本人がリクエストをしに来た時。そのリクエストは、当時流行っていたスパイク・リーの「ドゥ・ザ・ライト・シング」の1曲目パブリック・エナミーの「FIGHT THE POWER」。残念ながらあいにく持って来ていなかったので、ジャームッシュのリクエストには応えられなかった。もっとマニアックなリクエストを想像していたので、ベタな希望が意外。

名古屋靖(以下N) ジム・ジャームッシュがクスクス笑いながら脚本書いていそう。
久しぶりにもう一回見なくては、と思わせる映画。
でも「是非見たい」というより、次回はパンフレットを手始めに、その周辺の情報も取り入れてからキチンと学習した上で見て確認してスッキリしたい系。
ジャームッシュの趣味や答えの無いナゾナゾがちりばめられてますね。

C)2013 Wrongway Inc., Recorded Picture Company Ltd., Pandora Film, Le Pacte &Faliro House Productions Ltd. All Rights Reserved. C)2013 Wrongway Inc., Recorded Picture Company Ltd., Pandora Film, Le Pacte &Faliro House Productions Ltd. All Rights Reserved.[/caption]

M タランティーノが、自分が好きだったマカロニ・ウエスタンやナチ物、ブラックムービーなどを自分流に作って、ある種のリスペクトを表現しているのと同じように、この映画からは、ジャームッシュの古典的な吸血鬼映画へのリスペクトを感じました。
新しい吸血鬼映画のように見えますが、古典的な吸血鬼周りの伝説〜夜しか行動しないとか、心臓に木の杭を打つと死ぬというようなお約束は、キッチリと守られているのが面白かった。

A 「ゴースト・ドッグ」は、メルヴィルへのオマージュが込められていると言いますし、そういう過去の映画に対するリスペクト的なテーマは、常に彼の中にはあるのではないでしょうか。
今回は吸血鬼映画がお金になるというので撮ったと、インタビューでは言っています。吸血鬼映画の歴史全体に愛情を持っているが、現代のコマーシャルなバンパイヤストーリーには関心がないようなコメントもあります。
ここでは吸血鬼を題材にする事によって、アナログ、アウトサイダー、ボヘミアンへの彼の執着を描いているように見えます。
夜のデトロイトドライブ、あの暗すぎる夜の中がジャームッシュ的だし、デトロイトのおひざ元で育ったアクロン・オハイオの子ジャームッシュのルーツにも関わってくるのかもしれません。

M タンジールの夜の街並やドライブシーンは、デトロイトと対象的に、とても美しく撮っていますね。今までのジャームッシュには見られないビューティフルショットだと思いました。モロッコを撮影場所に選んだ理由も気になりますね。

A そういうジャームッシュの世界ですが、軸をティルダ・スウィントンに移してみると、案外70年代的ジャンルを越境した表現者たちの生き延び方を考えられるかもしれません。
参考としてティルダが出ているボウイの「The Stars(are out tonight)」を見てみましょう。

M デビット・ボウイといえば、カトリーヌ・ドヌーブと共演した吸血鬼映画「ハンガー」がありますね。
デカダン的なバンパイヤラヴストーリーというエッセンスは、共通のものが観じられます。

A エイリアン的な存在を描いたボウイ作品としては、ニコラス・ローグの「地球に落ちて来た男」もありますが、その影も観じられますね。

http://youtu.be/oKF5lHcJY9k

A もう一人この作品の重要な存在が、ディレッタント的プロデューサー ジェレミー・トーマスです。
彼は「戦場のメリークリスマス」を作っていて、ここでもボウイがキーパーソンになってきます。

A ジェレミー・トーマスは、デビット・クローネンバーグが、ウイリアム・バロウズの原作を映画化した「裸のランチ」にも関わっています。この辺がモロッコのヒントになるのかもしれません。

N タンジール編に出てくるカフェ「千一夜」のオーナーがガイシンで、彼はバロウズにカットアップを伝授している。

A 影武者的存在への共感も観じられます。 シェークスピア/マーロウの関係もそうだし、バロウズ/ガイシンにもある――映画そのものよりそこから派生した興味で見る映画とも言える要素がありますが、その辺がジャームッシュが若い観客にもうひとつ受けない理由にもなるのでしょうか。

N まるで「時代劇」を見ているかのようなのでは…遠い距離感(自分とは遠いので感情移入が難しい)があるのかもしれません。
「そこから派生した興味で見る映画」は今の若者には面倒臭い映画なのかもしれませんね。もちろん、好きな子もいますが。ただマジョリティではないですよね。

A キャラクターたちの造形にも、その辺は顕著ですね。 英国的なスーパースノビズムvsゾンビ・センターLAのような関係性が存在しています。

T ブリングリングのブランドでのname drop(ひけらかす)とは違う、いろいろなちりばめられた記号を(音楽やアート、底流を流れる文化的リスペクト)おもしろがれるか?全くわからず引っかからない層、そしてわかって鼻に付く層、そしてつぼにはまる層と分かれそう。自分たちが好きなアーティストの影響を受けたり、カバーした曲を掘っていく感覚を持った層が、どれだけ存在するのか。

N 「俺のインテリジェンスとオシャレなユーモアについてこい!」的なところが若い人がついてこない理由かも。若い子は掘り起こすの好きじゃない子が多いらしいし。昔ならそんなジャームッシュの映画に惚れたら、その周辺の音楽から文学、それこそファッションまで掘ったもの。いまそれはかっこよくない行為かもしれない。今は一生懸命が暑苦しい時代になってきているのかもしれません。

A ポストモダンとレーベルつけるといやがるだろうが、その中で愛されるセンスと、そこから出ようとしないことの功罪があるのでしょうか。

M 主人公トム・ヒドルストンの生き方が、ジャームッシュの生き方に被ってきますね。

N トム・ヒドルストンも歴代の成功したミュージシャンと逢っていますよね。彼は曲を提供するだけで、代わりに作品を広めるのはゾンビ(人間)。純粋に芸術家としての行為。たぶん血を飲むのと同じいくらいに重要で必要な作業。ただし名声は一切求めていない。永遠に生きるための退屈しのぎでしょうか?
壁に飾ってあったジョー・ストラマーの写真も気になります。

M 会話に出てくるエディ・コクランや、ジョー・ストラマーは、いかにもジャームッシュ的ですね。この世にいないミュージシャンへのレクイエム的なエッセンスも込められているように思います。
これは、ジャームッシュが撮ったジョー・ストラマーの追悼フィルムです。曲はボブ・マーリィのカバー。
4分という短い尺の中に、ジャームッシュらしい夜の闇と昼のコントラストが描かれています。
クラッシュNY公演に、アンディ・ウォホールと共に楽屋を訪れていたスティーブ・ブシェミも登場しています。

M もう一つ気になったのは、オープニングで7インチがかかるワンダ・ジャクソン。ジャームッシュは、「ストレンジャー・ザン・パラダイス」では、スクリーミン・J・ホーキンスの「I PUT A SPELL ON YOU」をうまく使うなど、R&RやBLUESには造詣が深いけど、なんでワンダ・ジャクソンなのか、最初はよくわからなかった。チェット・アトキンスやエディ・コクランと同じR&R的な流れと言えなくもないんだけど。
これは彼女の最大のヒット曲「フジヤマ・ママ」。この「フジヤマ・ママ」つながりで考えていくと、アイデアの原泉も見えてきます。

M こちらはクラッシュ日本公演の映像。当時のポール・シムノンのガールフレンド、パール・ハーバーが、「フジヤマ・ママ」を歌っています。この映画ではギターロック的な曲に重きを置き、パンク的な曲はあえて使っていないように観じましたが、やはりジャームッシュのルーツミュージック的には避けては通れない部分ではないかな。

A 好きなものへの投影は、常にテーマとして内在していますね。

M デビット・ボウイと、ジョー・ストラマーという作品自体には直接関係のないアーチストの影が見えてきました。

N 映画を見た後に調べると、場面場面でのシャレやギャグの意味が色々分かって来る。事後復習する事で見る前より興味がどんどん湧いて来る。また見たくなる、確認したくなる。何度も楽しめる映画。
ティルダはクールでかっこよかったのですが、ラストシーンの表情はお笑い。あそこで、ああ、これはお笑い映画なんだと気がついた(血のアイスバーとか)。

M 液体(血液)は、飛行機機内に持ち込めないとか、血液型によって、飲み物としての血のグレードが変わったりとか、今回はとてもひねったユーモアが生かされている。

A エンディングは、サバイバルの本能を描いたように観じました。
全体としては、ジャームッシュとジェレミー・トーマスが意気投合して、自分達の好きな物を集積させて(見えなくても)、作った作品なのではないでしょうか。
二度見る事によって、新たな発見が幾つも見つかるような映画ですね。

T 昔ジャームッシュが好きで、ここのところ離れていたジャームッシュファンにはぜひみてほしいと思います。

『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』は12月20日よりTOHOシネマズ シャンテ、ヒューマントラスト シネマ渋谷、新宿武蔵野館他全国公開中です。
作品公式HP。

人はそれと知らずに、必ずめぐり会う。たとえ互いの身に何が起こり、どのような道をたどろうとも、必ず赤い輪の中で結び合うーラーマ・クリシュナー (ジャン・ピエール・メルヴィル監督「仁義」*原題"Le Cercle Rouge"より)