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CINEMA DISCUSSION -10 (part1) /”JIMI:栄光への軌跡”~Jimi Hendrix in swinging London

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新作映画を複数の視点からとらえ、映画評論の新しい手法を考えようとしてスタートしたセルクル・ルージュのシネマ・ディスカッションも、今回で10回目となりました。
今回は、私たちが紹介していきたいと考えている世界=MUSIC×CINEMA×FASHIONを象徴的に描いた作品が2本相次いで公開されますので、前後半に分けて、2作品を比較しながら、紹介する事にしました。
その2作品は、共に偉大な黒人ミュージシャンを描いたアンソロジードラマ『JIMI:栄光への軌跡』と、『ジェームス・ブラウン 最高の魂(ソウル)を持つ男』です。
『JIMI:栄光への軌跡』では、ジミヘンことジミ・ヘンドリックスがスターダムに上っていく1966~67年の姿が描かれ、『ジェームス・ブラウン 最高の魂(ソウル)を持つ男』では、JBことジェームス・ブラウンの波瀾万丈な一生が描かれています。
今回はpart1として、公開が早い『JIMI:栄光への軌跡』を、ご紹介します。
ディスカッションメンバーはいつものように、映画評論家川口敦子をナビゲーターに、名古屋靖、川口哲生、川野正雄の4名です。

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川口敦子(以下A):まず見る前に予想したジミヘンとその時代の描き方と違っていましたか?
また違っていたらどのあたりが違っていましたか?
それは肯定できるものでしたか?

川口哲生(以下T):代表的なbiopicはその主人公の成功の頂点に焦点が置かれると思うが『JIMI:栄光への軌跡』ではアメリカのブレイクの前のロンドンでの2年、そしてタイプの違う3人の女性との関係性にフォーカスしている点が逆に潔くて面白かった。その後のモンタレイやウッドストックのジミヘンがより私たちが見聞きしてきたジミヘンだろうから。そういった意味でいわゆる代表曲でないブルースのカバー曲の再演が、そうした時期のジミヘンや無い物ねだりでブルースを求める60年代後半のロンドンを感じさせる方向で機能していたように思います。

名古屋靖(以下N):ジミヘンは容姿だけでなくその仕草も本人のようで、違和感なく物語に入り込めました。実際もこんな感じの若者だったんだろうなあと納得できる雰囲気も感じてよかったです。
パンフレットのピーター・バラカン氏のインタビューやその他資料に間違いがない限り、ほとんどが実際にあった話なようです。白いストラトキャスターをやりとりするエピソードがさすがに全て真実だとは思いませんが、この高潔なラヴ・ストーリーを象徴する重要なシーンですし否定はしません。

川野正雄(以下M):ジミヘンの細かいバイオについては、実はあまりよく知らなかった。
キースの彼女のエピソードとかは新鮮でしたし、英国で先に火がついたというのも、映画を見て、納得出来ました。
描かれているのが2年間限定の話とは知らなかったので、謎の死まで描かれていると思っていました。
僕の中のジミヘンのイメージは、先日川口君がここで紹介したミック・ハガティがアルバムデザインと、ビデオをディレクションしたベスト盤に依る部分が大きいです。

A:JBも合わせて伝記映画として臨みましたが、それぞれ映画としても予想以上に面白かった。裏返すともしかしたらもう少し退屈な、ただスターの軌跡の光と影を追うみたいな、スターへの興味やその人の面白さだけで見せて、映画としての面白さはないがしろになっているようなもの、つまりありがちな“伝記映画”を予期していたといえるかもしれません。
伝記的な事実とフィクションの部分に関しては、どうですか?
周囲の人間の配し方もそれぞれ興味深いですが、現実の関係に忠実とはいえない部分もあるようですが?

N:キース・リチャーズの彼女とジミヘンのプラトニックで高潔な恋愛。 肌の色や階級など超えられない現実に苦しんだ事で濃密にならなかった絶妙の距離感が最後までジミヘンの心を掴み続けていた彼女ですが、はたして現実で彼女はどこまでジミヘンに入れ込んでいたのでしょう?実際は単にプロデュースごっこが楽しかっただけなのかもしれませんね。

M:キースの彼女との関係性はプラトニックなのかとか、真相はよくわからないですよね。
アニマルズとの関係含めて、英国の音楽シーンと、ジミヘンが密接な関係にあったという事が、非常に良くわかりました。
クリームへの乱入シーンは、映画の中でもハイライトですが、実際にあのような事はあったみたいですね。あそこは『マニッシュ・ボーイ』ではなく、ハウリン・ウルフ最高のファンキーブルース『KILLING FLOOR』を、やって欲しかったですが。

N:あの時、クラプトンは実際に途中でステージから降りたみたいですね。後にジェフ・ベックもジミヘンから「あんたのブルースは気持ちわるい」と指摘され、ブルースからクロスオーバーな方向へ転換して行ったという話を聞いたことがあります。

A:いわゆるアーティストの伝記映画の定型をはみ出す語り方、展開の映画だと思います。66,67年にしぼりこんでブレイク前の知られざる物語に光をあてる。この部分に関してはどんなふうに見ましたか?
因に『JIMI:栄光への軌跡』の監督ジョン・リドリーは、米・ウィスコンシン州出身の黒人で『それでも夜は明ける』の脚本や『スリー・キングス』の原案を担当してきました。目下、米社会のマイノリティへの差別問題にまつわる実在の事件を追うテレビ作品を準備中だそうです。

T:ジミヘンはボブ・ディランとか聞きつつ、アメリカではヒットせず、むしろ無いものねだりのイギリスで「ブラックネス」「ワイルドさ」「ブルース」として評価される。監督は私たちの知っているジミヘンの、私たちの知らないイギリスでの人間関係やその時代性にフォーカスしているように思います。もちろんロンドンだって西インド諸島からの移民についての差別や偏見はあっただろうが、音楽的な世界では許容性、がアメリカの白人に比べ格段に広かったのだと思います。映画もジミヘンの欠けている心を満たすピースとしての異なった女性像を描くことで、人間ジミ・ヘンドリックスを描いている。

N:彼を語る上でどうしてもついて回るドラッグとの関係についてはあえて多くは語らずに、伝説のギター・モンスターになる前の内気な青年の物語は逆に新鮮でした。彼が最も人間らしく、がんばって生きた2年を描いてるのは正解だと思います。

M:根底に黒人問題が色濃くあるように感じました。
世界で初めて黒人が白人と混成グループを結成し、白人が聞くロックを演奏する。
そこにジミヘンの先駆性があった訳で、それまでどの黒人ミュージシャンもやれていない事を、彼はなしえた。
そこに至る過程のドラマや彼の天才性を描くことが、デビュー2年間1966~67年という世界的に音楽の過渡期であった時代性を象徴することになるのではないでしょうか。
人種差別の空気が色濃かった60年代の米国より、モッズカルチャーの流れで、ブラックミュージックへのリスペクトが根付いている英国でのデビューを選んだジミヘンの選択は正解だったと思いますし、その部分にフォーカスする事で、映画的な面白さも増したと思います。
モンタレイ・ポップ・フェスティバル直前までを描いている訳ですが、その後ジミヘンは一気にスターダムを駆け上がり、あっという間に消えてしまう。
最近1969年に開催されたウッドストックのギャラリストが公開されたのを見ると、ジミヘンは、フーを抜いてNO1だったので、驚きました。
でもその翌年の1970年には変死して、ロックスター27歳限界説の27club入りをしてしまう訳で、彼の短い人生で一番充実していた日々を描いているのではないかと思います。
ストーンズのマネージャーだったアンドリュー・オールダムが、ジミヘンをスルーしてしまうエピソードなども、すごく面白かったです。
ストーンズとの交流は、渡英後も濃かったようで、この映像にはキースの彼女ぽい女性も登場します。
ポップミュージックの世界で言うと、1966~67年は、音楽が多様化し始めた非常に重要な時期ですね。
ロックで言えばそれまでのR&Rやビート系のシンプルな音から、サイケデリックなサウンドに変わりつつある時代。
演奏の進化と、録音技術などテクノロジーの進歩が合わさり、新たな音が生まれてきた時期だと思います。
ストーンズでいえば『黒く塗れ!』で、大きくサウンドは変化しました。
映画にも登場するアンドリュー・オールダムは、この頃はストーンズよりスモール・フェイセスを、ストーンズも所属していたデッカレーベルから自分が設立したイミディエートレーベルに移籍させる事で忙しかった筈です。
多分新人の黒人ギタリストにかまっている暇は無かったんだろうなと思います。
レーベルを移籍したスモール・フェイセスも、デッカ時代のモッズ路線から一歩進化した『Itchycoo Park』を、やはり1967年にリリースしています。
映画に出てくるアニマルズなんかは、逆に変革がうまくいかず、苦しんでいたグループだと思います。
こういう音楽の流れの中で、ジミヘン独特のセンスや卓越したテクニックは、自然の流れとして、求められたのではないでしょうか。

A:ブレイク前の短い時間に絞り込んで、本人もそうですが周りの人々のそれぞれのスタンスを丁寧に掬っていくところが映画として面白かった。アメリカへの再上陸、空港に降り立ったところ、モンタレイへと向かう、キャリアの幕が上がるところですとんと映画の幕を下ろすという余韻の差し出し方も、いやみじゃなく決まっていたのではないでしょうか。映画そのものがトリップしているみたいな語り口と編集も然りですね。女性たちのそれぞれの(英国的階級社会への目ものみこんだ)性格付けというあたりも興味深かったです。

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A:60年代、公民権運動、ブラックパワー、スウィンギング・ロンドン等々、時代、対抗文化はたまたファッションといった背景への目もアーティストを描くのと同等のポイントになっているように思いますが、時代の描き方はどうでしょう? この時代の面白さに関してはどう見ていますか?

N:60年代ロンドンの古着屋でのシーンはワクワクしますね。 スウィンギング・ロンドンな感じもファッションも楽しめました。 男の子たちのファッションがいまいち地味だったのが残念でしたが、実際はあの程度だったのかもしれませんね。

M:ミケランジェロ・アントニーニの『欲望』と同時代の1966~67年にフォーカスしている為、スウィンギング・ロンドンの演出を随所から感じられました。

ビートニク映画祭の『スウィンギング・ロンドン1&2』には、ジミヘンも登場していましたが、この映画とも重なってきます。
僕も古着の試着のシーンは、すごく好きです。ミック・ジャガーの弟のショップだったなんていうエピソードもありますが。
彼のファッションセンスは独特で、多分他の人が真似ても似合わない。でも彼のある種派手で、ゴージャスに見えるスタイルは、カリスマ的な雰囲気を醸し出していると思います。
マカオのハードロックホテルのカジノに、ジミヘンを象徴するような彼のベストが展示してありました。
そのサイズの小ささにちょっと驚いたのですが、サイケな感じの色使いとか、やはりジミヘン独特のものでした。
ロンドンのクラブマーキーに、ジミヘンとフーなどが出演した貴重な映像があります。
フーの荒々しい演奏もかなりなものですが、ジミヘンの演奏する姿も曲も、すごく格好いいです。
ピーター・バラカン氏が、当時のジミヘンを見たのも、このマーキーでの一連のLIVEだったそうです。

T:リンダなんてまるでデヴィッド・ベーリーの世界感だろうし、タートルネックにジャケット着ているストーンズからブライアン・ジョーンズみたいなファッションの要素の混ざり方になっていく時代だったのでは。サイケデリックがかかってくるころでしょう。フリルとかモールとか、ジミヘンの印象とかぶりますね。
ミリタリーを着ていて迫害されるシーンがありますが、実際にもあったのではないかと思います。

M:この時代アメリカでは、ディランがフォークロック路線を確立し、西海岸ではヒッピーやサイケデリックが登場寸前でした。ジャマイカではスカが生まれ、ラテンではブガルーが誕生するなど、音楽シーン全体が熱く進化していった時期だと思います。
日本ではザ・タイガースが1967年にデビューし、歌謡曲一辺倒だった日本のポップミュージックシーンに、GS=バンドという概念を定着させています。ザ・スパイダースは、ジミヘンのようなミリタリールックを、全員で着たりしていますね。映像を見ると、かまやつひろしさんは、かなりジミヘンを意識している感じで、ジミヘンが最先端のロックを象徴するような存在だったのではないでしょうか。
ブラックミュージックでも、ソウルやR&Bの時代からファンキーソウルに変わっていった時期ですね。次回取り上げるジェームス・ブラウンは、1967年『COLD SWEAT』で、ファンキーな彼独自のリズムを確立しています。
そういった世界的な音楽の新しい潮流が集結していたのが、当時のロンドンなのではないかと思います。
ロンドンという土地と時代が、ジミヘンのようなカリスマの登場を求めていたのではないでしょうか。
映画では描かれていない米国に戻ってからは、サイケデリックなサンフランシスコを中心にしたムーヴメントが起こってきて、彼と共に当時のロックシーンは動いていたような感もあります。

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A:映画内での楽曲は、遺族の許可を得られず本人の曲を使えないという不自由があったようです。それを逆手にとる部分も感じられませんか?

N:音楽家の自伝物で、演奏シーンがこれだけ少ないのにこんなに引き込まれる映画も珍しいですね。その分、クラプトンとの初セッションやビートルズの前での演奏のシーンは見ているこちらも興奮しました。
演奏前、アンプにギターのプラグを挿すところは個人的にとても好きなシーンで、何度見てもドキドキします。このシーンだけでこれが良い音楽映画なことが分かります。
ジミヘンに扮した主人公アンドレ・ベンジャミンの弾く姿もワディ・ワクテルのギター演奏も素晴らしかった。

M:最後もビートルズのカバーで、原曲使えずしまいですが、特に違和感はなかったです。これがモンタレイ以降も描くのなら、ちょっと厳しかったかもしれません。
カバー中心だが、楽曲というより、その演奏力にフォーカスしているので、楽曲の差はあまり気にならない。当然オリジナルのメジャー曲があった方が盛り上がるが、カバー中心の劇中曲の演奏力も高いですし、問題ないですね。
JBに比較すると極端にLIVEシーンは少ないですし、彼が開発した独特の機材を使いこなす奏法~ファズやワウペダル、エフェクターなどに関する描写もないのは、あえてその領域に踏み込まないという演出の判断ではないかと思います。
ただ先ほどのマーキーでの実際の演奏などを見ると、『PURPLE HAZE』が相当格好いいので、もし使っていたら、もっとテンションが上がる映画になっていたかもしれません。

A:ガールフレンドへの暴力の部分が存命の彼女から事実と違うと抗議されているようですが、伝記的な整合性に執着せず、また知られざる存在だったジミヘンを不在の中心みたいに置いてむしろ往時の紫の煙の中にいるような経験を押し出しているのが面白いですね。

T:音楽的に言えば、アメリカで売れるためにはスライ&ザ・ファミリー・ストーンやプリンスみたいに黒人でもロック的なアプローチが必要なのかもしれない。映画で描かれているジミヘンを見出したリンダは彼のブルースの演奏が好きで、売れ線の音楽はやめてブルースを、みたいなスタンスだったそうです。一方ジミヘンはロンドンを経てモンタレイ、ウッドストックでアメリカでは評価される。でも逆にハウリン・ウルフとかが「白人と組んで金儲けしている」と批判したようにアメリカでは白人向けロックスターで裏切り者という評価もあるから皮肉ですね。

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A:有名なエピソードが幾つも描かれていますが、知っていたエピソードはありますか?
また主演のアンドレ・ベンジャミンのイメージは、ジミヘンのイメージと重なっていましたか?

N:知っているエピソード、結構ありました。昔ピーター・バラカン氏がどこかの雑誌のインタビューで、彼が18歳の頃にロンドンのライヴハウスで売り出し中のジミヘンを初めて観たのを読んで、なぜアメリカ人の彼がロンドンで売り出したのか?それをきっかけに書籍やWebで色々調べた事があったので、ほとんどのエピソードは聞いたことがありました。

M:クリームへの乱入は、聞いた事があります。
ギターに火をつけるパフォーマンスは、映画的にはやって欲しかったですね。
サイケデリックのレジェンドになった、小柄で左利きの天才ギタリストとして、主演のアンドレ・ベンジャミンは、イメージ通りでした。

N:アンドレ・ベンジャミンは違和感無かったですね。ラストの空港をメンバーと歩く後ろ姿なんて、まるで本人のようです。

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A:ジミヘンは、どのようなものを音楽シーンに刻んだと思いますか?

N:ジミヘンは肌の色やジャンルなど関係なく、エレクトリック・ギターの可能性を最大限引き出したギタリストです。極論を言えば彼以降は、世のギタリスト全て彼の真似をし続けていると言っても過言ではありません。言いかえれば、彼がいなければロックは無かったか、もしくはもっと違った物になっていたかもしれません。 いい音楽はジャンルを越える事を教えてくれたのもジミヘンです。

T:ジミヘンはジャンルを超えたということでしょうか。ブルース系譜のクラプトンだけでなくクロスオーバーっぽいジェフべックとかにも影響あったんじゃないかな。エレクトリック・マイルス(ディヴィス)にだって。

M:サイケデリックロック。ブラックロック。ギターロック。
それら全てのファンデーション。

A:この作品の一番の見所は、どの辺になりますか?

M:ブラックロックが生まれる瞬間。
1966~67年のロンドンの熱気。

N:キースの彼女との恋愛物語。

T:音楽Xファッションでの当時のロンドンの熱気みたいなところ。そして前にも言ったけれどタイプが違うジミヘンの周りの女性たちとの関係性からの新たなジミヘン像。

A:大西洋の両岸を結ぶ横へのつながり、50年代のビート、60年代ディランらのフォークといった縦の(時代的)つながり――と、去年このディスカッションでとりあげた映画とももう一度、比べたくなる赤い糸(笑)の面白さもありますよね。

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A:このようなバイオ映画として、取り上げて欲しいアーティストはいますか?

N:ルー・リードとかですかね。晩年のパートナーがローリー・アンダーソンだったり、アンディ・ウォーホルやニコも出てくる。

T:マーク・ボラン。

A:イギー・ポップとかパティ・スミス。パティ・スミスは、確かテレヴィジョンのトム・ヴァーレーンの元恋人でしょ。サム・シェパードとの再会がぐっとくるドキュメンタリーばなれしたドキュメンタリー『パティ・スミス:ドリーム・オブ・ライフ』も最高でしたが、シャルロット・ゲンスブール主演の伝記映画っていうの撮ってほしいなあ。

M:生きている人は、遠慮が出てしまうと、難しそうですね。
ジョニー・サンダースや、マルコム・マクラーレン。
色々伝説があるし、マルコムならファッション含めてとか。
それとザ・フーのドラムだったキース・ムーンとかかな。

N:キース・ムーンは、プレイもプライベートも目茶苦茶な人だったから、面白いかもしれませんね。

『JIMI:栄光への軌跡』
4月11日(土)より、ヒューマントラストシネマ渋谷、有楽町スバル座、
新宿武蔵野館(レイトショー)ほか全国公開中。

5月になりましたら、CINEMA DISCUSSION 10 PART2として、『ジェームス・ブラウン 最高の魂(ソウル)を持つ男』を取り上げる予定です。

DURAN DURAN ×DAVID LYNCH/エレファントマンと美しき獲物たちの対決

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80年代初期にニューロマンティックムーヴメントの旗手として一世を風靡したヴィサージュのスティーヴ・ストレンジが、今年の2月心筋梗塞で亡くなった。
彼の葬儀の様子は海外のサイトで見る事が出来るが、ボーイ・ジョージやスパンダー・バレエ、ABCのメンバーによって出棺されるシーンは、時代の変遷と、時間の経過を強く感じさせられるものであった。
彼の逝去に対して、デュラン・デュランのボーカルのサイモン・ル・ボンがツイートで、「我々の友人スティーヴン・ストレンジが今日、エジプトで亡くなったことを発表しなければならないのはとても悲しい。彼はニューロマンティックの最先端だった。彼に神のご加護を」と冥福を祈っていた。
デュラン・デュランは、80年代初期には、同じニューロマンティックムーヴメントの一員として語られる事が多かったグループである。スティーヴ・ストレンジの追悼コメントを見て、スティーヴがオーガナイズしていたクラブBLITSへの出演などで、同時代を担った彼らの関係性の深さも、改めて再認識をすることが出来た。
ただクラブカルチャーやファッションに軸足を置いていたスティーブ・ストレンジやアダム・アントと、メインストリームでの成功を目指していたデュラン・デュラン(以下D²)の軌跡は、結果的に大きく違うものとなった。


80年代初期は第2次ブリティッシュ・インヴェイジョンと呼ばれ、カルチャー・クラブなど多くのアーティストが、米国のヒットチャートにも登場したが、その中で最も大きなコマーシャルな成功を収めたのがD²である。
メンバーのルックスの良さも手伝ってD²は、ニューロマンティックという特殊なジャンルを抜け出し、よりアイドル的な存在として、世界的なポップスターに駆け上がって行った。

今回ご紹介するのは、ニューロマンティックシーンからキャリアをスタートさせたD²と、カルト作品を作り続けてきたデビット・リンチがコラボレーションして制作されたLIVE映像『UNSTAGED』の劇場公開版である。
映像自体は2011年LAマヤシアターのLIVEで、少し時間が経過しているが、全く色あせたものではない。これはAMEXがスポンサードしているLIVEストリーミングのシリーズで、『UNSTAGED』というタイトルになっている。
LIVEを著名監督が撮影しながら加工し、ストリーミング配信するいう贅沢な企画をしたのは、イベントがメインのエージェンシーモメンタム。
最近は日本でもパフュームが、サンフランシスコから、プロジェクションマッピングを使ったストリーミングライブ配信を行ったが、これは4年も早い企画である。
監督としてスパイク・リー、テリー・ギリアム、スティーブ・ブシェミ(!)、アントン・コービンなどが、コールド・プレイ、ジャック・ホワイトなどのミュージシャンとコラボレーションしている。
アントン・コービンが撮ったコールドプレイなどは、是非とも見てみたい作品である。

そのラインアップの中でも、最も意外で贅沢なコラボレーションが、このデビット・リンチ×デュラン・デュランであろう。
全く関係が無さそうな二人だが、リンチの『エレファントマン』の制作が1980年なので、両者はほぼ同時期に世界的にブレイクしたことになる。

https://youtu.be/jQnm7R-rI6s

リンチについては、ここで詳しく紹介するまでもないだろうが、個人的な印象についてのみ触れておく。
僕自身は、海外で2回程リンチ本人が参加する映画祭に居合わせたことがある。
最初はサンダンス映画祭での『ロスト ハイウェイ』ワールドプレミア上映。
デビット・ボウイやイギー・ポップの曲と共に、深夜を駆け巡るこの強烈で難解な作品を持ってきたリンチは、アメリカのプレスに対して非常に無愛想であり、サンダンスでは恒例の上映後のQ&Aも無しであった。
2回目は、数年前のベルリン映画祭。この時は話す機会もあったが、日本人に対しては、ゆっくりとした英語で優しく話し、とてもジェントルマンであった。
今では当たり前だが、当時は先駆者的だったデジタル撮影の経済的時間的効果や、難解と思える自己の作品の解釈の仕方についても、ジグゾーパズルを例にして、丁寧に話しをしてくれる姿は、サンダンスで見た姿とは全く違うものであった。

https://youtu.be/lbWMYCPEsdk

リンチ自身も音楽活動として、テクノ寄りのアルバムを作っているが、『ブルーベルベット』『ワイルド・アット・ハート』『インランド・エンパイヤ』などの作品では、音楽とのシナジーを重要な演出に使っている。
その音楽の使い方も、アヴァンギャルドな曲だけではなく、コマーシャルな楽曲も時には巧みに取り入れており(『インランド・エンパイヤ』の『ロコモーション』など)、音楽の使い方がとてもうまい監督と言えるだろう。

https://youtu.be/KtzSSG8X9e0

この『UNSTAGED』で興味があったのは、一環してカルトヒーロー的な道を歩んできたリンチが、D²というメジャーなポップスターをどう料理するのかという点であった。
D²もデビュー当時は人気が出過ぎて、アイドル的な扱いになり、軽いイメージがあるが、実はしっかりと計算をしている連中であった。
初来日の際のインタビューでは、「何故ダンスミュージックをやるのか?」という質問に対して、サイモン・ル・ボンが、「自分達をブレイクさせる為には、ダンスが一番手っ取り早い。その中で、自分達の表現したい事をやるんだ」という客観的で明確な回答をしていた。
またグラマラスなビジュアルを重視するスタイルからは、バンド名の由来となったSF映画『バーバレラ』や、ロクシー・ミュージックなどグラムの影響が色濃く感じられる。

SUB8

全米で大ヒットした『リフレックス』では、一早くナイル・ロジャースにリミックスを依頼し、当時はマイノリティな存在だったリミックス盤も大ブレイクさせる戦略を展開している。
また別ユニットでの活動も熱心で、ロバート・パーマーとジョン・テイラー、アンディ・テイラーが組んだパワーステーションでは、見事なファンクサウンドを創り出している。
D²が世界的に大ブレイクした理由は、元祖ビジュアル系ともいえるメンバーのルックスだけではなく、覚えやすいメロディーライン、いち早くクラブサウンドを取り込んだサウンドデザインに、サイモン・ル・ボンの歌唱力含め、しっかりとしたミュージシャンとしての力量を掛け合わせたプロデュース力だと思う。

https://youtu.be/YAKHdU26IE8

そういう冷静なプロデュース力が、007シリーズに楽曲を提供するメジャーまで上ぼりつめ、今日までグループとして続いている一因だと思う。
今回のリンチとのコラボレーションと相通じる部分があるが、素材になりきるというスタンスを、割り切って取れる連中なのである。
彼らが映像の魔術師とも言えるリンチの演出を、どう受け止めるのか、観る前から非常に楽しみであった。

https://youtu.be/JXjnwXUN1Mg

前置きが長くなったが、この『UNSATAGED』について。
僕はD²の熱心なファンではないので、フルlive映像を見るのは実は初めてだ。
幾つかのヒット曲は、多分聴くのも20年ぶり位で、最近のD²の活動状況もよく知らない状態であった。唯一サイモン・ル・ボンが、SYN PRODUCTIONという映像プロダクションを日本で活動させており、仕事でその会社とは一時期付き合いがあり、たまにサイモンが来日しているという話を聞く程度である。
そんな状況で、久々のD²だったが、昔と大きな印象の違いはなかった。
メンバーは残念ながらギターのアンディ・ティラーは、脱退している状態だった。
フロントマンのサイモン・ル・ボンは、やや太めになり、ジョージ・マイケルのようにも見えた。日本で一番人気だったジョン・テイラーは、渋くなって格好良い。
元祖ビジュアル系のニック・ローズは、小室哲哉のような風貌でキーボードを弾いている。
ドラムスのロジャー・テイラーは、これも渋くなり、ロマン・ポランスキーのような雰囲気を醸し出していた。
最近よく見かける再結成グループとは違う”現役感”をキープしたメンバーである。

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演奏楽曲は、何故か全米大ヒットの『リフレックス』は演奏されなかったが、お馴染みのヒット曲と新曲がバランスよく並べられている。
ゲストも次々に登場する。
日本でも大ブレイクした『プラネット・アース』ではジェラルド・ウェイが、楽しげにサイモン・ル・ボンと掛け合いで唄い、ゴシップの巨漢女性シンガー、ベス・ディットーは、「ぶち壊しに来た」と強烈な個性を見せながら、ヒット曲『ノートリアス』を熱唱。
終盤にはライブ前に亡くなったジョン・バリーを追悼し、『 007/美しき獲物たち』にジェームス・ボンドメドレーが盛り込まれるなど、盛り沢山の構成になっている。

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このLIVE映像にかぶさってくるリンチの演出は、意外に歌詞に忠実だったりする。『プラネット・アース』では地球の映像に雨、『ハングリー・ライク・ザ・ウルフ』では、狼のヘタウマな絵が登場する。
さらに魔術師のように色を操りながら、随所にリンチらしいフッテージ=人形などが、次々に差し込まれていき、リンチワールドが、ポップなD²の曲に乗って展開されていく。
全編を通じて感じたのは、すごくリンチが楽しみながら、演出をしている空気である。
ベルリンで会った際に、なかなか製作資金が集まらないような話をしていたが、リンチ自身も、『インランド・エンパイヤ』以降長編映画の新作は撮っていない。
近年は絵や音楽など、本業以外でのアーティスト活動が多いリンチだけに、この仕事でストレスを発散しているのではないかと思える程、自由奔放に演出をしているのだ。
最新のニュースでは『ツイン・ピークス』新作も暗礁に乗り上げているようなので、彼の潜伏期間の活動記録としてとらえてみるのも面白い。

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上映時間は112分。LAのLIVEがフルパッケージで、劇場で見れるこの作品は、当然のことながら往年のD²ファンには必見である。
聞きなれたメロディに、テンションの上がってくるLIVEパフォーマンスに、リンチの映像が絡んでくるこの『UNSTAGED』は、D²ファンにはたまらない2時間となるだろう。
もちろんD²ファンだけではなく、リンチファンにも是非見て頂きたい映画である。
リンチが楽しみながら演出をしている分、D²ファンでなくても、十分に楽しめる作品になっている。

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セルクルルージュでは、この春公開作品の中から、『デュラン・デュラン:アンステージド』に続いて、ジミ・ヘンドリックスの伝記映画『JIMI:栄光への軌跡』と、ジェームス・ブラウンを描いた『ジェームス・ブラウン 最高の魂を持つ男』と、3本連続で音楽映画を取り上げる予定ですので、是非ご期待下さい。

https://youtu.be/seYsidHZ-D8

『デュラン・デュラン:アンステージド』
4月17(金)より、TOHOシネマズ新宿ほかにて全国公開
新宿歌舞伎町コマ劇場跡地に出来るTOHOシネマズ新宿の杮落し上映の一つになるので、是非最新の劇場で、リンチワールドを満喫して頂きたい。