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東京で再現されるポルトガル料理の神髄/代々木公園 クリスチアノ

フェルナンドのエントランス
フェルナンドのエントランス

私が初めてポルトガル料理を食べたのが、少し前香港に住んでいた時に、何回も訪れたマカオであった。マカオはご存知のように旧ポルトガル領で、世界遺産含め、ポルトガルの香りが至る所で感じられる小さな島である。
当然何件もポルトガル料理のレストランはあるが、料理も雰囲気も素晴らしかったのが、コロアン島と呼ばれるマカオの一番端の海辺にあるフェルナンドという店だった。

マカオのフェルナンドのパンフレット
マカオのフェルナンドのパンフレット

フェルナンドはいつも混んでおり、大概は広い中庭で飲みながら待つことになる。その空気自体が、南国的というかジャマイカにでもいるような気分にしてくれる。
誰もいらついて待つ訳ではない。軽く一杯飲みながら待つ事自体が楽しみになる、そんな空間だった。
日本よりも南国的な気候のマカオだが、店内に入ってもエアコンは無く、あくまでもなナチュラルな感覚である。

マカオ、コロアン島のフェルナンドの中庭
マカオ、コロアン島のフェルナンドの中庭

ようやく店内に入ると、アサリ、イワシ、タコ、豚など、ポルトガル料理のメインキャストを使ったメニューを次々に頼みたくなる(が、ボリュームがすごいので、多くの種類は頼めない)。
ヨーロッパのリゾートにいるような気分と、豪快に素材を使った素朴な家庭的な料理で、マカオに行くと必ず寄りたい店になった。
コロアン島は、マカオのフェリーターミナルや中心地からはかなり離れている。
店に行くときはタクシーだが、帰りにはタクシーが見当たらないこともしばし。
時にはお店の車で市街地まで送ってもらい、時には慣れない路線バスでスリリングに移動する。そんなのんびりした移動も、フェルナンドならではの楽しみである。
余談だが、マカオにはアジアの中継起点であった歴史を象徴するようなマカオ料理も存在する。
ポルトガル料理をベースにしながら広東料理のエッセンスを盛り込んだマカオ料理は、正に多国籍料理である。
カレーを使った料理など、日本人にも馴染みやすいと思うのだが、今のところ日本では本格的なマカオには出会ったことがない。

フェルナンドの豚肉と豆の煮込み料理
フェルナンドの豚肉と豆の煮込み料理

ポルトガル料理は、今の日本ではあまり馴染みの無いジャンルであり、東京でも本格的に食べる事の出来る店は限られている。
元々日本に輸入された西洋文化はポルトガルが起点であり、日本とは馴染みの深い国柄である。
マカオには切支丹大名が派遣した天正少年使節団やザビエルの軌跡もあるが、国交は深い歴史を持つ。
よくドラマのシーンに出てくる織田信長の飲むワインは、ポルトガルのワインであり、金平糖や天ぷらも、ポルトガルから輸入された調理法が起源となり、アレンジされたと考えられている。
その割にはカステラと、ポートワインぐらいしかポルトガルで、すぐに思いつく食べ物はなく、ポルトガル料理店を町で見かける事も滅多に無い。
料理自体も、肉、魚を炭で焼いたり、煮込んだりしたものが多く、卵や野菜もふんだんに使われており、日本人には比較的馴染みやすい料理だと、フェルナンドに行く度に感じていた。

フェルナンドのサラダ
フェルナンドのサラダ

そんな中、ポルトガル料理の神髄を味わえる店が、代々木公園にあるクリスチアノである。
東京に戻ってから食べるポルトガル料理は、妙に高級感があったりして、フェルナンドで味わったような豪快さや素朴さは影を潜めていた。
しかしこのクリスチアノでは、ポルトガル料理が本来持っている家庭的な風合い、フェルナンドで味わったような豪快な素朴さが、一つ一つのメニューから感じることが出来た。
店に一歩足を踏み入れると、ガヤガヤとした賑やかな雰囲気を、誰しもが感じるだろう。
どのテーブルでも、カジュアルにポルトガル料理を楽しまれている空気が、ダイレクトに伝わってくるのだ。

ポルトガルワイン
ポルトガルワイン

この店に入ると、お酒が好きな方は、まずはポルトガルワインを選ぶ事から始まるだろう。
100種類以上のポートワインが、リーズナブルな価格で提供されている。
この日は、VINHO VERDEと呼ばれるグリーンワインを試してみた。
料理も前菜からメインまで多彩に用意されている。タパス的な小皿料理から、ポルトガル料理の代表的なイワシの炭焼や、ボリューム感満点の肉料理まで、季節に合わせて提供されているので、チョイスをするだけでも楽しくなる。
尚料理は季節によってメニューが変わり、取材日からのタイムラグもあるので、今回紹介する料理が必ずしも当日のメニーに登場する訳ではないが、魅力的なメニュータイトルから、選択に頭を悩ましてしまうのは間違いない。

リンゴとアンチョビのおつまみ
リンゴとアンチョビのおつまみ
ひたし豆と豆腐、赤玉葱のサラダ仕立て
ひたし豆と豆腐、赤玉葱のサラダ仕立て
アサリと豚とジャガイモのアレンテージョ
アサリと豚とジャガイモのアレンテージョ

隣国のスペイン料理も然りだが、前菜には多彩でクリエイティブな料理が並んでいる。
今回ご紹介している中でいうと、豚肉、アサリ、ひたし豆などは、ポルトガル料理の定番と言っていい素材である。
調理法もオリーブや豆乳を使うなど、初めての方でも食べやすい筈だ。

黒むつの塩ゆで
黒むつの塩ゆで
バカリャウプラス。タラとジャガイモの卵とじ。
バカリャウプラス。タラとジャガイモの卵とじ。

ポルトガル料理のメインの一つは、前述したように魚料理である。
バカリャウと言われる干し鱈、イワシなどは、代表的な素材である。
この写真にあるのは、バカリャウプラスと呼ばれるバカリャウとジャガイモを卵であえた料理だが、過去に経験のない種類の美味しさだった。
デザートにはエッグタルトも控えるが、卵もポルトガル料理では重要なエッセンスとなっている。

肉のミルフィーユサンドイッチ。
肉のミルフィーユサンドイッチ。

アイスクリームにエッグタルト
アイスクリームにエッグタルト

肉料理も当然美味しい。この写真は、フラセジーニャと呼ばれる様々に調理した肉を食パンに挟んだサンドイッチである。
ボリューム満点であるが、実は見た目ほどではなく、しっかりとした数種類の味の肉を楽しめる。
パンと肉のマッチングなど、これまた過去に経験のない豪快な味覚である。

そしてデザートも多彩だ。今回ご紹介するのは、今やマカオ名物ともいえるエッグタルトに、バニラアイスクリームのコンビネーション。
マカオにはロードストーズベーカリーと、マーガレット カフェ・エ・ナタという元夫婦が経営する二つの有名なエッグタルトの店がある。
昨年には今や大人気店になっているエッグタルトのテイクアウト店ナタ・デ・クリスチアノをオープンしたが、ここではマカオの有名店に匹敵するエッグタルトを食べられるのもうれしい。
バニラをふんだんに使うのも、ポルトガル料理の特徴だが、アイスクリームもほどよい甘さである。

クリスチアノの最大の課題は、予約が取りにくい点であったが、魚料理メインの店マル・デ・クリスチアノも開業と、姉妹店も続々とオープンしている。
代々木公園に足をお運び頂き、是非共ポルトガル料理を堪能してみて頂けますでしょうか。

ポルトガル料理&ワインバー クリスチアノ
電話予約  03-5790-0909 (ご予約はお電話でのみ)
定休日 月曜日
営業時間
火~土 18:00~26:00(L.O.24:00)  日曜・祝日は24:00閉店(L.O.23:00)
※10月1日より営業時間が変わりました。
住所  〒151-0063 東京都渋谷区富ヶ谷1-51-10
小田急線代々木八幡駅、千代田線代々木公園駅から徒歩1分。

ALANDALUS(アランダルース)/ 都心の片隅のモロッコレストラン

アランダルースの店内。デザインもタヒリさん。
アランダルースの店内。デザインもタヒリさん。

私が初めてモロッコ料理を食べたのは、1986年に行ったパリ。サンジェルマン・デ・プレからカルチェラタンの方に歩いて行くと、何件かモロッコレストランが並んでいる一角がある。クラッシュの「ROCK THE CASBAH」やオフラ・ハザが聞こえてくるような中東のエッセンスと、意外に食べやすいクスクスのファンに、あっという間になってしまった。フランス領だったモロッコのレストランはパリに多いので、パリに行くと、フレンチよりもモロッコ料理が楽しみになっていた。

パリ以外の土地で食べたのが、3年前の香港。SOHOにあるSAFARIという北アフリカレストラン。ここでパリの記憶が蘇ってくるような本格的なクスクスとタジンに再会した。
日本に帰国後、モロッコ料理に再会したく、都内のモロッコ料理店を何件か食べ歩いてみた。都内にある本格的なモロッコ料理店は約10件。全てを制覇した訳ではないが、何処も特徴があり、一度は行く価値のあるお店が多い。

中でも私が一番足を運んでいるのがこの江古田にあるALANDALUS(アランダルース)だ。
この店は偶然通りがかりに見つけ、入っていたのだが、最高の出会いだった。店の看板にはモロッコ/スペイン料理とある。一見疑問に思えるカップリングだが、オーナーシェフのタヒリさんは、モロッコとスペインのハーフで、両方の料理を作れるのだ。
聞くと、モロッコにはエリアでフランスの文化圏と、スペインの文化圏があるという。スペインでもアンダルシア地方などは、モロッコに近いエリアになり、確認はしていないのだが、店名もアンダルシア地方と紐付いているのではないかと思う。
このアランダルースでは、スペイン寄りのモロッコにいる気分になって楽しみたい。

抜群に美味しいモロッコのスープ、ハリラ。
抜群に美味しいモロッコのスープ、ハリラ。

私がこの店で、一番お勧めしたいのが、ハリラというモロッコのスープだ。ハリラというネーミングは、コム・デ・ギャルソンのREDというフレグランスシリーズにも使われているエキゾティックな響きを持っている。
すごく濃厚なスープだが、少しスパイシーで、身体に染み渡るようなコクと風味がある。材料は企業秘密らしいが、かなりの種類の穀物をブレンドしてあるようだ。日本にあるアフリカ料理店は、日本人向きにやや食べやすくしたり、独特のクセがある風味を封鎖してしまうケースがあるが、ここは日本人に変に合わせず、ストレートに作られていることが、このハリラの濃厚でスパイシーな風味からわかる。

スペインから輸入しているオリーヴ
スペインから輸入しているオリーヴ
タコとポテトのガルシア風。
タコとポテトのガルシア風。

今回食したメニューの中では、オリーヴとタコとポテトのガルシア風が、スペイン料理である。オリーヴはスペインから直輸入しているのだが、よく食べるオリーヴとは、明らかにコクというか、味の深みが違う。
タコをふんだんに使ったタコとポテトのガルシア風は、ここで初めて食べた料理だが、前菜として毎回注文をしている。
ポルトガル料理にも通じる(ポルトガルはタコを食材にするメニューが多い)あっさりとした味付けで、ワインとの相性もいい。
因にワインのセレクションは、スペインワインが当然ながら充実している。

ミートボールのタジン
ミートボールのタジン

最近日本でも市民権を得つつあるタジン鍋。モロッコ料理というと、羊や牛といった肉が主流だが、エビやタラなど魚介類のタジン鍋も用意されており、選択肢は豊富にある。
その中でも私がよく注文するのは、ミートボールのタジン鍋だ。
一見すると煮込みハンバーグに落とし卵といった風情で、日本人にも非常に食べやすい味付けになっているので、家族で利用する際には、是非試して頂きたい一品である。
イスラエル料理のシャクシューカにも似た煮込み料理だが、こちらの方がややスパイシーで食べ応えがあるかもしれない。

野菜のクスクス。右のスープをかけて食す。
野菜のクスクス。右のスープをかけて食す。

モロッコ料理の代表といえばクスクスだ。クスクス自体は粒状のパスタのようなもので、それに何らかのスープやシチューをかけて食べるのが一般的だ。
パリのモロッコレストランには、かなりの種類のシチューをチョイス出来るクスクスが用意されている。今回は野菜のクスクスをオーダーしたが、一人や二人では食べきれないほどのボリュームがある。
アランダルースのクスクスの特徴の一つに、惜しみなく素材が使われている事がある。野菜のクスクスだと、豪快にカットされた野菜がゴロゴロと入っているので、食べ応えも十分ある。
見た目からは、かなりこってりした料理のような印象を持ってしまうが、実はかなりあっさりしている。
そういう意味でプラスワンの味覚として使うのが、アリッサである。

モロッコの香辛料アリッサ
モロッコの香辛料アリッサ

クスクスには、少しこのアフリカ系香辛料アリッサを混ぜて食べると、スパイシーになり、風味が増す。
もしクスクスとセットで出てこない場合、アリッサというと、持ってきてくれるので、是非試してみて頂きたい。

ミントティー。独特のポット。
ミントティー。独特のポット。

モロッコ料理の最後はミントティーが定番。独特の銀のポットで、高い位置から滝のように流してミントティーを入れるのが、モロッコ式。出来れば砂糖入りで、ちょっと甘めで飲む事をお勧めしたい。
この銀のティーポットは、お店でも購入することが出来る。

オーナーシェフのタヒリさん。屋敷豪太さんみたいで、格好いい。
オーナーシェフのタヒリさん。屋敷豪太さんみたいで、格好いい。

オーナーシェフのタヒリさんは、スペインとモロッコのハーフで、日本に来て10年で、最初はスペイン料理店で働いており、自分の育ったルーツの料理を紹介すべく、開業をしたそうだ。前回ご紹介したイスラエル料理ピンクカミラのマルセロさんと似たようなバックボーンである。
今回はモロッコ料理メインだったが、パエリアなどスペインメニューも充実している。

学生の多い練馬の江古田という都心から少し離れたロケーションに、こつ然と存在するアランダルースだが、一度店内に入ると、全く違う世界に誘ってくれる。
江古田という土地柄か、この店はコストパフォーマンスも非常に高い。
飲み物の注文にもよるが、お一人3000円位の予算で今回紹介したメニューは、充分満喫して頂ける筈である。
ランチ営業もしているので、気取らず気軽にモロッコ料理を楽しめるのも、アランダルースの良さである。
セルクルルージュでは、今後もこのようなお店を紹介していき、読んで頂いた方の選択肢を増やすお手伝いをしていく予定です。

アランダルース
東京都練馬区旭丘1‐75‐1 瀧島ビル2F
03-3565-1301
西武池袋線江古田駅南口徒歩3分/都営大江戸線新江古田駅徒歩6分
ランチ 11:00~15:00
ディナー 17:00~23:00(FOOD L.O.22:30)
定休日:火曜日