私が初めてモロッコ料理を食べたのは、1986年に行ったパリ。サンジェルマン・デ・プレからカルチェラタンの方に歩いて行くと、何件かモロッコレストランが並んでいる一角がある。クラッシュの「ROCK THE CASBAH」やオフラ・ハザが聞こえてくるような中東のエッセンスと、意外に食べやすいクスクスのファンに、あっという間になってしまった。フランス領だったモロッコのレストランはパリに多いので、パリに行くと、フレンチよりもモロッコ料理が楽しみになっていた。
パリ以外の土地で食べたのが、3年前の香港。SOHOにあるSAFARIという北アフリカレストラン。ここでパリの記憶が蘇ってくるような本格的なクスクスとタジンに再会した。
日本に帰国後、モロッコ料理に再会したく、都内のモロッコ料理店を何件か食べ歩いてみた。都内にある本格的なモロッコ料理店は約10件。全てを制覇した訳ではないが、何処も特徴があり、一度は行く価値のあるお店が多い。
中でも私が一番足を運んでいるのがこの江古田にあるALANDALUS(アランダルース)だ。
この店は偶然通りがかりに見つけ、入っていたのだが、最高の出会いだった。店の看板にはモロッコ/スペイン料理とある。一見疑問に思えるカップリングだが、オーナーシェフのタヒリさんは、モロッコとスペインのハーフで、両方の料理を作れるのだ。
聞くと、モロッコにはエリアでフランスの文化圏と、スペインの文化圏があるという。スペインでもアンダルシア地方などは、モロッコに近いエリアになり、確認はしていないのだが、店名もアンダルシア地方と紐付いているのではないかと思う。
このアランダルースでは、スペイン寄りのモロッコにいる気分になって楽しみたい。
私がこの店で、一番お勧めしたいのが、ハリラというモロッコのスープだ。ハリラというネーミングは、コム・デ・ギャルソンのREDというフレグランスシリーズにも使われているエキゾティックな響きを持っている。
すごく濃厚なスープだが、少しスパイシーで、身体に染み渡るようなコクと風味がある。材料は企業秘密らしいが、かなりの種類の穀物をブレンドしてあるようだ。日本にあるアフリカ料理店は、日本人向きにやや食べやすくしたり、独特のクセがある風味を封鎖してしまうケースがあるが、ここは日本人に変に合わせず、ストレートに作られていることが、このハリラの濃厚でスパイシーな風味からわかる。
今回食したメニューの中では、オリーヴとタコとポテトのガルシア風が、スペイン料理である。オリーヴはスペインから直輸入しているのだが、よく食べるオリーヴとは、明らかにコクというか、味の深みが違う。
タコをふんだんに使ったタコとポテトのガルシア風は、ここで初めて食べた料理だが、前菜として毎回注文をしている。
ポルトガル料理にも通じる(ポルトガルはタコを食材にするメニューが多い)あっさりとした味付けで、ワインとの相性もいい。
因にワインのセレクションは、スペインワインが当然ながら充実している。
最近日本でも市民権を得つつあるタジン鍋。モロッコ料理というと、羊や牛といった肉が主流だが、エビやタラなど魚介類のタジン鍋も用意されており、選択肢は豊富にある。
その中でも私がよく注文するのは、ミートボールのタジン鍋だ。
一見すると煮込みハンバーグに落とし卵といった風情で、日本人にも非常に食べやすい味付けになっているので、家族で利用する際には、是非試して頂きたい一品である。
イスラエル料理のシャクシューカにも似た煮込み料理だが、こちらの方がややスパイシーで食べ応えがあるかもしれない。
モロッコ料理の代表といえばクスクスだ。クスクス自体は粒状のパスタのようなもので、それに何らかのスープやシチューをかけて食べるのが一般的だ。
パリのモロッコレストランには、かなりの種類のシチューをチョイス出来るクスクスが用意されている。今回は野菜のクスクスをオーダーしたが、一人や二人では食べきれないほどのボリュームがある。
アランダルースのクスクスの特徴の一つに、惜しみなく素材が使われている事がある。野菜のクスクスだと、豪快にカットされた野菜がゴロゴロと入っているので、食べ応えも十分ある。
見た目からは、かなりこってりした料理のような印象を持ってしまうが、実はかなりあっさりしている。
そういう意味でプラスワンの味覚として使うのが、アリッサである。
クスクスには、少しこのアフリカ系香辛料アリッサを混ぜて食べると、スパイシーになり、風味が増す。
もしクスクスとセットで出てこない場合、アリッサというと、持ってきてくれるので、是非試してみて頂きたい。
モロッコ料理の最後はミントティーが定番。独特の銀のポットで、高い位置から滝のように流してミントティーを入れるのが、モロッコ式。出来れば砂糖入りで、ちょっと甘めで飲む事をお勧めしたい。
この銀のティーポットは、お店でも購入することが出来る。
オーナーシェフのタヒリさんは、スペインとモロッコのハーフで、日本に来て10年で、最初はスペイン料理店で働いており、自分の育ったルーツの料理を紹介すべく、開業をしたそうだ。前回ご紹介したイスラエル料理ピンクカミラのマルセロさんと似たようなバックボーンである。
今回はモロッコ料理メインだったが、パエリアなどスペインメニューも充実している。
学生の多い練馬の江古田という都心から少し離れたロケーションに、こつ然と存在するアランダルースだが、一度店内に入ると、全く違う世界に誘ってくれる。
江古田という土地柄か、この店はコストパフォーマンスも非常に高い。
飲み物の注文にもよるが、お一人3000円位の予算で今回紹介したメニューは、充分満喫して頂ける筈である。
ランチ営業もしているので、気取らず気軽にモロッコ料理を楽しめるのも、アランダルースの良さである。
セルクルルージュでは、今後もこのようなお店を紹介していき、読んで頂いた方の選択肢を増やすお手伝いをしていく予定です。
アランダルース
東京都練馬区旭丘1‐75‐1 瀧島ビル2F
03-3565-1301
西武池袋線江古田駅南口徒歩3分/都営大江戸線新江古田駅徒歩6分
ランチ 11:00~15:00
ディナー 17:00~23:00(FOOD L.O.22:30)
定休日:火曜日
クスクスといえばその名も『クスクス粒の秘密』という快作がありますね。昨年、カンヌを制したチュニジア出身監督アブデラティフ・ケシシュ07年の映画、そのエンディングにかけてクスクスをめぐるサスペンスが人をめぐる残酷さとやさしさと厳しさと絡んでスリリングに紡がれていきます。ここでも、そして5日に公開されるパルム受賞作『アデル、ブルーは熱い色』http://adele-blue.com/でも、生と性、その官能と同列に食のそれが置かれているケシシュの世界、そこで、文才を活かさないの⁈ と自己表現にばかりかまけている”知的”階層を尻目に、教える仕事を天職として地に足つけて前に進むヒロインの背中、悲しさを突き抜けて新鮮な風が立ち上ってきます。江古田とアデル、見てから食べても、食べてから見ても素敵。、ぜひお試しください! atsuko-k
ありがとうございます。『アデル、ブルーは熱い夏』是非見てみたいです。
パルムドール受賞作でしたか。ちょっと気になる作品として、マークしていたところです。
モロッコのエキゾチィックな空気は、『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライブ』のタンジールにも通じますね。こちらも是非食べに行ってみてください。