あの猛暑の日々が嘘のような、早くも秋を感じさせる8月の終わりにBEAMS丸の内で行われたダルクオーレのオーダー会に久しぶりに行ってきました。彼に対する最大の敬意を込め、2007年に彼に初めてオーダーして翌2008年に仕上がってきた、ダブルブレストのクラシックなネイヴィースーツを着て。
Luigi Dalcuore(ルイジ・ダルクオーレ)はナポリのハンドメイドテイラリングの鬼才です。ここでは改めてナポリのテイラリングの何たるか(歴史やその特徴や薀蓄)を語るつもりはありませんし、それは別のサイトにお任せしたいと思います。
むしろここでは、私がこれまでのStyleでの投稿で書いてきた、自分の中での『スーツの気分』なるものの更なる高まりを、それを具体的な『形』にしていく過程を通じて多少なりともお伝えできればと思っています。
ここ続いてきたカジュアル化へ向かっていた流れの中で、天邪鬼かもしれないけれどスーツへ、そしてよりクラシックさや、エレガントさといったものを感じさせる方向に興味が向かっています。以前のStile Latinoのトランクショーで書いたダブルブレステッド、スリーピースといった『形』への回帰であり、さらにはよりsartorial(仕立て屋的)なものへの回帰です。
そんなわけで、今回はヴァンチェンツォやプリモにまたお会いしてこのシーズンの秋冬に間に合うものをオーダーするという選択もありましたが、久しぶりにナポリの仕立て屋ダルクオーレで、来年2月の仮縫いを挟み、仕上がりまで10ヶ月をかけてSartorial suit(ハンドメイドの仕立て屋のスーツ)作りを楽しむことを選択してみました。
久しぶりにあった挨拶に続き、今回のフルオーダーで何が実現したいかを話し合っていきました。
イメージは明確にあり、生地はもう15年来BEAMSでお世話になっているHさんが以前、ダルクオーレで作られたダブルブレストのスーツを見て、気に入っていたフレスコを事前に探してもらっていました。
マーティンソンのヘヴィーフレスコ、ウエイト435~465相当、日本の天候ではいつ着るんだという感じもしますが、なじませ甲斐があるいい英国生地だと思っていました。
当初ダルクオーレのバンチにはもう無い、というご連絡でがっかりしていましたが、オーダー会前日夜にHさんから「発見しました!」のメールをいただいていたものです。
色はチャコール。フレスコのミディアムグレーもブルー、ネイビーとのあわせが素敵そうですが、今回は作りたいものとの整合性からこちらを選択。
そして作りたいのは、ダルクオーレが新しくサンプルとして持ってきた、『ピークドラペル、スリーピース、シングルプリーツパンツ』のモデルです。
英国っぽい生地とスタイルを、ナポリのハンドメイドテイラリングでつくるということですが、いろいろなさじ加減は、ダルクオーレ本人の意見を聞きながら方向を定めていきました。
生地の選択とスタイルの選択は彼も了解。
襟は親父っぽくならないように、ゴージを高めにして欲しい旨、ラペルの幅やシェイプについてもイメージを伝えました。Pittiのスナップでみる誇張され過ぎものではないものの、ラペルも相応の幅広さが自分の中での気分です。彼は「ピークドの場合は2つボタンでがスタンダードだけれど、私はピークドでも段返りにする方が好きだ」という意見。せっかく彼にお願いするのだから、彼のスタイルを尊重しました。
サンプルのモデルは背中側の肩周りにごくごく薄くパッドが入っているとのことでしたが、彼曰く「生地にハリがあるので、パッドとか入れなくても良いだろう。マニカ・カミーチャ(雨降り袖)できれいな張りが出るだろう。」とのことそれにも納得です。
フラップつきのポケットは、生地が無地なのと英国感を強調してチェンジポケット付にしました。
ベストはなるべくタイトな仕上がりを希望。
パンツは、ベルトレスのサイドアジャスターに変更、若干股上を深めに、カジュアルな方向の股上の浅さから一線をおきました。Ricci弟みたいに誇張されてはいませんが。
2007年にはノープリーツに換えてもらったのを、今回はパンツはプリーツ入り。それでもフィットは細く、すそ幅は17.5cmの指定です。
上がりはいかに?英国ぽさとナポリテイラリングぽさ、黒に近い色と幅広のピークドラペルからのGUCCI的モードっぽさとクラシックさ、こうしたバランスがうまく機能したスーツが上がるといいなと思います。
2月の仮縫い時にまたご報告をしたいと思います。
あわせはいつものストイックなもの。白で生地違いででスーツ映えのするレギュラーカラーのシャツと黒のツイルのタイを新調しておきます。そして『スーツの気分』は久しぶりに着た2008年のスーツのこうしたディテールでさらにかき立てられるのでした。