やさしい人/”Tonnerre” ギョーム・ブラック監督最新作

© 2013 RECTANGLE PRODUCTIONS - WILD BUNCH - FRANCE 3 CINEMA
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『遭難者』『女っ気なし』で押しつけがましさのかけらもなく才人ぶりを印象づけた監督ギヨーム・ブラック。待望の長編デビュー作『やさしい人』は、北仏のさびれた海辺の町オルトを舞台に世界から忘れ去られた場所と人との共振をやわらかに掬った前2作同様、ブルゴーニュ地方の小さな町トネールを舞台にその土地のゴシック・ロマンな肌触りを映して中年男を貫く突然の雷鳴のような狂った恋と勘違いの使命感の物語を差し出してみせる。

© 2013 RECTANGLE PRODUCTIONS - WILD BUNCH - FRANCE 3 CINEMA
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 ヴァカンス映画の軽やかさを受け継いだ『女っ気なし』の成功に安住することなく、果敢に変化をのみこんだ新作は、しかしよく見ると冬の夜のちょっと怖いお伽噺にも似た感触、携帯メールを話の運びに使う術、胸に燻るもやもやの解き放ち方――と『遭難者』の心に荒海を抱えた自転車のりをめぐるお話とそう遠くない世界を感じさせもする。監督ブラックの才能の柔軟性と好ましい頑なさとを共に確認させてもくれる。

© 2013 RECTANGLE PRODUCTIONS - WILD BUNCH - FRANCE 3 CINEMA
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 それなりに知られたインディ系ロッカー役で今回も主役を務めるヴァンサン・マケーニュの周到な演技と土地っ子のノンシャランとした存在の力とをつきあわせる手法に磨きをかけるいっぽうで、ブラックはスマートフォンの待ち受け画面として印象的に挿入されるゴッホの絵、そこに漲る狂気を主人公の狂った恋の深化を指し示す道しるべのように活かしたり、雪と雨の対比で心の温度差を縁取ったり、終盤にかけフィルム・ノワールの方へと舵を切ったりと、緻密に計算された語りの術の冴えも新たに感じさせる。思春期映画になるという次回作への期待も否応なしに膨らんでいく。

© 2013 RECTANGLE PRODUCTIONS - WILD BUNCH - FRANCE 3 CINEMA
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 そんな監督ブラックの美質のなかでももういちど、確認しておきたいのが人に向けた確かな眼差しのことだ。
 今回は敬愛するジャック・ロジエ映画で知られるベルナール・メネズが「祖父の世代のちょっと大げさな演劇性(笑)」(監督談)を全開にして素敵に象る父とマケーニュの息子の関係にとりわけその確かな眼が息づいている。
 互いの胸に残された人生の痕跡、傷も痛みも楽しい思い出も、忘れたり風化したりしたようでしかし、時にふっと帰りくる記憶として、しらんぷりしたそれぞれの時空を侵食する。直截に語られるわけではなくとも人と人の歩みの歴史を涙ぐましくそれが裏打ちしていることを、ブラックはさりげなく不器用な父と子の関係にたくしこむ。そこに浮上する人という存在の普遍の真実。それを普通の家庭の食卓にとけこんだヴェルレーヌの詩の一場に映画はこともなげに響かせる。密やかなのに鮮やかな永遠のつかみとり方を前にすると「あゝ!――そのやうな時もありき、寒い寒い 日なりき」なんて中也の詩集を思わずこっそりひっぱり出したくなったりするかもしれない。

© 2013 RECTANGLE PRODUCTIONS - WILD BUNCH - FRANCE 3 CINEMA
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『やさしい人』は渋谷・ユーロスペースで公開中。名古屋シネマテークで11月29日から、その他全国で順次公開予定。
オフィシャル・サイト 

次回のLCR Cinema Disucussionでも取り上げる予定です。乞うご期待!

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