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ベルモンド映画の決定版登場『リオの男』『カトマンズの男』/CINEMA DISCUSSION-36

「リオの男」
L’HOMME DE RIO a film by Philippe de Broca © 1964 TF1 Droits Audiovisuels All rights reserved.

新作映画を複数の視点からとらえ、映画評論の新しい手法を考えようとしてスタートしたセルクル・ルージュのシネマ・ディスカッション。
第36回は、昨年開催され大好評だったフランス最強スタージャン=ポール・ベルモンドの旧作特集上映の第2弾「ベルモンド傑作選2」を、ご紹介します。
昨年上映された8本は、日本では見る機会の少ない作品が中心で、いわば裏メニューのようなプログラムでしたが、今回は代表作『リオの男』『カトマンズの男』に、70年代の隠れた名作『相続人』、日本での劇場初公開の後期傑作『アマゾンの男』、『エースの中のエース』の5本が上映されます。
緊急事態宣言で映画館休業問題が生まれていますが、5月14日新宿武蔵野館で、予定通り傑作選2はスタートしました。
最初の土曜日15日は、全回満席との嬉しいニュースを聞いており、作品への期待度を実感しております。

セルクルルージュでは、前回傑作選に続いて、フランスの大スターベルモンドの魅力を知っていただく為に、今回は大々的に応援させて頂きます。

まずは5月より新しいメディアUPDATE TOKYOを立ち上げます。
UPDATE TOKYOは、様々なカルチャー情報を発信するクリエイティブメディアで、映像とWEB SITEの両軸で展開いたします。
映像はYouTubeにUPDATE TOKYOチャンネルを設立し、毎回UPDATE TOKYOのメンバーとゲストのトークセッションにより、映画、音楽、アート、ファッション、ゲーム、食など様々な角度から、UPDATEした情報をお届けします。
WEB SITEでは、動画と連携しながら、トークセッション以外の手法でも情報発信をしてまいります。
UPDATE TOKYOチャンネル第1回は、傑作選の配給プロデューサー江戸木純氏をゲストにお招きし、2回に分けて、ベルモンドの魅力について、たっぷりお話し頂きました。
私が知らない話も沢山あり、ベルモンドファンの方々、また今回初めてベルモンドに興味をお持ちになった皆さんには、絶好のガイドとなりますので、是非ご覧ください。

続いて、ミューシジャンのサエキけんぞうさんに、ゴダール作品『勝手にしやがれ』から、『リオの男』への流れについて、インタビューにて語っていただきました。
サエキさんは、パール兄弟などご自分のアーチスト活動だけではなく、映画芸術での連載など、映画にも深い造詣をお持ちです。また毎年のレギュラーイベントとして、セルジュ・ゲンズブールナイトを主宰され、フレンチカルチャーシーンでのインフルエンサーでもあります。

同じく近日オープン予定ですが、UPDATE TOKYOのWEB SITEでは、『相続人』『アマゾンの男』『エースの中のエース』を、紹介させて頂きます。

セルクルルージュ・ヴィンテージストアでは、ベルモンド出演作品のオリジナルポスターを、特集販売しております。
ベルモンド傑作選2のHPでは、ベルモンドポスターギャラリーとして、紹介頂いておりますので、
合わせてこちらも是非ご覧ください。

前置きが長くなりましたが、今回のディスカッションメンバーは、川野正雄と、映画評論家川口敦子の2名での対談でお届けします。

リオの男ドイツ版ポスタ^

★まずはジャン=ポール・ベルモンドを人気スターとして決定づけた『リオの男』、いかがでしたか? 映画の魅力、ベルモンドの魅力はどのあたりに?

川口敦子(以下A):『リオの男』、心底、楽しみました。この快作、第37回米アカデミー賞脚本賞候補となっているんですね。乱暴を承知でいってしまいますが、その評価の決め手となったのが、アメリカで受けた、大ヒットしたという事実じゃないでしょうか。
ハリウッドの業界人の選ぶ賞とはいえ、否、だからこそ興行成績がオスカーの授賞にはものをいう。もちろん文句なしの快作です、アメリカじゃなくてもヒットしました、でもフランス映画(作家系の作品に限らず、のようです)ってニューヨークとかLAとかごく限られた部分にしか受容されていないという広大なアメリカの一般的観客の現実を思えばこの大ヒットやはり無視できませんよね。あるいはそのヒット、観客の支持がそのまま快作の「快」と重なっていくこと、要はストレートな面白さの勝利――ってまわりくどくなってきてすみません。要するに面白い、四の五の言わずに楽しめる、そんな面白さ、楽しさの源を辿るとベルモンドの魅力はいうまでもないんですが、映画そのものとしての磁力、実力も見逃せない――って肩すかしなコメントになりますが、作り手の底力なしには面白いってなかなか到達できない境地じゃないですか笑
開巻まもなくあっけなくお話がパリからブラジルへとすっとんでいく小気味よさ等々、展開の速さ、効率のよさ、え、え、え、を連発して突っ走りながらも全編を一週間の休暇のできごととして始まりと終わりをきっちりブックエンドにしてみせるとか、これみよがしじゃなく巧いんですね。
冒険活劇にウェルメイドって形容がふさわしいのか、誉め言葉になるのかと、若干、不安になりつつでもそこ、注目したいと思いました。そういう巧さがお得意だったハリウッド映画を振り返ればアメリカでのヒットもよりいっそう納得できる気がします。
監督のフィリップ・ド・ブロカはトリュフォーやシャブロルの助監督を務めていたんですね。ヌーヴェルヴァーグのアメリカ映画志向、ジャンル映画への眼差し、紋切り型の更新といった往き方をにらみ,踏襲しつつも、あくまで娯楽作に仕立て上げるという部分、共著「Midnight Cinema」等で知られる映画評論家J.ホーバーマンが「ソフトコアなヌーヴェルヴァーグ」と彼を評しているのもなるほどと思います。そのド・ブロカとベルモンドは同じ1933年生まれ、映画の新しい波の中で共に育ち、やわらかくそこから巣立っていこうとした兄弟的、同志的関係なのかもしれませんね。
長くなりますがもうひとつ、ド・ブロカとのコンビ第一作『大盗賊』以来、同じ顔触れのチームワークも興味深い。特に『勝手にしやがれ』や『ピアニストを撃て』『黒衣の花嫁』での噛み応えある顔見世も忘れ難い脚本家ダニエル・ブーランジェの冒険また冒険な足跡(神学校で学び、第二次大戦下、レジスタンスに加わって逮捕、収監、労役、脱走、羊飼いとして身を隠し、戦後は世界を股にかけて放浪……)はド・ブロカとのコンビ作にも大いに寄与しているんじゃないでしょうか。彼はアラン・コルノー監督の渋いノワール『真夜中の刑事』の共同脚本も書いているんですね。渋いといえば『大盗賊』以来、製作を務めるアレクサンドル・ムヌーシュキンも要チェック。ド・ブロカ作品以外でもルルーシュのこれまた渋い所、『あの愛をふたたび』(このベルモンドもまた素敵!)『流れ者』『冒険また冒険』お薦めです。あと『愛しきは、女 ラ・バランス』もお忘れなく。あ、もひとつ、『リオの男』の脚本に太陽劇団で知られるアリアーヌ・ムヌーシュキンが参加していて一瞬、?だったんですが、アレクサンドルの娘なんですね。蛇足ですが。

リオの男アメリカ版インサートポスター

川野正雄(以下M):ベルモンドの魅力に関しては、昨年の傑作選1のシネマ・ディスカッションで随分話したので、今回は作品に絞っての話にします。
『リオの男』を初めて見たのは、1980年代後半VHSのビデオで見たと思います。
オープニングのタイトルバックや音楽から素晴らしく、今回人気投票で一位になったのもよく理解出来ます。
ベルモンドのアクションコメディの正に原型になった作品だと思います。
フィリップ・ド・ブロカ監督と組んだ前作『大盗賊』は、コメディ色は薄かったですが、ここでのベルモンドは、アクションに笑いに洒落っ気に旅と、映画の娯楽的な魅力を凝縮していると思います。
64年以前の出演作は、ユーモアはあるけど、ここまでドタバタの物は多分なく(全作品見ているわけではないですが)、ベルモンド自身としてもブレークスルーした作品なのではないでしょうか。
アメリカでのヒットは、敦子さんに聞くまで知りませんでした。
アメリカ版のポスターはデザインが2種類ある為、何故かな〜と思っていましたが、ヒットしていたという事で、納得出来ました。
作品的にもヌーベルヴァーグ直後のフランス映画と言うより、アメリカのアクションコメディのジャンルの方がしっくり来ますね。
この作品は1964年制作なのですが、なんとベルモンドはこの年6本公開されているのです。
しかもブラジルロケの『リオの男』、クリストファー・ノーランの同タイトルを遥かに凌ぐ戦争映画『ダンケルク』、ロードムービーアクション大作『太陽の下の10万ドル』など、いかにも準備と撮影に時間がかかりそうな作品ばかりです。
前年1963年は、『バナナの皮』1本の為、撮影自体は1963年に多くされたと思いますが、すごい本数です。
正に人気スターとして、ノリに乗っていた時期の作品で、すごく勢いを感じます。

「カトマンズの男」
LES TRIBULATIONS D’UN CHINOIS EN CHINE a film by Philippe de Broca © 1965 TF1 Droits Audiovisuels All rights reserved.

★続く『カトマンズの男』も冒険活劇スターとしてのベルモンドの魅力全開の快作ですが、こちらの感想は?

M:前回も言いましたが、この映画が僕の初のベルモンド映画です。確かTBSの映画番組で日本語吹き替え版を見て、すっかりベルモンドのファンになりました。
配給プロデューサーの江戸木純さんに伺った話ですと、この2本はまとめて企画されたのではないかという事でした。
南米と極東という当時ではかなり未知の遠隔地での撮影を軸に計画したのではないでしょうか。
このドタバタ感と、洒落っ気のあるユーモアというのは、多分フレンチコミック的な部分もあると思います。
この作品のベルモンドは、コミックヒーロー的な活躍で、多分これが日本のルパン3世に繋がって行ったのだろうなと、改めて感じましたね。
こちらは1965年制作です。この年の公開作品は『カトマンズの男』と、ジャン・リュク・ゴダール監督作品『気狂いピエロ』の2本となっています。
この弾けたコメディと、ヌーベルヴァーグを代表する1本に同じタイミングで出ているのも、ベルモンドらしいです。
自分として好きな作品というと、エキゾチックで洒落た『カトマンズの男』の方になりますね。
最初に見たという思い入れもあるかもしれませんが。

A: ウェルメイドな『リオの男』に対してこれは走り出したらとまれないマッドマッドマッドワールドな魅力じゃないでしょうか。より不条理にアクションが連発されていく、その身体性を海外紙のいくつかがサイレント映画的と評している、判りますね。
 NYタイムズ紙(66年5月18日)では「ワイルドでファニー」とほめているんですがそれに狂っていてもエレガントと付け加えたい感じ。ド・ブロカは世界的旋風を巻き起こした『リオの男』の後で、ドタバタ・アドヴェンチャー・コメディ映画の監督みたいに決めつけられ、型に押し込められるのがいやでオファーされた『カトマンズの男』を最初は断り、その後、もろに続編というのではなく前作の「魂の相続人」といった形でという条件つきでベルモンドと再び組むことを承諾した、カトマンズのアルチュールのかわりにアーシュラ・アンドレス演じるヒロインがリオでベルモンドが演じたアドリアンの名で呼んで目配せとしている――とundertheradarmag.comが伝えているのも興味深いですね。同じ記事ではド・ブロカが前作よりすべての面で上回ることをめざしている、より壮大なスタント、より高いリスク、よりエキゾチックな舞台…と挙げた挙句にどちらの映画もお馬鹿で素敵だが、リオのひねりと転回に比べより一直線にお馬鹿を究めるカトマンズのほうが好み――と締めくくる、この意見に私もより近いものを感じています笑 といいつつ、こちらもベルモンドの変な前髪(『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のパパ役クリスピン・グローバーを彷彿とさせますね)でブックエンド形式を完遂、巧さも軽く継承しています。

カトマンズの男アメリカ版インサートポスター

★『リオの男』はスピルバーグが繰り返し見て楽しんで、『レイダース失われた聖櫃(アーク)』以下のインディ・ジョーンズ シリーズの元になったと認めているそうですが、
60年代日本の東宝映画の能天気な感触とも通じていませんか? ベルモンドの魅力と60年代的なものって関係があるのでしょうか?

A:『カトマンズの男』が大ヒットしたアメリカでライフ誌の表紙を飾り「時の人」となったことを証したベルモンドに同誌は「ニュースタイルのムーヴィー・ヒーロー:セクシー、クレイジー、そしてクール」とのコピーを進呈したそうですが、クレイジーってとこだけに反応するわけじゃなく、白いタキシードやスーツ姿が共に瞼に残るからってだけでもなく、『リオの男』『カトマンズの男』って2本の冒険活劇+コメディの向こうにぼんやりと浮かんでくるのが植木等、無責任男、うはうはお気楽に暴れまくって楽しく前向きに世の中をわたってしまうって、あのシリーズなんですね。
確かに往時、まずは007の成功が生んだヒーロー+美女+世界ロケといった活劇シリーズものの王道もあったわけですがそれを視界に入れつつもっとクレイジーに、だからもっとクールにというベルモンド+ド・ブロカのコンビ作の妙味、外しの技、意外とそれに近いものが植木のシリーズにもなくはなかったんじゃあないでしょうか。どこまでも明日が明るいと信じた時代の能天気さ、そういう60年代の朗らかさの底にはでも、まだ戦争の影が実はあって、ド・ブロカなら『まぼろしの市街戦』を撮ってしまう、実は未来を信じ切ってはいないシニカルさを湛えた眼差しも持っているというような60年代という時代の光と影のことをもしかするとベルモンドも植木もその突き抜けた笑いと裏腹に思わせてくれる部分もあるのでは――なーんて、お呼びでない?…こりゃまた失礼いたしました、なコメントになりつつありますが笑。

M:60年代の東宝コメディはほとんど見ていないので、これは何とも言えません。ただ60年代は、まだまだフランス映画の影響が、日本の映画界に対して大きかったのではないかと思います。
先日対談したサエキけんぞうさんは、ベルモンドと、植木等さんとの類似性をご指摘されていたので、そうなんだな〜と思いました笑。
サエキさんは、50年代の世界的なヒーロー、エルビス・プレスリー、マーロン・ブランド、ジェームス・ディーンから、60年代のジェームス・ボンドまで、男らしいヒーローの時代が、ベルモンドによって、新しいヒーローキャラクターが生まれたとご指摘されてもいました。
憧れる男性像、ヒーロー像が、1960年代は変わり始めましたね。日本映画も、三船敏郎さん、石原裕次郎さん的なタフガイ映画スターが変わってきて、それが植木等さんや、田中邦衛さんに繋がっていったのでは無いでしょうか。
ベルモンドによって、新たな映画のヒーロー像が作られ、それは続々とフォロワーを生んでいったと思います。
そういう意味でも、ベルモンドの再評価というものを、今正にすべきかと思います。
江戸木純さんは、このままにしておくと、日本でのベルモンドの存在は消えていってしまう危機感をお持ちでした。
今こうして劇場で再公開して、ベルモンドの映画界に与えた影響を、この機会に、より多くの方に知って頂きたいですね。

大盗賊ドイツ版ポスター

★リオ、ブラジリア、香港、カトマンズとロケ地の魅力も満載ですが、印象に残る場面はありますか? 都市の描き方は?

A:ブラジル映画としてはゴダール『東風』に出演もした『黒い神と白い悪魔』『アントニオ・ダス・モルテス』のグラウベル・ローシャを筆頭とするシネマ・ノーヴォの運動も
同時代的にはあったわけですが、それよりは『黒いオルフェ』の影を『リオの男』は感じさせますよね。『インディ・ジョーンズ魔宮の伝説』でヒーローのサイドキックとして活躍する少年ショーティみたいなリオの靴磨きの少年、彼が住む山の上の貧民街というあたりにも『黒いオルフェ』への意識が感じられるような。そこで爆発するフランソワーズ・ドルレアックの土地っ子顔負けのダンスのステップ、必見です!
 あるいはアントニオ・カルロス・ジョビンが手掛けた『黒いオルフェ』のサントラ、なかでもルイス・ボンファが書いた主題曲の出だしの感じを『リオの男』のジョルジュ・ドルリューの音楽はさらりと思わせてくれませんか。同時代ということでいえばアメリカで『リオの男』がヒットしたのと前後してスタン・ゲッツとアストラット・ジルベルト版の「イパネマの娘」がビルボード誌のヒットチャート入りを果たすとか、ブラジルがおしゃれな時代でもあった?
 圧倒的に印象に残るのは1960年に計画都市として完成したばかりの新首都ブラジリアの索漠とした人気のなさとモダンな建築群、それを引きの画で捉えながら車を追って走る走る走るベルモンドを対置するという殆どシュールレアルなチェイスシーンの乾いた感触、グッときます。アントニオーニと比べる評があるのも首肯けますね。
『カトマンズの男』では全編のほぼすべてが屋外撮影というその解放感も魅力的ですね。香港でもネパールでも街頭ロケでエキストラともいえないもろ市井の人々の反応が掬い取られている点もいいですね。ド・ブロカは従軍時代、記録班としてドキュメンタリーを撮ってもいたようですが、その名残か、はたまた「ソフトコア」でもヌーヴェルヴァーグという出自のなせるわざか、ストリートに出た映画としての『カトマンズの男』の楽しみ方もあるように感じました。一方でというかだからこそというのかな、『リオの男』の後半に登場する年増なマダムが仕切る水上カフェの場、ほとんどスキーロッジと笑いつつジャームッシュが「異色の西部劇としてお薦め」と語ってくれた『大砂塵』とも拮抗するような唐突さで往年のセットの映画を全うする部分も好きです。

M:『リオの男』はフランス映画でブラジルというと、『黒いオルフェ』をまずは思い出しますが、そこからもっとブラジルの魅力により踏み込んだ映画でもあるなと思っています。
ブラジルで撮影する娯楽作品のスタンダードになったんじゃないかなとも思います。
『カトマンズの男』は、ほとんどカトマンズは出てきませんね。『香港の男』とか、『アバディーンの男』と言った方がいいように思います。
香港に自分も住んでいたので、幾つかロケ場所も心当たりがあり、面白かったです。
007にも出てくる水上レストランは、残念ながらコロナの影響で、今年閉店してしまいました。
初詣に皆が行く黄大仙も、今と変わらぬ雰囲気で室内で撮影がされていました。
リオのブラジルと同様に、この作品が極東でのロケの先駆者的になったのではないかと思います。
あんなに大胆にカーアクションを香港で撮影した欧米の映画は、それまであまり無いのではないでしょうか。
この流れで『007は二度死ぬ』が、日本で撮影されたのではないかなと思いました。

「アマゾンの男」
AMAZONE a film by Philippe de Broca © 1999 STUDIOCANAL – PHF Films All rights reserved.

  
★それぞれの映画のヒロイン、演じる女優に関しては? 傑作選1の女優たちはたまたヌーヴェルヴァーグ映画の共演女優と比べてベルモンド映画と相性のいい女優ってどんな女優だと思いますか?

M:アーシュラ・アンドレスは、ビーチのシーンが『007ドクターノー』へのオマージュで、面白かったです。
その後ベルモンドと交際しましたが、こういうタイプがお好みなのかなと思ってしまいます。
彼女は007では台詞を全部吹き替えられてしまったのですが、リオのフランス語も吹き替えかもしれませんね。
フランソワーズ・ドルレアックは、ジャングルでのサファリ的なスタイルなど、おしゃれで素敵でした。『袋小路』や『ロシュフォールの恋人たち』より前の作品ですから、初々しさもありました。
妹のカトリーヌ・ドヌーヴとも共演していますが、ベルモンドに似合うのは姉のドルレアックですね。

ムッシュとマドモアゼル ドイツ版ポスター

A:アーシュラ・アンドレスとは『カトマンズの男』での共演がきっかけで私生活でも確か7年間くらいステディな関係だったんですよね。60年代後半のスクリーン誌のスターのスナップショット欄みたいなページで手をつなぐふたりとか、ベルモンドが大好きなサッカーチームを応援にきたふたりとか見た覚えがあります。『ムッシュとマドモアゼル』のラクウェル・ウェルチとかこのアンドレスとか大型(体のサイズのことだけでもなく)グラマー女優、半分いかついほどの肉体美、怖いくらいの(なんてひがんでいってるわけではないですが)ボディの起伏、そこだけではもひとつ良さが判らないというのが正直な感想なんですが…、でも気はいい、頭もいいというのが一見、体だけみたいなヒロインをめぐる常道的展開、黒縁眼鏡の知性アピールもお約束な転回法だったりするわけでアンドレスにもこのパターンが踏襲されている、でももひとつそこはピンとこないんですね。大きすぎるのかな各パーツが??? そういえば女優としても人としてもなんだか謎な存在としていつももやもやしてしまうのが『アマゾンの男』でヒロインを演じるアリエル・ドンバールなんです。ブロンドの白痴美女優の伝統を全うしながら一方でロメールからアラン・ロブ=グリエ、近くはスペインの気鋭ホセ・ルイス・ゲリン等々の作家の映画でも大活躍、その振幅の広さにいつもぽかんとしてしまう。でもベルモンドはこの系統の女優が嫌いではないようですね笑
 かたや『リオの男』のフランソワーズ・ドルレアックは小気味いいコメディエンヌとしての面白さをここでは全開にしてくれていますね。下手をしたら添え物的なヒロインとなりかねない役どころなのに、興味をそらさず存在し続ける。誘拐犯に盛られた一服のせいでパリからリオへ、朦朧状態で移動する、その硬直とふにゃふにゃとを体現する身体性はベルモンドのアクションに匹敵するセンスといってもいい。この映画の後、わずか数年で事故死してしまうのですが、今も存命だったら妹ドヌーヴとはまた別の輝きをさらに輝かせていたんだろうなと、惜しまれます。

「相続人」
L’HERITIER a film by Philippe Labro © 1972 STUDIOCANAL – Euro International Films S.p.A All rights reserved.

★『カトマンズの男』はベルモンドのフレンチ・トラッドなおしゃれにも注目だと思うのですが、いかがでしょう?

M:品よくカジュアルウェアを着こなしていますね。
ノワールな色彩のイメージが強いアラン・ドロンとは対照的に、ベルモンドは赤いセーターなどをサラッと着るのがうまいと思います。
帽子とコートの着こなしも、素晴らしいです。スタイルの良さもあり、何着ても似合いますね。
『カトマンズの男』の序盤の漫画的な前髪も面白かったです。
傑作選1の70年代後半以降の作品では、ハードボイルド〜タフガイ的なスタイルが多く、ファッション的な見どころは少ないのですが、60年代のベルモンド作品は、カジュアルの着こなしが洒落ています。
60年代中期は、メンズファッションもデザイン性が増していく時期ですが、ベルモンドのスタイルは、トラッドベースで、とても好感が持てます。
『勝手にしやがれ』のヘリンボーンジャケットから、ずっと首尾一貫しています。
『リオの男』の白いスモーキングジャケットなんかも、実にさりげなく着こなしてうまいです。

A:異議なしです! 実は海外メディアでこの映画の評者としてマット・ゾラ―・サイツの名前を発見しておおっと膝を打ったんです。「ウェス・アンダーソンの世界 グランド・ブダペスト・ホテル Popular Edition」等の素敵にヴィジュアルな著作をものしているアンダーソン研究の第一人者ですが、その彼が『カトマンズの男』を評するって結び目に気づくと、もちろんタンタン―ド・ブロカ―スピルバーグって繋がりは無視し難いのですがその先にもうひとりアンダーソンが浮かんでくる。で、彼の映画のおしゃれのインスピレーションとしてベルモンドのここでの服装術、絶対、好きだろうなあと確信せずにはいられなくなります。
 とりわけ気にしてみたいのはネパールへの旅でネイビー・ブレザー(これもかわいいい)の下に直用のラコステ白のポロ。提灯袖が二の腕の逞しさを引き立てて、この筋肉美あってこそのポロと改めて思いつつ、でもカーク・ダグラスのムキムキには陥らないおぼっちゃまな雰囲気の仕上がりがまたいいんですね。ぼたんをきちんと襟元まですべてかけて着る上品さも見逃せません。大富豪としての役作りには違いないし、そこは衣装担当のジャクリーヌ・モロー(『女は女である』『シェルブールの雨傘』『ロシュフォールの恋人たち』『薔薇のスタビスキー』等)の腕のみせどころでもあるのでしょうが、何を着ても様になるベルモンドの強みも忘れるわけにはいきませんよね。役作りという意味ではヒマラヤ行きにLV印のバッグふたつ、テニスラケットと赤が効いてるブランケットをくくりつけてという旅支度の優雅さも要チェックです。いっぽうでこの自殺志願のお坊ちゃまのエキセントリックな部分、ナードな部分も衣装はきちんと押さえていて例えばグリーンのジャケットにピンクのシャツ、金のカフリンクスという合わせ、ベルモンドだからシックに成功しているけれど一歩間違うと色とりどりの危険な組み合わせともなりそうですよね。そのあたりのすれすれなおしゃれに熱い視線を注いでいるのがウェス・アンダーソンって気もするわけで、セルクルでもとりあげた『グランド・ブダペスト・ホテル』でも上手にすれすれ素敵なおしゃれを究めていました。
 もうひとり、忘れてはいけないのが従者役のジャン・ロシュフォール、『大盗賊』でも今回の傑作選第二弾に登場する『相続人』でもいい味を出していて見直しちゃいましたが、『カトマンズの男』で彼が着ているサーヴァント用の縞々のジャケット、印象的ですね。あれ、昔、アニエスbが本来の役割分担を外したおしゃれ着として打ち出していませんでしたか? 確か80年代、パリのサマリテーヌの作業衣売り場で物色したような気もします。
 何はともあれ、映画をおしゃれで見るって楽しみのことも思い出させてれる『カトマンズの男』なんですね。

パリの大泥棒アメリカ版ポスター

★『リオの男』はベルモンド総選挙で1位、『カトマンズの男』は4位に輝きました。映画ファンの支持を集める秘密はどこにあると思われますか?

M:先にも言いましたが、娯楽映画の魅力が凝縮されている点です。
ベルモンドの作品でいうと、『リオの男』『カトマンズの男』は、絶対に外せない鉄板です。
ともかく面白い。
笑えて楽しく、観光気分もあり、ヒーロー、ヒロインが素敵。
傑作選3も開催される事を期待したいです。

A:これは川野さんも仰るように娯楽映画のエッセンスを射抜いている点、そこでしょう。
見終えてすぐまたもう一度、また一度と見たくなる、そういう映画、昨今ではなかなかめぐりあえませんよね。それだけに今回の上映、映画のお愉しみを味わい尽くす貴重な機会だと思います。

ラ・スクムーンドイツ版ポスター
「エースの中のエース」
L’AS DES AS a film by Gerard Oury © 1982 / STUDIOCANAL – Gaumont – Rialto Films GmbH All rights reserved.

ジャン=ポール・ベルモンド傑作選2上映作品】※全作品、松浦美奈さんによる完全新訳日本語字幕版となります。

『リオの男』 (1964年/フランス・イタリア合作映画) 総選挙第1位
監督:フィリップ・ド・ブロカ(「大盗賊」) 共演:フランソワーズ・ドルレアック(「ロシュフォールの恋人たち」)
※パリからリオへ、冒険、冒険、また冒険!ベルモンド×ド・ブロカ監督コンビによるベルモンド映画の決定版にして最高傑作!
★HDリマスターによる57年ぶりの劇場公開

『カトマンズの男』 (1965年/フランス・イタリア合作映画) 総選挙第4位
監督:フィリップ・ド・ブロカ(「大盗賊」) 共演:ウルスラ・アンドレス(「007 ドクター・ノオ」)、ジャン・ロシュフォール
※香港、マレーシア、ネパール…、さらに危険で過激な大冒険の連続! ベルモンド×ド・ブロカ・コンビのもう一つの最高傑作!
★HDリマスターによる55年ぶりの劇場公開

『相続人』 (1973年/フランス・イタリア合作映画) 総選挙第9位
監督:フィリップ・ラブロ(「危険を買う男」) 共演:カルラ・グラヴィーナ、シャルル・デネ、ジャン・ロシュフォール
※スリリング&スタイリッシュ! 巨大財閥の相続人ベルモンドが闇の謀略に挑むクライム・サスペンスの傑作!
★未DVD&ブルーレイ化 ★HDリマスターによる48年ぶりの劇場公開

『エースの中のエース』 (1982年/フランス・西ドイツ合作映画) 江戸木純セレクション
監督:ジェラール・ウーリー(「大頭脳」)共演:マリー=フランス・ピジェ(「真夜中の向う側」)
※1936年ベルリン五輪の真っ只中、ユダヤ人少年を救うべくベルモンドがナチスを相手に大活躍する戦争アクション超大作!
★未DVD&ブルーレイ化 ★HDリマスターによる<日本劇場初公開>

『アマゾンの男』 (2000年/フランス・スペイン合作映画) 特別プレミア上映
監督:フィリップ・ド・ブロカ(「大盗賊」) 共演:アリエル・ドンバール(「海辺のポーリーヌ」)
※『リオの男』から36年、南米アマゾンを舞台にベルモンドが再び大暴れ!ド・ブロカ監督との最後のコンビ作!
★国内未ソフト化 ★HDリマスターによる<日本初公開>

5/14(金)より新宿武蔵野館にて待望のロードショー!

他、テアトル梅田、名演小劇場にても上映決定! 以下、全国にて順次上映。

CINEMA DISCUSSION-33 / ジャン=ポール・ベルモンドの全貌を知る裏メニュー

「大頭脳」
LE CERVEAU a film by Gerard Oury © 1969 Gaumont (France) / Dino de Laurentiis Cinematografica (Italy)

新作映画を複数の視点からとらえ、映画評論の新しい手法を考えようとしてスタートしたセルクル・ルージュのシネマ・ディスカッション。第33回は、新作ではなく、フランスの名優ジャン=ポール・ベルモンドの旧作8本をデジタルリマスター版で公開する「ベルモンド傑作選」を、ご紹介します。
ジャン=ポール・ベルモンドは、『勝手にしやがれ』『気狂いピエロ』などゴダール作品のイメージが日本では強いですが、元々はフランスを代表するエンターティメントスター。セルクルルージュのタイトルネタのジャン・ピエール・メルヴィル監督作品でも、『いぬ』『モラン神父』といった傑作があり、今回の特集上映は、是非ともご紹介したいと考えました。
またセルクルルージュのオンラインストア、セルクルルージュ・ヴィンテージストアでは、『ボルサリーノ』、『暗くなるまでこの恋を』など、ベルモンドの代表作品のオリジナルポスターを販売しています。

「ボルサリーノ」アメリカ版オリジナルポスター

今回のラインナップは、『オー!』以外の作品は、日本ではなかなか見る機会のなかった作品ばかり。フランスでは大ヒット作品が並びますが、日本人には馴染みの薄い隠し味が効いた裏メニュー的ベルモンド特集です。
1本でもご覧になった方には、裏メニューならではの、発見や満足感があると思います。
ディスカッションメンバーは、川野正雄、川口哲生、ナヴィゲーター役の映画評論家川口敦子の3名になります。

「ムッシュとマドモアゼル」
L’Animal a film by Claude Zidi ©1977 STUDIOCANAL

★ジャン=ポール・ベルモンドのとらえ方、セルクルルージュのメンバーの中でも年齢によって微妙に違うように思いますが、まずベルモンドをどんなふうにみていましたか?

川口哲生(以下T):ジャン=ポール・ベルモンドはどうしても、同時代のフランス映画のスター、アラン・ドロンとの対比で捉えてしまいますね。
アラン・ドロンの美形さや陰のある美学との対比で、ベルモンドは歯を剥いてニーっと笑っている感じ。笑。シニカルな中にも独特のユーモアのセンスみたいなものを感じます。
アクションのイメージもありますね。

川野正雄(以下M):ベルモンドは自分の中で特別な存在です。好きな俳優は何人もいますが、出演作品を全部見てみようと思う数少ない俳優で、マイヒーローです。
多分最初に見たのは、TVでしたが、フィリップ・ド・ブロカ監督の『カトマンズの男』で、それが最高に楽しく、劇場にアンヌ・ベルヌイユ監督の『華麗なる大泥棒』を見に行きました。
その後は『ラ・スクムーン』、『相続人』『薔薇のスタビスキー』など、新作は劇場に行き堪能しましたし、『ボルサリーノ』は、リバイバル上映で見ました。
ですので、ヌーベルヴァーグの俳優というより、エンタメ路線のベルモンドにすっかり魅了されていました。
当時雑誌スクリーンに、海外のスターにファンレターを出すページがあり、そこで見つけたベルモンドにファンレター送ったら、何とサイン入り写真の返信が来て、いたく感激しました。その写真はまだ大事に保管しています。

ベルモンドのサイン

ビデオなどが発売される時代になると、出来る限り過去の作品に接しました。ベルモンドは出演作品が多く、未見の作品も多々ありますが、60年代前半の『リオの男』、『冬の猿』、『いぬ』、『雨のしのびあい』などは、ベルモンドの魅力も満開ですが、作品としても傑作だと思っています。
1992年新宿厚生年金ホールで上演された『シラノ・ド・ベルジュラック』も、生のベルモンドが見れるまたとない機会なので見に行きました。
つけ鼻で本来のイメージとは違いましたが、デビュー前国立の演劇学校を優秀な成績で卒業したという舞台出身俳優ベルモンドの一面が見れて、これも大きな発見でした。3時間を超える長尺の舞台でしたが、生ベルモンドを堪能して居たら、あっという間に至極の時が終わってしまった事を、よく覚えています。
日本でどのように毎日過ごしていたのか、興味があったのですが、どこで食事したとか、全くそういう情報はキャッチすることは出来ませんでした。ただプライベートな旅行で日本には来たことがあるという事で、そこは意外な感じがしました。

日本版「シラノ・ド・ベルジュラック」パンフレット

川口敦子(以下A): 多分、最初にベルモンドの名前を意識したのが中学生の頃、テレビの洋画劇場で見た『大盗賊』でした。中2か中3、テレビを通じて同時代というより”昔の”映画を見まくっていた頃で、続いてスター競演のオムニバス『素晴らしき恋人たち』の一篇も期待して見たのですが、おおざっぱにいえば同様のコスチューム・プレイだけどこちらのルイ王朝時代のカツラをかぶったベルモンドにはちょっとがっかりしたような記憶があります笑
まあベルモンドへの入り口としてコスチューム・プレイ『大盗賊』というのはいかがなものかな所もありますが…。で、熱烈なファンになったわけではなかったけれど、映画にもベルモンドにも朗らかさがあって好感をもった、というのが思い返せば最初の印象ですね。
その後、後追いでヌーヴェルヴァーグ期のベルモンドのふてぶてしいのに繊細みたいなかっこよさにはもちろん惹き込まれた、でも川野さんみたいにファンレターを出そうというほど夢中になったことはなかったような。ファンレターはピーター・オトゥールとアラン・ベイツに出して私もお返事は貰いました笑

★そのイメージは今回の傑作選によってどうかわりましたか? または変わりませんでしたか?

M:70年代という自分がベルモンドに最初に夢中になっていた時代の作品が多く、全く違和感は無く、これぞベルモンドという印象です。今回のラインナップでは『オー!』と、『恐怖に襲われた街』の2本は過去に見たことがあります。
特に『オー!』は、当時沢田研二がラジオ番組で、ドロンよりベルモンドが好きで、中でも『オー!』が一番好きな作品だと話していたのを聴き、必死に見る機会を探した作品です。
『オー!』のベルモンドが、一番彼らしいと、今回のラインナップでは思います。おとぼけとクールの同居、ある種の親しみやすさ、その辺がベルモンドの魅力だと思っています。見ていない6本は、どれもベルモンドらしく、それぞれ発見がありました。まとめて見たので、若干記憶が混同していますが(笑)。
ベルモンドの作り出すキャラクターは、『勝手にしやがれ』に代表される飄々とした空気で、悲壮感のない存在感と、初期だと『いぬ』に代表されるクールで静かな存在感に二分化されると思います。
今回はどちらかというと前者のキャラクターが多いですが、『警部』『プロフェッショナル』は後者のイメージで、満遍なくベルモンドの存在感を味わいました。
その後何本も傑作を作るフィリップ・ド・ブロカ監督との最初の『大盗賊』、それまで何本も一緒に傑作を作ってきたアンリ・ベルヌイユ監督との『恐怖に襲われた街』、アラン・ドロンの『冒険者たち』を撮って勢いのあったロベール・アンリコ監督の『オー!』は、特にベルモンドならではのとぼけた魅力と、クールさをうまく引き出していると思います。

「大盗賊」
CARTOUCHE a film by Philippe de Broca © 1962 / STUDIOCANAL – TF1 DA – Vides S.A.S (Italie)

A:今回の傑作選の「あなたはままだ、本当のベルモンドの魅力を知らない。」というキャッチコピーがまさに! という感じ。「山田宏一映画インタビュー集 映画はこうしてつくられる」(草思社)には『大盗賊』『リオの男』『カトマンズの男』と”知らなかった”方の、というか『大盗賊』から入った私の場合には原点回帰なのかもしれませんが笑、サービス精神満点のアクション・スターとしてのベルモンドの魅力を引き出したフィリップ・ド・ブロカ監督とのコンビ第5作『ベルモンドの怪盗二十面相』(75)の現場で撮影の合間にセットを組んだ鉄パイプにぶらさがって「筋肉はすぐなまっちまう」と寸暇を惜しんでトレーニングに励む様子が紹介されているんですが、その折の「体を張ってやらないとアクション・シーンにも迫力が出ない」という発言をかみしめると『恐怖に襲われた街』の屋根伝いとか『ムッシュとマドモアゼル』の階段落ちやヘリから飛行機への降下とか生身の迫力満載のアクションを前にいっそう身を乗り出し手に汗握り応援せずにはいられなくなりますよね。ただそこに悲壮感がないのがベルモンドの魅力の核ともいえそう。スクリーン誌のバックナンバーでベルモンドの記事を探してみたらあの小森のおばちゃまが「万年あばれ坊や的ベルモンドくん」なんて書いてらしてなるほどねと思いました。
もひとつやはり往時のスクリーン(69年11月号)には「洋画に関する30の質問」という連載記事で質問された千葉真一が今、一番好きな男優、共演したい男優どちらもマックィーンとベルモンドと回答していてこれにもなるほどね、と。そう実感をもってうなずけたのも今回の傑作選でベルモンドのアクション・スターぶりを改めて知ったおかげだなあとナットクしたわけです。

T:ゴダールとのヌーヴェルヴァーグのベルモントはもちろん大好きなんですが、こういうコマーシャルな映画でベルモンドの魅力をすごく感じました。
役柄からして、正義のヒーローでもないし、ぬけめない大盗賊でもない、冷酷なギャングでもない。何か憎めないどこか間の抜けている人間らしさがいいですよね。
そういうところがフランス人にはサンパなんだろうな。

「大盗賊」
CARTOUCHE a film by Philippe de Broca © 1962 / STUDIOCANAL – TF1 DA – Vides S.A.S (Italie)
「大頭脳」
LE CERVEAU a film by Gerard Oury © 1969 Gaumont (France) / Dino de Laurentiis Cinematografica (Italy)

★傑作選の中で個人的に特におすすめのベルモンド映画はどれですか? 理由は?

T:私は今回『オー』と『プロフェッショナル』『大頭脳』しかみていませんが、どれも凄く面白かったです。特に『オー』はレーサーだったりモデルだったり当時のフランス人のかっこいいと思うことやもの、服や車、ベルモントの捻くれた役柄、刑事・記者・犯人の男同士の関係性、女との関係性等すごく練られたシナリオで、全く飽きることなく楽しみました。

A:みなさんが挙げてる「オー!」はやっぱりいいですね。チンピラな青春の切なさが見た後にじわっと迫ってくる。監督ロベール・アンリコの『冒険者たち』にほれ込んでベルモンドが出演を希望したそうですが、『若草の萌えるころ』に続いて恋人だった監督と組んだジョアナ・シムカス、前2作に比べるとやや地味めな存在感ながら若い観客にはぜひお見逃しなくといいたいですね。人気女優だったのに『邪魔者を殺せ』のブラック版リメイク『失われた男』で共演したシドニー・ポワチエと結婚してさっさと引退した潔さも印象的でした。70年代にかけてのフレンチなおしゃれ女優というと昨今の女性誌などではまずジェーン・バーキンの名前が出てくるけれど、セリーヌに移ったエディ・スリマンの昨年から今年にかけての隠れたロールモデルとしてシムカスがいるんじゃないかしら、なーんて思ったりもしてしまいます。ベルモンドから話がそれてしまいましたが笑 ついでに共演者の魅力という意味でも、アクション+笑い+展開の妙という意味でも『大頭脳』は侮れませんね。さらに侮れないのが『ムッシュとマドモアゼル』かな。ドタバタ喜劇と片づけられかねない部分もありますが、ケンカしながら…というロマンチック・コメディの王道をきちんと押さえて飽きさせない。加えてベルモンドの二役、スタントマン役でのセルフパロディ的アクションも見逃せません。もう一本、『刑事キャレラ/10+1の追撃』がとてもよかったフィリップ・ラブロ監督のエキセントリックを底に湛えた『危険を買う男』も今回、見られてよかった! な異色作ですね。

「危険を買う男」
L’ALPAGUEUR a film by Philippe Labro © 1976 STUDIOCANAL – Nicolas Lebovici – Tous Droits Réservés

M:本当にベルモンドの過去の作品にアクセスする機会が少なく、今回の特集上映は大変嬉しいです。
『オー!』は、オールタイムでもベストにノミネートされる傑作ですが、大仕掛けの『大頭脳』、ラクエル・ウェルチとのコンビが魅力的な『ムッシュとマドモアゼル』、60年代初期の若きベルモンドが活躍する『大盗賊』は、特にお勧めです。
パリ市内での撮影がすごい『恐怖に襲われた街』も、見所満載です。アンリ・ベルヌイユ監督は、ベルモンドの魅力を長期に渡って最大限引き出した監督だと思います。個人的なベルモンドの最高傑作『冬の猿』、同タイトルの最近の大作には欠けているカタリシスが強く漂う『ダンケルク』、アクションスターベルモンドの地位を不動のものとした『華麗なる大泥棒』。『恐怖に襲われた街』は、それらの集大成の痛快なアクション活劇だと思います。
エンニオ・モルリコーネの作品集で、サントラにしか触れる機会のなかった『プロフェッショナル』をやっと見れたのも、嬉しかったです。
先ほど言った『シラノ・ド・ベルジュラック』の演出は、『プロフェッショナル』の敵役ロベール・オッセンでした。この辺もつながりが見えてきて、面白いです。
それからサイケデリックなロンドンの雰囲気が冒頭から感じられる『大頭脳』。これは見逃せない作品だと思います。デビット・ニーブンと、ベルモンドは同じ時代の『007カジノロワイヤル』でも共演(一緒のシーンはなかったかも)していますが、どちらも当時流行った洒落た大作コメディで、似た空気を感じました。
敦子さんの言っている『危険を買う男』。実は一番期待していなくて、最後に見たのですが、これは正に異色作で、思いの外楽しんでしまいました。
エンタメ〜アクションだけではない独特のノワール作品でした。

「恐怖に襲われた街」
PEUR SUR LA VILLE a film by Henri Verneuil © 1975 STUDIOCANAL – Nicolas Lebovici – Inficor – Tous Droits Réservés

★ヌーヴェルヴァーグだけじゃないベルモンドというのが傑作選の柱になっていますが、
その点に関してはどんなふうに?

M:『勝手にしやがれ』に代表されるゴダール作品のベルモンドも好きですが、今回のラインアップは、むしろベルモンド自身が愛するエンタメ作品が集められています。
ヌーベルヴァーグなベルモンドよりも、今回のコメディやノワール、アクションに徹する娯楽作品のベルモンドの方が、彼の本質的な嗜好ではないかと、勝手に思っています。オフビートというか、とぼけた味のベルモンドと、筋肉質なアクションスターベルモンド、この同居が魅力なんですよね。
資料にもルパン三世のモデルとあり、吹替えは同じ山田康雄さんだったりしていますが、手塚治虫さんの「千夜一夜物語」のアラジンも、確かベルモンドがモデル。こういった偉大な作家のキャラクターモデルにまでなってまうのが、おとぼけベルモンドの凄さだと思っています。
虎と対峙したり、公共交通機関でのアクションシーンなど、CGの時代でもないし、どうやって撮影したのかなと思えるシーンが、随所に見られるのも楽しいです。
それからベルモンドの独特のユーモアセンス。これはドタバタというわけでもなく、品があって、だけどおかしい。その辺は『ムッシュとマドモアゼル』で、全開で楽しめます。

虎とベルモンド「ムッシュとマドモアゼル」
L’Animal a film by Claude Zidi ©1977 STUDIOCANAL

A:CGでなく生身のアクションというのはほんと今、いっそう貴重ですよね。何でも描けてしまうから興ざめになる、という意味では『ダンケルク』にしてもノーランのただ物量作戦的な大仰な空っぽさに比べて生身の痛々しさが迫ってくるんですね。

ヌーヴェルヴァーグに関しては、ついどこかお勉強的姿勢で見てしまったりもする。今回の傑作選はゴダールやシャブロル、トリュフォー、はたまたアラン・レネ作品のベルモンドとはまた別のアクション・スターとしての魅力発見の絶好の機会なのですが、よくよく振返ってみるとアクションって、屋根の上や走る列車の上で暴れまわるスタントなしの活劇というだけでなくベルモンドの演技の身体性って部分にも繋がってくるんじゃないかしら。例えばあの『勝手にしやがれ』のボガートのポスターの前で彼を模し唇を撫でるその指先の動きのしなやかさとか、ラスト、撃たれた腰のあたりを抑えつつよろよろと往く後姿のなまめかしい切れ味とか、俳優としての一貫した武器がそこにあるともいえそうな気がします。娯楽作でも作家の映画でも変わりなく存在してしまえる俳優としての、スターとしての強味ですよね。
その意味で興味深かったのがジャン=ピエール・メルヴィルと組んだ時、きっちりとアングルを決め込んで俳優の自然な動きをある種、封じ込めるメルヴィルの演出に齟齬を感じたようだったと、助監督を務めていたフォルカー・シュレンドルフ(『ブリキの太鼓』)が『いぬ』のブルーレイ所収のインタビューで明かしていること。そこが静の演技でこそ光るドロンとの違いというのも面白いですよね。とはいえメルヴィル映画のベルモンド、大好きですが。

「プロフェッショナル」
LE PROFESSIONNEL a film by Georges Lautner ©1981 STUDIOCANAL

★続きの質問になりますが、今回のヌーヴェルヴァーグだけじゃないベルモンド傑作選は同時にヌーヴェルヴァーグだけじゃないフランス映画の魅力再発見ともいえますね。あるいは今のフランス映画にない魅力、どのあたりに感じましたか?

M:エンターティメントへの徹底ですかね。それとやはりある種洒落た感じはあり、アクションでもハリウッド映画とは全然違う生身のアクション作品ですね。
それからベルモンドの作品では、相手役の女優というのがキーになる事が多く、誰と共演するかも楽しみでした。
今回もジョアンナ・シムカス、マリー・ラフォレというフランスおしゃれ女優から、ラクエル・ウェルチ、クラウディア・カルディナーレというグラマラス女優まで、楽しい共演者が並んでいるのも当時の魅力だったと思います。
初めて中学生の時『オー!』を見た時、冒頭のベルモンドとジョアンナ・シムカスのラブシーンで、『冒険者たち』のレティシアが胸を揉まれていると思い、衝撃的でした(笑)。

T:エンターテイメントに徹しているし、シナリオやプロットがすごく練られていますよね。とにかく映画としてすごく楽しめました。
『オー』の中でベルモンドがフォルスターから拳銃引き抜いて構えるポーズの練習をするシーンとか、なんか昔の日活映画にも通じる型を感じました。

「オー!」
HO! a film by Robert Enrico ©1968 – TF1 DROITS AUDIOVISUELS – MEGA FILMS

A:これはフランス映画だけでなく今、ハリウッドにも日本の映画にも感じる残念さですが、様々な面で、つまり共演者にしてもスタッフにしても企画にしても層の厚みがあった往時と比べて、薄さが気になる今日この頃――なんですね。正直いって今回の6本にしても筋はご都合主義的だったりもする、それでも興味をそらさないスターの磁力はとりわけ大きいですよね。今のフランス映画を見ているとガレルやドワイヨン、デプレシャン、アサイヤス以下、作家性を光らせる存在は続々と出てきているようにも見える。小さくても注目したい映画は少なくない。むしろ娯楽映画の方がなんだかなあと、70年代当時にはあった肌理の細かさを失っている気がします。見ている量が少なすぎるので言い切ることはできませんが傑作選のヴェルヌイユ、ド・ブロカ、アンリコみたいなシブく光る領域の職人映画、これって日本のメジャー映画にもいえるような気がしますが、改めてこういう映画がもっと当り前に見たいなと今、思います。その意味では『天使が隣で眠る夜』でジャック・オーディアールが出てきた時、おおっと期待が募った。恋とも見紛いそうな男の友愛映画のひんやりと鈍い灰青色の世界を、しかも娯楽作として描こうとしていてさすが今回の特集の監督たちともベルモンドとも繰り返し組んでいる脚本家ミシェル・オーディアールの息子――と。『預言者』『君と歩く世界』くらいまでその感じが保たれていてよかったのにカンヌで大賞をとったあたりからなんとなく違ってしまったようで、残念だなあ。

「警部」
FLIC OU VOYOU a film by Georges Lautner ©1979 STUDIOCANAL – GAUMONT

★ベルモンドのファッションはいかがですか?

T:時代性があって、今面白がれるものとそうでないものがありますが、『オー』は洒落もの感ありますね。 大きなサングラスや皮革のトレンチや、スエードにタートルとかはフレンチっぽいですよね。彼女のジョアンナ・シムカスはジバンシーのモデルだし。
『大頭脳』はステレオタイプ化された英国、フランス、イタリア(シシリア)の服の違いって感じだけれど。タートルに皮革のブルゾンとか似合ってますよね。
『大頭脳』ではむしろシルヴィア・モンティの黒ビキニに大きな黒のフェルトハットとかスエードのminiドレスとかがそれこそ昔の「スクリーン」の時代のセクシーな女優の感じでそういう意味で花を添える役回りなんだろうけれどかっこよかったですね。

A:茶系の人、その微妙な濃淡の着こなしがフレンチならではで素敵ですね。ドロンの黒系のイメージとここでも対照的といえるかも。

M:ベルモンドは着こなしがうまいですね。コスチューム映画でもそれなりに見えますが、スーツ姿も様になる。今回は様々な作品で、トレンチコート着ていますから、トレンチコートを比較しながら見るのも面白いです。
今回の作品ではやはり『オー!』のスタイルはすごく好きです。後は『大頭脳』も、カジュアルな着こなしのお手本のような姿で良かったです。
『プロフェッショナル』あたりは、肉体派アクションスタイルですが、どの作品見ても、本人がアクセサリーまで細かく拘っているように思えました。

「警部」
FLIC OU VOYOU a film by Georges Lautner ©1979 STUDIOCANAL – GAUMONT

★同時代にライバル視されたドロン、ハリウッドでいえばマックィーンやイーストウッドが同時代の人気者でしたが、彼らとの比較も含めてスター ベルモンドの輝きはどこに?

M:アラン・ドロンも好きですが、70年代後半以降出演作品にかなりのバラツキが出てきました。これは自分のプロダクションを持ち、やりたい事をやった結果でもあり、大スターには伴うものです。
一方ベルモンドも、自分のプロダクションを持ちましたが、常に作品のクオリティを担保している印象があります。
ドロン、マックイーン、ベルモンド、イーストウッドそれぞれ大きな魅力を持っており、正直比較のしようがないと思います。しいて言えば、他の俳優にはない、滲み出てくるおとぼけ感とユーモアが、ベルモンドならではの輝きと思います。
ベルモンドも87歳で、健康面も心配ですが、昨年PARIS MATCH70周年の表紙撮影でドロンと共演した映像見ると、元気な感じで少し安心しました。

A:今回の資料集めで昔の映画誌を見ていたらドロンの『友よ静かに死ね』(77)をめぐってベルモンドの陽気な人なつこさを意識したアクションと、合評記事でカーリー・ヘアで明るくイメージチェンジしたドロンのライバル意識が話題になっていて面白かった。そのドロンとも一度ならず共演しているベルモンドの人なつこさ、明るさというのは役を超えた本人の魅力ともいえそうで、動画サイトでセザール賞で功労賞に輝いた折やベルモンド美術館のオープニングの折の様子をみるとカルディナーレやロベール・オッセン等々が心から祝福してる様子が伺えてこちらもうれしくなる。杖をついて、少し呂律が回らない様子からすると病気があったりするのかもしれないけれど、巨人軍は永遠に不滅ですの長嶋と通じる明るさがそこにも輝いていてああっと気持ちがなごんでくる。『ダンケルク』の中に美男じゃないがサンパだと、まさにの台詞があったけど、いい人なんだろうなきっと。と、ここまでは冷静に分析するふりをしてきましたが、今回、この特集をきっかけにベルモンド映画をさかのぼっていくと『いぬ』『冬の猿』『雨のしのび逢い』『墓場なき野郎ども』と、若き日の快作でもほんとに結局、いい奴なんですよね。ゴダールだったら『女は女である』のふわっと脇に居る男の子の感じ(『ストレンジャー・ザン・パラダイス』のリチャード・エドソン、ジャームッシュはベルモンドを意識して選んでいたと思う)――と、たどるうちに『モラン神父』の禁欲的だからセクシーな神父演技にくらりとなって、60年前後のベルモンドにもうほとんど夢中。いまさらですが目下、わがアイドルと化しています笑。

「オー!」
HO! a film by Robert Enrico ©1968 – TF1 DROITS AUDIOVISUELS – MEGA FILMS
ジョアンナ・シムカス

ジャン=ポール・ベルモンド傑作選
新宿武蔵野館他で、全国順次公開中。
「大盗賊」
「大頭脳」
「恐怖に襲われた街」
「危険を買う男」
「警部」
「オー!」
「ムッシュとマドモアゼル」
「プロフェッショナル」