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“FLYING BODIES” Goes to Aomori, Danny Goes to Sochi.

青森山田荒川栄監督、中野裕之監督、青森大学中田吉光部長、青森大学高岩薫監督、OB鈴木大輔君、高橋雄太君、外崎成仁君
青森山田荒川栄監督、中野裕之監督、青森大学中田吉光部長、青森大学高岩薫監督、OB鈴木大輔君、高橋雄太君、外崎成仁君

日本時間2月8日未明、ロシアのソチでは、冬期オリンピックが開幕し、日々熱戦が繰り広げられています。
開会式をご覧になった方も多いと思いますが、このサイトでご紹介をしている青森大学男子新体操部の公演に密着した中野裕之監督のノンフィクションフィルム“FLYING BODIES”の舞台演出を手がけたダニーことダニエル・エズラロウ氏が、ソチオリンピック開会式のメインパートの演出を手がけました。
オープニングで印象的だった少女が飛ぶ幻想的なシーン、そして中盤のハイライトになった少女の視線を通じてみたロシアの歴史パートの演出を手がけたのがダニーです。“FLYINGBODIES”をご覧になった方であれば、何処がダニーの演出だったか、イメージがつながってきたのではないかと思います。
人が線となり、面となり、それが波になり、うねりになり、塊になり、人と音楽と照明やプロジェクション・マッピングが一体化して動くダニーの演出パートは、ロシアらしい荘厳さと美しさを兼ね備えた開会式のハイライトになりました。

“FLYING BODIES”は、現在撮影の郷である青森の青森松竹アムゼにて、凱旋上映をしています。

ソチオリンピック開会式の翌々日2月9日には、首都圏が記録的大雪の中、東京から中野裕之監督が駆けつけ、舞台挨拶を行いました。

開場を待つお客様の列
開場を待つお客様の列

当日の舞台挨拶には多くのお客様がいらっしゃってくださったので、満席の盛況。
舞台挨拶には中野監督だけではなく、作品にも登場する青森新体操界を代表する指導者の方々=青森大学新体操部中田吉光部長、高岩薫監督、青森山田高校新体操部荒川栄監督に、青森山田〜青森大学新体操部のOBで、シルクドゥソレイユ「マイケル・ジャクソン・イモーラルワールドツアー」で活躍中の、鈴木大輔君、高橋雄太君、外崎成仁君も参加し、にぎやかなステージになりました。

満員のお客様の前での舞台挨拶
満員のお客様の前での舞台挨拶

舞台挨拶出待ちで、リラックス。
舞台挨拶出待ちで、リラックス。

上映前の挨拶では、何と中野監督から、青森の関係者の方々や、観客の方々への、ダニエル・エズラロウ氏からのメッセージが紹介されました。
開会式の翌日でしたが、自分の仕事は終了とばかりに、既にダニーはソチを後にし、ロスから「皆さんにBIG HELLOと、BIG HUGを」という暖かいメッセージを送ってきました。
また駆けつけてくれたシルクドゥソレイユ「マイケル・ジャクソン・イモーラルワールドツアー」に出演しているOBの3人は、青森山田高校から青森大学と、7年間一緒に寮生活をしたメンバー。ドバイでの公演を終了し、この後は北米ツアーに向かう合間での登場でした。
私もマカオでは何回か「シルクドゥソレイユ」を観ましたが、出演者のフィジカルなパフォーマンス力の高さに驚きました。そういう世界活躍しているOBの姿から、新体操選手の将来の理想の姿を、垣間みる事が出来ました。

ダニーからのメッセージを読む中野監督
ダニーからのメッセージを読む中野監督

そして2月7〜8日には、キッズからOBまで参加する青森新体操チームの集大成イベント「BLUE VOL.02」が、リンクステーション青森で開催されました。

会場青森市文化会館 リンクステーションホール青森の入り口
会場青森市文化会館 リンクステーションホール青森の入り口

ロビーには多くのお花が並んでいました。
ロビーには多くのお花が並んでいました。

キッズチームから、立川シネマシティでのイベントに出演したプロフェッショナル集団BLUE TOKYOまで集合したこの公演は、青森県もバックアップし、”青森から世界へ”というメッセージを実現に向けた男子新体操の現地の熱い活気を、肌で感じる事が出来ました。
私は新体操の公演を生で観るのは初めてでした。
今回の公演では、タップダンス、バイオリン、ボーカルという生のパフォーマンスと、新体操がコラボレーションする演出もあり、新体操のステージパフォーマンスとしての可能性の大きさを感じました。
ちょっと意外な選曲だったブルーハーツの「1001のバイオリン」では、楽しそうに演技をするメンバーが印象的。
ゲストとして出演した岡山県立井原高校男子新体操部のステージも見事でした。
そして可愛く、上手なキッズチームのパフォーマンス。
中野監督は舞台挨拶で、このキッズチームのパフォーマンスから新体操の未来を感じたと話し、中田監督が感激される一幕もありました。

会場で販売し、メンバー着用のリストバンド。 会場で販売しメンバー着用の、リストバンド。

BLUE VOL.02の翌日である舞台挨拶の後、荒川監督と、BLUE TOKYOのメンバーは、フランスのTV出演の為、パリに旅立ちました。
中田監督は、ハードなドイツ公演ツアーから帰国されたばかりでした。
今回の青森ツアーで改めて感じたのは、この青森男子新体操と、ダニエル・エズラロウ氏の演出、中野裕之監督の映像をコラボレーションした三宅一生さんの慧眼のすごさです。
三宅一生さんの企画により作られた”FLYING BODIES”と、新体操の世界が、今後どんどん大きく変化しながら成長をしていく姿に、
セルクル・ルージュでは、今後も注目をしていきます。

Cinema Discussion3 “Only Lovers Left Alive”/「オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライブ」から見えてくる二人のミュージシャン


「オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ」

新年明けましておめでとうございます。
2014年最初のアップは、12月20日に公開されたジム・ジャームッシュ監督の新作「オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライブ」をテーマに、映画を多方面な角度から分析するシネマ・ディスカッション3です。
参加者は映画評論家川口敦子さんをナビゲーターに、川口哲生、名古屋靖、川野正雄の4名です。
今回は作品からつながってくる映像を、ジャームッシュも好きだと言い作品にも登場するYOU TUBEから幾つかご紹介する事で、皆様のイメージも膨らませて頂けるように構成しています。

川口敦子(以下A) この作品は、引用やトリビュート的に様々なアーチストの名前が出てくることが話題になっていますが、人軸から見えてくることを中心に、ジャームッシュがこの作品で狙っている背景を考えてみたいと思います。
まずは皆さんの印象や、ジャームッシュについての想いを聞かせて下さい。

川口哲生(以下T) 夜のデトロイトの、暗い中でモゾモゾやっているところが、「ダウン・バイ・ロウ」とかに通じて、ジャームッシュ的。
個人的にはティルダ・スウィントンに救われているなと感じた。デレクジャーマンとかボウイとか、「ブリングリング」で描かれているSNSで自慢をして、大量に消費していく若い子達とは対極にある、バンパイアの様に希少化しても面々と存在していく生き延び方が面白い。

川野正雄(以下M) 資料を見てみたら、「パーマネント・バケーション」以降の長編は全て劇場で見ている事に気づきました。フリークではないんだけど、気になる存在である事は間違いないです。前作「リミッツ・オブ・コントロール」は、ドロドロし過ぎている印象で失望したので、今回の作品で本来のユーモアと、リズムを取り戻してくれたように思います。
実はジャームッシュとは縁があって、何回か遭遇したことがあります。直接話したのは、昔僕がDJをしていた西麻布のクラブに来て、わざわざDJブースまで本人がリクエストをしに来た時。そのリクエストは、当時流行っていたスパイク・リーの「ドゥ・ザ・ライト・シング」の1曲目パブリック・エナミーの「FIGHT THE POWER」。残念ながらあいにく持って来ていなかったので、ジャームッシュのリクエストには応えられなかった。もっとマニアックなリクエストを想像していたので、ベタな希望が意外。

名古屋靖(以下N) ジム・ジャームッシュがクスクス笑いながら脚本書いていそう。
久しぶりにもう一回見なくては、と思わせる映画。
でも「是非見たい」というより、次回はパンフレットを手始めに、その周辺の情報も取り入れてからキチンと学習した上で見て確認してスッキリしたい系。
ジャームッシュの趣味や答えの無いナゾナゾがちりばめられてますね。

C)2013 Wrongway Inc., Recorded Picture Company Ltd., Pandora Film, Le Pacte &Faliro House Productions Ltd. All Rights Reserved. C)2013 Wrongway Inc., Recorded Picture Company Ltd., Pandora Film, Le Pacte &Faliro House Productions Ltd. All Rights Reserved.[/caption]

M タランティーノが、自分が好きだったマカロニ・ウエスタンやナチ物、ブラックムービーなどを自分流に作って、ある種のリスペクトを表現しているのと同じように、この映画からは、ジャームッシュの古典的な吸血鬼映画へのリスペクトを感じました。
新しい吸血鬼映画のように見えますが、古典的な吸血鬼周りの伝説〜夜しか行動しないとか、心臓に木の杭を打つと死ぬというようなお約束は、キッチリと守られているのが面白かった。

A 「ゴースト・ドッグ」は、メルヴィルへのオマージュが込められていると言いますし、そういう過去の映画に対するリスペクト的なテーマは、常に彼の中にはあるのではないでしょうか。
今回は吸血鬼映画がお金になるというので撮ったと、インタビューでは言っています。吸血鬼映画の歴史全体に愛情を持っているが、現代のコマーシャルなバンパイヤストーリーには関心がないようなコメントもあります。
ここでは吸血鬼を題材にする事によって、アナログ、アウトサイダー、ボヘミアンへの彼の執着を描いているように見えます。
夜のデトロイトドライブ、あの暗すぎる夜の中がジャームッシュ的だし、デトロイトのおひざ元で育ったアクロン・オハイオの子ジャームッシュのルーツにも関わってくるのかもしれません。

M タンジールの夜の街並やドライブシーンは、デトロイトと対象的に、とても美しく撮っていますね。今までのジャームッシュには見られないビューティフルショットだと思いました。モロッコを撮影場所に選んだ理由も気になりますね。

A そういうジャームッシュの世界ですが、軸をティルダ・スウィントンに移してみると、案外70年代的ジャンルを越境した表現者たちの生き延び方を考えられるかもしれません。
参考としてティルダが出ているボウイの「The Stars(are out tonight)」を見てみましょう。

M デビット・ボウイといえば、カトリーヌ・ドヌーブと共演した吸血鬼映画「ハンガー」がありますね。
デカダン的なバンパイヤラヴストーリーというエッセンスは、共通のものが観じられます。

A エイリアン的な存在を描いたボウイ作品としては、ニコラス・ローグの「地球に落ちて来た男」もありますが、その影も観じられますね。

A もう一人この作品の重要な存在が、ディレッタント的プロデューサー ジェレミー・トーマスです。
彼は「戦場のメリークリスマス」を作っていて、ここでもボウイがキーパーソンになってきます。

A ジェレミー・トーマスは、デビット・クローネンバーグが、ウイリアム・バロウズの原作を映画化した「裸のランチ」にも関わっています。この辺がモロッコのヒントになるのかもしれません。

N タンジール編に出てくるカフェ「千一夜」のオーナーがガイシンで、彼はバロウズにカットアップを伝授している。

A 影武者的存在への共感も観じられます。 シェークスピア/マーロウの関係もそうだし、バロウズ/ガイシンにもある――映画そのものよりそこから派生した興味で見る映画とも言える要素がありますが、その辺がジャームッシュが若い観客にもうひとつ受けない理由にもなるのでしょうか。

N まるで「時代劇」を見ているかのようなのでは…遠い距離感(自分とは遠いので感情移入が難しい)があるのかもしれません。
「そこから派生した興味で見る映画」は今の若者には面倒臭い映画なのかもしれませんね。もちろん、好きな子もいますが。ただマジョリティではないですよね。

A キャラクターたちの造形にも、その辺は顕著ですね。 英国的なスーパースノビズムvsゾンビ・センターLAのような関係性が存在しています。

T ブリングリングのブランドでのname drop(ひけらかす)とは違う、いろいろなちりばめられた記号を(音楽やアート、底流を流れる文化的リスペクト)おもしろがれるか?全くわからず引っかからない層、そしてわかって鼻に付く層、そしてつぼにはまる層と分かれそう。自分たちが好きなアーティストの影響を受けたり、カバーした曲を掘っていく感覚を持った層が、どれだけ存在するのか。

N 「俺のインテリジェンスとオシャレなユーモアについてこい!」的なところが若い人がついてこない理由かも。若い子は掘り起こすの好きじゃない子が多いらしいし。昔ならそんなジャームッシュの映画に惚れたら、その周辺の音楽から文学、それこそファッションまで掘ったもの。いまそれはかっこよくない行為かもしれない。今は一生懸命が暑苦しい時代になってきているのかもしれません。

A ポストモダンとレーベルつけるといやがるだろうが、その中で愛されるセンスと、そこから出ようとしないことの功罪があるのでしょうか。

M 主人公トム・ヒドルストンの生き方が、ジャームッシュの生き方に被ってきますね。

N トム・ヒドルストンも歴代の成功したミュージシャンと逢っていますよね。彼は曲を提供するだけで、代わりに作品を広めるのはゾンビ(人間)。純粋に芸術家としての行為。たぶん血を飲むのと同じいくらいに重要で必要な作業。ただし名声は一切求めていない。永遠に生きるための退屈しのぎでしょうか?
壁に飾ってあったジョー・ストラマーの写真も気になります。

M 会話に出てくるエディ・コクランや、ジョー・ストラマーは、いかにもジャームッシュ的ですね。この世にいないミュージシャンへのレクイエム的なエッセンスも込められているように思います。
これは、ジャームッシュが撮ったジョー・ストラマーの追悼フィルムです。曲はボブ・マーリィのカバー。
4分という短い尺の中に、ジャームッシュらしい夜の闇と昼のコントラストが描かれています。
クラッシュNY公演に、アンディ・ウォホールと共に楽屋を訪れていたスティーブ・ブシェミも登場しています。

M もう一つ気になったのは、オープニングで7インチがかかるワンダ・ジャクソン。ジャームッシュは、「ストレンジャー・ザン・パラダイス」では、スクリーミン・J・ホーキンスの「I PUT A SPELL ON YOU」をうまく使うなど、R&RやBLUESには造詣が深いけど、なんでワンダ・ジャクソンなのか、最初はよくわからなかった。チェット・アトキンスやエディ・コクランと同じR&R的な流れと言えなくもないんだけど。
これは彼女の最大のヒット曲「フジヤマ・ママ」。この「フジヤマ・ママ」つながりで考えていくと、アイデアの原泉も見えてきます。

M こちらはクラッシュ日本公演の映像。当時のポール・シムノンのガールフレンド、パール・ハーバーが、「フジヤマ・ママ」を歌っています。この映画ではギターロック的な曲に重きを置き、パンク的な曲はあえて使っていないように観じましたが、やはりジャームッシュのルーツミュージック的には避けては通れない部分ではないかな。

A 好きなものへの投影は、常にテーマとして内在していますね。

M デビット・ボウイと、ジョー・ストラマーという作品自体には直接関係のないアーチストの影が見えてきました。

N 映画を見た後に調べると、場面場面でのシャレやギャグの意味が色々分かって来る。事後復習する事で見る前より興味がどんどん湧いて来る。また見たくなる、確認したくなる。何度も楽しめる映画。
ティルダはクールでかっこよかったのですが、ラストシーンの表情はお笑い。あそこで、ああ、これはお笑い映画なんだと気がついた(血のアイスバーとか)。

M 液体(血液)は、飛行機機内に持ち込めないとか、血液型によって、飲み物としての血のグレードが変わったりとか、今回はとてもひねったユーモアが生かされている。

A エンディングは、サバイバルの本能を描いたように観じました。
全体としては、ジャームッシュとジェレミー・トーマスが意気投合して、自分達の好きな物を集積させて(見えなくても)、作った作品なのではないでしょうか。
二度見る事によって、新たな発見が幾つも見つかるような映画ですね。

T 昔ジャームッシュが好きで、ここのところ離れていたジャームッシュファンにはぜひみてほしいと思います。

『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』は12月20日よりTOHOシネマズ シャンテ、ヒューマントラスト シネマ渋谷、新宿武蔵野館他全国公開中です。
作品公式HP。