川野 正雄 のすべての投稿

1959年 東京生まれ。 以来東京に住み続けていますが、2010年1年間は香港に住んでいました。 長い間海外の文化から刺激を受けてきましたが、海外に一度住んだ事で、日本の良さを、改めて見直しています。 英国の音楽とスタイル、フランスの映画と車、暑い国の料理と日本の文学を好んでいます。 1987年以降P Picasso, 下北沢ZOO~SLITS、DJ BAR INKSTICK, Faiなどのクラブで、DJとして活動。 2006年以降DJは休止していたが、2016年より再開。 ファンデーションである英国音楽や、MODSシーンのイベントで、ルーツミュージックを中心にプレイしています。 現在UKファッションの老舗Ready Steady Go!のリブートプロジェクトを展開中。 Music: 60~70's Rock, Rare Groove, Rocksteady, Jazz Funk, Folk. Cinema: Roman Polanski, Jean Pierre Melville, John Cassavetes,Michelangelo Antonioni Style: READY STEADY GO! 6876,Duffer of ST George, YMC, FARAH Food: exotic food.モロッコ、イスラエルなどの料理。

70’s Vibration/Look back in 70’s

赤レンガ倉庫1号館
赤レンガ倉庫1号館

8月1日より、横浜赤レンガ倉庫1号館において、『70’s バイブレーション!YOKOHAMA』というイベントが開催されている。
これは日本のポップミュージックが生まれた1960年代後半から70年代末までの音楽シーンを中心に、日本のポップカルチャー全般を横断的に紹介するイベントである。
今回は、ここで詳細な展示の解説をするわけではないが、セルクルルージュなりの視点で、このイベントを紹介していきたい。
1970年代にフォーカスしたこのイベントを通過したオーディエンス一人一人には、何が残り、何が新たに生まれてくるのか。
そこに注目したいと考えている。
このイベントは、大きく4つのエレメンツに分かれている。

1)赤レンガ倉庫での展示会場〜見る/知る
2)横浜で開催される連動イベント〜体験する/聴く
3)会場に併設される青山の輸入レコード屋パイドパイパーハウスの復活と、新たに生産されたコンピレーションCDなど、マーチャンダイジング〜触れる/聴く
4)雑誌SWITCHから出版された70’s VIBRATION YOKOHAMA SPECIAL ISSUE〜読む/知る

オーディエンスは、何処からアクセスしても、1970年代のエッセンスに触れることが出来る。そこからどうDIGしていくのかは、本人次第である。

70年代の細野晴臣さんの活動。
70年代の細野晴臣さんの活動。

セルクルルージュとのつながりとしては、川口哲生の長年の友人であり、このイベントに協力している関西大学 音楽アーカイブミュージアムプロジェクトを担っている三浦文夫教授から、イベントの実行委員長である山中滋さんを紹介して頂いたのが、きっかけである。

映画の世界でいえば、京橋のフィルムセンターで、過去の作品のアーカイブ化は進められている。
雑誌も、代官山TSUTAYAの2階ラウンジに行けば、アーカイブとして閲覧が出来る環境が作られている。
では音楽の世界で、日本のポップミュージックのアーカイブはあるのだろうか。
今誰かが音楽の世界のアーカイブに着手しないと、どんどん現役だった方々の証言は失われていくのではないか。
詳細は伺っていないが、関西大学の音楽アーカイブミュージアムプロジェクトは、そのような危機感から生まれてきたプロジェクトなのではないかと思っている。
今回の『70’s バイブレーション!YOKOHAMA』は、70年代という激動の時代にフォーカスしながら、日本のミュージックアーカイブの必要性を、社会に提示していく。そんなテーマが、内包されているように感じている。
60年代の終盤位から、フォーク・クルセダーズなどにより、ミュージシャンによる日本のポップミュージックシーンはスタートしている。
ロカビリーやGSなどそれまでのポップミュージックは、芸能界の仕切りだったという解釈で、1967年頃からのロックを中心にした音楽シーンに今回の企画は、フォーカスをあてている。

PIED PIPER HOUSE
PIED PIPER HOUSE
ANALOG!
ANALOG!

今回のイベントの中で大きな話題になっているのは、青山骨董通りにあった輸入レコード屋パイドパイパーハウスの復活である。
自分にとっては、ミュージックマガジンで紹介されているマイナーな輸入盤を買える店であり、情報収集の場であった。
正直価格は若干高めだったので、地元で買えるレコードは地元で買っていた。
パイドパイパーでは当時は斬新だったZEレコードや、英国のパブロック、そしてあまり出回らない12インチシングルを買っていた記憶がある。
どちらかというと、AORやシンガーソングライター、そしてワールドミュージック的なセレクトが中心で、当時は英国的なNEW WAVEやDANCE系を中心に買っていた自分とは、若干の距離があるレコード屋でもあったが、前を通ると必ず店内を覗いてみる存在でもあった。
当時竹下通りにあった輸入レコード屋メロディハウスは、ウエストコースト的なアメリカ色が強い印象で、パイドパイパーは日本のアーチストも含め、よりマニアックな印象が残っている。
当時の紙袋も復活し、狭いスペースではあるが、当時レアだったアナログ盤のCD化された商品や、当時を彷彿させる日本人アーチストのアナログ盤中心に構成させており、当時の気分を味わえるゾーンになっている。
入場無料ゾーンではあるが、フォーク・クルセダーズや、細野晴臣さん関係の展示も若干あるエリアになっており、このエリアだけでも十分楽しめる。

イムジン河のジャケットスタディ
イムジン河のジャケットスタディ
加藤和彦さん
不思議な衣装の加藤和彦さん

1階にはパイドパイパーカフェが登場。
新設されたWEB MAGAZINE おとなのMUSIC WALKERとのコラボレーションイベントなどを開催している。

1階にあるパイドパイパーカフェ
1階にあるパイドパイパーカフェ
パイドパイパーカフェには、特大版レコード帯がディスプレイされている。
パイドパイパーカフェには、特大版レコード帯がディスプレイされている。
パイドパイパーカフェで行われたおとなのMUSIC  WALKERのイベント。不破了三の「TVサントラ大作戦70'S」。
パイドパイパーカフェで行われたおとなのMUSIC WALKERのイベント。不破了三の「TVサントラ大作戦70’S」。

SWITCHのSPECIAL ISSUEは、展示の図録的な側面もあるが、表現者たちの70年代というテーマで、細野晴臣さん、松任谷由実さん(インタビュアー岡村靖幸さん)、鈴木茂さん、佐野元春さんにインタビューをしている。
ミュージシャンとして大成する前のそれぞれの70年代体験について語ってもらっているのだが、これが実に興味深い。
細野さんからは、YMOのアイデアの最初のビジョンは、オリジナル・サバンナ・バンドだったという話が飛び出してきた。

ファンには有名らしいが、ユーミンと飯倉のキャンティをつないだのが、当時はフィンガーズというバンドのベーシストだったシー・ユー・チェンさん(私はコンセプトメーカーとしてのチェンさんとして、お付き合いがあった)だったというエピソードも、全く知らなかったので、興味深かった。
たとえ会場には行けなくても、このSWITCHを読むことで、70年代にはアクセスが出来る〜そんな1冊である。

YMO 細野さんの衣装と楽器
YMO 細野さんの衣装と楽器
YMO 高橋幸宏さんの楽器と衣装
YMO 高橋幸宏さんの楽器と衣装
YMO 坂本龍一さんの衣装と楽器
YMO 坂本龍一さんの衣装と楽器

赤レンガ倉庫1号館にある会場内の撮影可能エリアは限定的なので、写真で紹介出来るのはごく一部である。
展示のオープニングゾーンは、今回の目玉でもあるYMOの衣装や使用していた楽器コーナーである。
山中さんからもYMOを展示の一つのコアにしたいというお話を伺っていたが、見事にYMOの世界観を構築している。
自分はYMOフリークではないが、間近で生の楽器群を見る機会は、今後は無いのではないかと思う。
特に八百屋さんと呼ばれるローランド808は、必見である。

YMO使用ローランド808
YMO使用ローランド808
YMOのプロモアイテム
YMOのプロモアイテム

また撮影は出来なかったが、大瀧詠一さんのコーナーには、ご自宅にあったジュークボックスが展示されており、手書きのラベルによる選曲が、ロネッツやハーマンズ・ハーミッツから植木等まで、大瀧さんらしくて楽しい。
山中さんからは、大瀧さんの死が、今回の企画の一つのきっかけになったというお話も伺っていたが、展示を見ると改めて大瀧詠一さんという存在の大きさを認識する事が出来る。

あんぐら音楽祭ポスターヌードバージョン
あんぐら音楽祭ポスターヌードバージョン
フォーク・クルセダーズの解散コンサート
フォーク・クルセダーズの解散コンサート

加藤和彦、カルメン・マキ、ジャックスの名前が見えるジョイントコンサート

この展示を見て、一番感じたのは、オーディエンスそれぞれが自分の1970年代を確認することが出来る場所になっている事だ。
特に70年代を通過した人間には、当時の記憶を呼び起こし、当時触れた音楽或いは当時は触れなかった音楽や映画に改めて接するきっかけになっていくと思う。
鋤田正義さんや、唐十郎さんの状況劇場出身の井出情児さんが撮影した素晴らしい写真が会場には並んでいるが、僕が見に行ったワールド・ロックフェスティバルや、地元吉祥寺のロック喫茶赤毛とソバカスの写真などを見ると、一気に70年代の記憶がフラッシュバックしてきた。
それぞれの70年代の自己体験と、当時のシーンをクロスオーバーさせる場に、この会場はなっているのだ。
そして通過していない若い世代の観客にとっては、新たに70年代にアクセスする、そんなきっかけになれば、僕は良いと思う。
70年代には、レンタルレコード屋もBS放送も当然無かった。当時中高生だった自分が音楽を聴く為には、少ない小遣いの中からレコードを買うか、LIVE会場に行って、生で見るしかなかった。ラジオでも、日本のロックがよくかかる番組の記憶はあまりなかった。
ジョイントコンサートで名前の見える加藤和彦さんのサディスティック・ミカ・バンドや、カルメン・マキ&OZは、正にLIVEを見て、好きになったバンドだった。

今回の展示の中で、セルクルルージュとして、ちょっとだけ展示に協力させて頂いた作品がある。
それがこの『唐版滝の白糸』のポスターである。
今回は劇団唐組のご了解を頂き、この貴重なポスターを展示することが出来た。
当時人気絶頂期のジュリーこと沢田研二という超メジャーなスターと、アンダーグラウンドの象徴のような唐十郎さん率いる状況劇場に、演出蜷川幸雄さん、音楽井上尭之さんという意外にして超豪華な組み合わせこそ、当時のサブカルチャーのアヴァンギャルドな一面の象徴だったように思えた。
ハードなスケジュールを粉していたジュリーが、唐さんの長口上の台詞を入れるだけでも大変だったと推察出来る。
当時は調布大映撮影所の場所も、チケットの買い方もよくわからず観劇は断念して、角川文庫から出ていた戯曲を読みながら舞台を妄想していた。
40年の時を経てこの作品のポスターに、ここで出会えたのも、個人的には感慨深いものがある。

唐十郎作、蜷川幸雄演出、沢田研二主演 「唐版滝の白糸」 会場は調布の大映撮影所。
唐十郎作、蜷川幸雄演出、沢田研二主演 「唐版滝の白糸」
会場は調布の大映撮影所。

個人的な思いで言うと、初めて見に行ったLIVEが、ジュリーが初めてロックコンサート式のツアーを行った1974年のHey,Rock’n Julie Tourのオープニングになる日比谷野外音楽堂であった。
前座で、この会場にも軌跡のあったクリエイションなど複数のグループが出演しており、待ち時間の長さに閉口したのも含めて、それが自分の人生初のロック生体験であった。

内田裕也さんも登場し、グラマラスな衣装を着たROCKなジュリーのステージは、当時は衝撃的だった。

この70’s バイブレーション YOKOHAMAの会期は9月13日(日)までである。未見の方は、是非横浜まで足を運んで、自分の中の70年代の再確認をして頂ければ幸いである。
1970年代という変化と激動の時代を見直す行為で、そこから新たな何か発見をして頂けたら、このイベントに参加した価値があるのではないかと思う。

Cinema Discussion−10(part2 )/ Make it Funky~蘇ったジェームス・ブラウンのソウル(魂)

(C)Universal Pictures(C)D Stevens
(C)Universal Pictures(C)D Stevens

新作映画を複数の視点からとらえ、映画評論の新しい手法を考えようとしてスタートしたセルクル・ルージュのシネマ・ディスカッションも10回目になりました。
今回は、私たちが紹介していきたいと考えている世界=MUSIC×CINEMA×FASHIONを象徴的に描いた作品が2本相次いで公開されますので、前後半に分けて、2作品を比較しながら、紹介する事にしました。
その2作品は、共に偉大な黒人ミュージシャンを描いたアンソロジードラマ『JIMI:栄光への軌跡』と、『ジェームス・ブラウン 最高の魂(ソウル)を持つ男』です。
『JIMI:栄光への軌跡』では、ジミヘンことジミ・ヘンドリックスがスターダムに上っていく1966~67年の姿が描かれ、『ジェームス・ブラウン 最高の魂(ソウル)を持つ男』では、JBことジェームス・ブラウンの波瀾万丈な一生が描かれています。
先月part1として『JIMI:栄光への軌跡』をアップしましたが、part2の今回は、Godfather of Soulの、『ジェームス・ブラウン 最高の魂(ソウル)を持つ男』を紹介させて頂きます。
ディスカッションメンバーはいつものように、映画評論家川口敦子をナビゲーターに、名古屋靖、川口哲生、川野正雄の4名です。
今回は、part1のジミ・ヘンドリックスと基本的に同じ質問で、前半は進んでいきます。

川口敦子(以下A):まず見る前に予想した映画の描き方と違っていましたか?
違っていたらどのあたりが違っていましたか? それは肯定できるものでしたか?
伝記的な事実とフィクションの部分に関しては? 周囲の人間の配し方もそれぞれ興味深いですが現実の関係に忠実とはいえない部分もあるようですが?

川口哲生(以下T):いきなりショットガンをぶっ放し、カメラ目線で話すトラブルメーカー時代からの導入で予想外でした。(笑)でもそのすぐ後のベトナムに向かう一曲目のJBの実演がいい音でかかると体が思わず揺れました。子供時代と大人になってからの時代が交差する様が、時に妙に説明臭い所も感じましたが、ボビー・バードとの関係での「トップを張る人間として払う代償は払って生きてきた」みたいな所は興味深かったです。

名古屋靖(以下N):さすがにJBと同じ顔はちょっと怖かったのでしょう、JBの主役はほどよくグッドルッキングな容姿になり、語り口も本物より若干ソフトな印象で、内容も含めより一般の観衆に向けて事実と比べるとちょっと美化したエピソードも多めかなあと。。

川野正雄(以下M):ボビー・バードとの友情物語になっているとは思いませんでした。個人的にボビー・バードとビッキー・アンダーソンのファンでもあり、彼らの来日ライブも見ていますので、その辺の今までよくわからなかったJBファミリーのエピソードの部分に、すごく魅かれました。
JBと、ボビー・バードの関係が、これ程濃いとは知りませんでした。
映画全体としては、イメージ通りですが、ライブシーンが多く、それを演じるのも大変だったと思います。ライブ盤が有名なアポロ劇場での公演のエピソードなどは良かったですね。
ダンス含めて、自分は生では見れていない全盛期のJBのステージの熱さ(象徴としての額の汗含め)を、すごく体感できて、そこは映画として見事だなと思いました。
マントショーのMCをボビー・バードがやっていましたが、そこは違ったんじゃないかなと思いました。

A:『JIMI:栄光への軌跡』と同じく、アーティストの伝記映画の定型をはみ出す語り方、展開の映画だと思います。JBは時のシャッフル、ノンリニアな構成、JBがカメラに向かって直接、自らの物語を語る――といったスタンスがあります。

N:JBは彼の生い立ちから後期までの人生を追いかける映画だったので、ある程度シンプルに初心者でも観やすくするために、事実を加工しているところは多々ありますね。実際はもっと複雑で刑務所にも何度も出たり入ったりで、ボビー・バードとの出会いも音楽ではなく刑務所外で野球がきっかけだったと聞いています。完全なドキュメンタリーではなくエンターテイメント作品なので、多少長い上映時間も気にならないテンポの良さや度々織り込まれる笑いなどを優先した結果としてそれらの違いも肯定できます。

T:JBでは、あくまでアメリカの南部、アメリカ社会の黒人と白人という観点がストーリーの根底を貫くテーマとなっており、貧しさや母との再会、あるいは「白い悪魔(白人世界でのビジネス的搾取)」との戦いの中でのJBのセルフプローディース力、政治のパワーゲームの中での微妙なバランスといった形で映画の中で描かれているのを強く感じました。それらが時のシャッフルで描かれて、先にも言ったけれど「こんな生い立ちや環境がJBという奇跡を生んだ」みたいな一直線の結びつけを感じたのも否めないかな。
音楽的なJBの意味は、アメリカの白人をも含む市場での成功、そこからさらにブラックネスを極めるFUNKへの回帰、そしてその後のHIPHOP後の白人音楽をも含むブラックミュージック化の中での再評価等々、アメリカのなかで黒人がどう生きぬくかみたいなことを時代時代において象徴しているように思います。映画の中でJBがカメラに向かって語るところは、なにかJBが自分を鼓舞するように語り続けているようで、妙に納得感がありました。

M:JBは時空の飛び方が大胆で面白かった。
決して人格者で描くのではなく、ケチで口うるさいルールを作る奴という彼の悪い方のエピソードもしっかりと描かれたのは、良かった。
冒頭がかなり誇張はあると思いますが、日本にいると真相不明だった発砲事件で、一気に入り込めました。

A:JBの時の構成は、母に去られ、さらに自分で自分の面倒をみろと、父に置き去りにされた子供のままの孤独の心をうまくあぶり出すように編まれていて戯曲を書いてきたというジェズと、シドニー・ポラック、リドリー・スコット、アンソニー・ミンゲラってストーリーテリングにもこだわりのある監督たちの下で脚本を学んだというジョン=ヘンリーという英国出身のバターワース兄弟の脚本の力も大きい。この人たちの脚本に魅了されたミック・ジャガーが元々はドキュメンタリーとして考えていたJB映画の企画を劇映画でいこうと思い直したとメイキングで語っています。JBがキャメラに目配せするような部分というのは、昨年の快作『ジャージー・ボーイズ』でクリント・イーストウッドがキャラクターたちにキャメラを向いた独白をさせて話を運んでいったのを思い出させもしますね。

(C)Universal Pictures(C)D Stevens
(C)Universal Pictures(C)D Stevens

A:60年代、公民権運動、ブラックパワー、スィンギング・ロンドン等々、時代、対抗文化はたまたファッションといった背景への目もアーティストを描くのと同等のポイントになっているように思いますが,時代の描き方はどうでしょう? この時代の面白さに関してはどう見ていますか?

T:JBは公民権運動・ブラックパワー・ベトナム・さらにはHIPHOP以降という長いうねりを内包していますね。最後のバードの家のプール掃除に白人が来たのを「えらくなったもんだな」というJBに掃除人が「Mr.Brown」と声をかけて車を動かすシーンは長い道のりのが象徴的でした。スキーパーティーでの白人向けのJBから、キング牧師の暗殺の翌日のコンサートシーンや、『I’m black and proud』の収録シーンへの変遷が時代感を感じさせました。
JBの髪型の変化もそれに非常に呼応していますね。(笑)

A:JBの監督テイト・テイラーは、米南部、中でもとりわけ旧弊な差別の巣窟として知られたミシシッピー州都ジャクソン出身で、公民権法制定(1964年)直前の時代と世界を背景にした前作『ヘルプ』でも土地っ子ならではの裡からの目にものをいわせていましたね。
“ヘルプ”と呼ばれた黒人メイドの真実の声に耳を傾ける白人側からの距離の描き方とか。一見、あたりさわりない”いい映画”という感触なのに、ハリウッドの”政治的公正さ”への過剰なこだわりによる自己規制に陥ることなく、黒人も白人もそれぞれに人種だけでない差別をうけているような現実をしぶとく描いていた。
例えば社交界のボス的奥様から不当に解雇されたメイドと同じ奥様の元恋人と結婚して恨みを買ったホワイトとラッシュの金髪グラマー。ふたりが同じテーブルで分かち合うフライドチキンの一場は、それぞれに耐えて生きている人と人が分かち合う心を照らし出して、声高な主張の代わりに当り前に土地の現実を生きてきた作り手の目が感じられ、味わい深い物語の奥行きを生んでいた。といった奥行が今回の映画にもさまざまにあったと思います。ダン・エイクロイド演じるエージェントのユダヤ人という出自をさりげなく示すとかもありましたね。がむしゃらな問題提起や告発よりは楽しませつつ確かに現実に切り込む話術があるように思います。

M:JBは、描かれている期間も長いですが、見覚えのある衣装が多く登場してきて、うれしくなりました。
特に67~8年は、音楽もファッションも過渡期というか、変化になる年代で、時代がどんどん変わっていく空気を感じることはできました。音楽で言えば、SOUL,R&Bから、FUNKY SOULが生まれた時代で、その最先端がJBですね。ロックも、ジミヘンのようにサイケデリックが出てくる時代。この時代は、JBのヒストリー上も非常に重要だと思います。
JBは、自分が黒人である事を強く意識していた…
ジミヘンは白人の為のロックを、黒人であるジミヘンが演奏する事に意義がありましたが、JBは、黒人が黒人の為の音楽をやっている。
この映画を見ながら、JBのブラックミュージックであることのプライドを、強く感じとりました。
キング牧師のエピソードが挿入されていますが、同時にアメリカに於ける黒人の立ち位置というものが、大きく揺れ動き、変わっていった時代でもあるのではないでしょうか。

FUNKY SOULが生み出され、FUNK MUSICの原型が出来あがっていくエネルギー。
それが正に火を噴くようにうごめいていたこの時期、JBの作品は契約のトラブルがあり、KING,SMASHという二つのレーベルからリリースされていましたが、それぞれが良かったです。
1968年の貴重なパリのLIVE映像があります。この時期はJAZZ的なフレイバーも入っており、SMASHからリリースされた作品のテイストが感じられます。

N:良い意味で60〜80年代らしいライティングと演出が、ザ・アメリカン・ストーリーを見ている感覚で面白かったです。JIMIがさりげなくしかし深く差別問題などを提示するのにたいして、JBの方では、それすら分かりやすく加工して白黒だけでなくユダヤ系まで巻き込んで紙芝居のように見せてくれています。 片手を縛りあって、目隠しして白人の前で黒人少年同士が殴りあうエピソードも、映画では典型的な差別シーンとして描かれていますが、自伝によれば、喧嘩が強かったJBにとっては割りの良いお金の儲け口なので望んで毎回志願してたそうです。

A:この作品にはミック・ジャガーが製作で参加していますが、彼の参画を特に感じる様な描き方や、JB像、音楽、コンサートシーンなど、気づいたことはありますか?

N:さすがに本物のJBはすごいと思ったのは、映画の中のPARIS公演のシーンでした。実際のこの日の映像を見たことがあります。ステージ上のメンバー配列や衣装など、ほぼ完璧に再現されていますし、このツアーに急遽参加したベースのブーチィ・コリンズの弾く姿まで完璧です。音楽も実際の音を採用しているので臨場感も申し分ありません。ただし、主人公JBの動きがちょっと違うのです。同じアクションなのですが違って見えるのです。映画『JB』が悪いのでなく、本物のJBのキレが凄すぎるのです。その動きは人間の能力を超えた別の動物に見えるほどの激しいダンスでした。

M:JBのダンスレッスン映像がありますね。キレがすごいです。

T:ミック・ジャガーがJBのステージの袖で見ているシーンは、JBサイドから描かれているけれど、ミックにとってもアメリカという大きな衝撃だったのだろうなと思えるシーンだった。
後は、エピソードに挟まれるステージがほぼ全曲再現みたいで、やはりこの辺はミュージシャンとしてのミックのこだわりなのかなとも思いました。あとステージ側からの目線もステージにいる側のミックのものなのかも。

M:序盤でテレビの音楽番組のジミとストーンズのトリ争いの逸話があり、JBがストーンズの存在を確認する場面は、微笑ましかった。
彼らのルーツが黒人音楽=ブルースにあるという部分と、JBの伝記には何らかの意識の中での接点があったのではないかと思う。
ミックの次の企画は、プレスリーのようですね。

(C)Universal Pictures(C)D Stevens
(C)Universal Pictures(C)D Stevens

A:主演のチャドウイック・ボーズマンに関していかがですか? 自分だったらこの人をキャストに選んだといった案がありますか?

N:良かったと思います。作風とフィットしていました。

T:本人の口元の感じに特徴があるので、その感じとの微妙な違和感はあったように思います。でもボーズマンのJを流す「エームス・ブラウン」みたいな自らへのしゃべりかけはJBぽかったかな(笑)。結局この手のbiopicは有名で個性が強いがゆえに似ている、似ていないが気になることは否めないと思います

M:JBは、声と話し方がそっくりですね。ダンスも見事でした。歌は結局オリジナル曲を使い、新たにレコーディングした曲は使われなかったようです。
歌の訛りが違っていたそうですが、その分生身のJBとして見てしまいました。

A:やはりある程度まで”そっくり演技”を求められるなかで、衣裳や髪型の力もあって違和感は感じさせない。それよりしかし身体性というのでしょうか、生き方のリズムのようなものを纏ってみせている気がしました。

(C)Universal Pictures(C)D Stevens
(C)Universal Pictures(C)D Stevens

A:ミュージシャンを題材にしたこれまでの映画でお気に入りはありますか? 逆にその手の映画に対する不満は?

M:アントン・コービン『コントロール』、『ゲンズブールと女たち』『ブライアン・ジョーンズ ストーンズから消えた男』。
『コントロール』は、詳しく知らなかったジョイ・ディビジョン=イアン・カーティスの素顔がよくわかり、すごく衝撃的でした。
映像も音楽も良かったし。
どの作品という事はないのですが、 ミュージシャンが生存していて、気を使いすぎる作品はどうかと思うときがありますね。

N:最近だと『きっと ここが帰る場所』は好きでした。ショーン・ペンはうまい。 あとは、『ブルース・ブラザース』『ハーダーゼイカム』『ラスト・ワルツ』とか?

T:デイヴィッド・バーンはいいですね。

M: 『きっと ここが帰る場所』は、キュアのロバート・スミスになりたい男の子が主人公でしたね。

A:ガス・ヴァン・サント『ラストデイズ』、トッド・ヘインズ『アイム・ノット・ゼア』『ベルベット・ゴールドマイン』。クリント・イーストウッド『ジャージー・ボーイズ』はフォー・シーズンズ題材のミュージカルの映画化でしたね。イーストウッドでは『バード』もあるし、やや強引にいえば『センチメンタル・アドベンチャー』も。
ジェームズ・マンゴールド『ウォーク・ザ・ライン』はジョニー・キャッシュとジューン・カーター、彼らの音楽そのものにものすごく興味があるわけではないけれど映画はとてもよかった。

M:『アイム・ノット・ゼア』は、色んなディランが出てきて、面白かったです。
グラムロック題材の『ベルベット・ゴールドマイン』とか、トッド・ヘインズは、音楽を本質的に知っている監督だと思います。

A:ずばり見所はどのあたりに?

N:ボビー・バードとの友情物語。

M:パリのライブシーン。オリジナル曲を使う事で、ライブシーンの存在感は圧倒的になっている。
もうひとつはJBファミリーのドラマ。
ボビー・バードと、ビッキー・アンダーソンは、レアグルーヴブームの先駆けとして、1988年に、JAZZY Bら、ロンドンのDJ達と一緒に来日し、芝浦のインクスティックで行ったLIVEを見ました。LIVEと言っても、バックはDJで、カラオケのようなものでした。
その時感じた若干の寂しさは、ラストの夫婦の生活シーンと、何となくつながってきます。
今改めてボビー・バードに、この映画がフォーカスしたことは、素晴らしいと思います。

A:有名なエピソードが幾つも描かれていますが、知っていたエピソードはありますか?
JBの描かれている人物像は、イメージしていた人物像と比べて、違いはありますか?人格、身なり、しゃべり方、色んな角度からお願いします。

N:10年位前に、文庫本で自伝を読んでいたので、けっこう知ってました。 自伝本よりこの映画の方が面白いです。
似ている似ていないの観点ではなく、今回の映画の主役として素晴らしいと思います。 実際はもっとクレイジーだったと思います。

T:JBはメンバーが失敗すると罰金をとるとか「Mr。James Brown」と呼ばなければならないといった絶対性に関することでしょうか。

M:真相は知らなかった乱射事件。
グループ内の細かい規律と、メイシオの脱退。
甲高い声と、すごく数字に細かい点。来日して「ベストヒットUSA」に出た時、公演回数など、すごく細かい数字を言っていた事をよく覚えています。

A:JBの最初に描かれる発砲と逃走劇のニュースを聞いたときは、驚きつつくなんだか、らしすぎて笑ってしまったように記憶しています。思い出したので入れておきますが『ゲロッパ!』って井筒監督の映画もありましたね。

M:サリー(岸部一徳)が、踊りますね(笑)。

A:劇中で使われている楽曲、JBは新たにレコーディングしたものが、訛りが違うなどの理由で没になり、JBのオリジナル曲が使われています。
劇中曲についての、印象をお知らせ下さい。

M:ライブシーンも多く、過去に映像を見たことのあるシーンもあった。オリジナルを使うことで、その再現性は高くなった。
マントショー、ホーンセクション、ダンスなど、重要なJBのアイコンが見事に再現され、観客のテンションもあがる。

T:限られた成功の前の何年間を描いたJIMIとは異なり、波瀾万丈な(笑)JBの人生を追う長尺ものは、やっぱりJBのオリジナルがあって持っているように思う。ちょっと話は変わるけれど、私はJIMIでも触れたけれど、イギリスの音楽センスや、深堀の仕方は面白いと思います。この辺は川野くんの領域でしょうが、後のレア・グルーヴのときも70年のセックスマシーンのあとのボビー・バード名義の『I know you got soul』とかPeopleレーベルとか掘っていましたよね。そういう玄人好みの感じがイギリスの音楽シーンにはありますよね。
ついでに言えばアシッド・ジャズのころ好きだったヤング・ディサイプルズのカーリーン・アンダーソンってバードとヴィッキー・アンダーソンの娘でしょ。

M:ヤング・ディサイプルズは、ジャイルス・ピーターソンが、JBの曲をレーベル名にしたTALKIN’ LOUDレーベルの最初のアーチストだから、象徴的ですよね。
カーリー・アンダーソンは格好良かったです。歌もうまいし。血統を感じます。

N:結果、実際の演奏をオリジナル曲にすることで、リアリティが増したと思います。
JBがきちんと評価されたのって、やはりHIP HOPや、レアグルーヴ以降ですよね。それまでは黒人が中心に聞く音楽だったように思います。
世界的に一番ヒットしたのは、1986年のロッキーの『LIVING IN AMERICA』ですから、かなり後期になりますよね。

T:後アフリカ・バンバータが、一緒にやってたね。

M:『UNITY』は、1984年。JBは70年代後半から、やや失速していたのが、この辺から再評価で、再浮上してきますね。

M:レアグルーヴブームの最大の貢献は、ボビー・バードのソロなど、眠っていた名曲にスポットライトを、世界的に当てたことだと思います。
JBの再評価という意味では、URBANレーベルがリミックスしたアルバム『In the Jungle Groove』が圧巻でした。

A:最後の質問です。
JBは、どのようなものを音楽シーンに刻んだと思いますか?

M:ファンキーソウルのファンデーション。
大所帯のファミリーで作り上げるグルーヴ。
極論すると、グルーヴそのものを、JBが作ったと思います。

N:JBは黒人である事を意識し続けて生きていたと思います。彼は黒人である事に誇りを持ち、尊敬される人間になることを目標に頑張っていたんでしょう。 音楽的にもジャンルをまたぐのとは逆のベクトルで、ブラック・ダンス・ミュージックを徹底追求することで進歩成長させ、ファンクという新たなグルーヴを確立した重要人物です。

T:音楽シーンに残したものはJBはやはりFUNKでしょうね。映画の中でメシオにお前の楽器は何かと聴くシーン、答えはホーンもギターもヴォーカルさえもバンド全体をドラムセットとする音楽。やはりこれはJBだし、唯一無二、そしてその後のブラックミュージックに面々と引き継がれる系譜となっている点でしょうか。

「ジェームス・ブラウン〜最高の魂(ソウル)を持つ男〜」
2015年5月30日シネクイントほか全国公開
配給:シンカ/パルコ